2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
5 Psychology Experiments You Couldn't Do Today(全1記事)
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ハンク・グリーン氏:人間の心の研究は、扱いの難しいテーマです。わからないことはいまだ数多く、研究者が解明を続けています。
研究者が人間を被験体として扱う場合、研究の解明と、被験者の保護とのバランスをとる必要があります。
過去においては、同じ人間である被験者について、必ずしもきちんとした対応がなされてはきませんでした。
歴史に残る心理学の臨床実験の多くは、今日の基準では非倫理的とされるものでした。
今日、私たちが用いる倫理基準は、1970年代、研究者たちがボランティア被験者の身の安全とプライバシーを守るために作成した、一連のルールから来ています。
これは「ベルモント・レポート」として知られるもので、人間を対象とした研究のガイドとして、3つの倫理原則を基幹としています。
1つは「人格の尊重」であり、すべての被験者にはインフォームド・コンセントがなされるべきである、としています。心理学を含む、人を対象とした研究のすべての参加者は、当該実験におけるリスクと利益を、あらかじめ知らされる必要があります。
2つ目の倫理原則は「善行」です。研究者は、研究の参加者の福利に、負の影響を与えてはならない、とされています。つまり「害をなしてはならない」ということです。
最後の倫理原則は「正義」です。被験者は、決して搾取されてはならないということも含まれています。
研究者は、研究のリスクと結果のベネフィットとを、公平に分配しなくてはなりません。初期の臨床研究においては、貧しい人が被験者となり、裕福な患者が実験結果から利益を得ることが多くありました。これは正しいこととはいえません。
これらの原則は、人を対象とした、臨床心理を含むすべての分野の研究に適応されます。
しかしこのような規範は、それまできちんと決められて来ませんでした。それ以前は、問題のある実験が数多く実施されていたのです。
1920年、心理学者ジョン・ワトソンは、人間も、パブロフの犬のように、古典的条件付けがなされることを立証しようとしました。
古典的条件付けとは、食物とベルというような、関連性のない刺激を、唾液の分泌といった身体的な反射と結び付けることを指します。ベルを鳴らしても、普通は犬はよだれを垂らしませんが、パブロフは、犬がベルの音を聞くと、よだれを垂らす応答をするよう条件付けました。
ワトソンとそのチームは、同様のことが、人間にも可能であることを立証しようと考えました。生後9ヵ月の赤ちゃん、アルバートに、動物と恐ろしい物音とを用いて、古典的条件付けを行うことにしたのです。
まず最初に、研究者たちは、アルバートにふわふわとした毛の白いネズミを見せました。そしてアルバートが、その動物をなでようと手を伸ばすと、心理学者たちは、彼の頭のすぐ後ろで、金属の棒をハンマーで叩き、大きな音を出して彼を驚かせたのです。
その結果、アルバートは、白いネズミを見ただけで泣き出し、はいはいして逃げ出すようになりました。
彼は、大きな恐ろしい音を、ふわふわの白いネズミと関連づけるようになったのです。アルバートに条件付けがなされたわけですね。
しかしこの実験は、多くの意味で失敗でした。例えば、被験者は1人だけでしたし、コントロールもされていませんでした。つまりワトソンはなにも立証できていなかったのです。
ここには当然のことながら、倫理的な問題が内在します。ワトソンは、アルバートの恐怖を取り去る条件付けを行わず放置したため、アルバートはその後も長く実験の悪影響を受けることとなりました。また、アルバートの母親が、この実験についてちゃんと納得できていたのかも、わかっていません。
つまり、ベルモント・レポートの倫理原則に真っ向から反するものだったのです。そして20世紀に行われた、子供を使った恐るべき実験は、これだけではありませんでした。
1930年代後半、アイオワ大学の心理学者ウェンデル・ジョンソンと彼の指導下の大学院生、マリー・チューダーは、子供が言語を習得するにあたり、ポジティブなフィードバックとネガティブなフィードバックがどのような影響を及ぼすのかを調べました。
彼等は、発話障害の子供にポジティブなフィードバックとネガティブなフィードバックを与え、直に試験を行いました。
