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脳科学者・中野信子×ポーカー世界チャンピオン・木原直哉(全4記事)

「自分の記憶は信用しない」日本人初ポーカー世界王者はゲーム中になにを考えている?

初心者向けに行われたポーカー教室のトークイベントで、ポーカー世界チャンピオンの木原直哉氏と脳科学者・中野信子氏が登壇。ポーカー上で行われる駆け引きを、中野氏が脳科学の観点から斬り込みました。さらに、当日は観客として勝間和代氏も参加していました。本パートでは、木原氏がプレイ中に自身が考えていることや意識していることについて言及しました。

1対1のポーカー勝負はコンピューターのほうが強い

中野信子氏(以下、中野):そうですね(笑)。あと、知能のあり方、人生を攻略するための戦略の立て方なんかを学ぶこともできそうだな、という印象でした。

私は本当に入門初心者のレベルですけど、この本の中で紹介されていた自分のハンドで、どのくらい勝つかを分析するソフトがあって。あれ、なんでしたっけ? テキサス……。

木原直哉氏(以下、木原):ホールデムマネージャー(Hold'em Manager)。それは一応、結果を統計解析するソフトです。あと、ポーカースノーウィ―(PokerSnowie)がまったく別にあります。

最近、話題になったAIってありますよね。ポーカースノーウィ―はポーカーのAIです。ホールデムマネージャーはAIじゃなくてただの統計ソフト。あとは今はやりのAIのポーカースノーウィーです。

みなさん、最近ポーカーのトッププロが1対1の勝負でコンピューターに負けた話をご存知の方はいますか?

(会場挙手)

木原:意外と少なかった。

中野:ヘッズアップですよね?

木原:ヘッズアップ。1対1の勝負で負けたニュースがあります。その記事を自分は書かせていただいたんです。今は完全に1対1の勝負だと、コンピューターのほうが強いとなったんです。

中野:統計ソフトはすごくおもしろいと思います。自分の癖を見切ってくれるところが。例えば、どういう手の時に勝ち、逆に強いハンドなのに負けているとか……。

木原:その理由を教えてくれないんですよ。統計ソフトだから理由を教えてくれないけど、自分で見返す代わりに分析してくれる。というか、させるんですよ。「これを表示して」といえば表示してくれる。

中野:木原さんの場合は、なんでしたっけ? クイーン……。

木原:エース・クイーンとエース・ジャックという、すごく強い手があるんです。エース・エース、キング・キングと強い順なんですけど、次にクイーン・クイーンかエース・キングという感じです。その上位のエース・クイーン、エース・ジャックがすごい強い。これは後でやります。

その強い手で、けっこうな金額を負けていたんです。理由はわからないですけど、それを調べるまで、そもそもそれらの手で負けていることに気付いていなかったんです。

中野:これほど、数字に置き換える人ですら、自分の戦略を分析できていなかったということですか?

木原:戦略というより、結果でしょうか。具体的に自分が負けたハンドのなにかがまずいのは間違いないです、統計的優位性よりもはるかに負けていたので、なにかがまずい。でも、ソフトは教えてくれないので、自分で考えるしかないんですね。

それで、何百もあったものを全部見返して、なにがまずかったのかをなんとなく見返していくうちに、「これはここがまずかったんだな」と思ってプレイを変えていく。

ポーカーでは「引き出し」を増やし、使い分けられるのがいい

中野:その時は、プリフロップ戦略でベットしていなかったということですか?

木原:ちょっと専門的になりすぎちゃいますけど、そんな感じですね。今だったらそうしなくてもやれますが、その時にはなかったプレイの概念ですね。

プレイの引き出しって、やればやるほど増えてくるので、増えれば増えるほど有利なんです。まあ、損な引き出しはあってもしょうがないのですが。

基本的に得な引き出しを増やして、相手によっていろいろ「この人にはこれを使おう」「この人にはこれを使おう」と、どんどん変えられるのがいいんです。でも、その時は引き出しもなく、まずい引き出しがあったので、それを閉めた感じです。

中野:「やっちゃいけない箱」みたいな感じですか。

木原:そうですね。その「やっちゃいけない箱」も、実は箱の中の先のほうに、いいプレイがあるんですけど、自分はそこまでレベルが到達していなかったので、その引き出し自体を開けないほうが良かった。

