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クラウドソーシングが変える労働と社会保障(全6記事)

「意識高い系」にもなれない若者たち "正社員神話"崩壊後の働き方を考える - 宇野常寛×吉田浩一郎

3.11が引き起こした正社員神話の崩壊、若者の働き方の変化など、日本の労働を取り巻く環境は大きく変わってきています。『静かなる革命へのブループリント』の刊行を記念した特別対談にて、著者の宇野常寛氏とクラウドワークス・吉田浩一郎氏がこれからの労働と社会保障について語り合いました。

チームラボ・猪子氏ほか豪華メンツが登場

宇野常寛氏(以下、宇野):本日は、先週発売になりました僕の対談集『静かなる革命へのブループリント』の刊行記念ということで、7人の登壇者のお一人でもあるクラウドワークスの吉田さんに来ていただきました。

吉田浩一郎氏(以下、吉田):こんにちは。よろしくお願いします。この本、すごく面白く読みましたよ! この面子が集まるってなかなかないですからね。私、猪子さん(ウルトラテクノロジスト集団チームラボ代表・猪子寿之 氏)と名前が並んだの初めてですよ(笑)。私はどちらかというと、やっぱりビジネス系のイメージですから。こうやって猪子さんとか落合さん(メディアアーティスト・落合陽一 氏)とか……。

宇野:ちょっとアートっぽい人たちと並んでいる、と。

吉田:そうそう。

宇野:でも、僕は逆にこの面子でやりたかったんですよね。猪子さんや落合くんがやってることって、アートの中でも「メディアアート」っていうものすごく狭い、全国合わせて300人くらいの業界人たちしか気にしないような領域で語られることが多くて。でも彼らが考えてることとか自分の作品を通じてやっているテクノロジーの解釈って、社会全体にとってもっと意味があることだと思うんですよ。それが、ほとんど知られていない。

吉田:(笑)。

宇野:猪子さんって、「ときどきテレビに出てくる変なしゃべりかたをする人」っていうイメージで見られてますけど、考えてることはおもしろいし、彼のアートはそれをきちんと表現していて、すごく刺激的なんですよ。

吉田:なるほど。

実はサブカル系だった吉田氏

宇野:吉田さんは最近、経済誌とかよく出るじゃないですか。

吉田:はい、おかげさまで(笑)。

宇野:僕がパラパラ見た感じだと、経済誌で吉田さんが取り上げられるときって、2回に1回……いや10回に7回くらいは「うまくやった人」扱いなんですよ。

吉田:(笑)。

宇野:僕はそれを個人的に腹立たしく思っていて。もちろん吉田さんが優れた経営者として紹介されるのは当然だと思うんだけど、それ以上に吉田さんのやってることはおもしろいんですよ。社会にとって、すごく意味がある。そういうことについて、なぜか社会評論家とかジャーナリストという人たちは正面から向き合って取り上げることをしない。それがもったいないという気持ちがあって。

吉田さんは「うまくやった人」ではなくて、「おもしろいことやってる人」「社会を変える力を持った人」として紹介するということをしっかりやりたくて、お呼びしたんです。

吉田:確かに、それはちょっと思うところがありますね。私はもともとは宇野さん寄り、というか相当サブカルで、中高校生のときは同人誌をコミケに出したりとか、新興宗教を調べていたりとかしていましたね(笑)。あと、大学に入っても写真を自分でやったりとか……。

宇野:演出家を目指してたって聞いたんですけど(笑)。

吉田:そうそう(笑)。もともとは寺山修司に超インスパイアされて演劇やってたりとか、笑われるようなところでいくと、クラシックバレエを3年くらいやってたり、いろんなことをやってたんですね。その中で、宇野さんの「夜の世界」って言葉がいまだに超大好きで。

宇野:うん。

失われた20年で発展した「夜の世界」とは?

