2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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宇野:そうですね。せっかくなので、僕でも吉田さんでも、何かご質問ある方は、言っていただけると。
質問者1:吉田さんに質問なんですが、先ほど公益資本主義とおっしゃっていましたが、その公益資本主義を目指したきっかけってどんなことだったんでしょう?
吉田:いくつか理由はあるんですが、まず事象を研究したことが挙げられるかもしれないですね。どういう事象かというと、メガベンチャーになっている日本の会社を全部、IR資料も含め、創業から何が起きたかについて歴史を分析した。
そうしたらやはり、楽天しかりソフトバンクしかり、サイバーエージェントもそうですが、ああいった会社って一回上場してから潜っている時期があるんです。それも圧倒的に。もしくは潜らないにしても「踊り場に来ている」とか、そういう時代が必ずある。
事業って一筋縄では行かないので、上場までのストーリーの中では、ひとつの事業で、何かアイデアがあってそれが市場にヒットしたときに上場するんですけど、会社の経営って「社会に対して貢献をする」とか「雇用をつくる」という作用があって、当然上場の後もそれが続いていくわけです。
で、この成長の過程って一直線じゃないんですよ。実際のカーブは、大体N字型になっている。一回伸びて下がって、また上がっていく。この実際の成長曲線のN字型に対して、「いや、社会に還元しているんだから評価は一直線にしましょう」と言ってもらえるのが一番ありがたいんですけど、そうもいかないわけですね。
でも、経営者のイメージとしては一直線に成長しているんです。別にお金とか関係なく、人々の共感とか社会に対してインフラを積み上げていくということにおいては、一直線になっている。それに対してお金っていうのはコモディティなので、宇野さんの言う目が¥マークの人じゃないですけど、「やべーこれ新しいわ」「あれが話題らしい」ということになると、そこ対してすごくお金が集まる。
で、それが期待はずれだっていうことになると、どーんと落ちるんですよ。その浮き沈みが一段落するまでだいたい10年とか、それぐらいの時間がかかる。だからうちの会社のメンバーにも10年とか、そういう話をよくします。
要するに、事業を始めるときに一番最初は、先輩を勉強したりだとか事象の研究が大事です。そういう意味では、今はいい時代で、孫さんとか三木谷さんは本当の意味ですごい。要はベンチマークする先輩の会社がなかったわけですよ。なのに楽天だったら流通1兆円、ソフトバンクだったら営業利益1兆円ということが実現できた。
私なんかはちょっと楽させてもらって、三木谷さんや孫さんを研究していけばいいわけですよね。そうやっていって初めて社会のインフラが整備されていく。そういう感じで、「公益資本主義」ということを考えるようになりました。
僕は勉強不足でクラウドワークスがどういう仕組みの事業なのかわからないところがあるのですが、そういった弱い立場に置かれている人が使ってちゃんと食べていける仕組みなのか。どうしてこういう質問をしたかといいますと、クラウドソーシングっていう言葉からは、「どこでもやっていけるようなスーパーマン」みたいなすごい人が使ってこそ意味があるのかなという印象を受けたので……。
吉田:そうですね。おっしゃる通りで、ざっくばらんにお話しすれば、正社員じゃないということは何かしら問題があるとか、能力が他の人に比べて劣る可能性があるわけです。私は実際に現場に立っていろんな方々と話すのですが、そこは一筋縄では行かないなと思います。
行政の助成金による人材育成の出口戦略のようなかたちで、今けっこうお話をさせて頂いているんですけど、パソコンを使う仕事を得るために教育を受けている人と実際に面談してお話をすると、パソコンを持っていなかったりするんですよ。
「どういうことですか?」と聞くと、「買う金が全然ないんだ」と。で、「スマホは持っていないんですか?」と聞くとガラケーしか持っていないんですね。「じゃあ、ケータイを買い替える時に費用0でパソコンもついてくるキャンペーンなどもあるので、まずは買いましょうよ」と。すると、「そんなもの無理です。私はガラケーでいいです」と言われてしまったりします。
他にも、「クラウドソーシングって、いろんな会社から受注とれるんですよ」という話をしたら、「いや、そんなの無理です。私は今、1社在宅ワークでお仕事頂いている会社で手いっぱいなので、10社とか無理です」と。私としては、「いやいや、そういうことじゃないんですが……」という感じで、完全に話す次元が異なってしまう。
我々は「10社から仕事を貰えているほうが、1社だけと仕事をしているよりも安定している」と思っているわけですから。でも、我々はそういう方々を相手にする仕事なんだってことを常々覚悟しています。一朝一夕にはいかないんですよ。
