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脳科学者・中野信子×ポーカー世界チャンピオン・木原直哉(全4記事)

東大生には「初心者のふり」をする癖がある 脳科学者・中野信子×ポーカー世界チャンピオン対談

初心者向けに行われたポーカー教室のトークイベントで、ポーカー世界チャンピオンの木原直哉氏と脳科学者・中野信子氏が登壇。ポーカー上で行われる駆け引きを、中野氏が脳科学の観点から斬り込みました。さらに、当日は観客として勝間和代氏も参加していました。本パートでは、2人の出会いからトークをスタート。ポーカーにおける「コミット」の概念と、交渉時に信頼できる情報を見つけるポイントについて語られました。

きっかけは『踊る!さんま御殿!!』

中野信子氏(以下、中野):私が木原さんとなぜこういう場に来たかを、ちょっとお話したいと思います。『踊る!さんま御殿!!』という番組があって、その時に木原さんもいらしていたんですよね。

木原直哉氏(以下、木原):呼んでいただきました。

中野:「インテリVSノットインテリ」という(笑)。

(会場笑)

木原:なんかね(笑)。

中野:あれも、すごい回でしたね(笑)。

木原:すごい回ですよね。ただ、思ったんですが、ノットインテリ側に入っているお笑い芸人の方で、めちゃくちゃ頭のいい方が2人いましたよね。

中野:そうですね。

木原:2人ともめちゃくちゃ頭が良かったじゃないですか。あれでノットインテリ側に入っていろいろしゃべるのは、ズルいなと(笑)。

中野:なるほど。学歴は確かにないものの、ですね。

木原:そうそう。実際はすごく鋭いし、頭の回転は速いし、勉強している。そういう人がそっち側(ノットインテリ)に入ってしゃべるのは、なんか……。

中野:わりとインテリ側の共通した意見だったですよね。

木原:ええ。

中野:お笑い芸人と今おっしゃいましたが、りゅうちぇるくんがノットインテリ側の代表でしたけど。りゅうちぇるくんはすごく鋭いんです。

木原:学校の勉強はしなかったかもしれないけど、みたいな。

中野:すごく人の……笑いのツボとか弱点をよく見切っていて、そこを突くような話題をパッと振ってくる。質問もすごくて、みんなが知りたいけど聞けないようなことを、ズバッと聞く。

木原:あと、自分は塾で7年間働いてたんですけど、相手がなにをわかっていないかをわかるって、けっこう難しいんですよね。

中野:おっしゃる通りです。

木原:自分がわからないことがわかるのはそんなに難しくないですけど。自分がわかっていて相手がわかっていないことがなんなのかを察するのって、すごく難しい。

中野:それが東大生の癖ですね。

木原:よくありますね(笑)。

木原氏の著書『運と実力の間(あわい)』

中野:今日、木原さんの本もちょっと宣伝をさせていただこうと、持ってきたんです。

木原:ありがとうございます。

中野:とてもおもしろかった! 『運と実力の間(あいだ)』という本なんですけど。

運と実力の間 不完全情報ゲームの制し方

木原:これ(「間」)、「あわい」と読むんですよ、実は。

中野:「あわい」! これ、「あわい」と読みます? 普通(笑)。

木原:自分もまったく知らなかったんです。裏話なので……言っていいのかな? 本のタイトルって、著者は一切関われないんですよ。

(会場驚)

勝間和代氏(以下、勝間):え、そんなことないですよ!

中野:そんなことはない! そんなことはない! 著者は絶対に主張したほうがいい。

木原:それは、中野さんや勝間さんみたいに「出したら売れる」とわかっているような場合……。

中野:いや、それは逆、逆!

木原:自分はこのタイトルが気に入ってるのでまったく問題ないんですけど。ここの、飛鳥新社は……、これは言っていいのかな?

中野:本当だ。「あわい」って書いてある(笑)。

木原:この出版社は必ず社長が読んで、担当者もタイトルを決められないんです。その本のタイトルを社長を決めるっていうスタイルが、ここなんですよ。

中野:あー、なるほど。

木原:はい。

中野:サンマーク出版もそんな感じですね。

木原:そういうところは多いですよね。

中野:でも、主張したほうがいいです。

木原:はい(笑)。この本も仮題があったんです。仮題のほうが良かったと言う人と、この実際の題が良かったと言う人がいます。

中野:なるほど。

『ヒカルの碁』を描こうとして、『麻雀放浪記』になってしまった

この『運と実力の間』の中にポーカーの戦略の話もちょっと出てくるんですね。途中で中国人のプロというか、プロであろう人の話が出てくるんです。

木原:プロですね。

中野:その人は最初すごくベットして賭けて、初心者みたいな振る舞いをする。だけど、それには理由があるんですね。初心者に見せかけて、みんなの癖を知る。その癖を見切ってからは、なんと勝ち始めるということが起こるんです。私はその部分を読んで、「あー、確かに。東大生の癖もあるな」と思いました。

木原:はい(笑)。

中野:この木原さんの本は、確かに東大生っぽい本なんです。

木原:そうなんですか?

