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鈴木おさむ『新企画』出版記念「働く女性のための企画術講座」(全3記事)

普通の人が美人に負けないためには 鈴木おさむ氏が語った、自分に“付加価値”を付ける方法

オンラインサロン「ちゅうつねカレッジ」主催のセミナー、鈴木おさむ『新企画』出版記念「働く女性のための企画術講座」が4月7日に開催されました。駆け出し時代のユニークなエピソードから、有名番組のヒットの秘密まで、放送作家として活躍してきた鈴木氏が発想力の源について語りました。

好奇心は“才能”だ

鈴木おさむ氏(以下、鈴木):実際に企画を立てたんですけど、ぜんぜん協力してくれる会社がなくて。それは当たり前ですよね。「なぜ最下位を言わなきゃいけないんだ?」っていうね。

でも特番のときに1個だけ協力してくれたところがありました。それが某メーカー。あんまん、肉まんでおなじみのところなんですけど。それがまぁ、収録が大変で。

初めてなので、美食家の人たちもどこまで言っていいかわからないっていうのがあって。「う~ん、これはたいしたことないな」みたいなことを言うと、裏で作り手の人たちが見てるんですよ。すごい空気のなかで収録したんです。だけど放送したら、すごく好評で。

思った通りなんですけど、たぶんテレビでランキングが低くても自分でうまいと思っていたら絶対にそれを買うんですよ。

でも、最下位を発表していた番組で最高のやつを紹介されたら、すごいインプットする。だから、悪いものって意外と売上げは変わらない。だけど、悪いものを発表した時に、いいと言われたものはすごく売上げが伸びるという結果が出たんですね。

僕は「企画を考えてよ」って言われた時に「制限ください」って逆に言うんです。「予算が少ない」「少なくていいです」と。

「収録はどれぐらいできるんですか? 2週間に1回ですか? 1週間に1回ですか? 1ヵ月に1回ですか?」そうやって、逆に制限を与えてもらうことでできるものがあるというのが、この「究極の人生クイズ番組『クイズ! 最高の一問』」という番組。

なぜさまざまなジャンルの人の人生をクイズにしようと思いついたかというと、僕はいろんな人に出会うのがすごく好きなんです。僕はテレビ番組の人とほとんど飲みに行かないんです。会議で話せばいいだろうと思って。

先ほど、はあちゅうが僕は付き合いが広いと言っていましたけど、意外と業界の人との付き合いは広くない。一方でお相撲さんとかホストの兄さんとかの知り合いが多い。一度興味を持つと非常に好奇心が旺盛なんですね。

好奇心というのを僕は才能だと思っているんですけど、好奇心という能力があると思っているんです。

19歳の時、ニッポン放送でやっていた槇原敬之さんの『オールナイトニッポン』という番組の放送作家になりました。当時は明治学院大学という普通の大学に行ってました。作家をやりたいと思ってたから、ほぼ行かなくなる時期でしたけども。

「人生終わったじゃん」と思ってた奴が認められる業界

その番組の放送作家になった時に、半年先輩の作家さんがいました。その人は僕よりいくつか年上だったんですけど、半年先に(放送作家に)なってるんです。

みなさん、なべやかんさんを知ってますか? なべやかんさんが芸能人になる前、「明治大学替え玉受験」という日本中を揺るがした大事件があったんですよ。

なべおさみさんという朝のワイド番組をやっていた人の息子さんであるなべやかんさんを明治大学に入学させたいから、明治大学に入ってる奴に替わりに受験させちゃおうという、かなりのニュースだったんですね。

僕が入った時に先輩作家さんがいたんですけど、最初にディレクターさんに言われたのが「おいっ、鈴木君だっけ、お前より前に入ったこいつは明大替え玉事件の犯人なんだぞ!」と。

「えー!」って驚いて。「どういうことですか?」「こいつ明治大学でなべやかんのかわりに書いて捕まって逮捕されてクビになったんだよ。すげぇだろ!」って言われたんです。

それで頭のなかがパニックになってしまって。なぜかというと、僕はこの事件をニュースで見てた時に「こんな奴、明治大学に親の金で入ったくせに、こんなことしてクビになってバカじゃないの?」と思ってたんですね。「人生終わったじゃん」と思ったんですよ、僕は。

だけど、「人生終わったじゃん」と思ってた奴が僕の目の前にいて、「すげぇだろ!」って言われてるんです。もうびっくりしました。それがこの業界に入って一番脳天に雷が落ちた瞬間です。

その方は非常におもしろいですよ。僕らがしてない経験をしてるから。

例えば、僕とその人がディレクターさんに同じネタを出すとしますよね。「あれ、今日は俺のほうがおもしろいんじゃないの?」と思っても、必ずその先輩作家さんのネタが採用される。僕のなんかちゃんと見てくれないんですよ。

そこで気づくわけです、自分にまったく付加価値がないということに。大学に通っていて、実家が房総で、普通にいる青年ですよね。僕に付加価値がなにもないということに気づくんですよ。