メディアに出るときは常に背伸びをするしかないので夢を語りますし、「こういう未来でありたい」ということは言いますけど、少なくとも我々は、「人を変える」ということは簡単にはできないと思っているわけですね。
湾岸戦争のときに私は中高生で、学校がカトリックだったので神父さんがいて、いつも「平和のために祈りましょう」とか言っていたんですが、私はその神父さんにすごく警戒心を抱いていた。「祈ったって全然平和にならないじゃん」「何で祈りましょうって言ってんの?」と思っていたんです。
でも10年たって分かるんです。要は、人が人を変えるというような大それたことなんて、なかなかできない。でも、考えるきっかけを与えることはできるわけです。現に、私は10年経ってもその神父さんについて考えていた。あの人が、なぜあそこで自信をもって「平和について祈りましょう」と言い続けていたのか。それは、考えるきっかけを与え続けていたんだと思うんです。
だから我々の役割というのは、きっかけを作ること。そういう人たちにしっかりと対応しながら、でも「変わってください」とは言えないから、「そうはおっしゃいますけど、こういうことがあって、こういうことがあれば、稼げる可能性があります」「ぜひ一度パソコン買ってください」――という、きっかけ作りでしょうね。パソコンを買うか買わないかは、本人が最終的に決めることですから。
でもクラウドソーシングは要は営業システムを代行しているわけです。こういうサービスが定着していくことによって、会社員じゃない人間が、お決まりの相手ではなくて、複数のクライアントから常に仕事を受注している状態が当たり前になるという文化を育てることができるか。
そういうことが当たり前になったら、最初からみんなやるじゃないですか。これって、卵が先か鶏が先かの話であって、クラウドワークスさんでもランサーズさんでも、クラウドソーシングサービスがこのまま大きくなって定着していくことによって「会社に入っていないということは、じゃあどこかのクラウドソーシングサービスに登録しているんだろうな」と思うのが普通になる世の中をつくるということだと思う。
吉田:本当におっしゃる通りで、私はクラウドワーカーというのを一つの職業にしていきたいんですよね。つまり、「職業:クラウドワーカー」っていうと一定の信頼があって、「あーそうなんだ。オンラインでいろんな仕事とってるんだ」というイメージが湧くような、そんなかたちにしていきたいなと思っています。
宇野:全米退職者協会のようなイメージで、「フリーランスの人は結局みんなクラウドワークスに入っているんでしょ」みたいな、そういう感じですよね。本当にフリーでやっている人ってほとんどいないわけです。要は「ネットにつないでいてグーグル使っていない人はほとんどいない」みたいな、それぐらい当たり前のインフラになっていくことが大事で、そうすると文化は自然発生していくんじゃないかと僕は思います。
だから、こういう人材をクラウドワークスさんで、どんどん、私みたく使い方がわからないと言ったときにぜひフォローして頂きたい。定年退職者に夢を与えていただければ非常にありがたいと思います。
吉田:本当に、そういう意味では社内でも議論しておりまして、やっぱりサイトを分けておくべきかなということは考えています。シニアの方々から要望をいただくのは、印刷して一回一回確認したいとか、あと文字がもっと大きいものがいいとか、そういったことです。そういうご要望を反映させるためには、今のクラウドワークスのサイトとは別のユーザー体験の設計が必要かな、と。ただ、我々もすべてがいきなり理想形にはいけないので、段階的に実行していきたいと思っています。
宇野:やっぱりね、僕のところなんかもそうだけど、経理や法務のスペシャリストとか、定年退職した人たちの知恵が欲しいって人はいっぱいいると思うんですよ。
ところが残念ながら、ちゃんとした企業で、ちゃんとした経歴を持った人であればあるほど、自分の会社の取引先の数社以外の人とほとんどつながっていないし、当然ネットを使える人も少なくて、僕らと結びつかない。政府やお役所がそういうミスマッチをケアしていくことは現実的にちょっと考えられないので、やはり民間のサービスでやるしかないと思いますね。
インターネットのサービス全般に言えることですが、今まで自分とまったく関係のなかった人たちを見つける機能をしっかりと背負っていってほしいなと思います。
吉田:はい。がんばります。
宇野:ビッグデータって、ただデータが大きいだけのものですよね。たとえば、包丁って別に善でも悪でもないものなわけで、人を刺すこともできれば、神のように旨い刺身とかもおろすことができる。それと一緒だと思います。
ビッグデータの話って、たとえば個人情報が悪用されたり、監視社会につながるとか、左翼っぽい体制批判にも超使われていて、僕が思うにそういう批判ってぶっちゃけそこまで間違っていない。
ただその一方で、けっこう収入がある人間でもフリーランスだというだけで不動産借りられないとか、カードが作れなかったりする。でも買い物情報があれば、「こいつ会社員じゃないけど、ちゃんとカードを延滞しないで支払っているな。じゃあ月に1万円くらいの保険料だって絶対払えるだろう」と判断できるわけで、何だって使いようなんですよね。
