2024.10.10
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『「この世界の片隅に」 業界激震!別格すぎる名作が起こした5つの革命とは!?』山田玲司ニコ論壇時評12月14日号(全8記事)
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山田玲司氏(以下、山田):3つ目。「反戦もの」って付くと、映画見てない人はたぶん反戦映画だから嫌だと思ってるんだよ。それで、広島だから嫌だって人もいっぱいいると思うんだよ。中には『火垂るの墓』的なもの、ジブリ的なものを期待して観に行ってる人もいるかもしれない。
それってなんで嫌がられてるかって、説教の話だからだよね。
乙君氏(以下、乙君):そうなんですよ! 物語よりイデオロギーが先にきちゃうから。だから拒否感があるんですよ。
山田:なんでそうなるかっていうと、やっぱり調べるじゃん、こんなことがあるのかと。「許せない!」って思うじゃん。そうするとどうなるかっていうと、調べた作者さんが自分語りを始めちゃうんだよね。作家主義になりがちなんだよね。それがアジテーションになってしまうっていうかさ。
この、こうのさんの原作もそうだし、監督の料理の仕方っていうのが完全に「脱私(わたくし)」だったっていうね。
乙君:うんうん。
山田:これも、こういう主題をやろうとすると必ずやってしまいがち。NHKの朝の連ドラで「昭和の女たちの歴史」みたいなものってやるじゃん。どっかでやっぱ説教なんだよね、あれって。「私たちこんなにがんばったんだよ」みたいなさ、押しつけみたいなものがあるんだけど、これがまぁとにかく、おそらく注意深く省いたんじゃないかなと思うんだよね。
これは、むしろ客観的にあったことを淡々と見せた方が伝わるということをこうのさん自身がわかってて、トンボとか鷺とか綿毛とか、もしくは雲とかいわゆる神の視点から見てるから、ただ「神はジャッジしない」っていう視点、考え方なんだよねこれ。
だからうるさくない。お得意の神視点は、原作である、同じ構図の時間が違うってやつね。だから焼かれる前の街と焼かれた後の街っていうのを同じ構図で見せるっていうのをこれも何回もやるよね。
呉を空襲してたB-29が出てきて、映画だとわりと一瞬のカットなんだけど、あれ原作だとB-29の上から描いてるんだよね。B-29が来た時にはまだ街があって、いなくなった瞬間に燃えてなにもない街が同じカットでなにも言わずにそれを描いてるっていう。
飛行機の上から描くことによって、さらにもう1つ神の視点が入っちゃってるなっていうさ。っていうのがすげぇなっていうのと。
これ後半で言おうかなと思って、橋とか川とかっていうのに込められたメタファーっていうのはちょっと神っぽいよなぁっていう。
乙君:本当そのいろんなメタファーもそうですけど、しかけが数限りなくあるし、描き方もそうだし構成もそうだし、そこらへんは映画としてすごいですよね。原作もそうなんですけど。
山田:俺はね、映画の作り方としても素晴らしかったし、音楽と声と、テンポみたいなものがあるから情感引っ張られるじゃん。でもやっぱり原作見ると全部あるんだよね。むしろ、豊かにある。
乙君:そう、原作のほうが、わりと近距離なんですよ、すずさんに。だけど映画だと、すず自体を対象化しているんで、暮らしっていうもの。だから原作からカットしたシーンを比べてみると、やっぱり原作のほうが「すずの人生に寄り添う」。で映画バージョンは「街・暮らし・家族・すず」ってすべてがある程度フラットに描かれてて、だからみんな参加しやすいんですよね。
山田:男目線ていうの? 俺は、かまどの前にいる女の人から見えた戦争だと思うんだよね。だからずっとそこにいるんだよ。立ったり座ったりしてんだよ。嫁ってさ、女が家につくって書くじゃん。もうまさにその時代なんだよね。
その時代に「こういうもんじゃろ」って言って文句も言わずにそこにいる女の話っていうかさ。その強さみたいな。
山田:後でちょっと話するんだけど、さっき言った仕掛けの話。構成とかやり方みたいなこと。やっぱ圧倒的な「アナログ回帰」。
山田:こうのさんの原作自体めちゃめちゃアナログなんだよ。2007年の連載にも関わらず、2007年つったらもうみんな「デジタルに移行しなかったらどうしようもねぇよ」って言ってた時期で、俺も行かなかった派なんだけど。行かない理由がはっきりある人なんだよね、この人ね。なぜそうなのかっていうのはちょっと後半に、深いなって話をしますけど。
表現主義的なやり方っていうもの? 世界のすべてを描くためにどういうふうにしようとかっていうのをやるときに、デジタルでは失われてしまうものを失わないようにするっていうことと、手仕事。要するに彼女のやっていること。漫画自体が手仕事なんだよね。
ずっとこの作品で出てくるのは、千人針もそうだけど、手仕事なんだよね。
乙君:楠公飯もそうだし。技法と主題というか、すごくマッチしてるんですよね。
山田:それで、さっき描いたんだよね。すずさんですけど。
乙君:おお! え、玲司さんが描いたの? これ。
山田:そう、さっき描いたんだけど。
乙君:ええ!