吉田:宇野さんのこと知らない人もいると思うので、「夜の世界」のくだりについてあらためてお願いしたいんですけど。あれはどういうコンセプトなんですか?

宇野:あれは震災の直後くらいに、僕と濱野智史くんっていう……もともとは『アーキテクチャの生態系』という本で日本のインターネットの発展史をまとめて、今はなぜかアイドルプロデューサーになりかけてる人なんですけど(笑)、僕と彼との対談本が出たんですね。『希望論』という本なんですけど、そのあとがきで濱野くんが「日本の現代人は昼の世界と夜の世界に分かれてしまっている」と言っていた。

「昼の世界」は、大文字の政治屋とか昔のものづくりジャパンのような、いわゆる戦後に発展した表の社会。対して「夜の世界」は、インターネットとかエンターテイメントとかの、若者向けの消費領域のことである、と。「失われた20年」といわれるこの20年は、後者しか発展しなかった。本質的な、イノベイティブなものは後者にしかなかった。

しかし世代的に若いせいもあって、「夜の世界」の成果が「昼の世界」にはなかなかもたらされない。夜の世界の知恵をどう昼の世界にもたらしていくのかが、この先の勝負になるんだって話を濱野くんがしていて、僕は非常に感銘を受けたんですよね。

今は手元にないんですが、僕が10年くらい自費出版している『PLANETS』という雑誌があって、その最新号を作るときに、「夜の世界の知恵をいかに昼の世界に持ち込むのか」というコンセプトで1冊作ったんです。ちょうどその本を作ってる頃か直後くらいに、ある勉強会で吉田さんに出会ったんです。

吉田:ああ、この本にも出ている楽天執行役員の尾原和啓さんの勉強会ですね。マッキンゼー、グーグルを経た人で。

宇野:当時はグーグルのシニアマネージャーですね。彼の仲介で吉田さんに出会って、そのときに覚えているのが、「クラウドソーシングって昔からあるサービスなんだけど、今熱いんだ。今俺たちがやろうとしてることはおもしろいんだ」ってことをすごく目をキラキラさせてバーッとしゃべってて。ああ、この人おもしろいなと思ったのがきっかけですね。

3.11によって崩壊した「正社員神話」

吉田:なるほど。3.11と夜の世界って話でいくと、クラウドソーシングが認知されはじめたのも、明確に3.11に関係する話で。

3.11の後、「いざというときに家族のそばにいれないのに、本当にこの働き方でいいのか?」とか、「地域活性化のために何か自分ができることはないか?」とか……会社ありきのスタンダードから、働き方の多様性があるんじゃないかという方向性への変化が、働く人のあいだで出てきた。そこらへんとは符合する感じがしますけどね。

宇野:うん。

吉田:最近いろいろおもしろい話を聞いていて、なんで宗教が日本でタブー視されているのかを、最近ある地方自治体の首長がこう言っていたんです。宗教は何となく日本では危なっかしい存在だけど、それは戦後のGHQから始まってるんだと。要は、天皇崇拝の状態を取り除く意味で、会社というフォーマットにその役割を寄せていった。正社員になれば社会保険を半分負担するよということで、極端に優遇しているわけですよね。

そうすることでみんなが正社員に集まって、上から「国」「企業」「正社員」っていうピラミッド構造の中にすっぽり納まるわけです。ここに、いわゆる「家族」という役割だとか、「仲間」とか、宗教的に信じられる何かみたいなものを全部詰め込んだ。これが20世紀の高度経済成長だ、と。

宇野:うん。

アメリカには「ブラック企業」がない

吉田:ここからは私見になるかもしれないんですけど、アメリカが実現できなかったことを、GHQが日本に入って解体するタイミングで実験したんだと。アメリカが今どうなってるかっていうと、「ブラック企業」って言葉はないわけですよね。

