2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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松浦弥太郎氏(以下、松浦):Webメディアって横のつながりが意外とあるじゃないですか。雑誌業界って、ないんですよ。
よほどの友達関係とかがない場合は、なかなか交流がないんですね。競争があるから、そこに関わるクリエイターとか関係者の人間関係も意外とそれぞれに孤立してるんです。それが僕はすごくよくなかったと思うんです。
もう少しみんなで知恵も技術も情報も共有していれば、競争ではなくて全体を底上げすることができてたような気がしました。
言ってみれば、生活をテーマにする雑誌の商店街があったとするじゃないですか。
東出桂奈氏(以下、東出):はい。
松浦:人気のお店はあるんですよ。だけど、なんとなく人気がなくなっちゃって、なんとなく閉店していくみたいなことっていっぱいあったんですよ。
でもそれって、商店街に人が来なくなっちゃうわけじゃないですか。10店舗くらいあって充実してたら、そこはよい商店街。それを作りたかったんですけど、果たせなかったんですね。
せっかく僕は1年生としてWebメディアの世界に来たんで、なんとかその方法があるかどうかをぼんやり考えてたんですね。自分たちの表現方法を模索してるみたいな感じで。そしたら「灯台もと暮らし」の鳥井(弘文)さんがね。
佐野知美氏(以下、佐野氏):(会場を指差し)あそこにいます。
松浦:非常ににこやかな鳥井さんと、ちょっと出会えて。おおっ、と。この人になら、ぶつけられるかなと。
それで鳥井さんに、雑誌の世界でできなかったことをやりたいんですけど、って話をしたら、鳥井さんがぐっと進めてくれて。僕がWebメディアの世界に来てちょうど今日で1年目というこんな記念すべき日にこういうかたちになりました。
僕はなにをしたいかというと、よくシェアとか言うじゃないですか、共有とか言うでしょ。それを情報だけじゃなくて、知恵というか、もうちょっと人間と人間が近いシェアにしたいなと思って。
とりあえず、僕らには今、「くらしのきほん」「箱庭」「灯台もと暮らし」の3つがあるから、この3つから、どこかの人通りのない通りに店を出すっていう感じなんです。
みんながその通りに店を出せる。それは別に立派な会社がやってるような店じゃなくても、たったひとりの個人でさえも店を出せる。
みんなで分かち合う、シェアするっていうのは、たとえばメディアを作るのはどうすればいいのかっていうのを1人でやってる人がいるんだったら、ノウハウがある人がサポートする。Webを知らない人がどういうふうにやっていくんですか、と訊いてきたときも、ここはね、こうやっていくんです、ここはポイントなんですよって教え合う。
その通りでは、けっして寂しくなくなっていくような店はないようにする。元気がない店があったら元気がある店がサポートして、手を離さない。そういうプラットフォーム……って言っていいのかどうかわからないけど、ただのプラットフォームじゃない。こうしてみなさんに話をするとなると、近い感じとしては、プラットフォームっぽいもの。
いろんな花が咲いてる、カラーというか。自分たちが花を植えていって、引いて見たときに、綺麗だったりするじゃない。この花壇は自分の場所で誰も入ってきてもらいたくないっていう感じは嫌なんで。 やっぱり1人だったり、1つのなにかじゃ駄目なんですよ。景色は作れないんです。ガラスケースのなかのかっこいいものっていうのはできるかもしれないですけど、景色は作れない。
だから景色を作るにはいろんな人が集まって、僕らなりの新しい感覚での秩序みたいなものを立ち上げながら、いいカラーを作ってみたい。だからキュレーションサイトみたいなことでもないんですけどね。
どうですか? 1人で喋っちゃったけど。
東出:そうですね。私たちのメディアもみんな、最初、本業が普通にあって、「くらしのきほん」さんの立ち上げと似たような感じで。
休み時間とか空いてる時間に活動を始めたんです、「箱庭」が立ち上がってからも、本業はがっつりあったんですよ。
松浦:いいね。がっつりあるっていうのは(笑)。
東出:もうそれだけでけっこう手いっぱいだったんですけど。でもやっぱり好きなことができるっていうのは、純粋にすごくおもしろくて。
もともと私はWebデザインの仕事をやっていて、Webを作るというところまでで、Webを公開するとか、Webサービスがその先どうなっているのかっていうのはわからなかった。Webは作れるけど、その先がどうなっているのか、っていうのにすごく興味があったんです。
それで、「どうやったらかたちになるのかな?」なんて思いながら、本業の合間にやっていきました。
松浦:それは今でもですか?
東出:今は4名の専任メンバーでやってるんですけど。メンバーが全員で9人いて、そのなかの4名が専任という感じですね。それ以外に外部の方とかもいるんですけど、専任以外のメンバーはいまだに本業をやってるので、登場が少ないのは、本業が忙しいからという感じですね。
松浦:「灯台もと暮らし」は2人?
