2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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吉田浩一郎氏(以下、吉田):もう残り30分ぐらいになってきたので、宇野さんの新刊の『静かなる革命へのブループリント』の話を聞かせてもらいたいんですけど、いいですか(笑)。
宇野常寛氏(以下、宇野):はい。
吉田:今、猪子さんとか落合さんとかのお話ありましたけど、他の人たちも一通りご紹介いただけると嬉しいんです。皆さんまだ、読んでない方もいると思うので。
宇野:表紙に名前が並んでいる順番で言うと、チームラボ代表の猪子寿之さんというのは、テレビに時々出てくる変なしゃべり方の男、という感じで受け取られているかもしれないんですが(笑)、彼はデジタルアーティストですね。
吉田:ちなみに猪子さんって、何を目指しているんですか? 私あまり話したことないんですけど。
宇野:猪子さんはけっこう複雑な人で、チームラボという会社をやっていくということと自分が表現するということの間に、あまり差がないと思うんだよね。
吉田:へー。
宇野:彼は会社をやっていることも含めて、生き方自体が、彼のアートみたいなところがある。自分の会社のことをよく、麦わら海賊団みたいなものだと言っていて、仲間たちとワーッと海外に飛び出していって、生きるか死ぬかの戦いをしながら、面白いことをする、というイメージでしょうか。
チームラボって変わった会社で、中の組織も役職があったりなかったり、プロデューサー的な管理者がいたりいなかったり、そういったところも含めて、作品という目的とチームラボという手段がちゃんと一致している。僕はチームラボってある種の社会的なパフォーマーだと思っているんです。
吉田:続いて、メディアアーティストの落合陽一さん。
宇野:落合君は、かの有名な落合信彦先生のご長男。
吉田:全然キャラ違いますよね(笑)。
宇野:まったく違っていて、まだ20代なんだけれど常にヨウジヤマモトを着ていて。彼、何の研究者と言ったらいいんだろう……?
吉田:最近は、音波で物が動く、浮くっていう動画をYouTubeにアップして、300万回以上再生されたりして話題になっていましたけど、あれはすごかったですよね。
宇野:よく彼が自分の研究で代表的なものとして挙げているのは、シャボン玉の膜を、材質を工夫して、超音波を当てていろんなものを映すスクリーンにする、というものです。従来の液晶などのディスプレイって、そこに映っているもの自体は非現実のものだと僕らは思いますよね、でも彼の作っているシャボン玉のスクリーンに映っているものは、現実にそこにあるものだと感じられるわけです。
吉田:境界線がないっていうこと?
宇野:そう、境界線がない。それって、バーチャルリアリティと似ているけど、違うものなわけですよね。物体の反射を調整して、目に入っている光そのものをいじっているわけなので、人間の脳に電極を刺して錯覚を見ているのとはすごく違うんですよ。テクノロジーを使って、実際に対象と人間との関係をちょっと変えている。そういった技術を彼はたくさん開発していて、それを使ったアートをやっている。
吉田:イデアと、イデアの影みたいな。
宇野:そうそう、だからけっこう哲学的な男なんですよ。20世紀って『映像の世紀』っていうぐらい、いかに錯覚を作っていけるかを試行錯誤してきた時代だった。映画から始まってそれが今では様々なバーチャルリアリティの技術に結実しているわけですね。
でもインターネットっていう、バーチャルな映像だけでは完結できない、コミュニケーションを不可避に含んでしまうものが出てきて、それによって「映像の世紀」としての20世紀の歴史はこの先、自動解体されていく。その次は何かということを彼はすごく考えていて、彼はそれを「魔法の世紀」と呼んでいる。
吉田:「自分は魔法使いだ」みたいなことをよく言っていますよね。
宇野:彼がなぜ「魔法」と呼ぶかっていうと、現実そのものをいじるからです。現実そのものをいじることによって人間とものとか、人間と情報とか、人間と自然の関係を変えていく。
吉田:天才ですね。
宇野:そう、それが落合君なんですよね。
吉田:(笑)。続いて、楽天の執行役員の尾原和啓さんはいかがですか。
宇野:尾原さんは、この本のキーパーソンですね。本書に紹介されている人々のうち半分くらいは、尾原さんが主催している勉強会で出会った人たちなんです。この人は僕が知り合った頃はGoogleのシニアマネージャーだったんですけど、今は楽天の執行役員です。昔はドコモにいたり、リクルートにいたりといろんな会社を渡り歩いてる。
吉田:あの人も変わってますよね。ちょっとした哲学者といいますか。そういう側面があるのに、めちゃめちゃビジネスをやっている、という。
宇野:2年に1回くらい転職しているんですよね。無限に人脈を張って、そして僕らが参加している勉強会も含めて、謎の秘密結社みたいのをいっぱい作っている。
吉田:(笑)。
宇野:たぶん、この中だと一番堅そうな仕事をしている人に見えるかもしれないけど、一番ヤバい人ですよね。
吉田:アナーキーな人ですよね。続いて、建築学者の門脇耕三さんはどんな方なんでしょうか?
