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萱野稔人×小林よしのり×朴順梨×與那覇潤×宇野常寛(全2記事)

安倍晋三は実は「左翼」だった!? 小林よしのり氏らが語る「ナショナリズムの現在」

現代日本において勃興してきたナショナリズム。毎年のように賛否両論が沸き起こる靖国参拝問題や、国民からの反韓・反中感情に揺らされるメディアのスタンスなどについて、『ゴーマニズム宣言』などで知られる小林よしのり氏、「PLANETS」編集長の宇野常寛氏など5名の識者が分析した。

靖国神社で慰霊するのはおかしい!?

小林よしのり氏(以下、小林):そもそも、今の保守より、わしの方がもっと右だと思っとるよ。たとえば、安倍首相が靖国参拝をしたときに「慰霊のために参拝した」とか「不戦の誓いをした」とか言うことに、わしはものすごく怒ってるわけ。

萱野稔人氏(以下、萱野):なんで怒っているんですか?

小林:つまり、靖国神社というのは「慰霊」をするための場所じゃなくて、英霊を「顕彰」する場所なんだよ。かつて小泉首相が参拝したとき、記者会見で参拝の目的を「心ならずも国のために命を捧げられた方々に対して追悼を行うため」と言ったんだけど、その発言に対して、あのルバング島から帰ってきた小野田寛郎元少尉が「これは侮辱か?」と怒ったっていうんだ。

小野田少尉の立場からすると「自分たちは犠牲者じゃない。『心ならずも』ではなく望んで戦場に行ったんだ。国のために自分たちが戦わなければ誰が戦えるのか、と自分たちに誇りを持って行ったんだ。だから『英霊』なんだ」と。つまり英霊というのは、ただの戦死者ではなく英雄、ヒーローなんだよな。それがなぜ「慰霊」されなきゃいけないんだ、ってことなんだよ。

「慰霊」をするなら千鳥ヶ淵戦の戦没者墓苑に行けばいい。アメリカのケリー国務長官とかも、千鳥ヶ淵になら行ったんだから。今の保守論壇の人間たちもネトウヨも全然それをわかっていない。靖国神社は、英霊を「顕彰」するための場所なんだから「不戦の誓い」なんてものとは何も関係がないんだ。そして本来、靖国神社で英霊を「顕彰」するということは、「いざとなったら、自分も英霊と同じく国のために死ぬ覚悟があります」という誓いを立てるという意味を含むんだ。

與那覇潤氏(以下、與那覇):靖国神社に参拝するというのは、本来は「私もあなたたちの後に続きますよ」という意味であって、そこで「あなたたちのような人をもう出しません」と言うのはおかしいと。

小林:そうそう!

與那覇:安倍さんが靖国神社に行くのを、ネット右翼の人たちは「中国や韓国にも、アメリカにも妥協しない! 偉い!」とはやすけど、実際にはその安倍さんもまた、妥協しているわけですよ。

この場合の妥協の相手とは、中国・韓国のことではありません。日本は「世界戦争」を一回やって敗戦して、そこで成立した国際秩序に組み込まれて生きてきたわけだから、そういう国際社会版の「戦後レジーム」は総理が靖国に行ったってチャラにできない、そういう歴史的な条件との妥協ですね。

それをリセットしたかったら、もう一回世界戦争をやって勝つしかない。その選択肢が事実上ないのだから、我々は今ある秩序の中で生きていかなきゃいけない。歴史というのは本来、そういう自分たちの置かれている環境の限界を教えてくれるもの、自分たちの行動を制約づける文脈のことでしょう。首相が靖国に行ってくれれば日本復活だ、なんていうのは、いちばん歴史から遠い発想だと思います。

「戦後レジーム」の捉え方

小林:安倍首相が「戦後レジーム」という言葉を何の意味で使ってるのかがわからんのだよ。憲法さえ変えれば「戦後レジーム」が変わるって話なのか? さっぱりわからないんだけど、その「戦後レジーム」は、まさに與那覇さんが言われたような第二次世界大戦の戦勝国が作った国際秩序ということになるわけだよね。