山田:描いてくれって言うから! 描くよそりゃ。
乙君:え! 漫画家みたい(笑)。
山田:うるせぇ!(笑)。
(一同笑)
乙君:このね、角度とか顔ね!
山田:この人、顔こっち向けながらお辞儀するの。体がSになるんだよ。必ずS型になってる。それでこの人お辞儀しながらこっち見てるっていう、それがこの人のことすごくよく表してるというか、下を向くわけじゃないんだよ。
乙君:あぁー。
山田:こっち向くんだよ。
乙君:でも、真正面じゃなく、こう、(体をきゅっとして)えってなるんだよ。
山田:そうそう。時にはむこうに向いて、「ひそかにニヤニヤしとるんじゃあ」みたいなこともある。
乙君:あぁー、そこねえ!
山田:ねー! 大好きでしょあなた!
乙君:いやぁー、たまんないね!(笑)。
山田:「ニヤニヤしとるんじゃ」って(笑)。だからニヤニヤしてるところは見せないんじゃん。
乙君:恥じらいですよ!
山田:そこが上手いよねぇ。
乙君:電車の中で化粧しだす女に見せてやりたい!
山田:そういうのはいいですから。
乙君:あ、いいですか(笑)。昭和のおやじのあれはいいですか。
(一同笑)
山田:そんで、圧倒的にあるのが、手と足がでかいの、この人の絵は。ちょっとおもしろいバランスで、わりとキュートだよね。他の作品だとけっこう頭身長いの多いよね。だけど、この世界だとすずさんはこまいから、すずさんは。「こまいのぅ」だから。
乙君:なるほどね。
山田:そうそう、だから子供のようなんだけど、実はこれけっこう深い意味があって、子供のように描かれてるっていうのは、まだ「ぼうっとして、なにも知らんかったらよかったけんのう」みたいなあの知らなかった時期の、すずさんなんだよね。
それが知っていくっていう過程を描いているから、嫁に行っても子供っぽいまんまで描かれる必要があったんで必要以上に子供っぽく描かれてるっていうのがあるなっていう。
ここらへんもなんかすげぇなって思って、同じ漫画家として、「画面の中に絵と文字を使ってお好きにどうぞ」って言われるのが漫画家なんだよ。それであの8月6日のあの瞬間を、本当にこれくらいのコマで描くでしょ。
乙君:そうですね。
山田:そのチョイスっていうのが、常に漫画家は選択しなきゃいけない。
乙君:なるほどドラマチックな出来事だからこそ。
山田:そう! 呉と広島の距離みたいな。
乙君:そうそうそう!
山田:あれドラマ的にも素晴らしいんだよ。対立しているものの和解の瞬間に悲劇が同時に起こるっていう。だから、あの構成から演出から、まぁ完成度が高い! こんな完成度が高い漫画俺見たことないね、ほとんど。
奥野&しみちゃん:おおー!
山田:1個下か2個下かなこうのさんて。
乙君:あ、そうなんですか?
山田:そう。48歳くらいなんだけど。いやいや素晴らしいっす、っていうね。申し訳ないです。みんなが、申し訳ないなと思う気持ちにさせられるのは、要するにアナログな表現で、工夫と感性と努力で良いものできるんだっていうのを証明しちゃったんだよね。
しかも漫画業界では「この世界の片隅に」扱いされがちな『アクション』という場所で。
乙君:ああ、そうか! 『アクション』だもんね、あれ!
山田:要するにヤンジャンでもヤンマガでも『スピリッツ』でもなく、『アクション』が奇跡を起こしてるんだよ。1番すげぇのは『アクション』の編集者なんだよ、やっぱり。
乙君:なるほどねぇ!
