2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
パネルディスカッション(全1記事)
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司会者(男):さあそれでは、本日最後のプログラムに参りましょう。本日のロマンティストの中から5名ほど、ステージの方にお上がりいただいて、パネルトークをしていきたいと思います。それでは、ステージ上にお上がりいただくロマンティストをご紹介しましょう。
司会者(女):まず、清水理佳さん。そして、佐々田槙子さん。そして、佐々木和美さん。中島さち子さん。そして、松居エリさん。以上、5名の方です。
司会者(男):では、よろしくお願いいたします。じゃあまずは、佐々田先生のほうから、簡単に。
佐々田槙子氏(以下、佐々田):最初にこの時間をいただいて、さっき何度か話にも出てきたんですけど、「数理女子」という活動をしている理由とかを含めて、紹介したいと思います。
このイベントも、主催者のみなさんも仰ってたんですけど、なかなか数学で女性で……私は大学でやってますけど、大学とかになっちゃうと、非常に女性が少ないということで、寂しいなと思っていまして、そういうところも含めて、ちょっとリクルートしたいと思います。
まず数学をやってるからにはちゃんとデータを見ようということで。例えば、数理科学系、数学とか含めてですけど、国立大で博士号までとる人。博士って、高校生はそんなにイメージがないかもしれないですけど、修士を出て、その後にさらに3年間大学院で勉強して、博士号をとる人が、毎年、ちょっとズレますけど女性は平均で6パーセントぐらい。
教員の数になりますと、これも国立だけでとりあえずいくつか選んでるんですけど、教員の数が(女性が)3パーセントぐらいで、教授とかになるともっと少ないんですね。日本数学会の会員も7パーセントぐらい。
このようなデータから、「女性はやっぱり数学苦手」とか、すぐ言われちゃうことあるんですけど、例えばこのグラフ。(スライドを指しながら)ヨーロッパのいろいろな国のデータが並んでいて、ここが50パーセントのラインで、ここが40、ここが30、ここが20のラインで、いろんなヨーロッパの国、大体みんな20パーセントを超えているところがほとんどですね。
あとこの表にないんですけど、韓国だと40パーセント。これらは全てドクターですね、博士号。フィリピンなんかだと66ってことで女性の方が多かったりしてます。それで、アメリカでも28パーセント。
それから、教授とか教員ですね。大学の教員になったとしても、(スライドを指して)これがレクチャラー、講師と呼ばれている方で、これが准教授、これが教授なんですけど、例えばUK、イギリスでも、教授は少ないんですけど、そうじゃなければ10、20(パーセント)とか。US、アメリカも、26、18ぐらいはいます。さっき、日本が3パーセントだったことを思い出してください。
イタリア、ポルトガルとかだと50パーセントとかですね。とくにラテン系的には、「女性が数学をやるのは変わっている」とか、そういう変な偏見がないらしくて、そんなこと考えたこともないと。
韓国も13パーセント。ちょっと文化的に近いかなと思えるところでも、日本よりは大分いい。
それで、私としては、数学の喜びを女性ともっと分かち合いたいと。ここにいるみなさんは共有して感じていただけると思うんですけど、とにかく寂しい。実際、研究会とか、授業とか行っても、私も自分で授業する時に、学生が全員男性だったりしてちょっと「うーん」と(笑)。いいんですけど……。やっぱり寂しい気持ちがあります。
それで、実際に女性が少ないなかで数学を続けていくことに、いろんな難しさを感じてしまう人たちが、友達でも後輩でも、実はいるんですね。その多くの理由が、本当に女性が少ないことが直接の原因だなと思うようなことがあるので、そういう人たちのためにも、少しでも増やしていきたいと。