中野:なるほど。

木原:箱の奥のいいプレイまで取り出せるんだったら、そんなに悪くない。今だったらできるところはあるんですけど、当時はやっぱりまだ駆け出しの頃であまり強くなかったので、その引き出し自体を閉まってプレイしてみたら、実はけっこう良かったんです。

木原氏がポーカーを始めたのは26歳

中野:「当時は」とおっしゃるけれども、木原さんがポーカーを知ったのは、実は……。

木原:今からちょうど10年前のゴールデンウィークにポーカーを知ったんですよ。ちょうど10年ですね。

中野:いい時期ですね。非常にお若くて。

木原:26歳の時にポーカーを始めたんです。こういうことを言うとあれですけど、将棋の世界だと4歳、5歳、6歳から始めるのが普通で、7歳から始めるとちょっと遅いぐらいに言われます。そこで十数年修行して、20歳でプロになったら「早いよね」と言われる世界です。

そこと比較して、26歳になる直前でポーカーを覚えて「世界と戦っていこう」と頭の片隅でも思うことができる意味では、ポーカーは甘い世界ですね。

中野:(笑)。

木原:もともと自分は将棋をやっていて。将棋はやっぱり非常に厳しい世界ですね。プロで戦う上でも。

中野:層が厚いこともあるんでしょうけど。それでも、先ほど才能と努力の話をしましたね。

木原:自分に適性があったのは間違いないですね。

中野:たしかに、木原さんにはポーカープレイヤーとしての適性があったと思いました。計算する能力が高かったでしょうし。

木原:あと、ポーカーをやっていて自分が思ったのは「見えない情報」。ポーカーは次のカードになにが来るかわからない。相手がなにを持っているかもわからないです。そのわからない情報の中で、自分を信じて踏み出すのは怖いですけど、自分はそれなりにできるんです。もともと自分自身を信用しないので(笑)。

信用しないというか、記憶的なものを信用しないから、基本的に最初からできると思っていない。

中野:自分のことを信用しない。おもしろい点ですね。

「緊張してもしょうがない」となってから楽になった

木原:記憶は信用しないけど、自分の考えていること、結論に対しては、かなり信用する感じです。

中野:あまり不安傾向が高くなさそうな感じですね。

木原:そうですね。あと、「なんとでもなる」と思っているので。

中野:なるほど(笑)。

木原:「なにか失敗したって、なんとでも生きていける」と自分は思っています。

中野:「死ななければなんでもできる」みたいな感じですか(笑)。

木原:別にポーカーで失敗しても、本当に寝たきりにならないかぎり、基本的にはなんとでもなると自分は心から思えています。でも、昔はテレビ番組とかすごい緊張したんですよ。

中野:意外ですね。

木原:あまりそういうのがなかったですので。昔、そろばんの時に選手宣誓をやりましたけど、めちゃくちゃ緊張したんですよ。

中野:胃が痛くなったエピソードが書かれていましたね。

木原:親にすごくバカにされたんですけど、右足左足がこう、「手と足が両方同じふうに出てたよ」と。ものすごいく緊張して。

中野:それほど緊張されたんですね。小学生の時ですね。

木原:小学生の時ですね。今から考えると、その選手宣誓で大ポカやっても、人生になんの影響もないですよね。

中野:大人になったらわかることですね。

木原:逆に、すごい大成功しても、なにか大きくほめてもらえることってないですよね。

中野:あまりないですよね。

木原:ないですよね。なので、緊張する価値もなかった。

中野:成功すると、けっこう妬(ねた)みの視線を感じますよね(笑)。

木原:そうなんですよ。だから、あまり緊張してもしょうがないと心から思えるようになってから、気楽にいろいろできるようになりました。

強くなりたければ受け身にならず、強い人の輪の中へ

中野:そうですね。そろそろ時間が……何時までですか?

勝間和代氏(以下、勝間):質疑応答を受けていただいたら。

中野:時間がちょっと余るようだったら、人数を区切って、質疑をと思いましたけど、今日はタイムキーパーの方が……いらっしゃらないのかな? 

木原:適当でいいんじゃないでしょうか、そこらへんは。

中野:じゃあ、4人ぐらいにしましょうか。

勝間:なにか質問ある方いらっしゃいますか?

