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第5回 SHOWROOM株式会社 前田裕二(全5記事)

月に数百万稼ぐアイドルも誕生…SHOWROOMでファンの心を動かす「人の価値」

芸人界のはみだし者西野亮廣氏が、各業界のはみだし者と対談する番組『ハミダシター』。第5回目のゲストには、ライブストリーミングサービス「SHOWROOM」を立ち上げた、前田裕二氏が登場しました。前田氏は、テレビの世界では無名のアイドルの卵や素人の演者が「SHOWROOM」上でユーザーから人気を集める理由を語りました。(『ハミダシター』の過去作品および新作はフジテレビオンデマンドで配信中!)

「SHOWROOM」で数百万稼ぐアイドルの卵たち

西野亮廣氏(以下、西野):おもしろいのが、例えば昔、20年くらい前とかだったら、なにか発信しようと思ったら、それこそテレビとかラジオとかしかなくって……でも今、(手段が)いっぱいあるじゃないですか。

なにかすごい大きい動きを起こそうと思ったら、昔はそれこそ本当に何万人とか、そういう人をファンにしなきゃいけなくて、それがようやくニュースになれたんだけど。

今ちょっとニュースを起こそうと思ったら、すごい根強い(ファンが)400人くらいいてたら、別にYahoo!ニュースくらいにはなれるし。そういうのができるのはいいですね。

前田裕二氏(以下、前田):今までは400人とか500人の濃いファンがいることが正義だとする、それを正義に変換するプラットフォームがなかったと思うんですけど。たぶんテレビはそうではないので。

それでも、400~500人濃いファンがいれば、例えば月数百万円という売上を自分で稼げて、なにかほかのマス的なものに頼らなくても、それでもう生きていける。

西野:月、数百万円稼いでる人いるんですか?

前田:そうなんですよ。

西野:へー! それはなにをしている方ですか? SHOWROOM内ではどういうことをされてるんですか?

前田:たくさんあるんですけど、歌を歌ったり、弾き語りをしたりとか。

西野:月、数100万稼いでいるやつがこの中にいるんですか?

前田:そうですね。なので、できれば芸人にも。

西野:芸人いないですよね?

前田:芸人はほとんどいないです。こっちから出てきてるような演者の方もいるんですけど、まだまだぜんぜん。やっぱりアイドル系の子たちとか、タレントの卵とかのほうが、人気になりやすい状況はありますね。

西野:芸人、なかなかいないですよね。

人気はモチベーションの高さに比例する

前田:そうなんですよ。まだ解明しきれてはいないんですけど、今のところの仮説でいくと、モチベーションの高さというのがけっこう変数として大きくって。

「有名になりたい」とか「自分のパフォーマンスで食べていきたい」みたいなモチベーションの強さがあって、強ければ強いほど人気になりやすいというのはあるんですけど、芸人の方は総じてモチベーションが低い。

西野:恥ずかしい!(笑)。

前田:今のところですよ(笑)。

西野:でもそうかもしんないな(笑)。

前田:例えば、「配信をするのにWi-Fiが必要です」と。Wi-Fiって月3000円とか4000円なんですけど、「絶対に夢を叶えるために」って言って、すぐアイドルの子たちとかは契約しにいくんですけど、芸人の人たちは「3000円ですか……」みたいな。

西野:そこでブレーキ踏んじゃうみたいな。ああもう、本当にみっともないなぁ(笑)。

前田:たぶん芸人っていう仕事がすごいつらいというか、「3000円とか4000円稼ぐのもすごく大変なことなんだよ」っていうのも暗に示してるのかなと思ったので、「応援してあげたいな」っていう気持ちになるんですけど。

でもやっぱりそこの、広くいうとモチベーションみたいなものが、やっぱりほかのジャンルの方々とちょっと違うというか。

テレビに出れば出るほど、お客さんが減る矛盾

西野:たぶん、もう1つ難しいと思うのが、芸人ってあるときを境に……ここ(SHOWROOM)でうまくいったとして、テレビとかに出ていくとするじゃないですか?

でもあるときを境に、芸人ってストーリーが終わっちゃうんですよ。なんでかというと、テレビ、バラエティというのは……音楽はCD、このシングルとこのシングルで勝負できるじゃないですか?