佐野:立ち上げ当初は4名がメインで。ちょうど今日から5名体制になりました。
松浦:5名になるの。
佐野:実は私たちもオープンが2015年の1月、去年の1月なので、やっと1年とちょっと経ったところです。
私たちも全員、本業ではなかったのが始まりで。鳥井が立ち上げた株式会社Waseiという会社に私たちメンバーが集まったかたちなんです。
私自身は講談社という会社に去年の2月まで在籍していたので、わたしも兼業ライターが始まりで、鳥井に出会って、ほかのメンバーにも魅かれてこの会社に移動してきたっていう感じですね。
鳥井と佐野、あとは小松崎と立花という4名の人物がメインの立ち上げメンバーなのですが、小松崎と立花は昨日まで新卒の1年目だったので、立ちあげた1月っていうのは学生がふたり。社長と学生とまあ謎の会社員みたいなメンバーで。
私も土日というか、9時から6時まで本業やって、そこから7時にみんながいる上野に移動して、カフェでミーティングして家で作業して土日や夜に取材して書きあげてという生活をやりながら立ち上げて。
さっき松浦さんがおっしゃったみたいにすごく楽しかった。
松浦:そういう時期はね、経験できないじゃないですか、なかなかね。新しいサービスの立ち上げに集中する時期っていうのは大変ですけども。
佐野:始まりはね。
松浦:Webメディアで何をやりたいと思います?
東出:私なんかはもともと編集とかライターをまったくやったことがなかったし、デザインしかやったことなくて、あとはカメラを趣味でやってたくらい。だからメディアを始めるっていうのは自分でも思ってなかったんです。
でも、女性のクリエイターが仕事をしてるなかで、そういう人たちに向けられたメディアっていうのがなかったんですね。いろんなサイトをたくさん見ないと、好きな情報を得られないっていうのがあって。
だからそういうものを作りたいと思ってまとめてみたんです。でも別にプロじゃないし……でも「やってみよう!」というところから始めました。
松浦: 朝ドラで『とと姉ちゃん』っていうのが始まるんですけど、『暮しの手帖』を戦後スタートさせて雑誌を作っていったっていうサクセスストーリーが、ドラマになるんです。
今、桂奈さんがおっしゃったことって、その主人公のモデルになった大橋鎭子さんが言ってることと通じる。
東出:本当ですか。
松浦:本当です。大橋鎭子さんっていうのは、あの時代、戦争があって大変だったじゃないですか。女の人は一番の犠牲者だったんですね。大変なことをたくさんやって、自由もなかったし。
で、戦争が終わったときにこれから私たちが一番知りたいこと、というか私が一番知りたいことをみんなと分かち合いたいっていうことで雑誌を始めたんですね。
当時、雑誌というのは、1つのベンチャービジネスだったんですね。なぜかと言うと、いろいろ規制があったわけですよ。それまでは若い人が自由に個人で発信なんてできなかったんです。
だから若い人が世のなかのためになるっていうかね、世のなかになにかを発信できる仕事っていうのが雑誌だったんで、雨後のタケノコのように雑誌ができたんですね。みんな夢を持って。そういう時代なんで。
なんとなくですけど、僕は今のこの時代って戦後のみんなが新しいこととかを、ものすごく知りたがってた時代とちょっと似てる気がする。
当時は雑誌を開けば、なにか新しいことがあるっていう期待があって、みんながそこに集まってくる。今はスマホを見たり、PCを見れば、なにか自分が知らないことが手に入る、そういう欲求というかみんなのニーズがね、ある世界かなと。
あれですよ、『暮しの手帖』ですよ。
東出:やったぁ(笑)。
松浦:それと同じように、ある種の教養的なこととか、考え方、哲学的なこと、自分たちの知りたいこととか、そういうものをメディアとしてコンテンツ化しているのが「灯台もと暮らし」。
佐野:おぉ、こちらですね(笑)。うれしいです。
松浦:だと、僕は思ってます。気づき、っていうか。だから僕も「灯台もと暮らし」のサイトを見てると気づくこと、いっぱいありますもんね。
佐野:見てくださってるんですね。
松浦:もちろんです。
メディアって難しいですよね。何を発信するかっていう。情報なのか、知恵なのか、知識なのか、娯楽なのか。いろんなメディアがあると思います。
役割がみんなあって、どれが正しくてどれが間違いとかないんですけど、きちんとそれを発信する側がわかってないと、と思います。
佐野:「灯台もと暮らし」は記事を、ある種Webの広大な海にそっと置いておく、宛名のない置き手紙のように作りたいと思っていて。
「灯台もと暗し」とは、身近にあるものはかえって気が付きづらいという意味をもつ、もともとある言葉です。その明るい・暗いの「暗し」をライフに変えてつくりました。