逆に言うと、あらゆる状況とか生まれてしまったものって、利用するしかないじゃないですか。だから、そこはポジティブに捉えてもいいんじゃないかなと思います。
吉田:非常にシビアな問題で、今日は宇野さんの会なので現実的なお話をすると、まああまり変わらない部分はあると思います。やっぱり日本は現実的には超学歴社会なんで、東大卒しか入れない会社もありますし、慶應の何とか部じゃないと基本採用してもらえないという会社もありますよね。
で、たとえば私が新卒の頃に就職活動していて、電通さんなんて箸にも棒にもかからなかった。でもそれが、今は出資をいただていたりします。だからやっぱり選択だと思いますね。
やっぱり既存の新卒採用は絶対なくならないです。例えば、銀行がなんでお嬢様校の人を受付に採用するかって、これは現実的にすごく妥当な理由があって、お嬢様校の人たちは不正をする確率が極めて低い。家にお金があるので、受付でいただいてるお金をポケットに入れる可能性が著しく低いんです。そういう非常に合理的な選択なんですね。
で、社会は思いのほかそういう合理主義でできている。なんで同じような大学の同じようなサークルの人を採用するかって、同じ文化だと組織が作りやすいんですよね。学生に対して本当にひどいなと思うのは、そういうシビアな側面を誰も教えてくれないことなんですよね。親も教えてくれない。
だから私、自分の子どもには「社会というのは厳しいもんだ」ということを、生涯に1回くらいは講義しようと思っているんです(笑)。例えば、アメリカとかって、家の前でパイとかキャンディとか売って、お金儲けたりするゲームがあるんですが、日本の子どもってそういうことを全然やらないですよね。
社会は本当にシビアなので、現実的に考えて新卒採用というものは残っていくと思います。ただやっぱりその一方で、次の未来に賭けて自分で可能性を切り開いていくという生き方を選択する、その一つはベンチャーを選ぶということだと思いますね。
ベンチャーで経験を積んで、例えば私なんかはそうですけど、大企業を辞めて、ドリコムっていう15人くらいの学生出身の起業家しかいないベンチャーに入って上場した。で、上場企業役員ということで、その後もまた働いている。それはマッチョに頑張っていけるというか、そういう一つの選択だと思うんですよ。
「就活頑張ってる自分が好き」モードに入っちゃっているキラキラした軍団が、いかに中身がなくていかに話がつまんないかってことを、同じ学食で昼飯を食べているとわかるんだけど、15分とかで面接しているとけっこう企業の人たちが騙される。それがむかつくって話だと思うのね。
で、それははっきりいうと文化の問題。上場企業に勤めて社会を動かしているエリートたちが、そういった薄っぺらさをわからないわけ。だから僕が思うのは、世の中を動かす人たちが騙されないように、「文化の力」のようなものを強化したいなと思っている。
今カルチャーとかが好きな、象徴的にいうと中央沿線に住んでいるような人たちって、残念ながら基本的にダメなんです。「文学とか美術が好きな自分が好き」というモードに閉じてしまっている。そのせいで、ちゃんとものを考えられる人とか、頭のいい人ほど文化のことをバカにして相手にしない。
その結果、社会の真ん中にいる実力のある人ほど文化を身につけなくなってしまっている。その結果として、文化的に薄っぺらい人たちに騙されてしまう。とりあえずキラキラしてハキハキしている人の方が教育がしやすくていいだろうということで、そういう人が新卒採用を勝ち抜いていくわけだよね。僕の考えでは、この状態を覆すしかない。
吉田:就活する際は、まず全力でキラキラの人に一回なって内定を取るのがおすすめですね。私もそういうマッチョな生き方をしているわけです。私が「寺山修司が~」っていっても、みんなからハブにされるから、ある時期から寺山修司のことを一切言わなくなった(笑)。そういうことでもあるのかな、と。
宇野:吉田さん、芸術家志望だった過去を封印しているわけですよね(笑)。
吉田:そうですよ。あまり話すとみんな引くんで(笑)。
宇野:吉田さんが社会的に超成功して、藤田さんとか孫さんくらいの起業家になったら、ビジネス誌に出たときに「Facebookでいいね100集めてる学生をうちは絶対とらない」って言ってるかな(笑)。
吉田:(笑)。でも、自分なりに別のコミュニティをつくりたいですけどね。そういうところまで行ったんだったら、ちゃんと考えている、文化を持っている人たちを生かせる場所をつくりたい。昔はよく言ってたんですけど、劇場作りたいんですよ。そういう文化の集積地みたいなところですね。
宇野:その時までに僕は、ゴールデン街で飲みたがる才能のない編集者を一掃したい。
吉田:(笑)。だから、宇野さんと私では攻め方は違うかもしれないですけど目指してるところは一緒なような気がしますよ。今は就活に悪戦苦闘している学生のみなさんも、ぜひマッチョに頑張ってください。
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