そして、これはちょっとおこがましいかもしれないんですけど、数学界や日本社会全体としてもですね……やっぱりそれを学びたい人が躊躇するような世の中って不平等かなって思いますし、これから少子化なので、そもそも人材が減っていくなかで、男性しか人材の元とならない、母数にならないとすると、数学界がきっとダメになっていくと思いますし、多様性のあるところで学んでいくっていうのは、すべての研究者にとっても、もちろん教育者や、教育を受ける側にとっても、いいだろうなと思っています。
ちょっとだけ急いでいきますけど、増えない理由と課題として、私が思っているのは、やっぱり社会全体の先入観。これが日本特有の一番大きいところかなと思いました。親でも、「数学ねえ、ちょっとねえ」「それどうするの?」とか、「せめて医学部、薬学部にしといたら」というような。先生も「勧めない」って言ったりとかですね。報道でも、女性と数学ってレアな組み合わせ、みたいなイメージがあったりします。
特に進路選択前の早い時期ですね、理系とか数学のほうに行くか決める前の段階っていうのは、親や先生の影響ってすごく大きくて、ここにいらっしゃる方も含めて、文系で卒業して大学出て仕事も始めたけど、今思えば数学もっとやればよかったって、けっこういろんな方に聞きますので、もっと早い段階で、正しい、偏ってない情報を届けられる場が欲しいと思っています。
それから仲間も少ないということで、こういうイベントが増えて、仲間がいると思えれば勇気が出ると思います。さっきも言ったように、女性を増やすってことでしか解決できないような課題というのが、例えば(女性が)不必要に目立つとか、ロールモデルがいなくて、「出産したらどうなるんだろう」とか、「いろんな研究集会行くのに子ども置いてっていくしかないのかな」とか、いろんなことがあります。
ということで、「数理女子」っていうのは、しっかりとした団体というよりは、緩く、いろんなこう……この思いに共感してくれる人それぞれに色々記事を書いてもらったり、ワークショップにスタッフとして協力してもらったりという感じでやってるんですけれども、やりたいことは、数学の魅力をとにかくたくさんの女性に伝えたいので、数学に関するさまざまな先入観ですね。「女性は向いてない」「仕事がない」とか、大きな誤解なんですけど、「1人で黙々とやるもの」とか、そういうのもたぶん、全然違うと思うんですけど、そういったものをなくしたい。それで、数学が好きな人、好きになってるんだけど、ちょっと孤独だなとか、自分は変わってるんだろうかとか、そういう人たちも応援したいと思っています。
今は主にWebサイトとワークショップをやってますけど、ほかにも色々やっていけたらいいなと思っています。
それで、このロマンティック数学ナイトを始めとして、今女性向けのイベントが増えてきている気がします。なので、若いみなさん、とくに今はいい流れがあると思います。
ひとつ紹介したいのが、「ヨーロッパ女子数学オリンピック」っていう、数学オリンピックの女子版が世界でも始まっていて、日本も代表選手を毎年4人ずつ派遣しています。なので、そういうものに興味がある人はぜひ挑戦してほしいと思います。
それから、ドイツでは博士の3割が女性じゃないとダメとか、すべての大学にある意味強制するようなルールもできてきたりしていて、アメリカとかヨーロッパ、韓国では、女性数学者の会というのがしっかり発足して、ネットワークを作ることで、うまくいろいろなことが回っているようです。
それで、あと……長くてすみません。私の数学者生活の魅力として、みなさんに知っておいてほしいなと思うのは、数学がおもしろいっていうのはもちろんなんですけど、それ以外に、自分のペースで仕事ができる。
世界中に仲間ができるというので、これも、私が高校生の頃は知らなかったんですけど、数学者になるとめちゃめちゃ旅行に行けます。旅行と言っても全然仕事なんですけど、商社とかに勤めるよりたぶんよっぽど行けます。そして、若い学生から常に刺激を受けると、アンチエイジングだということで(笑)。
ということで、今の状況は異常なので、みなさんでなにかいい方法を考えて、日本も数学を学ぶ女性が普通な、みんな楽しいという世の中になってほしいなと思っています。