宇野常寛氏(以下、宇野):でも、「戦後レジーム」というのはもう終わっていないですか? 実際に、冷戦体制が終わってますし、技術的には「総力戦」というもの自体がなくなってますし。

萱野:そうは言っても、「国際連合(United Nations)」ということば自体が、第二次世界大戦中の「連合国(United Nations)」と同じものですから。安全保障の面で、常任理事国の米、英、仏、露、中の五か国が中心に居続けるという構造は変わらないということですよね。

與那覇:そうです。だから、安倍首相は妥協しなければ靖国神社に行けない。

小林:要するに安倍首相は靖国神社を換骨奪胎しているわけだよ。諸外国が認めないから「慰霊のために行っている」と言い訳している。つまり、安倍晋三は左翼なんだよ!

一同:そうだったんですか(笑)。

小林:今の保守論壇の奴もネトウヨの奴らも、わしの説を論破できないよ。集団的自衛権を憲法解釈で認めようという動きもそうだよ、あれは結局「アメリカに抱きつきたい」というだけだから。

萱野:それも原理的な意味では左翼の発想ですね。

與那覇:逆に言うと、結局、私たちはある程度は「左翼」にならない限り、生きていけない環境にあるのだと自覚するのが第一歩ではないでしょうか。

「戦後左翼のせいで我々は抑圧された」という自意識が、オールド保守論壇からネット右翼に感染して久しいけど、それは決して国内の左派勢力の力じゃないんですよ。むしろ戦後、我々が再出発する際の構造的条件だった。限界づけられた条件を噛みしめて、それでもなおそれが「自分の国」だと思ってやっていく、その技法が本来の意味での歴史感覚であり、物語だと思うんですよね。

来年の大河ドラマ『花燃ゆ』は、NHKから安倍首相への接待?

小林:マスコミがみんな「今、景気がよくなりはじめた」とか「アベノミクスの効果が中小企業にもおよび始めたかも知れない」とか言っているよな。それでみんなどういうわけだか騙されている。

円安誘導した結果、石油のような輸入品は値上がりして貿易赤字だって増えているわけだ。そこで「アベノミクスはおかしいんじゃないか」という疑問の声も出てきているんだけど、それを誰も取り上げないじゃない。マスコミだって安倍政権に媚を売ってるからな。NHKだってそうでしょ。

宇野:いまのNHKはヤバいと思いますね(苦笑)。

小林:来年の大河ドラマは、安倍総理と同じ長州出身の吉田松陰の妹が主人公(『花燃ゆ』主演:井上真央)だけど、要は安倍政権のためにそれを大河にしたんだからね。

宇野:「接待大河」だったんですね(笑)。

小林:だから、「マスコミに騙されないようにできるかどうか」という話なんだよ。

週刊誌で中国・韓国叩きの記事が増えたのはなぜ?

朴順梨氏(以下、朴):でもネトウヨの人からすると、本来は「見てはいけないテレビ局」のナンバーワンがNHKなんじゃないんですか? 「反オスプレイを意図的に煽る報道をしている!」とかで、保守女性たちがお怒りでしたよ。

小林:いや、今まではそう思っていたけど、籾井新会長体制で、長谷川三千子や百田尚樹が経営委員に加わったこれからは違う。「見るべきテレビ局はNHK」になる。

與那覇:旧ソ連の「プラウダ」みたいに、「誰も真に受けないことが前提の、あくまで政府の公式見解メディア」になってしまう姿は、見たくないですね。

萱野:マスコミ報道に関してはやっぱり、「マスコミが自分たちの意見を取り上げてくれない」という不満はすごくあって、「ネット右翼」という言葉が非常に象徴的だと思います。そこには既存のマスコミへの批判が込められているんですね。「俺たちが今まで言いたかったことが、全然マスコミでは取り上げられない。だから自分たちはこのメディア(=ネット)で言うんだ」というところがありました。

