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Hulu presentsトンコハウスの旅 2017(全3記事)

元ピクサー堤大介氏が振り返る、独立から『ダム・キーパー』アカデミー賞ノミネートまでの軌跡

6月1日~25日にかけて行われている、アジア最大級のショートフィルムの祭典「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2017」。6月18日に行われた「Hulu presentsトンコハウスの旅 2017」では、2015年米国アカデミー賞短編アニメ賞ノミネート作品『ダム・キーパー』を手掛けたトンコハウスから3名が来日。今夏、Huluで配信される最新作『ピッグ - 丘の上のダム・キーパー』の製作秘話などについて語りました。

ピクサーから独立し立ち上げたトンコハウス

堤大介氏(以下、堤):よろしくお願いします。みなさん、今日は雨の中いらっしゃっていただいてありがとうございました。トンコハウスの代表の1人、堤大介です。

ショートショートフィルムフェスティバルはこれで4年連続招待していただいて、毎年、日本のみなさんにトンコハウスの最新のニュースを共有させていただいているんですけれども。今日は新作を発表させていただけるということで、エリック(・オー)が来日しています。ロバート(・コンドウ)ももちろん来日しています。なんとなくこの3人でお話しさせていただければと思います。

前半は少しトンコハウスの今までの軌跡といいますか、歴史みたいなものを、僕とロバートを中心に簡単に話させていただいて、後半はもうふんだんに、『丘の上のダム・キーパー』の監督であるエリックを中心に、新作のことを話させてください。

通訳は一応、トンコハウスの影のボスと言われている、ジェネラルマネージャーの三宅が務めます。よろしくお願いします。

(会場拍手)

みなさんにご覧いただいた短編『ダム・キーパー』、もうたぶん何度も見てる方もいらっしゃると思うんですけれども、僕とロバートが自分たちの成長ということをキーワードに、僕らがピクサーにいる時代に個人プロジェクトとして立ち上げたものです。2人ともピクサーでアートディレクターをしていたので、自分たちが実際お話を書いて監督をしたらどうなるか、それに挑戦してみたくてやってみました。

やっぱり脚本・監督をやるということで、プロジェクトを回すというのは本当に今まで経験したことないもの、ワクワク感、ドキドキ感というのはもちろんあったんですけど、それとともにやっぱり「本当に自分たちにできるのか?」っていう恐怖感みたいなものも常にある毎日だったんです。

それがひょんなことから、自分たちの予想を超えて、いろんな映画祭で上映させていただいて、たくさんの賞もいただいて、最終的にアカデミー賞にノミネートされるというところになったんですけど。

その『ダム・キーパー』を完成させたあとに、ピクサーにちょっと戻ったんですよね。『ダム・キーパー』を作ったのはピクサー在籍中だったので、完成したあとにピクサーに戻って、新しいプロジェクトを始めた時に、2人ともこの慣れ親しんでいたピクサーの景色がすごく変わったって思ったんですよね。

ちょうど今から3年ぐらい前に、短編を作った時に味わった毎日のドキドキというか、正直もう「明日、自分たちはちゃんとできるんだろうか?」「明日自分たちがやることが本当にちゃんと見えてるのか?」みたいな、この恐怖感みたいなものを含めて、これを毎日味わいたいと。

自分たちのサイドプロジェクトじゃなくて、自分たちの毎日がこういう日々だったら、自分たちの成長に一番つながるんじゃないかということで、トンコハウスという会社を2人で立ち上げました。

僕が最初にピクサーを辞めようと決心した時は、『ダム・キーパー』はもちろんきっかけではあったんですけれども、どちらかといったら僕は常に、いつかなんとなくそういうピクサーみたいな大きいところから離れて、自分でなにかやりたいなとは思ってたタイプなんですよね。そこにロバートをちょっと引きずり込んだ感があるんですけれども。

せっかくこの場なので、ロバートにちょっと聞いてみたいなと思うんだけども。とくに彼は大学を卒業して最初の仕事がピクサーだったわけですよね。そこで、もうピクサーの一番最初の仕事がアートディレクターという、本当に今までのピクサーの歴史のなかでも例にないエリート街道まっしぐらだった人なんですけれども。

彼がピクサーを辞めて、僕と一緒にトンコハウスをやるということに対して、実際、本当どう思ってやったのかなって、ちょっとここで聞いてみたいなと思います。

ピクサーを辞めない理由は恐怖だけだった

ロバート・コンドウ氏(以下、ロバート):そうですね、辞めると決めるのは決して簡単な決断ではありませんでした。

自分のキャリアのなかで、人生のなかで、「これをやってみたいけど、同時に怖い。でも、やっぱりワクワクする。エキサイトしてる」、こういうふうに感じるようなことが、ピクサーで働き始めた時もそういうことを感じてたんですけど、辞める時にまた同じように感じていました。