どういうことかというと、個人と企業が対等なんです。ブラック企業っていうのは、企業に期待をして裏切られたとか、ひどいことがあったとかじゃないですか。アメリカだと、「だったら会社やめればいいじゃん」と言われる。

宇野:なるほどね。

吉田:アメリカでは、企業以外に宗教という信じられる器もあるし、社員以外のプライベートの友達や家族も大事だ、っていう概念も明確に存在してる。要は、企業とインディペンデントな状態を保てるわけですね。

日本だと、そこに対して同一化するように枠組みができちゃってるというか、正社員であり続けることが良いという感じになっている。そういう枠組みが、3.11によって少しずつ崩壊しはじめている。来年、正社員比率が50%切ると言われている時代ですからね。

宇野:うん。

吉田:やっぱり、信じられる何かっていうのはみんな必要なんですよね。だから、クラウドソーシングで会社以外の働き方を作っていくときに、生協みたいな……いや、インターネット共済ですね。今日はこの話がメインテーマでしたね。

私や宇野さんが言っているインターネット共済の考え方って、個人がバラバラで働いていたとしてもインターネットで繋がって、信じられる何か、コミュニティを作っていく。そういう話です。戦後の日本をもう一回インターネットでやるみたいなイメージを持っていたりしますね。

バラバラになってしまった日本は、もう元に戻れない

宇野:うーん。吉田さんってね、こういうすごくおもしろいことを言ってると思うんですよ。

吉田:(笑)。

宇野:さっき吉田さんがおっしゃった震災は、ひとつのメルクマールだった。じゃあ、震災で何が変わったか。いろんなものが変わったって人は言いますけど、一番大きいのは「もう日本はひとつじゃないんだ」ってことをみんなわかっちゃったことだと思うんですよね。

吉田:そうですね。

宇野:だって、普通に考えればガレキなんて受け入れるしかないのに、平気で「やだ」って言う人がいるじゃないですか。もともと左翼だった人たちが、原発事故をいいことにほとんど陰謀論みたいなことをいっぱい言っている。僕は原発に賛成でもなんでもないですよ。むしろ反対なぐらいだけど、あの人たちの陰謀論ってついていけないと思うんですよね。

でも、自分たちの世界観を守るためにはあれくらいの陰謀論を唱えて、信じている人たちだけでまとまらないとやっていけないっていうことですよね。どちらかというとメンタルの問題だと思うんですよ。同じことがネット右翼にも言えると思うし。

吉田:そうですね。

宇野:インターネットの存在は、僕らが思うよりもずっとバラバラになってしまっていた日本を、まざまざと見せつけてしまった。じゃあ、少なくとも今よりは均質性の高い、みんな同じだった日本を取り戻すのが正義なのか。そう思ってる人たちってけっこう力が強いですよね。

例えば今度2020年の東京オリンピックが決まって「これで1964年がもう一回戻ってくる、バンザイ!」って言っている人たちもそうだし、「戦後的な企業社会は間違ってなかった、何もかも企業に包摂していった戦後の大企業文化を取り戻すべきなんだ!」って言ってるような人たちも、例えば社会学者や思想家にはいっぱいいる。でも、そういう人たちの意見は、僕には一種のアレルギー反応に見えるんですよ。

吉田:なるほど。

宇野:震災をきっかけに、まざまざと「もう昔には戻れない」ってことを見せつけられてしまったからこそ、そんな現実から目を反らしたくてそういうことを言いたくなると思うんです。アレルギー反応でも、短期的な支持を集めやすいというのはあって、ああいったことを言うとみんな喜んでくれる。

ただ、僕はそういうものにコミットすることに価値をあんまり感じないんです。バラバラになってしまった現実を受け止めた上で、バラバラのまま生きていく方法を考えたほうがいいんじゃないかってことを、ちょうど吉田さんと出会った頃に考えていたんですよね。