もともとネットは、「マスコミが流さない裏事情ニュースを流す」とか、マスコミ批判的なところで機能している面があるじゃないですか。そういうメディアの位置とも対応しているところがあると思いますね。

それとマスコミの「中の人」たちに関して言えば、今の薄く広い反韓・反中感情にどう対応していくかについては彼らもすごく苦悩していますね。リベラルで売ってきたメディアが、新しい右翼的な動きに対して多少なりとも理解を示そうとすると、既存の読者からものすごい反発が来るんですよ。

小林:それはそうだ、商売にならなくなる。

宇野:そこに関しては、実際に我々の作っているような小さなメディアのようなものが持続的に力を持っていくことも、一つの回答なのかなと思っていますね。

:「正しい報道をしろ」とか「正しい記事を書け」とか「一方向からものを見て書くな」とか、そういう批判をすごくよく受けるんですよ。そうやって批判してくる彼らなりの「正しさ」があって、そこに合致していないから、批判したくなるんだろうなと思います。

その反面、最近では週刊誌に反中・反韓記事がすごく増えていますよね。果たしてそういう報道姿勢は「正しい」のかと考えると、私は正直「うーん……」と疑問に思ってしまいます。

小林:それは「正しい」じゃなくて、そういう記事を増やせば「売れる」ということなんだよ。『戦争論』を出した頃も、朝日新聞は左寄りの記事を出し、産経新聞が右寄りの記事を出していたけれど、あの頃はまだ、それぞれの主義主張を闘わせる場にはなっていた。でも今は、思想やイデオロギーの闘い云々よりも、いかに読者が喜ぶ記事を載せるかが重要になっている。

『戦争論』の頃は左翼の連中が広めた「自虐的」な物言いが世間を覆っていたけど、今は大きく右に振れて、マッチョな物言いや憎韓・反中が流行っているから、週刊誌も書籍も憎韓・反中の記事ばかりになっている。何か深く考えて思想した上で「正しい」と判断しているわけではなくて、ただ単に「読者が喜ぶから」という商売至上主義で、そういう記事が増えているだけ。日本の言論は著しく劣化しているよ。

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1998年、『戦争論』で大ブームを巻き起こした "小林よしのり" は、2014年現在の「ナショナリズム」や「ネトウヨ」をどう見ているのか? そして、ヘイトスピーチや集団的自衛権、憲法改正など山積する問題をどうするか、気鋭の論客たちと徹底討論!

パネリストには、2000年代半ば以降「ナショナリズム」を理論的に分析してきた哲学者・萱野稔人、『中国化する日本』でまったく新しい東アジア像を描いた歴史学者・與那覇潤、草の根のナショナリズム運動の現場を歩き、「ネトウヨ」的心性の広がりを見てきたフリーライター・朴順梨を迎え、それぞれの角度から現代日本の「ナショナリズム」を語った。

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▼ ほぼ日刊惑星開発委員会について評論家・宇野常寛が責任編集長を務める、平日毎日配信のメールマガジンです。いま宇野常寛が一番気になっている人へのインタビュー、イベントレポート、ディスクレビューから書評まで、幅広いジャンルの記事をほぼ日刊でお届けしています。2014年2月からニコニコ動画内「PLANETSチャンネル」にて配信開始。日刊化にともない、有料のチャンネル会員が急激に増加中。2014年5月から夜間飛行での配信もスタート。月に一度、夜間飛行オリジナル動画を配信します!

▼これまでメルマガに登場した人物(参考)尾原和啓『ITビジネスの原理』著者)、速水健朗、高橋栄樹(映画監督)、小笠原治(株式会社nomad代表)、安宅和人(Yahoo!Japan CSO)、安藝貴範(グッドスマイルカンパニー社長)、福田雄一(映画監督・脚本家・演出家)、猪子寿之(チームラボ代表)、藤林聖子(作詞家)、粟飯原理咲(アイランド代表)、濱野智史(社会学者)ほか多数。

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