でも、もし辞めないとしたら、その理由って自分にとっては恐怖ということだけかなと思ったら、「それだったら、ダイス(堤氏の愛称)もそう言ってるし、やってみよう」と思って、そこで決断を下しました。

:それで、ロバートは12年、僕は7年在籍したピクサーなんですけどけれども、やっぱり離れてみると、ものすごくいいところだったわけですよね。(ピクサーのオフィスが映し出されたスライドを指して)これ見てもわかると思うんですけれども。本当にすごい設備が整っているなかで、僕らはこのトンコハウスというスタジオで。

まあ一番最初にこの小さなスペースで始めるわけですけれども。ここで2人ですごく話し合ったのが「なぜトンコハウスをやるのか」。なにを作るかって、本当に僕らその時はまったく決めてなかったんですよ。

ピクサーを離れる時に、「『ダム・キーパー』の長編をやりたい」とか「テレビシリーズやりたい」っていうことはまったくその時は考えてなくて、とにかく離れることが大事で。

離れたら、「なぜピクサーを離れるのか」「なぜ自分たちがアニメーションを作っていくのか」、そこだけを本当に最初数ヶ月ずっと話してたんですよね。このスペースで。

この空間を自分たちで、「毎日来て幸せにいられる空間にしよう」ということで、自らの手でスタジオを作っていくということをします。

今でもまだまだ小さいスペースなんですけれども、それ、どう強がってもピクサーのようなものとは違うんですけれども、でもやっぱり自分たちが毎日ここに来てインスピレーションを得られる、こういうスペースにしようと、みんなで手作りで自分たちのスタジオを作っていきました。

トンコハウスが短編『ダム・キーパー』のあとにはじめてやったプロジェクトが、ご存じの方もいるかもしれないですけど、川村元気さん。小説も書きますし、東宝でプロデューサー。今、本当に日本で一番活躍されているプロデューサーの1人だと思うんですけれども。

川村元気さんの原作の絵本で『ムーム』というものがありまして、その絵本の短編映画化ということで、脚本・監督を依頼されて、やりました。

これはトンコハウスで一番最初に始めた時から、かねてから目標としていた、日本のクリエイターたちとコラボをしたいという目標を実現させた初めてのプロジェクトです。

14分のCGアニメーションなんですけれども、去年、ちょうど今頃かな。サンノゼの国際映画祭で最初上映させていただいて、1年間で世界中の映画祭を回りまして。32個も賞をいただいて、本当に自分たちにとってもすごく意味のある最初のプロジェクトだったんですけれども。

もしご覧になっていない方がいましたら、東宝さんからDVDも出てるので、お求めになれると思います。

グラフィックノベルと展覧会

それと同時に『ダム・キーパー』のグラフィックノベルというのを作りました。今、3部作になっていて、1冊目が今年の9月、アメリカで出版されるんですけど、本当このプロジェクトは自分たちにとってものすごい意味のあるプロジェクトで。

とくにロバートは本づくりにめちゃめちゃこだわる人で、もしかしたら『The Art of The Dam Keeper』をお買上げになった方もいると思うんですけど、彼はすごい本好きなんですよ。ロバートに少しこのグラフィックノベルの話をしてもらいましょう。

ロバート:このプロジェクトも、短編の話の続きというか、それを書きたい。アメリカの出版社、First Secondという会社からオファーをいただいて、それでやることにしました。

全部フルペイントで色を塗って描きたいということで、最初はその部分にこだわり、それから紙の選択、それからレイアウトの仕方、そういう隅々のところまでかなりこだわって作りました。

やっぱりそのなかで自分たちが物語を伝えたいということで、今もやっています。

:3冊中、今、2冊がもうあがっています。1冊目は今年の秋にアメリカで出版され、2冊目も来年の夏頃かな、出るのかな。今、3冊目に取りかかっています。

アメリカの出版で、フランス語と……イタリア語が決まってるのかな。ぜひせっかく一番肝心な日本でも出版も早くやりたいんですけれども、やっぱり日本の漫画とぜんぜん違うので、なかなか「このままでやりましょう」っていうところは、今のところまだ見つけていないんですが、ぜひ僕らがやりたいと思ってる本を共感して一緒に作ってくれる出版社を日本で見つけたいなと思っています。

それと、僕らはやっぱりアーティスト集団なので、トンコハウス展というのもやっています。去年、銀座のリクルートの本社1階にあるクリエイションギャラリーG8というところで展覧会やらせていただきました。1ヶ月間。

