2024.10.10
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タモリ氏の弔辞(全1記事)
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弔辞。8月の2日にあなたの訃報に接しました。6年間の長きにわたる闘病生活のなかで、ほんのわずかではありますが、回復に向かっていたのに本当に残念です。我々の世代は、赤塚先生の作品に影響された第一世代といっていいでしょう。あなたの、今までに無かった作品や特異なキャラクター、私たち世代に強烈に受け入れられました。10代の終わりから、我々の青春は赤塚不二夫一色でした。何年か過ぎ、私がお笑いの世界を目指して九州から上京して、歌舞伎町の裏の小さなバーでライヴみたいなことをやっていたときに、あなたは突然、私の眼前に現われました。
その時のことは今でもはっきり覚えています。「赤塚不二夫が来た。あれが赤塚不二夫だ。私を見ている」。この突然の出来事で、重大なことに私はあがることすらできませんでした。終わって、私のところにやって来たあなたは、「君はおもしろい。お笑いの世界に入れ」「8月の終わりに僕の番組があるから、それに出ろ」「それまでは住む所がないから、私のマンションにいろ」と、こう言いました。自分の人生にも他人の人生にも影響を及ぼすような大きな決断を、この人はこの場でしたのです。それにも度肝を抜かれました。
それから長い付き合いが始まりました。しばらくは、毎日新宿の「ひとみ寿司」というところで夕方に集まっては、深夜までドンチャン騒ぎをし、いろんなネタを作りながら、あなたに教えを受けました。いろんなことを語ってくれました。お笑いのこと、映画のこと、絵画のこと、他のこともいろいろとあなたに学びました。あなたが私に言ってくれたことは、未だに私に金言として心の中に残っています。そして仕事に生かしております。
赤塚先生は本当に優しい方です。シャイな方です。麻雀をするときも、相手の振込みで上がると相手が機嫌を悪くするのを怖れて、ツモでしか上がりませんでした。あなたが麻雀で勝ったところ見たことがありません。その裏には強烈な反骨精神もありました。あなたは全ての人を快く受け入れました。そのために騙されたことも数々あります。金銭的にも大きな打撃を受けたこともあります。しかし、あなたから後悔の言葉や相手を恨む言葉を聞いたことがありません。
あなたは私の父のようであり、兄のようであり、そして時折見せる底抜けに無邪気な笑顔は、はるか年下の弟のようでもありました。あなたは生活全てがギャグでした。たこちゃん(たこ八郎さん)の葬儀のときに、大きく笑いながらも目からぼろぼろと涙が零れ落ち、出棺のとき、たこちゃんの額をぴしゃりと叩いては、「コノヤロー、逝きやがったな」とまた高笑いしながら大きな涙を流していました。あなたはギャグによって物事を動かしていったのです。
あなたの考えは、全ての出来事、存在をあるがままに前向きに肯定し、受け入れることです。それによって人間は重苦しい陰の世界から解放され、軽やかになり、また時間は前後関係を断ち放たれて、その時その場が異様に明るく感じられます。この考えをあなたは見事に一言で言い表しています。すなわち「これでいいのだ。」と。
今、2人で過ごしたいろんな出来事が、場面が思い浮かべされています。軽井沢で過ごした何度かの正月、伊豆での正月、そして海外へのあの珍道中。どれもが本当に「こんな楽しいことがあっていいのか?」と思うばかりの素晴らしい時間でした。
最後になったのが、京都五山の送り火です。あのときのあなたの柔和な笑顔は、お互いの労をねぎらっている様で、一生忘れることが出来ません。あなたは今、この会場のどこか片隅に、ちょっと高いところから、あぐらをかいて、肘をつき、ニコニコと眺めていることでしょう。そして私に「お前もお笑いやってるなら、弔辞で笑わしてみろ!」と言っているに違いありません。
あなたにとって「死」も一つのギャグなのかもしれません。私は人生で初めて読む弔辞が、あなたへのものとは予想だにしませんでした。私はあなたに生前お世話になりながら、一言もお礼を言ったことがありません。それは肉親以上の関係であるあなたとの間に、お礼を言うこときに漂う他人行儀な雰囲気がたまらなかったのです。あなたも同じ考えだということを、他人を通じて知りました。しかし今、お礼を言わさせていただきます。赤塚先生、本当にお世話になりました。ありがとうございました。わたしもあなたの数多くの作品のひとつです。
合掌。平成20年8月7日。森田一義。
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