聞いた限りでは悪くはなさそうですが、現在この実験がモンスター研究だとされるもっともな理由があるのです。
チューダーは「発話障害の治療のため」と称して、孤児院から22人の子供を連れて来て、彼らを2つのグループに分けました。
それぞれのグループ中5人、つまり10人の子供たちには、初期の吃音症が見られました。しかし、グループ中には、正常な発話をする子供も含まれていました。
片方のグループの子供たちには、吃音症はないと伝えられました。ポジティブなフィードバックが与えられたのです。発話障害はそのうち治るから、他人から話し方を批判されても、気にしないように、と教えられました。
一方で、もう片方のグループには、吃音症があると伝えられ、正常な話し方ができない限り、話をしてはいけないと教えられました。
そしてご想像のとおり、これはあまりいい結果を生みませんでした。
褒めたり、けなしたりしても、子供の吃音症自体には、さして影響はありませんでしたが、異なるフィードバックは、子供の自己尊厳に大きな影響を及ぼしたのです。
ポジティブなフィードバックを与えられた子供たちは、吃音症こそ治りはしませんでしたが、堂々と話をすることができました。
半面、ネガティブなフィードバックを与えられた子供たちは、そもそもの吃音症のあるなしのかかわらず、引っ込み思案で自意識過剰になり、いらいらするようになりました。
こちらのグループの子供には、この実験はたいへんな悪影響を及ぼしたのです。彼らは幼な過ぎて実験内容を理解できず、孤児院の経営者は、実験が子供たちの将来に与える害から、子供たちを守ってやろうとはしませんでした。
また、実験後の子供たちの様子についても、きちんとした報告がなされなかったため、この実験の長期の影響について、なんのフォローアップもなされていません。
こういったことはすべて、後年「ベルモント・レポート」により「非倫理的である」とされました。
こういった実験は、当然のことですが、成人の被験者にも害を与えます。
1961年、エール大学のスタンリー・ミルグラムという研究者が、従順性についての心理に興味を持ちました。
彼は、モラルに反する指令を研究者に強要された被験者が、どのように反応するのか実験したのです。彼の研究は、今では「ミルグラム実験」として世に知られています。
参加者には、3つの役割が割り当てられます。実験を主催する人物は、権威者として、白衣の博士を演じます。被験者は、教師の役です。最後の役割は学生で、実際には雇われた役者が演じますが、被験者は、彼らも自分たちと同じ被験者だと思っています。
学生役は、別室にいて姿は見えません。その間、実験主催者は、教師役の被験者が、学生役にインターカム越しに言葉あての課題を出す様子を観察します。
学生役が言葉あての課題をまちがえるたびに、教師役は彼らに電圧ショックを与えるボタンを押します。電圧は、学生が答えを1つまちがえるごとに、15ボルトずつ上げられます。
被験者は、学生役に対して電圧ショックを与えていると思い込まされていますが、実際は役者が苦痛を受ける演技をしている様子を、壁越しに聞いているだけなのです。学生役は、胸の痛みを訴え、叫び、壁を殴打し、やがて静かになります。
実験が終わりとされるのは、最大出力の450ボルトの電圧ショックを、相手に連続3回与えた場合、もしくは被験者が実験の継続を拒否した場合のみ、とされました。
被験者のうち実に65パーセントが、白衣を着た博士の指示だけで、最大出力の電圧ショックを相手に与えました。
ミルグラムは、モラルに問題がある状況下でも、人は権威者に従う、と結論づけました。そして、この実験から、権威についてのさまざまな心理学的研究が発展しました。
しかし被験者は、ケーブルのもう一方の端で、人が実際に感電死する様子を聞いていると信じ込みました。実験主催者の説明の引用ですが、「細胞への恒久的ダメージは生じない」と聞かされていたとはいえ、被験者が人を殺してしまったと信じたまま放置するのは、彼らの福利を保護しているとはいえません。
また、彼らがインフォームドコンセントを受けることは、実験における行動を変えてしまう恐れがあるため、できませんでした。
この実験以降も被験者が、他者を著しく傷つけている可能性があると信じ込ませる趣旨の実験が、ほかにも実施されました。