中野:すごく上級者向けに書いてあります。(『トーナメントポーカー入門』を手に取って)これがどちらかと言えば入門から中級編。これも木原さんにおすすめいただいた本です。ポーカーをこれからやろうという人は、読んだほうがいいと思われる本です。

私も初心者ですけど、とてもためになりました。ブラフ(=ハッタリ)というか、ポット(=チップの山)に対してどれだけのベットをしたらいいか。

木原:『ポーカー入門』は完全にポーカーを勉強するための本です。自分が書いたこの本は、ポーカーの戦略の本じゃないんですよ。どちらかというと、ポーカーをするにあたって自分がどう考えているか。ポーカーを知らない人に雰囲気を知ってもらう本です。

中野:すごく謙遜して言ってらっしゃる(笑)。

木原:いや、本当にポーカーを知らない人にこの雰囲気を知ってもらって興味を持ってもらえたら、と。なので、ルール説明もほとんど書いていないし、戦略の話もあまり書いていない。

中野:わりとポーカーの基礎を知っている人が読むように仕上がっていますね。

木原:それはそうですけど、やっぱりプロの考え方を知ってもらいたい……。

中野:本当は、木原さんは基礎向けに書いた(笑)。

木原:いや、ポーカーを知らない人向けに、その雰囲気を知ってもらう本ですね。

中野:でも、雰囲気はあまり伝わらないかもしれない(笑)。

木原:なかなか難しいですけど、すごく基礎的な解説をいっぱい入れると、それはそれで……。

中野:解説本になりますよね。

木原:プロが書くものでも、価値がある言葉もないし、難しすぎるのもイマイチなので。

中野:そうです。一言で言うと、『ヒカルの碁』を描こうとして、『麻雀放浪記』になってしまった。そんな感じの本です(笑)。

(会場笑)

習近平の軍師・王滬寧の交渉術

木原:担当者が一番意識したのは、梅原大吾さんの『勝ち続ける意志力』。あんな感じの本になればと思っていたようです。あの本は格ゲーの具体的な部分があまり出てこないですけど、自分の本は、せっかくなのでポーカーの具体的な部分も、ちょっと入れて話をしている感じです。

中野:具体的なエピソードが、すごくたくさん出てきます。さっき(イベント開始前に)塾の話をされていたので、木原さんがどういう人を想定して書かれたか、すごく見えるんです。とてもポーカーの上手い人を想定して書かれましたね(笑)。

木原:ポーカーをまったく知らないけど、そういう世界を覗いてみたいという人です。

中野:本当はそういう気持ちで書かれたんですね。

木原:どちらかというと、投資家とか、そういう人にすごく評判が良いんです。

中野:そうでしょうね。ポーカーの勝ち方のみならず、似たような状況を「不完全情報ゲーム」とおっしゃいましたね。その不完全情報ゲームにおける戦略という意味でも、すごくおもしろい読み方ができると思います。

今日はポーカー教室ということなので、「ポーカーを学ぶとこんないいことがあるよ」という話もできるといいですね。

木原:そうですね。

中野:今、外交問題などで不完全情報ゲームが繰り広げられている状況です。中国とアメリカの状況も、すごくおもしろく見ました。習近平の後ろに、いつも軍師のように控えている人がいるんです。王滬寧(おう・こねい)という復旦大学の先生です。

あの人が、なにかあると後ろからささやくんです。でも1回、その人がいない時、隙があったんです。さっき木原さんにお話ししましたけど、トランプ大統領と習近平の会談の会食の場でしたか?

木原:デザートを食べている時に、突然トランプさんが「シリアに攻撃したから!」って言ったらしいですね。

中野:「シリアに攻撃していいか?」と聞いたんですね。

木原:事後報告じゃなかったでしたか?