宇野:門脇さんは、僕が何年か前になぜか建築士協会のシンポジウムに呼ばれたときに知り合って、そこから仲良くなった人です。「未来の住宅」とかをすごい作りたい人。たとえば、本書にも出てくる話題ですけど、「LDK」というものが古くなっていきますよね。
吉田:LDKの概念が?
宇野:たとえば日本って、どんどん晩婚化したり、単身者が増えていて、高齢者が増えて少子化にもなっているから、いわゆる核家族ってマジョリティではなくなってきている。
たとえば団塊世代の人たちって自分たちが親との同居をしないで東京に出てきて、でも一方で自分の子供とは同居するつもりで郊外に一軒家を買いまくっていた。その結果、65歳で子どももすでに独立しているんだけど、家の部屋が3つ余ってどうしよう、「じゃあもう都心にマンション買っちゃう?」みたいな会話を、日本中の団塊世代がしているわけですよね。
そういったことが実際に起こっているのだから、最初からもう少し住み替えを前提とした住宅を作っていってもいいのではないか。しかもそれって、家という単位から未来の家族像を考えるということでもあると思うんですよね。門脇さんはそういったことを考えている。
吉田:なるほど。ここに登場している人たちは、それぞれ全然違う志向を持っているわけですね。駒崎(弘樹)さんはいかがでしょうか。
宇野:駒崎さんは社会起業家で、フローレンスという病児保育のNPOをやっている人で、この中では一番有名な人ですよね。
吉田:駒崎さんは、さっきのドワンゴの超会議からクラウドワークスまでのインターネット以降の文脈だとどういう場所にいる人なんでしょうか?
宇野:もともと、相当アナーキーでぶっ飛んだ考えの人なんですけれど、実際に社会を変えるために法律の合間を縫ってフローレンスのような企業をつくっている。
保育って、多くの人はもっと民間に開放して保育所を作ってほしいと思っているけど、ものすごく既得権益がはびこっているのでなかなかうまくできない。駒崎さんはそこにメスを入れるために、まずは「病児保育」という問題にターゲットを絞って介入して、ちゃんと成果を上げ、突破口を開いていこうという試みをしていますよね。
あくまで僕の想像で、誤解されるかもしれないから慎重に言わないといけないんだけど、彼のやっていることって究極的には「家庭が子育てから解放される」という方向に向かっていっているような気がしています。
やっぱり、おじいちゃんおばあちゃんが同居しているか近くに住んでいない限り、共働きの夫婦が子供を育てるのって無理ゲーなんですよ。だからこの問題の答えって、民間のサービスをドカッと介入させてたくさん作って、保育園の価格を下げていくしかないんですね。
でも、そこがなかなか規制の問題で突破できないし、慎重にやらないと「ブラック保育園」みたいになって子どもが死んじゃったりする。相当難しいゲームを戦わなきゃいけないのを、自分の人生を捧げてやっている男ですよね。
吉田:社会起業家の形をとって、ルールをずらしていこう、という。
宇野:まずは民間で社会的事業として成功することで、お役所や国に改革を迫っていこうというスタンスですね。
吉田:なるほど。そして最後、根津(孝太)さん。オレンジ色の髪をしていますよね。
宇野:そうそう、本に載っている写真だとモノクロでわかりづらいので残念なんですけど、髪の毛がオレンジ色でつんつん立っていて、サイヤ人みたいな感じですよね。