1964年、キティ・ジェノヴィーズという女性が殺害されました。当時新聞では、30名以上の目撃者がいたにもかかわらず、誰も通報しなかったとして大々的に報道しました。現在はこういった報道には瑕疵があることがわかってはいますが、長い間、何十人もの人々が、目の前で人が殺されているのに、黙って傍観していたかのように思われてきました。
1968年、ジョン・ダーリーとビブ・ラタネというコロンビア大学の2人の心理学者が、ほかに人がいる場合、なぜ人は危機の際に行動を起こさないのか、調べる方法を考えつきました。
彼らは、大学生のボランティアにヘッドホンをつけ部屋に1人で置き、学生が直面する感情的な場面の研究を行う、と伝えました。被験者たちは、面と向かうと生じるプライバシーの問題を避けるため、ほかの学生とはインターカム越しに会話をするように言われました。
しかし、インターカムを通したほかの学生の声はすべて録音でした。その学生の1人には、たびたび発作が起きる持病があると、会話のはじめに録音させておきました。実験が進むと、その学生の声は話しづらそうになり、発作が起きたとして助けを求めました。
研究者たちは、被験者が助けを呼ぶまでどれほど時間がかかるかを測定しました。すると、会話の参加者が多ければ多いほど、被験者が反応するまでに時間がかかることがわかりました。
被験者には、ほかの誰かが干渉するだろうと思う場合、行動を起こさない傾向があることがわかりました。これを「傍観者効果」といいます。
この効果の理解が大切な理由は、犯罪を捜査し、コミュニティーを守るためには、誰か他の人が行動を起こすだろうと思っていてはだめで、危機の際には行動を起こすよう、人々を教育する必要があるためです。
しかし「ミルグラム実験」同様、この実験においても、実験終了後の被験者たちに与える倫理的な問題があります。
今日においては、この種の研究の将来的なベネフィットはリスクを上回る、と審査委員会を説得することは困難になっています。
もう1つ、害が大きすぎるあまり、早期中止に追い込まれた実験を紹介します。スタンフォード大学のフィリップ・ジンバルドー心理学教授は、異なる社会的役割におかれた人間が、どのような行動をとるか調べました。彼は、架空の監獄を設定し、ボランティアの被験者に、看守と囚人の役割を振り当てました。
この研究には、白人の男子大学生が集められ、看守と囚人の2つのグループに分けられました。ジンバルドー博士は、監獄の長官の役を担当しました。
囚人たちは身体検査を受け、人間性を落しめるために、名前ではなくIDを与えられました。一方の看守たちには、制服と警棒が渡され、秩序を保つために必要であればなにをしてもよいとされ、囚人を上回る権力と優越感を与えられました。
実験は2週間の予定でしたが、監獄の状況が急速に悪化したため、わずか6日間で中止されました。
囚人の1人は、監獄の状況が彼をパニックに追い込み錯乱状態に陥ったため、さらに早期に実験から外される必要がありました。ほかの囚人たちは、看守たちの扱いがあまりに非道であったため、暴動を起こす始末でした。
その後、看守たちはますます横暴になり、囚人たちに非があった場合には、コンクリートの床の上で寝かせる、裸にするなどの、身体的な懲罰を与えるようになりました。
最後にジンバルドー博士は、被験者たちは割り当てられた役割を内在化してしまったと結論づけました。囚人たちは従順に、看守たちは過激になり、囚人に対し権力を乱用したのです。
今日は、このような実験は実施することはできません。
ジンバルドー博士自身も、監獄長官の役割を担ったため、正常な判断ができませんでした。これは研究の計画自体の、重大な欠陥です。彼自身も、実験の効果に飲まれてしまったのですから。
またジンバルドー博士は、看守たちが囚人に対し、深刻な暴力を振るうことを許可しました。これは、被験者たちに対し、実際に恒久的ダメージを与える恐れがあったのです。
この研究においても、福利に対する配慮がまったく考えられていませんでした。
これまでお話しした実験同様、「スタンフォード監獄実験」もまた、今日の基準では倫理的とはされません。
しかし心理学の時に暗い過去のおかげで、研究者たちは社会と研究の被験者を守る義務に気づくことができました。現代の研究において、倫理的な基準が重んじられるのは、そのためです。
人の心を解明するにあたっては、解明される人の心をも保護する必要があります。「ベルモント・レポート」が提示してくれる基準は、まさにそのためにあるのです。
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