EXILEであろうと無名のアイドルであろうと、1対1で勝負してるじゃないですか? テレビはけっこう多数決で進むことが多い。

明石家さんまさんがいらっしゃって、その周りにタレントさんが何10人もいらっしゃって、みんながこっちにいくときに「俺はこっち」っていうのが、テレビはなかなか難しくて。

そのことをすごく思ったのが、僕は19歳でこの世界入ってるんですけど、25歳のときにテレビにさんざん出たんです。冠番組とかいろいろやって、そのときに、お客さんを呼べなかったんですよ。

もともと大阪で19歳のときにスタートして、このときはお客さんをさんざん呼べたんですよ。

(でも)どんどんテレビに出ていくにつれて、お客さんがだんだん減ってきて、25歳のときにたぶん一番出たと思うんですけど、お客さんが本当に呼べなくなって、「これなんなんやろな?」と。

だって、みんな自分のことを知ってるのに、お客さんが呼べなくなってるって、「これなんなんかな?」っていうときに。

そういえば僕、テレビに出たはいいものの、結局さんまさんがなにか言ったときに「知るか!」って言えなかったんですよ。

テレビに出る前は「俺行くからな」「天下取るからな」みたいな感じがあったから、お客さんも応援のしがいがあるじゃないですか。

「この子を応援してたら、自分もすごくおもしろいステージにいけるかも」って思って、ライブにきてくれたり、それこそ投げ銭みたいなことをしてくれてたんですけど。

テレビに出ちゃって、どっかのタイミングで多数決に染まらなきゃいけなくなったときに、もう応援する理由がなくなった。

つまり「ストーリーが終わっちゃったんだな」というときに、今のテレビの仕組みでいうと、芸人はストーリーが終わりやすい職業だなというのをすごい思いました。

テレビでひな壇が広まった背景

でも一方で、すごく未来があるなと思うのは、それもよく言うんですけど、テレビって今、ひな壇じゃないですか。

ひな壇ってもう絶対に終わると思っていて。ひな壇の歴史を紐解くとむちゃくちゃ古くて、僕が子供のときにビートたけしさんの『元気が出るテレビ』という番組があったんですよ。

あのときにすでにひな壇というかたちはあったんですね。かたちはあったんですけど、どの番組もそのかたちをとってるかっていうと、別にそうではなかったんですよ。

ひな壇がやたらバーッて広まったのって、僕の感覚でいうと2000年ちょっと越えたくらいに急に広まったんですよ。

あの番組もこの番組も、やたらひな壇だなと。『アメトーーク!』でもついにひな壇芸人みたいなのをやりだしたし、「あれ? 急にひな壇になったな」と思って。「これ、なにかな?」と。その背景になにがあったかと思ったときに、薄型テレビが急激に普及していて。

薄型テレビ、薄いじゃないですか? 家にけっこうなサイズのやつを置いても場所を取らないから。ちょうど僕、そのとき21歳か22歳ぐらいでしたけど、薄型テレビが出たときって、みんなテレビのデカさをめっちゃ競ったんですよ。

「あいつん家40インチだな、僕ん家50インチだ」とか、「あいつん家70インチある、超金持ちやな」みたいな、それがステータスだったんですよ。

引っ越したらとにかくでっかいテレビを買うのが夢の1つになっていて、テレビの面積がそのときグッて上がったから、単純に登場人物が多くないと座りが悪い。

そのときにもともとあったひな壇というソフトがバチッとハマった。だから、あのタイミングで急にひな壇が広まった。でも今、テレビはこれ(スマートフォン)で見るじゃないですか?

これで見たときに、ひな壇って……おもしろい・おもしろくないじゃなくて、単純に見にくいんですよ。『アメトーーク!』もめちゃくちゃおもしろいですけど、これ(小さい画面)で見たときにちょっと見にくい。

ここからはこの(スマートフォン)画面に耐えうる、これまでずっとチームプレーの時代、多数決で進む時代があったけど、これからは本当に1人で存在できる芸人じゃないと、ちょっと難しくなっていくだろうなと思うんですけど、そういうときにいいですよね。

そういう人たちがここ(SHOWROOM)で出てきて、テレビみたいな箱に入っても、1人で存在できるような時代がまもなくくると思うんですけど。

もうちょっとしたら、芸人が(出てくると思う)。今はまだひな壇全盛ですから。でも、すげーおもしろいの作りましたね。

mixiからFacebookにユーザーが流れた理由

前田:おもしろいなと思ったのが、ハードの変化がソフトの変化に必然性をもたらすという視点。すごく賛成です。

さっきの「みんなの視聴している先が、テレビからスマホに変わってきてるよね」というのはまさにそうです。

僕らの業界でいくと動画、みんなmixiを使っていたんだけれども、Facebookにいった時代ってなにかというと、それこそPCからスマホにみんなが移っていったときだと思っていて。

ちょうど大学生のときにみんなmixiを使っていたんですけど、mixiをスマホで使った記憶はあまりなくて。だからみんな大学のパソコン室とかで、mixiをすごい使っていたイメージがあるんですけど。

それからmixiは「まだまだPCでしょ」っていうのでやっていたイメージがあって。その隙にすごいスマホに特化されたソーシャルツールが出てきて、それがFacebookで、みんなそっちにいった感覚がすごくあります。

それはハードの変化でいくと、PCからスマホに変化するときに、うまくスマホに最適化されたソフトを用意したFacebookが天下を取ったんだろうなと思ってるんですね。

生放送で得られるリッチな視聴体験

なので、「ソフトを考えるときにハードを考えなきゃな」って、すごい僕たちが思っていることなんですけど、それでいくと「次のハードの変化はなにか?」って考えたときに、僕はネットのインフラだと思っています。

通信料が安くなるとか。今ってやっぱり、みんな7GBとかの(通信)制限にビクビクしながら使ってるじゃないですか?

