2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
How We Eradicated Cattle Plague(全1記事)
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ハンク・グリーン氏:ウイルスとは遺伝物質の塊で、生物と非生物の中間のような存在です。自らを複製して伝染していくためには細胞に住み着く必要があります。インフルエンザ、麻疹、HIVなど、ウイルスが引き起こす病気は数多くあります。
種としての人間は、ウイルス性の病気から身を守る術を身につけてきました。しかしウイルスを撲滅する、完全に除き去るというのははるかに難しいことです。ところが撲滅に成功した例があるのです。
1980年WHOは、致死的な天然痘ウイルスが撲滅できたと宣言しました。これは人類史に残る功績の1つです。
人間が撲滅したもう1つのウイルスの例は、牛疫です。ワクチンを含む国際的な取り組みによってこの致死性ウイルスとおさらばできたのと同時に、多くのことを学べました。ウイルスごとにその性質は異なるため、効果的な対処法を考え出すにはそれぞれ多くの研究が必要なのです。
牛疫はたちの悪い家畜の病気です。
感染した家畜は高い確率で死亡し、発熱や下痢、嘔吐といった症状に悩まされます。さらにこうした体液がウイルスを深刻なレベルで拡散させていきます。アジアで最初に見つかった牛疫は、じわじわとヨーロッパに広がり、1880年にはアフリカでも伝染病となっていました。
エチオピアでは食物や輸送手段として用いられていた牛が、牛疫によって大量に死んだため、人口の1/3が死亡しました(編集部注:情報のソースは確認できず)。
しかしそれでは終わりませんでした。牛疫による被害は3大陸にまたがり、人々に恐怖をもたらしました。
検疫や隔離といった衛生的な試みも多少は効果がありましたが、なによりもワクチンが必要でした。弱体化させたウイルスを用いて、牛の免疫システムにウイルスを認識させて抵抗力を持たせるのです。
最初のワクチンは1920年に、継代培養(けいだいばいよう)と呼ばれる手法によって、複数の動物から採取した牛疫ウイルスを弱体化させて作られました。J.T.エドワードという研究者が別の動物を用いて開発したため、そのワクチンのウイルスは牛よりもヤギに定着しやすい性質を持っていました。
このワクチンを牛に注射すると、牛の免疫システムがウイルスと戦って抗体を作り上げ、本来のウイルスがやってきても対抗できるようになるのです。
しかしこの手法は時間がかかる上に羊の群れ全体を見なければならず、大量生産をするには現実的ではありません。さらにワクチンのウイルスが部分的に元に戻り、それが病気を引き起こす場合もありました。
そこで1950年までにシャーレを用いた組織培養という手法が定着します。時間をかけて、しかも幸運にも恵まれ、獣医学者であったウォルター・プラウライトは継代培養した子牛の腎臓の細胞を用いて、ウイルスの変異を抑えることが出来たのです。ヤギを使う必要はなくなりました。
ワクチンの信頼性が向上したおかげで、数十年間は牛疫の感染率が急落しました。ところが国際的な取り組みにも関わらず、モグラたたきのように牛疫は息を吹き返していきました。
そこで1994年、牛疫が流行している地域に狙いを定め、完全に一掃することを目的としたグローバル牛疫撲滅プログラムがスタートします。このプログラムを成功させるためには科学的・社会的な取り組みが、その地域でも国境を超えても求められました。
研究者チームは、牛に対して片っ端からワクチンを接種するのではなく、ウイルスがどのように感染し広がっていくのかを数学モデルを使って戦略的に分析し、効果的なワクチン接種の方法を調べました。
動物たちには冷蔵しておく必要のない、熱耐性を持ったワクチンを接種します。現場では酪農家が牛疫についての啓蒙活動を行います。牛疫が発生した兆候がないかを監視する仕組みを作り、非感染地域を確立させます。
こうして、最後に牛疫の感染が確認されてから10年後の2011年、牛疫の撲滅が宣言されました。自然界にはウイルスが存在せず、研究所にサンプルが残っているだけです。
ここまでで長年に渡る牛疫との戦いと勝利を見てきました。では、牛疫以外のウイルスも同じように根絶することはできないのでしょうか。
牛疫はその被害の壮絶さに比べて、ウイルス自体は「入門レベル」でした。牛疫ウイルスの変異速度は比較的遅く、ウイルス株が異なっていても大きな違いはありませんでした。そのため1種類のワクチンで対応でき、一度抗体ができればずっと効果があったのです。
一方で遺伝子情報をコロコロ変えるインフルエンザウイルスには、毎年新たなワクチンが必要です。さらに牛疫の悲惨な症状は誰の目にも明らかなので、発生を見つけて感染した動物を隔離することも容易です。
ところがジカウイルスは症状を見せずに広がりますし、HIVウイルスも数年間症状をあらわしません。こうしたウイルスは感染経路を辿ることが非常に難しくなります。
牛疫は過去のものとなりましたが、この世界にはまだまだウイルスであふれていますし、将来どうなるかは誰にもわかりません。HIV、ジカ、エボラだけでなく、新たなウイルスがどこからともなく出現し急速に感染していくかもしれないのです。
そうなれば感染を防ぎ治療する戦略を見つけられるかは、ウイルスの生態、影響、弱点を解明できるかにかかっています。科学技術や通信技術の進歩はその点で助けになるでしょう。
しかし今あるウイルスは、それぞれに脅威を撒き散らして問題点を浮き彫りにしています。食料や福祉、生活に直結する問題なので、科学技術と世界規模の政策が協調することで命を奪うウイルスを一掃していきたいですね。
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