例えば、単純な話ですけど、やっぱり美人って得ですよ。ある男性のディレクターに普通の男性と超美人がまったく同じ内容の企画を出したら、絶対に美人が採用される。

例えば、まったく同じ顔をしていて内容も同じだけど、1人が東大出身だったら、絶対に東大出身の人のほうを採用すると思うんですよ。興味があるからね、学歴も含めて。

例えば、これはもう学歴の話だけじゃないけど、前科一犯、暴走族で捕まりましたという人と普通の大学生。仮に慶應の学生だとしましょう。たぶん慶應学生よりこの前科一犯の人のほうが興味を持たれてしまう、というのが僕らの世界だったりするんです。

でも、それはなんの世界でもそうだと思います。その人に対して「付加価値というのはなんなのか?」というのがあって。もちろん学歴もあるし、経歴も。

付加価値をつけるためにSMクラブへ

はあちゅうの人生を見ていて思うのが、そこにコンプレックスを持つからこそいろんな付加価値をつける。世界一周をするとか。そういうことも付加価値になるし。自分で付加価値を手に入れることができるんですよね。

僕がやったのはなにかというと、当時SMクラブがすごい流行り始めていたんですが、周りにはSMクラブに行った人なんかいなかったんですよ。だから僕は、目黒にある「ラビリンス」というSMクラブを自分で調べて、予約して、行くわけです。SMには興味なかったんですよ。

行くと、いろんなことがわかるんです。例えば、SコースよりMコースのほうが安いとか。いろんなオプションがあるとか。そういうことを自分で全部メモりました。料金は2万円ぐらいかな、高かったんですけど。

次の日、ニッポン放送にいくわけですよ。それで「実は昨日SMクラブに行ってきたんです」と言うと、「えー! マジか! どうだった?」って聞かれて、多少話も盛りながら「気持ちよかった」とか嘘もついて。

それで、僕に初めて「SM君」というアダ名がつくんです。本当は嫌ですよ、SM君なんて。だけど、「こいつさー」って、僕がさもSM好きかのような感じでいじってくれるんです。

明大替え玉事件に比べたら足元にも及ばないけれども、ただの大学生だった僕が、その日を境に「こいつはSMに興味がある。好奇心が強いんだな」とおもしろがられるようになって、興味を持ってくれるようになって、ようやくそこで僕のネタを見てくれるようになったっていうことがあるんですね。

ホストクラブのオーナーの人って、僕の知らない話をたくさん知ってる。お相撲さんも、僕が知らない話をたくさん知ってるんです。

やっぱり自分が知らない話をたくさん聞くことが、今の僕にとって付加価値だったりするし。それは何歳になっても変わらないと思うんですよね。

50歳まで売れないけど役者をやっていましたということも付加価値ですよ、そこまでくるとね。30歳で売れない役者をやってますなんて付加価値じゃないけど、50歳で売れない役者をやってるというのは、それは付加価値ですよね。

みなさんはこれからいろんなお仕事をすると思いますけど、「自分にとっての付加価値はなんなのか」ということを考えたほうがいいし、それは自分の努力によって手に入れられます。

主役を変える視点を持つ

次。4番(スクリーンを指す)の企画。「コメンテーター選手権」。これはテクニック論です。どんな企画かというと、ニュース番組です。みなさんがニュースで今なにを見ているかというと、ニュースの中身もありますけど、「このコメンテーターはなにを言うか」というところだと思うんです。

マツコ・デラックスが『ピンポン!』という番組のコメンテーターでブレイクしたり、『5時に夢中!』だったりとかもしますが。

僕がテリー(伊藤)さんがやっていた時代の『スッキリ!!』で好きだったのが、「テリーさん、怒るかな? 怒るかな?」みたいな感じのところだったりとかね。

宮根さんはおそらくニュースのワイプのなかの顔を作ってるんですね。「そんなに怒る?」ってぐらい「う~ん」って怒ったりとか。

でも、そうやって自分の感情を先に出して、先導しているんです。僕はやっぱりコメンテーターでニュースを見てしまう。コメンテーターでニュースを選ぶというのが世のなかの空気になってますね。

これ(スクリーンを指す)が「コメンテーター選手権」という企画です。1個のニュースに対して、コメンテーターを希望している人たち、新宿2丁目のおもしろいお姉さんとか、東大出身のまだ世に出てない博士がずらっと並んで、そのニュースになんてコメントしていくかというのを競う番組です。

届けるのは最新のニュースです。最新のニュースに対してどうコメントするかという。だから、ニュースバラエティーなんです。

ここで使ってるのが「主役を変える視点を持つ」というテクニックです。

『マネーの虎』という番組がありました。商売をしたい人に、「虎」と呼ばれる人たちがお金を出すか・出さないか(を判断する)という番組がありました。

あれって、『マネーの虎』というタイトルでごまかされてるんですけど、本来ならば、起業したい人が主役なんです。起業したい人が主役で、お金を出す人は本当は準主役なんですよね。