あれがなくなったときになにが流行るかっていうと、僕は生放送だと思ってるんですね。なので、我々は生放送をやっていると。

西野:おもしろい! 頭いい。なるほど。

前田:なぜかというと、生放送ってすごいリッチなんですね。YouTubeとかって生じゃないというか、相手がその場にいるわけじゃないから、人間的な心の充足みたいなのがないんですけど。

自分のことをヒカキンが目の前で認めてくれるかというと、認めてくれるわけじゃなくって、「ヒカキンはおもしろい」って一方的にこっちが受け身で見ているわけなので。

でもここ(SHOWROOM)ってどんなに深夜でも、スナックみたいに「今やってる?」ってたずねると、女の子が「やってるよ」と。「今日もお疲れ」ってやってくれるわけですよ。

というのが体験としてはよりリッチだと思っていて。リッチなんだけれども、これが思いきり爆発するためにはハードの変化が必要で、それはやはり僕は、ネットインフラの環境整備だと思っているんですね。

「SHOWROOM」でミュージシャンをもう1回憧れの職業に

西野:これ、いつ思いついたんでしたっけ?

前田:これは2年前くらいですね。

西野:2年前に思いついたの、もうこうなってるんですか?

前田:思いついたのが、2年半くらい前で、構想からいわゆるリリースまでだいたい4ヶ月とか。

西野:そんなんでできるものなんですか?

前田:本当に頑張って、早く出したくてっていう気持ちで。あとは運にも恵まれて、すごい優秀なエンジニアだったりとか。

西野:まず思いつくのが超すごいですけど、かたちにするのはもっと難しいじゃないですか?

前田:そうですね、でも夢中になって作ってたらいけましたっていう感じですけど。みんな協力してくれて、いろんな幸運が重なりました。

西野:2年半とかそのぐらいのときに。

前田:「SHOWROOMを使って世の中をこうしたいんだ」みたいな考え方に共感してくれるエンジニアが仲間になってくれてっていうのが、すごい早かったです。

なので、インターネットサービスを立ち上げる方々にお勧めしたいのは、ちゃんと「ビジョン」っていうと陳腐に聞こえるんですけど、「自分がやっていることを通じて、世の中をどうしたいんだ」みたいなことが、きちっと話ができると、たぶん仲間も増えて、成功確度が上がるだろうなという気がします。そこを明確にやるというのが。

自分はもともとミュージシャンをやっていて、「このままじゃぜんぜんミュージシャンという仕事は憧れじゃなくなってしまう」と。ぜんぜん食っていけないから。

でも、もう1回自分でちゃんと食っていくためのプラットフォームを作って、そこで人が参加するようになって、「俺、SHOWROOMで生活してるんだよね」みたいなミュージシャンが出てきたら、ミュージシャンがもう1回憧れの職業になるかもしれないという思いで。

西野:でも、そうだよなぁ。

新人作家の制作過程をリアルタイムで配信

前田:それはミュージシャンに限らずなんですけど、芸人もそうですし。最近やってるのは漫画家、作家さんが絵を描いている様子をリアルタイムで配信して、作家さん個人にファンをつけるっていう取り組みをやっていて。

それこそ、新人作家さんって名前では売れないから、完成形をいきなり出しても、どうせ完成度が低いから。

であれば、プロセスの未完成な状態を出していくことによって、彼の成長ストーリーとかプロセスにファンを付けていって、彼がより完成形を売りやすくするっていうことができるんじゃないかという仮説を持ってやってます。

西野:超いいなぁ。むっちゃいいじゃないですか。

前田:わりと今の時代に僕は合っているんじゃないかなと。

西野:漫画のやつもむっちゃいいじゃないですか。

前田:そうなんですよね。すごくピラミッド構造があるというか、名前があれば売れるっていう。

作品のクオリティにかかわらず、声優とかもすごいそうだと思うんですけど、それをひっくり返すっていうか、ピラミッドの一番下のほうにいる人たちでも、努力次第で上にどんどん這い上がっていくような仕組みを作りたくて。