吉田:うん。

宇野:僕はそんな世界で仕事をしていて、PLANETSのvol.8を作ってた頃は本当に嫌になっていたんです。問題自体を解決するために知恵を絞る、アイデアを出すんじゃなくて、自分たちの心の平安を勝ち取るために一生懸命エネルギーを使っている気がして、すごく不毛に思えたんですよね。まあ、気持ちはわからなくもないんだけど。そうじゃなくて、具体的に物事を前に進めていくようなものにコミットできたらいいなと考えていた時期だったんです。

吉田:なるほど。

宇野:そのときに吉田さんのような人たちと出会って、テクノロジーの力を使って社会をマーケットの中で変えていこうとしている人が実際にいるんだと思って、すごく感銘を受けたんです。

吉田:そういう意味では、まさに川の対岸どうしでエールを送りあって、お互いの世界を繋げようと頑張っている感じはすごくしますよね。

揺らぐ若者の労働観

吉田:私自身も、パイオニアに新卒で入ったときは日経新聞とか読んでなくて、頭の中はほぼ寺山修司だったんですよ(笑)。新卒で200人くらいいて、そこで寺山修司の話をしても引かれるんですよね。基本的に、みんなつぼ八で「ウェーイ! カンパーイ!」みたいな感じで。やっぱりその同調圧力に従わないといけない。そこで寺山修司って言ってるとだんだん「ハミ子」になるというか……(笑)。

宇野:やっぱり吉田さんのいいところって、ある種の中二病っぽいところなんですよ。『ブループリント』の対談で吉田さんは、「年収500万円のフリーランスを1万人作る」っていう目標を語っていますけど、これって中二病っぽいでしょ。

(会場笑)

宇野:でも変な話、本来中二病っぽいことを言わなくちゃならない文学や思想がその力を失っていて、むしろ目が¥マークになってる人たちに囲まれて生きてる吉田さんのような人のほうが、中二病的な世界観で世の中を変えようとしてるんですよね。

吉田:だから、マッチョな中二病でありたいですよね(笑)。

宇野:僕は職業柄、学生と話すことが多いんですよ。彼らの一番の関心事って、やっぱり就職問題なんですよね。本とか読んでて人並みの繊細さを身につけている人だと、目がキラキラしてる感じのいわゆる「意識高い系」にはなりたくないんですよ。意識高い系はITには多いじゃないですか。

吉田:はい(笑)。

宇野:Facebookにとりあえずリア充写真載っけて、自分のパフォーマンスをいかに引き上げるかみたいなことには一生懸命なんだけど、高く引き上げられたパフォーマンスで何やっていいかわかんない。で、話が劇的につまんないみたいな。

吉田:(笑)。

宇野:この人、頭がよくて年収も高いはずなのに何でこんなに話がつまんないんだろうっていう、「六本木ウェーイ系」がいっぱいいるじゃないですか。ああいう人にはなりたくないんだけど、「銀座ゴルフ文化圏」にも絶対に行きたくない、みたいな。

吉田:そういう意味では、教育はやっぱり変えなきゃいけない。小中高で社会のことを教えてもらえないですよね。私は勝手に思ってるんですけど、そこにクラウドソーシングを使えると思っていて。小学校の授業で、「お前、この1時間働いて、社会と繋がってみろ」「クライアントに頭下げてみ?」みたいなことをやってもいいと思うんです。

なんで学校で社会のこと教えないのか、私は理由がわからないんですよね。インターネットでこんなにすぐ社会に触れられるわけじゃないですか。クラウドソーシングを使えば、企業に属さなくても働くことを経験できるんですよ。そうすると正社員じゃなくても、もっとマッチョに自分自身の価値観を保つ方法がわかる。

自分の価値観より社会がでかいから頭を下げないといけない、軍門に下るっていうのがあって……まあ、軍門に下ってる側の人間が何言ってんだって感じなんですけど(笑)。そうではない多様な生き方ができるよっていうのを、早く経験できる仕組みができないかと思ったりしています。

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