質問者1:ポーカーの本を読ませていただいて。木原さんは「ポーカーを学ぶ上で、 本はあまり参考にしなかった」と。自分たちが学ぶ上で、初心者向けの情報と、トーナメントを目指す人ほどのすごいプロの差が離れすぎていて、学び方としてどのように学べば上達できると思われますか?

木原:まず、確かに自分は強くなる過程でぜんぜん本は読まなかったです。なぜかというと、日本の本がなかったからです。当時は、ぜんぜん日本語の本がなくて、情報がなかったんですよ。なので、読みたくても、参考にしたくても本がなかったという言い方が正しいです。

ただし今は日本語の本、初心から中級者向けの本はそれなりに出てきてます。それなりにレビューなどもいろいろあるので、みんなの意見を聞きながら読むほうが楽だと思います。

中野:(『トーナメントポーカー入門』を手に取って)2011年5月3日が初版ですね。なので、木原さんがだいぶ上手くなられてから出た本です。

木原:はい。その頃になってからは、当然こういう本は基本的には全部に目を通しています。けれど、強くなる過程で読まなかったのは、別に参考にしたくないという理由じゃなかったです。

中野:(『トーナメントポーカー入門』を指して)これは「ポーカーの高速道路とけものみち」というWebサイトですか?

木原:「ポーカーの高速道路とけものみち」は、著者のSHIMADAさんがやっているブログです。ブログ記事からいろいろ、まとめて再編集して本にしたものです。

中野:ブログ記事は参考にされてたんですか?

木原:その時はブログがなかったです。

中野:なかったんですね。

木原:自分が始めたのは2007年です。その当時、始めた人は数人で、そこに座っているTくんはポーカーのちょっと先輩にあたります。少人数のポーカーコミュニティで、当時の日本のトップの人たちからいろいろ教わることができたのは、すごく幸運な環境にありました。

中野:強くなりたければ、強い人の中に。

木原:極力そのほうがいいですけど、なかなか強い人のところにパッと入るといっても、普通は向こうから呼んでもらえないと入れないんです。ただ、こちら側から情報発信をしていくと、それを受け取って、「お、この人は見込みあるな」と思ってもらえて、呼んでもらえやすくなります。

基本的には、受け身になったらどんなものでも限界がある。自分から参加して、初めていろんなことが身につきます。それは別にポーカーだけとは限らないと思います。

計算力がないとポーカーには向かない?

中野:次の質問にいきましょうか。

木原:はい。

質問者2:お話を聞いていると、非常に計算力が大事だなと感じたのですが、私なんか歳で年々、計算力が衰えていっています。そういう人が上達するにはなにを心がければよろしいんでしょうか?

木原:そう感じるのは、おそらく自分が計算側の人だからですよね。自分はそもそも、どんな勉強でも計算でなんとかしてきた人間なんですけど、計算が非常に弱いけどポーカーをする人も、けっこう多いんです。そういう人たちはもっと感覚的なもの、自分はその感覚的なものが非常にセンスが悪いというか、ないんです。

中野:あまりお得意ではないんですね(笑)。

木原:はい。たぶん今まで話してもらってわかると思いますけど、感覚的なものがあまりにもないので、それを計算で補っているんです。そうすると、自分の中で一番しっくりくるんです。なので、自分は計算で押したいタイプですけど、それははっきり言って少数派です。プロの中でも少数派です。

中野:木原さんのスタイルが少数派ということですか?

木原:はい。自分側のほうが少数派です。

中野:なるほど。(『実力と運の間』を手に取って)この本に、ある中国人プレイヤーの話が出てきます。その中国人プレイヤーは自分の手をあまり見ないそうです。つまり、計算していない。

木原:相手の様子をすごくうかがって、相手は「この時こうプレイして、その時はこうだった」とか、それを非常によく覚えています。

中野:強く出れば引く人だ、弱く出れば突いてくる人だ、など。

木原:あと、「この人のプレイは、さっきとこう違うから、この人の考え方はこうであるはずだ」など、人読みやの雰囲気をよく見るのが得意な人など、いろいろいます。

トッププレイヤーは、そういうプレイヤーのミスとかなかったりするんですけど。それでも、一般的、標準的にされているプレイをするだけで、計算的なものは十分です。あれば得だけど必要ないと言えば必要ないです。どんな能力でもそうですよね。

中野:そうですね。

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