西野:例えば、漫画家でいったら描いているときにこれをやっているわけだから、描いてるときに課金されているわけでしょ。自分の生活費がそこでっていうことでしょ。

前田:めっちゃ悩んでるんですよね。「ストーリーどうしよう」とか。

西野:そこを見せちゃって。

前田:漫画家だって、すごく悩みながら描いているんだ、人間なんだっていうことを伝えることによって、その制作過程にちゃんと共感してもらうっていう。

SHOWROOMで活きるのは「人の価値」

個人的な強い価値観としてあるのは、必ずしも物とか作品の価値だけで自分を売っていくのではなくて、「人の価値」っていうのが、すごいおもしろいなと思っていて。

例えば今、SHOWROOM上でECの仕組みがあって。人気の演者さん、男性の演者さんは女性ファンを持っているので、女性アパレルとか売るんですね。バッグとかを紹介すると1時間でバッグが50個売れたりするんですよ。

前田:それはたぶん、すごい有名人を起用して売ってもそんなに売れないと思うんですよ。でも、SHOWROOM上のぜんぜんみなさんご存知ないような演者さんが売ると、それだけ売れたりするので。

なんでこの話をお伝えしたかというと、別にそのバッグが素晴らしくて売れたわけではないんですよね。

彼とのコミュニケーションのなかで、バックを買うと「ありがとね」とか、コミュニケーションが発生するっていうことが理由になって売れてると思ってるんですけど。

なので物ではなくて、人がきっかけで物が売れるっていう。本当に物がよければ、買ったあとにそこから2次拡散が起きるので。

西野:彼は企業からお願いされるんですか? 「これちょっと紹介してよ」みたいな。

前田:1回トライアルで、DeNAって親会社がECとかショッピングもやっているので、そこに出店されているバッグを売ってみてもらいました。

西野:それで売れたんですか?

前田:すごい売れて。試しに本当にギャラもすごいかかるような有名人を起用してもらったんですけど、3個とかしか売れなくて。

子供はテレビタレントの嘘を信用しない

西野:関係者も気づけてないと。それ、ちょっとわかるんですよ。去年の夏にスタッフの甥っ子、中学生なんですけど。

名古屋の子で、東京にきてたから「じゃあお前、俺ん家泊まれよ」って言って、2週間くらい中学生と一緒に暮らしてたんですよ。

「今の中学生がどういう行動パターンで」みたいなのを知りたかったから。まずテレビ見ないんですよ、絶対テレビを見ない。YouTubeを見るんですね。

物を買うときもYouTubeの商品レビューみたいな、ぜんぜんよう知らんおっさんがやってるのを一番信用してるんですよ。

僕からしたらよう知らんおっさんなんですけど、この子の中では超有名人ですよ。「なんでなの?」「テレビのCMとか見ないの?」って聞いたら、「テレビのタレントさんは演技できんじゃん」と。

「演技できるから信用ができないんだ」って。まずいものでも、「これおいしい」って言っちゃうから、味がよくわからない。

「タレントさん=演技するものだ」というのがあるから、「僕からしたら、例えば500円とかでもめちゃくちゃ大金だから、絶対外したくない」んですって。物を買うときって。

だから一番演技できない人(を参考にする)。だからめちゃくちゃ信用できると。まずいものはまずいと言ってくれる。普段からその姿を見せてくれてる人。その子の場合は、YouTuberのぜんぜん知らないおっちゃんだったんですけど。

もうコメントもぜんぜん冴えてないんですよ(笑)。なんですけど、おっちゃんは普段からまずいもんは「あぁ、まずいな」って言ってるし。

おいしいものは「これうまっ!」とかって。味の感想なんか上手に言えないんですけど、そこに嘘がないから。だからこの子は、すごくこの人のことを信用してるんですよね。

この人が次に商品を紹介して「これええで」って言ったら、そりゃ買うよなと。それはたぶんタレントより力持ってますよね。

前田:それこそさっきのちづるさんとか、完全にリアリティなわけですよね。例えば最初の頃、僕見てたんですけど、配信してて旦那さんにたぶん内緒でやっていたのかわからないですけど、後ろから旦那さんがこう覗いてくると、「なんでもないよ」って隠すんですよね(笑)。

西野:ドキドキするなぁそれは(笑)。

前田:見てるこっちからしても、「今、男の人が映ったな。大丈夫かな?」みたいな、本当にドキドキする。

そういうドキドキとか、ワクワクみたいなものが、テレビに関してもしかしたらちょっと欠けてきてるのかもしれないです。さっきの中学生の話で思いましたけど。

西野:ドキドキするっていいんですよ。クオリティでいったら、むっちゃ低いじゃないですか? オヤジがちょっと顔出すみたいなの、クオリティとしては最低じゃないですか。

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