司会者(男):ありがとうございます。ここからもう、次の発言が難しいかもしれませんけど(笑)。
もしなにかみなさん、いま学生の方とかも大勢いらっしゃると思いますので、ご自身が学生の時にこういうふうな偏見を持っていたけれど、実際に数学の世界に飛び込んでいろいろ仕事をされたりして「昔思ったことと違う」とか、先ほど旅行いっぱい行けるという話もありましたけど、ほかになにか追加でお話したいことがございましたら、挙手で(笑)。
なんでも、ご自由にお話いただければと思うんですけれども。いかがでしょうか。
清水理佳氏(以下、清水):先ほどのお話にもあったんですけど、なんかこう1人でガーッとやるのが数学っていうイメージがあったんですけど、実際はみんないろいろな人とお話をして、そこで数学をがんばっていくみたいな。人と話す……なんていうんだろう(笑)、会話とかがすごく大事な人たちがいっぱいいらっしゃるので。
司会者(男):「数学は紅茶とケーキでするものだ」みたいな、そういう格言がございますけどね。そうなんですよ。紙と鉛筆でするのではなくて、紅茶とケーキでするものだそうですよ(笑)。
(会場笑)
司会者(男):いかがでしょうか。
佐々木和美氏(以下、佐々木):私が高校生の頃となると、随分昔なんですけど、やっぱり高校時代は「浮いてる人」みたいな感じでしたね。ですが、大学で数学科に入ってみると「みんなが仲間」っていうのが、数学科を選んでよかったかなと。
司会者(男):今、数学が好きで、でもクラスで浮いてて、という状況にいる人は、ぜひ数学の世界に飛び込めば、仲間がいますから。まだ仲間に出会わずして、その世界に飛び込まないというのは、非常にもったいないと僕は思いますね。仲間がいますからね。今日はその仲間だらけだとは思いますけれども。さあ中島さん、いかがでしょう。
中島さち子氏(以下、中島):私は中高と本当に数学が大好きで、でもたぶん浮いていたと思うんですけど。
でも、数学オリンピックなどいろいろな場を通して本当に個性豊かな人たちに出会って、刺激をもらって。やっぱり仲間がいると、喜びも楽しさもますます増します。また、数学でも一人ひとりの個性というか、ものの見方の特徴というのがやっぱりあって、他の人の全然違うものの見方に感動したり。「こう考えるとその先にはこんな世界があるんだよ」と言われると、「えーっ」みたいな。
たぶん自分一人では見える限界があって、そういう仲間に出会うことで、まさにダイバーシティだと思うんですけれど、いろいろなものの見方ができる。
あとは、数学界も少し変わってきているような気もしていて、昔はそれこそ純粋数学、応用数学とか、けっこう分かれて戦ってる印象がありました。でも最近の研究ではまさにさっきのポアンカレ予想を解いたペレルマンさんが物理的なアイデアでトポロジーの問題を解いたように、全く違うと思われていた分野をつなぐような研究などもすごく増えてきていますし、共同研究の価値も高まっている。
あとは、近年、機械学習やAIなど含め、実社会との連携の重要性や仕事場に数学が必要だという意識も高まってきています。
昔は数学科出身の場合、仕事はアクチュアリーぐらいしかないなどと言われることも多かったのですが、実際、今はそれはまったく間違いです。数学を用いた職場もいっぱいあるし、もちろん数学者としてやっていっても、いろいろな方向の可能性がある。特に近年は、むしろどんな分野でも数学力が必要とされているともいえる。
そういう時代の変化も含めて今は特に女性に数学をお奨めしたい……とくに女性は現実的で「実際に社会の役に立つことがしたい」という気持ちが強いイメージがありますが、実は数学は、たぶんどの道に行っても役に立つものだから。美的感性も使いますし。今日も松居先生のデザインの話を聞きながら、「数学のアイデアがこういうふうになるんだな」とすごい感動したんですけれど、本当にいろいろな道があると思うのでぜひ。
司会者(男):ありがとうございます。松居エリ先生はいかがでしょうか。
松居エリ氏(以下、松居):私はアート畑出身とさっき申し上げましたけど、みなさんたちの数学的な考え方というのが、やっぱりアパレル業界にも必要だし、女性の活躍が多い場ほどそこが欠けているので、今こそみんなの数学マインドとか、脳の思考のベクトルが必要なんだと思うんですね。