あくまでも「どんな商売がしたい? この人なんなの?」という物語。投資家たちはおまけのはずなんですけれども、お金を出す人たちを主役にしたというのがあの番組で、「視点を入れ替える」というテクニックを使っています。

例えば、カレーライス。僕、福神漬が好きなんですけど、カレーライスを食べに行って、カレーライスは普通でも、「これは京都の老舗が作った福神漬です」って言われた瞬間に「福神漬」が主役になる。

だから、一見、脇役に見えること、主役じゃないものに興味を持たせてあげる。それこそさっきの付加価値ですよね。脇役に付加価値を持たすことでグッと見え方が変わるというテクニックがこの「視点を変える」というものですね。

人は期待することがすごく好き

コメンテーター選手権の次は……これにしよ。「楽曲オーディションバラエティー『あなたの歌を歌わせて!!』」という企画でございます。

この番組は売れっ子アーティストが審査員で、デビューしていないミュージシャンが楽曲を持って登場するんですね。

そして自分の自信がある曲を歌います。審査されるのは歌う本人じゃなくて、その楽曲です。その楽曲を聞いて、アーティストがこの楽曲を買いたいかどうか。この楽曲を自分で歌いたいかどうか決める。

例えばEXILEが自分で歌いたいか、というのを審査していくのが、この「楽曲オーディションバラエティー『あなたの歌を歌わせて!!』」という番組です。

この企画のポイントは「期待してしまう」という仕組みを作ること。もし楽曲が、例えばジャニーズのアーティストの誰かの曲になったとしたら、売れますよね。

楽曲が売れるとどうなるかというと、その作った人にお金が入るし、その人が注目を浴びていくことで、この楽曲自体もそうですし、その人の人生に夢が出てくるということなんです。

この「期待する」ということって、非常に大事。普段、サッカーは見ますか? Jリーグとか。

参加者:Jリーグはスポーツ番組で……。

鈴木:そのぐらいですよね。僕もぜんぜん見ないです。でも、オリンピックになると見ますよね。ワールドカップだと見ます。なぜか? 期待するからですね。

なでしこも、柔道も、普通の大会を見ないですけど、オリンピック、ワールドカップは見る。人は「期待する」ということがすごく好きです。

だから、なにかの企画を立てる時に、これは買う人が「なにに期待するのだろう?」ということを考えることがすごく大事なのかなと思います。

昔、『ASAYAN』という番組を最後1年やってたんですけど。その時に男子ボーカルオーディションがありました。そこから「ケミストリー」ができるんです。

あれは1年かけて放送してるんですよ。結果、ケミストリーで売れたからいいですけど、普通のお兄ちゃんがずっとグダグダやってる姿をかなりゆっくりと放送していくんです。

なぜそんなに待てるかというと、理由は単純です。『ASAYAN』という番組で「モーニング娘。」が売れているから。だから、「この人たちもそうなるんじゃないの?」という期待があって見るわけですね。

ネガティブな「あるある」が共感を呼ぶ

『M-1グランプリ』という番組に火がついた理由は、『M-1』に出た人たちが売れ始めたんですね。そこに対して期待する理由、「その人たちを応援したい」とか、そこに夢がありますよね。

だから、なにか期待したくなるソフトというのは異常な強さがあるということです。

続いての企画、「ビジネスカードゲーム」。

僕、非常に名前を覚えるのが苦手なんです。みなさんも経験があるかと思いますけど、仕事でテレビ局に行くと、いろんな人に会うんですけど、久々に会うと「おおー! 久しぶり!」「あ、どうも!」とか言って。

苗字が思い出せないという時に、「あのオンエア、本当にありがとうございます」みたいな会話をしながら、微妙に、“この人誰だっけ感”をバラさずにやっていくというのがあるんです。その心理を扱った企画です。

例えば、ある会社に行って部長さんを呼び出します。その人の名刺フォルダーから事前に5枚の名刺を抜きとっています。その名刺の持ち主が並んでて、名刺をもらった人に返してくださいというゲームです。僕はなかなかできないんですよ。それを楽しもうというゲームなんです。

そのなかで大事なのはゲームを楽しむだけじゃなくて、「こういう人と仕事をしているんだ」という関係性をわからせていくということです。

例えばテレビ局のお弁当屋さんって1回の収録で200個とかを番組のために作る。お弁当屋さんってこういうふうになってるんだとか、ADさんとはこういう関係でお仕事をしてるんだというのが、だんだんわかってくる。

ただのゲームだけじゃなくて、そこで企業の紹介になってくるのが、この「ビジネスカードゲーム」ということなんです。

大事なポイントとしては、「共感」を味方にするということ。名前を覚えられないとか、そういうことって世のなかにあると思うんですけど、ネガティブな「あるある」は非常に共感を呼びやすいんです。

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