根津さんはもともとトヨタで主力のカーデザイナーだった人で、学生のころから次の日本のインダストリアルデザインを担う超新星みたいなことを言われていたらしい。トヨタに入って仕事をしていたんですけど、いろいろな部分で組織に限界を感じたらしく辞めて、フリーでやっているという人ですね。
いま彼は、車からバイクからミニ四駆までいろいろデザインしているんですけど、このインタビューで主に語っているのは、彼がトヨタのコンセプトカーを会社の外から手がけていて、そこで車というものを更新することで戦後の家族のイメージを更新することができるんじゃないか、ということですね。
今は「若者のクルマ離れ」なんてよく言われますけど、ちょっと不正確で、正確には軽自動車なんかはけっこう若者にも売れていたりする。要するに、昔の車好きの人が考えるような、バイクから始まってやんちゃをして、やがては車に彼女を乗っけて、結婚してファミリーカーに乗り換えて「いつかはクラウン」っていう……あのルートが壊れてしまっているだけの話なんです。
もっと言えば戦後の、車というものがアメリカ的なライフスタイルや、「一人前のお事」の象徴だったという物語が壊れてしまっている。そんな時代に「車が売れない」と嘆くのではなくて、21世紀の若者が憧れるような新しい「カッコよさ」、新しい物語を持った車を作ることだってできるんじゃないか、という話をしているんです。今の時代の「カッコよさ」を考えることでポスト戦後の社会を考えよう、ということですね。
吉田:ミニ四駆を作っている人じゃないんですね(笑)。
宇野:最近ミニ四駆のほうで有名になりつつあるんですけど(笑)。本当にガチに車作っている人ですよ。対談のなかで「ミニ四駆ってパーツが一体成型じゃないといけないから大変」とか言ってましたけど、まあそれはそうだろう、みたいな(笑)。
吉田:(笑)。車はそんな一体成型じゃないんでね。
宇野:車はカバーがパカッと開いたりしないですからね(笑)。
吉田:この本全体はどういうイメージでつくったんですか? 宇野さん個人のニコニコ超会議みたいな?
宇野:それに近いですね。ここにいる7人って、それぞれジャンルが全然違うじゃないですか。
吉田:全然違いますね。
宇野:ジャンルが全然違うんですが、実際に何か成果を出し始めている人たちです。本の帯に「彼らはすでに世界を変えている」というコピーがありますけど、ここにいる人たちってまだ、目が¥マークになっている人たちにしか取材されていない。
でも、実際の彼らの仕事とか作品とか、進めているプロジェクトって、この先伸びていけば社会を根本から変えることができるほどの大きな可能性を秘めている。そういった人たちに話を聞きに行って、専門分野以外の人たちにもその面白さがわかるように僕が翻訳していく、そんな本を作りたかった。
吉田:今のお話を聞くと、改めて『ブループリント』というタイトルの意味がわかりますね。
宇野:そう、未来の青写真を連想してほしいんです。この本のタイトルを考えているとき、一瞬だけ「ここにだって天使はいる」っていう題名にしようとしたことがあったんですよ(笑)。そこに担当編集者さんが座ってらっしゃいますけど、タイトルに悩んで、悩みに悩んだ結果、一瞬そういうタイトルに決まりかけた。でも、さすがに中年男性7人が並んで「天使」はないだろうという話になって、やめました。
吉田:なるほど(笑)。改めて、いいですね。
宇野:全員中年男性ですからね(笑)。
吉田:中年ですみません(笑)。ありがとうございます。
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