日本は少ないからこそみなさんに素敵なチャンスがあるし、その数学のクリエイティブな部分を、アパレルとか、あるいはアートの世界とか音楽に、それを活かす機会がいっぱいあります。すごく純粋に純粋数学とか応用数学勉強されている、それもすごく大事なことだし、数学を学びながら違うところにいたとしても、その脳の思考のベクトルの考え方っていうのは、みんな意外に持ってないんですよ。
テレビとかもいいこといっぱいあるけど、すぐに演繹で「これだ」「あれだ」って言うじゃないですか。でもそうじゃないよ、前提条件における整合性だよとか、そういう考え方が世界中に広がってもいいニャってすごく思います。
(会場笑)
もうメチャクチャ分けちゃうじゃない。単純なる二元論で。二元論はいいんですけど、単純な二分法でしかない。そればっかりだったら、動物たちのほうがオッケーじゃないですか。人間はもっともっと優れた思考ができるはずなので。
司会者(男):佐々田さんや中島さんは、いろいろな男性の数学者の方や女性の数学者の方と交流されていると思うんですけど、女性ならではの特徴みたいなものってあったりするんですか? 数学の世界において。
佐々田:実は今日、ずっとプレゼンを見ていて気づいたことが。男性が大多数のこういう会って絶対に整数関係やゼータ、素数関係が多いと思うんですよ。でも今日、誰も整数の話とかしなかったのがすごい。
トポロジーとか、幾何学的な話がいくつもあって、それから確率の話もいくつかありましたよね。その時点で「ああ、なんか全然違う視点がもしかしてあるのかな」って、すごく驚いて、もちろん代数とか整数論って花形って言われがちなんですけど、やっぱりそれだけじゃない。女性が増えれば、それだけ多様性が増えるかなって。
司会者(男):そうですね。中島さんも「役に立つ、立たせたいっていう思いが強い」って仰ってましたけど。
中島:そうですね。ちなみに私自身はゼータ大好きですが。
(会場笑)
普段はかなりゼータゼータと言ってる人です。でも、今日は確かに一切言わなかったですね。数学にはいろんな顔がありますが、確かに今日のプレゼンを私も見ながら、数式があまり出てこなかったなぁと思いました。物・図形とか、なにかイマジネーションを使うようなものが、なんとなく女性は強いような気がしています。
それは私が中央審査委員をしている「算数・数学の自由研究」でも感じます。女の子の研究や発想は、割とそういう図形的なイメージを使うものと、あとは本当に実生活に役に立つもの。お母さんが、これをやると助かるとか、これで家計が楽になるとか、そういう発想から始まってるのがけっこう多くて、これももちろん統計的なものだから全員が全員そうじゃないとは思うんですけれど、傾向としてはあるような気がします。
一方で、数学って私は本当はすごく自由なイマジネーションの世界だと思っていますが、そういう楽しい芸術的なところがもっと伝われば、きっと、「やりたい」とか、「おもしろい、あたし向いてるかも」みたいな人がもっと増えるのかなと思いました。
司会者(男):女性が入ることで、今研究されている最先端のものが、現実の社会に降りてくる架け橋になるというのが、女性の感性なのかなというふうな気もいたしました。それでは、会場からなにか、ご質問等ございましたら。いかがでしょうか。
質問者1:数学のどこに魅力を感じますか。
司会者(男):僕も聞きたかったんですが。いかがでしょうか。
清水:まず、夢中になれるところ。「わー楽しい」って夢中になれるというところと、いろいろな人と考えていることを共有して、性別を超えて、国も超えて、みんなと「そうだよね」ってできるところが、すごく魅力的だなと思っています。
佐々田:いろいろあり過ぎるんですけど、1つはやっぱり、クリアにすごく納得しながら進めるところ。1つ1つ自分のなかで「うんそうだそうだ」って受けいれるっていう、そのステップがやっぱりいいということと、本当に清水さんが言った通りで、人と一緒に「あ、それおもしろいね」「こんなこともできるんじゃない」「こっちもおもしろいんじゃない」っていう、一緒の喜びを共有し合える人と盛り上がってる時とか、やっぱり特に楽しいです。