G8さんのスタッフが情熱を持ってすばらしい仕事をしてくださって、本当にすばらしい展覧会をやらせていただきました。たくさんの人も来ていただいて、1ヶ月間で目標としていた1万人ということを達成させていただいて、僕らにとってもすごく意味があるトンコハウス展でした。

その2回目の展覧会を、今ちょうど石巻の石ノ森萬画館というところでやらせていただいています。4月から始まって、実は来週の日曜日が最後。なので、もしまだ行ってない方はぜひ行っていただきたいなと思うんですけども。

トンコハウスにとって東北でやるということはすごく意味があることでして。実は東日本大震災の年から毎年ソフトバンクさんが、被災地の高校生を僕らトンコハウスがあるバークレーに100人ぐらい連れてきて、リーダーシッププログラムをやっているんです。

TOMODACHIというプログラムなんですけれども、それに小さいながらもトンコハウスずっと毎年関わらせていただいて。やっぱり自分たちが東北の人たちと自分たちの作品を共有できるという場を持たせていただいて、すごく意味があるものになりました。

石巻の展覧会でもこうやって直にその場で、自分たちの絵を飾るだけではなくて、絵を足していくという、そんなスペシャルな展覧会になったので、あと1週間なので、もし行くチャンスがあれば行っていただきたいと思います。

ピクサーのエースをスカウト

それと、トンコハウスとしてけっこう重要な活動としてやっているのが、教育という観点からでの活動です。

ロバート:『ダム・キーパー』をやった時、関わったみんなにとって新しい体験でした。ダイスにとっても私にとっても、監督するというのは初めての経験だったし、エリックは作画監督として関わったんですけれども、エリックが作画監督になるというのもはじめての経験でした。

そういう意味でトンコハウスのなかでは、みんなが作品に関わることで成長をしていくということが、とても重要なテーマになっています。そういうなかで、1つのプログラムとしてSCHOOLISMというオンラインクラスのアートを教えるコースを作って、今、やっております。

もう1つ、違う教育プログラムもやっています。それは「どういうふうにストーリーを伝えるか」みたいなことをやっている、子どもたちに対してのプログラムです。

これをやり始めた経験は、サンフランシスコの小学校で上映会を開いたときに、子どもたちがそれを見て、その話の内容についてすごくみんな夢中になって話しだしたんですね。いじめのこととか、友達に「どうしてブタくんの気持ちが気づかれなかったんだろう?」とか、そういうことを本当に一生懸命話しだした。

こういうことをもとに、それを話すためのストーリーの伝え方みたいなプログラムというのを、今やっております。

こういういろんなプログラムをやりながら、「自分たちにとっての成長ってなんだろう?」「トンコハウスにとっての成長ってなんだろう?」ということを自問自答するようになりました。

そのなかの1つの答えというのが、「いかにほかのクリエイティブ、ほかのアーティストと仕事をしていけるのだろうか?」っていうことで、「その中にどんな人が入ってきて一緒にやっていったら、できるんだろう? 自分たちも成長できるし、その人も成長できるような環境を作っていけるんだろう。誰がいいだろう?」と一生懸命考えて。

そのなかで、ここにいるエリックとやってみたいと思うようになりました。

:トンコハウスの成長ということを考えると、やっぱり今まではトンコハウス、僕とロバートがものを作っているところにヘルプで入ってくれる人たちというのはいたんですけれども、やっぱり同じレベルで新しいものを作って、逆にほかの人たちを引っ張ってきてくれる。そういう人として、本当にすごく重要なステップだったんですよ。

このエリックがトンコハウスに、去年の10月にピクサー……ピクサーでエリックってもうエース級のアニメーターだったんですけど、彼が来てくれたというこの重要な、僕らにとっても大きなベンチマークとなるような出来事だったんです。

ロバートに、最初にちょっと聞いてみたいなと思うのは、まずどういうかたちでエリックに知り合ったというか、「なんでエリックなのか。なぜエリックしかいなかったのか?」というのをちょっと聞いてみたいなと。

ロバート:エリックはピクサーでも本当に期待の星というか、エースのアニメーターみたいな感じだったんですね。それだけじゃなくて、ピクサーで本当にたくさんのそういう仕事をしていると同時に、仕事の外で自分のプロジェクトもたくさんやっていて。

本当にこんなコンビネーションで、ピクサーでこれだけ本当に期待を集めるようなアニメーターでありながら、自分のプロジェクトもこんなにたくさんこなしていける。こんな人はなかなかいない。

「トンコハウスにじゃあ次どんな人に入ってもらいたいだろう?」ということを考えていったときに、やっぱりこういうふうに、自分でプロジェクトを立ち上げて最後まで持っていける人とやってみたいということで、「考えてみると、もうエリックしかいないね」というふうに思いました。

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