中野:事後報告でしたか。

木原:事後報告で「攻撃したから」と言ったという話を、ニュースで見ました。

中野:そこで習近平が10秒止まったということで、話題になったんですよね(笑)。

木原:その時が、軍師がいなかったタイミングだと知らなかったです。

中野:会食の場だからいなかったんです。10秒止まって、「了承した」と言った。彼は「判断できなかったのかもしれない」と判断される可能性のある姿を見せてしまった。後で王滬寧がそれを知って、「じゃあ、これはもう中国とアメリカと蜜月関係を演出して、押す戦略でいこう」と決めた。

木原:交渉術ですね。

中野:交渉術ですね。彼は失敗かもしれなかった手をちゃんと使おうとしたわけです。例えばポーカーだったら、ベットしてブラフだったのにリレイズ(=掛け金をさらに上乗せする)されちゃって「どうしよう……」みたいな時に、それをより活かす戦略をどうすればいいかを考えたんです。

ポーカーの場合、コミットしたら降りられない

木原:ポーカーの場合は、そういう時、もう降りればいいんですけどね(笑)。

(会場笑)

中野:外交だとなかなか降りられない(笑)。

木原:難しいですよね。

中野:そういう戦略のやり方を実地で学ぶことができると、おもしろいかもしれません。

木原:ポーカーの場合、「コミット」っていう概念があるんです。例えば、自分の手持ちのチップ量の3割をすでに場に投入している。

そこで相手からオールインがきたら、すでに60パーセント分のところに場にある。例えば、100円持っていて30円賭けている状態で、相手から「オールイン」と言われた。自分は70円持っているんで、それを出すか降りるかの選択をしなきゃいけない。

そうすると、60円で出ていて、自分が70円、相手も70円。すると勝負は200円の勝負になるので、200円の勝負に70円出して参加するかどうか? 勝率は35パーセント必要。70円÷200円で35パーセント必要なんです。35パーセントよりあったら戦うべきだし、なかったら降りるべきなんです。

例えばポーカーで、25パーセントを下回ることって非常に少ないんです。35パーセントはよくあるんですけど、25パーセントを下回ることは非常に少ない。例えば今、30円出していたらという話ですけど、100円の手元の中から50円すでに出してあった。そして、相手からオールインがきた。その時は25パーセントになります。

中野:難しいので、ここに書いたほうがいいかもしれない。でも、書かなくてもわかる方がいっぱい……。書いたほうがいい方いらっしゃいます?

(会場挙手なし)

木原:25パーセントの勝率だったら、けっこういろんなハンドでも25パーセントぐらいあるので、その時は降りられないんです。だから、100円の中から50円出していたら、もう降りられない。コミットしている。なので、コミットしていて降りられないと、相手がわかっている。

だけど、相手がコミットしていなかったら、こっちからブラフでまたオールインしても、相手が降りる要素があるかもしれないんです。それはコミットしていないんですね。

中野:(『トーナメントポーカー入門』を開いて)これ、確率集ですね。これぐらいの勝率がありますと。

木原:「コミット」って英語でどういう意味ですか?

中野:「参加する」とかですね。「関わる」とか。

木原:コミットはポーカー用語では、もう必ず勝負しなきゃいけない状態です。

中野:日本語で言うと「深入りしちゃった」っていう状態ですね。

木原:もう後に引けなくなった状態ですね。コミットしちゃったら、もう後に引けなくなるのでいかざるを得ない。世界大戦の時の日本の状況とか、たぶんその状況ですよね。

コストをかけていない情報を信用しない

中野:これは勝間さんのほうがくわしいでしょうけど、サンクコスト(=投資した資金や労力で、もう戻ってこないもの)の回収をするかという問題ですね。

木原:本当はもうロスカット(=損が大きすぎた場合、自動的に行われる強制決済)が……。

中野:損切りをするのが一番いいんだけれども。

木原:損切りができなくなった状態。

中野:おっしゃる通りですね。

木原:すでに損切りをしたら、その瞬間、会社が潰れることが確定しているので、いかざるを得ない状態。もうコミットしていて、相手がコミットしているかどうかをこっちが見る。相手を見て、コミットしているかどうかを予測することが、ポーカーのスキルの1つではありますね。

中野:なるほど。これはどう見抜くのかも技術のうちだと思いますけど。木原さんの本の『運と実力の間』の中で、「コストをかけていない情報を信用しない」とおっしゃってるんです。どういう情報をもとに、コミットしているかどうかを見抜くんですか?

木原:基本的には、100円のところから50円出したらコミットしてるんですけど、30円ではまだコミットしてないので、単純に算数的な話です。ポーカーってけっこう一般的な事象、話をよりチップを使ってわかりやすくしたゲームなんです。

中野:そうですね。

木原:実際の話で例を挙げると、会社と会社がすごくバチバチで、商品をめぐって戦っているとします。でも、相手の会社が実際どういう商品を持っていて、いくらあと資金に余裕があるのかはわからない。けれど、ポーカーの場合は、相手の手の内は見えないけど、資金だけは見えるようになってるんです。

そこがちょっと実際とは違って簡略化されてしまっている部分です。でも、簡略化しているからこそ、もっと数をいっぱいこなして、模擬体験することができる。

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