佐々木:受験勉強の科目のなかでいうと、私は覚えるのがすごく苦手なんです。数学は、問題が1行で答えが1ページっていう世界ですね。この1行から1ページが出てくるのがすごく楽しい。なにも覚えなくてもよくて、全部自分の中から出てくる。それで、なんか世間のドロドロを全部忘れて、楽しい世界に没頭できるところが好きです。
司会者(女):ストレス発散的な。
佐々木:そうですね(笑)。
中島:そうですね。確かにいろいろなところがおもしろいんですけど、奥に行けば行くほどやっぱり、思いもしなかった美しい世界があると私は思っていて、そういう神秘的な部分というのが、やっぱりおもしろい。
あとは、やっぱりものの見方が変わる瞬間があって、「なんでなんで」と考えていて、ある日ふっと違う見方が見えて、「あ、そういうことか」みたいに見える瞬間っていうのはけっこう気持ちよくて、今イノベーションとかよく言われるけれど、こういうのに近いのかなと思うんですね。自分のなかのブレークスルーみたいな。
あとは何度か話題に出ているように、数学はグローバルな言語ですから、たとえ英語があまりしゃべれなくても、けっこう数学のアイデア1つで、いろいろな人とコミュニケーションをとれます。本当にいろいろな人といろいろなアイデアで、文化交流ができるので、そこが楽しいですね。旅行もいっぱい行けるというお話もありましたが。いろいろな面で楽しいですね。
司会者(女性):松居さんは。
松居:私はアート系のクリエイティブ分野の人間なので、逆に今、やっぱりすごくクリエイトと似てるんだなっていうのがわかりました。
逆にお聞きしたいんですけど、どのあたりから数学を勉強をちゃんとしていったらいいのか。数Iとか数IIをしっかりやり切る方がいいのか、「そうじゃなくてもいいんだよ」っておっしゃる方もいるんですが、教えていただけたらなと思います。
司会者(女):逆に松居さんから質問です。
清水:知識を得てから研究に入ろうっていう順番じゃなくても……研究というかクリエイティブですね。その順番じゃなくてもいいなって私も思っていて。私の研究分野は、結び目理論っていうんですけど、それはまず絵を描くところから始めて、その後「これ証明してみようかな。それで、この証明には、これが必要だからこれ勉強しようかな」とか、そういう順番でもいいし。
松居:わけもわからずに、公式で頭がニョヒッてなって、嫌になっちゃう人もいるみたいなので。またいろいろ教えてください。
佐々田:学校で習ったことをテストに向けて勉強するって、まず作業があって、それからおもしろいことっていう順番だと、どうしてもハードルが高いと思うので、まずはいろいろな絵本とかですね。楽しい絵本で数学……数学っていうより、対称性とか、トポロジー的なものの見方とか、そういうことが幼稚園の子からわかるような絵本もいろいろ出てきているので、そういうのを眺めて感じとって、「これおもしろいかも」って思って数Iの教科書を眺めてみると、「あーそういうことか」ってやる気が出るんじゃないかなと思います。
司会者(女):佐々木さんはいかがですか。
佐々木:私は、数学のイメージはパズルですね。パズルが好きな人はたぶんみんな数学が好きなんじゃないかなと思っていて、日常生活のなかでも、「こうしたらうまくいくんじゃないかな」って、生活を問題解決思考で捉えるというか。3,000円で収めるにはこれを買うか買わないか、みたいな問題もあると思うんですけど、そういう時に、いつも頭を数学思考にしておくっていうだけで、全然いいと思います。生活が楽しくなるっていうか。決まりだからこう、とかいうんじゃなくて、自分が考えて決めるっていうのが数学かな、と思います。
中島:そうですね。研究や人生では、なにかしたい・わかりたいなど、ゴールや目的があって、いろいろなものに意味が出てくるというところがあるので、なるべくそういうのは持つようにした方がいいかなと思います。