山田:こうのさんにやらせた、広島を描かせた『アクション』の編集者がやっぱりノーベル平和賞を受賞するべき。
乙君:ノーベル平和賞を!? 『アクション』の編集者に?(笑)。
(一同笑)
山田:いやすっげぇなと思って、うん。
山田:あと象徴主義の話で言うとね。いろんな人が語れるような、エヴァもやってるけどさ、本当に素敵なメタファーだよね。幼なじみのテツの象徴としての鷺とか、自分を象徴する綿毛とか、それから神の象徴のいろんなものとかさ。それから溝とかさ。
そういうちょっと考えると「おぉ」って思うような象徴がいろんなものに入っていて、層を成している。これ徹底的に、たぶん解説本出ると思うけど、オタクの人は大喜びだよね。
乙君:写実的に映画は描かれているんだけど、すごい象徴的に、同時にやってるんですよね。だからそこがすごい印象派と何派とかの流れを全部まとめましたみたいなさ。
山田:そう、それもいっぱい入れ込んでて、それを重層に重ねてやりつつ、語らないことによって、見る人のリテラシーを試されるんだけど、深みになってる。ダシが効いてる。
乙君:それをわかんなくても、なんですよ。ただただ物語構造がもうすごいから。
山田:そう。『サザエさん』の4コマ漫画のオチにすごく似てると思う。他愛ないことで「あはは」で終われることでちゃんと読めちゃうし、だいたいにおいて「日常の暮らしなんてこんなもんだろう」と。「憲兵に捕まりそうになったんだよ」「あはは」っていうので終わるっていうさ、こんなもんだよね。
実際は捕まって拷問にあってみたいな、そんなことは歴史上あるんだけど、そっちばかりがフィーチャーされるけど、そうではない世界というのにフィーチャーする。だからこその痛みとか衝撃みたいなものが待っていると。
そして5つ目ですけど。これはたぶん今年の映画3つの象徴的な問題で、今年の映画はやっぱり『シン・ゴジラ』に始まり、『君の名は。』、そして最後に『この世界〜』がやってくるんだけど、この3つが圧倒的にすごかった。
小川さんいわく大豊作だし、ゴールドラッシュって言われてるけど、この3つは共通点が1個あって、なにかって言うと、あの3.11をどう捉えるかっていうのを、アーティスト側からの回答として出した3つなんだよね。
だからものすごくはっきりと3.11に向き合った映画が3つ同じ年に公開されてるっていう。
乙君:5年経った今。
山田:これがなかなかすごい、おもしろいことになった。2016年てそういう年だったのかな。震災総括、アーティストにとっての。俺たちはそろそろあのことに関して考えられるようになったんじゃないか、受け止められるようになったんじゃないかっていうタイミングではあるのもあった、5年経ってるし。
『シン・ゴジラ』がどうしたかっていうと、あれはゴジラ自体が原発メタファーで、それでデブリのメタファーになってるんだよね。「冷却しなければならない」と。解決方法は、庵野さん世代らしく楽観的。だから「お上がんばれ」なんだよ、組織大好きだし。で若手エリート。ジジイはいなくなる、若手エリートががんばる。
あれは『ヱヴァンゲリヲン』で戦艦を踏みつぶすアスカだよね。上の世代を踏みにじるんだよ。踏みにじるんだけど、利用もするんだよ。っていうのが、庵野さん的な考え方なのかなって。
最終的にはデブリは、原発を冷やしたみたいなかんじで、「冷えるよね」っていう希望的な観測で終わってんだけど「まぁそうかな?」みたいなところで終わってるのが実に庵野さん的な感じがするのが『シン・ゴジラ』。
俺はこれは1番楽観的だったなって。あ、1番ではないね、次の『君の名は。』のほうがもっと、切ないけど実はこれどういうことを言ってるかっていうと、「なかったらよかったのにね」っていう話なんだよ。
なかったらいいことにする話なんだよ。ずっと信じてたことがあったけど、だめかもしれなかったけど、だから涙出て毎日泣きながら起きるくらい、だめかもしれないと思ったんだけど、「だめじゃないよ」ってことを言い切るってことによってその水面下にいた新海……深海にいた誠ね(笑)。
(一同笑)
山田:あいつは本来は深海で誠を語ってるはずだったんだけど、水面上に上がってきたんだよあいつ。そしたら、すごいことが起こっちゃった……聞いてます?
乙君:聞いてます、上手いなあ!
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