それをたぶん中高時代からも……「これどうなってるんだろう」とかそういう好奇心って、試験に追われてると、忘れがちになっちゃうと思うんですけど、せっかく背後にすごく豊かな世界があるので、なにかしら自分なりのテーマとか、興味とかを持つようにした方がいい。
そうした内的な「動機」や夢というものはたぶん大人になるほどさらに大事になってくると思います。あとはやっぱり「楽しい」という気持ちは大事で、修行も大事ですが「楽しさあってこその修行」かな。楽しさを知らないままで修行だけをしていると、ほんとにたぶん滅入っちゃうと思うんですけれど、楽しさがある上で、そこを乗り越えたい時の修行というのは、人生で山を乗り越えるときの苦闘と似ていると思うので。そのあたりも、私は数学と音楽が本当に似てるなと思っています。
司会者(女):やっぱりこう、早いうちから数学を学ぶ目的を見出すと、普段の授業も楽しく感じられるってことですよね。そこをいかに早く見つけられるかってことですよね。
司会者(男):ちなみに、数学はお好きなんですか。
質問者1:好きです。
司会者(男):どこが好きですか。
質問者1:ずっと考えていた問題がわかった時に、「あ」って思った瞬間が楽しい。
司会者(男):いい答え持ってるじゃないですか。数学を勉強していってください。お時間残り3分ぐらいなんで、あと質問1人ぐらいかと思うんですけど。
質問者2:ありがとうございました。自分は中高で教員をしているんですけど、自分は数学が楽しい。だけど女子校なので、生徒たちは嫌いだっていう前提で入ってくることがけっこう多いんですね。
それで、なんのためにしなきゃいけないのかっていう質問を必ずされる。「楽しいじゃん」って言いたいんですけど、楽しくないっていう前提で来ているので、なるべく楽しく感じさせるように授業はしたい。でも、そうじゃない子たち、しかも文系に進むのがもう決まっている子たちに、「なんで数学をやるのか」って聞かれた時に、いつも迷い続けていて。
今は、例えば、数学は問題解決のプロセスを身につけさせてくれる。例えばあなたが恋愛をしたと。で、好きな人はマザコンだ。それで、マザコンを落とすためにはどうするかって、そこから逆算していくとか、そういう手法を考えるためのものでもあるからっていうふうに……そんな薄い説明でいいのかっていう説明をしているんですけど、逆算型思考とか、問題解決の方法以外で、いい説明方法があったら教えてほしいなと思いまして。よろしくお願いします。
司会者(女):いかがですか。
松居:そうですね。やっぱり、ほぼ同じなんですけど、いろんな問題の解決をしていく時に、誰かが言ったことに惑わされずに、自分の目で見て、自分でこれが正しいか正しくないかを見出せるっていうのを、数学者の方たちの側にいてわかってきたことなんです。
若い子たちにはそれを教えたいところなんですけど、そこもチョロチョロ教えつつ、やっぱり「楽しいよ」っていう、小さな問題でもいいので、数理的思考をするなかで、「ルン」っていう部分を教えてあげたらいいのかなというふうに今思っちゃいましたが、どうでしょう。
私は、なにか問題があると解決したくてたまらないんです。例えばドレスにシワができました。そしたら、普通のアパレルの女の子たちは、それが苦痛なんですよ。でも私は「解決できるじゃん」って思って、もううれしくて、必死でそれを解決していくんです。だから、そういう喜びを教えてあげられたら、女の子たちもいいなって思うので、若い段階でぜひ、教えてあげてくだちゃい。
(会場笑)
質問者2:確かに文系っていう方向に行ったら、やっぱり(数学と)繋がらないんじゃないかって、すごく疑問のなかであったのかなって。ジャンルを超えて、どこかで使うかもしれないっていうことですよね。しかもやっぱりそれは算数レベルならあり得るけど、数学で例えば、正弦定理、加法定理をやってなんの役に立つのかって言われた時に、窮してしまうところが少しあったんですけど、どこで繋がるかわかんないよなっていうところ。
松居:そう。それを教えられたらね、一番いいんですよね。
佐々木:袖山の型紙の形とサインカーブって同じですよね。
松居:そうですね。袖の形が、円錐をブチって切ったらあの形になるんですよ。円錐の展開図。私は、数学に出会う前は全然そういうことがわからなくて、「神秘的」って思ってたんです。
そういう、文系の人からすると神秘的なところっていうのは、いいのかもしれないけど、やっぱりそれをわかっていくことのほうがいいっていうベクトルを、どうしたら伝えられるのかなっていうふうに思っています。
元々のそういうマインドっていうのは、生まれつきなのか後から来るのかっていう問題でもありますよね、その命題は。もう放っておいたほうがいいって思う人たちがいる時に、それをどう教育するかっていうこともありますか。
質問者2:そうですね。
松居:すいません。すごく根源から入っちゃう人なので、ややこしいこと言ってるかもしれないですが。
中島:教育現場では、才能がある、ないとか、そういうことを言われる人も多いですよね。「私どうせ才能がないのでいいです」とか。そのあたり、いろいろな誤解があるような気がしていて。みなさんのご意見も聞いてみたいですね。
佐々田:私、こないだ文系の大学1年生、2年生の数学の授業を持ったんですけど、その時にやったのが、なるべくディスカッションをして、けっこう本気の数学、イプシロン・デルタ論法とか、そういうものをやったんですけど、そもそも数列が収束するってのはどういう意味かということを誰でも判断できるような、客観的な基準っていうんですかね、誰がチェックしても同じ結論になる基準をみんなで各グループで作りなさいと言って。
そういうのって、例えば法律なんかでも、泥棒ってなんですか、窃盗ってなんですかっていうのは、非常に難しいんだけど、なにか定義をしないと、全員に同じように適用しなきゃいけないわけですよね。
そういうふうにものを定義するっていうのは、たぶんどんな分野においてもすごく大事で、同じ言葉を使っていても、例えば「平和になる世の中にしましょう」っていった時に、平和というものについてイメージしてるものが違えば、どうせうまくいかないので、そういうふうに物事をきちんと落としていって、同じ共通の言語にしていくとか、そういう定義をするとか、そういうことは絶対に必要かなと思います。
中島:難しいことだけを一方的に学ぶと、「なんでそんなことを思いついたんだろう」とか、「この人は天才なんだろう」みたいにどんどん敬遠しちゃうことがあるんですけど。例えば今のイプシロン・デルタ論法を大学でバーンとやっちゃうと、そこで「わからない」という人が出るんですけど、やっぱりそう定義されてきた背景には自然な動機があるわけです。「あ、なんだ、こういうことだからこういう定義をするのか」みたいな感覚がつかめれば、一挙に怖くなくなります。
ここはちょっと時間がかかるのですが、教育の現場では、本当は自分で体験して、悩んで、納得することで初めて、「なるほど、この発想は自然なことなんだ」みたいな風景が見えてくる。そのプロセスが足りないと、「なんの役に立つんだろう」とか「自分には才能がない」などの感覚になってしまうのかなと思います。
司会者(女):役に立つことを先にもちろんわかるのはいいんですけど、それ以前に、なんでこれができたのかって夢中になっているうちに、自然と好きになっている、そんなことを考えなくなっている、っていうこともあるわけですよね。そういう逆の感じもいいのかなと思います。
質問者2:非常に引き出しが広がった気がします。ありがとうございました。
松居:さっき佐々田さんが仰っていた、言葉を使う時に定義が揺れたまま話すという習慣が、小さい時からみんなできちゃっているので、ちゃんとお互いに共通の言語で話すということを、小さい時から教えてあげることが、サイエンスマインドに繋がるような。全然違う話、言葉の定義の話をしている大論争が起きるのが、そこに繋がっていかない原因かなと、ちょっと思います。
司会者(男):話は尽きませんけれども、そろそろお時間となりましたので、これでディスカッションは、終わらせていただきたいと思います。みなさんに今一度大きな拍手をお願いします。ありがとうございました。
(会場拍手)
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