「これからの暮らしを考える」ってなにかっていうと、実は私たちもわかってない。か、もしくは「自分たちのこれからの暮らしを考えていこうか」という、「自分たちはなにを知りたいかな」っていう気持ちはけっこう強かったりしますね。
気づいてほしいなとか、気づいてるかもしれないけど、最初の1歩が踏み出せないとか、そのきっかけになる最後の背中をぽんっと押すような、私が押さなくても自分で踏み出せるようなそんなコンテンツがつくれたらいいなっていうのがありますね。
松浦:わかりますね。たぶん、すごく共通してると思うんですけど、大切なことは自分たちがまず生活者であるってことが大事じゃないですか。
メディアを作ってると、メディアを作ることに精一杯になって、自分たちの生活がないっていう場合もけっこうあるんですよ。想像力でやっちゃうんですよ、みんな。こういうことっておもしろいだろうな、こういうことって楽しいだろうな、って。
でもWebメディアって制作のプロセスがシンプルにできるじゃないですか、印刷とかレイアウト作業とか、いろんなことがなくて、ぱっと作れる。昨日感じたことを今日発信できるし、昨日撮った写真をすぐに配信できる。
ということは、自分たちがまずは生活者として存分に楽しんで、日々のなかで感動したこと、おもしろかったこと、自分が信じられること、関心のあることを素直にコンテンツ化していく。
自分が生活をしていて、生活者として存分に楽しんでいれば、感動することって、いろいろあるわけですよ、誰かに伝えたいとか。でもそれだけじゃおもしろくないんです。
僕が毎日料理作るのは、やっぱり自分が感動したい、感動のインプットをしたいから。毎日料理しているってことは、毎日、失敗してるってことなんです。
(会場笑)
松浦:本当なんですよ。
失敗ってすごい感動するんですよ。気づきも多いし。わからないことがわかるようになるってすごい感動なんですよね。あと知らないことを知るときとか、たとえば知らないところに出かけるのって、知らないことに触れるってことですよね。
佐野:その通りですね。 知らなかった世界が見える。
松浦:で、伝えてみると。そういうことです。「あ」っていう気づきがあって、これを伝えたい。だって24時間365日、料理のこととか、お皿洗ったりとか、そういうことしか考えてないんだから。オタクですよ。でも僕はオタクでいいと思ってる。オタクってすごいですよね、やっぱり。発見してるから。物事を確かめてる。
それさえしてればいくらでもメディアは作れる。コンテンツは作れるんで。だから「会議? なにそれ」っていう感じです。
(会場笑)
松浦:その時間があったら、僕はフライパンでも洗ってますよ、そっちの方がいい。フライパンを洗ってたらちょっとささくれができちゃったな、とか。ささくれができたということで、なにか1つの発見があるわけじゃないですか。
東出:そうですよね 。
松浦:ね。そんな感じで僕はメディアを作りたいなと、思っています。
たぶん共有、分かち合えると思うんですけど、使ってくれるみなさんが……ユーザーっていう言葉を使うとちょっと業界っぽくなるかな(笑)。
佐野:なってしまいますかね?(笑)。
松浦:(山の裾野の形を示して)ユーザーがここにいて、で、Webメディアって上にあるんですよ(頂上を示す)。Yahoo!もGoogleもクックパッドもこの辺に。
僕らがやってることって、Webメディアのところの隙間にすっと入っても、なにかできるとは思うんですよ、そこの並びのところで。なにかはできる。だけどあまりにも巨大なサービスの巨大なメディアがたくさんあり過ぎて、どうやったって勝てないんですよ。
東出:(笑)。
松浦:勝てないって、別に勝負じゃないんですけど、どうやったって気づいてもらえなかったりとかするわけですよ。しかも1日っていろんなことがあるから、みんながみんないつもスマホとかPCを見てるってわけでもないから。
限られたほんのわずかの時間のなかで自分たちのことを知ってもらうとか、使ってもらうとかって、本当、大変なんですよね。
だったらそこに入らない、っていう手はあると思う。
東出:あえてですよね。
松浦:あえて。
どういうことかというと、ここに(山の上の方に)そういうメディアがずらーっと並んでるわけですよ、どこまでも永遠に、いろんな種類のメディアが。
そこよりも2~3歩ユーザーに近いレイヤーもあるはずだ(頂上よりも少し下がった場所を示す) 。
東出:たしかにあるはずですよね 。
松浦:そうすると、大きなWebメディアよりもユーザーに近いレイヤーに場所を取れれば、絶対に有利なんです。そこよりももっと近いところに行くと(さらに少し下の方を示す)SNSとかがあるんです。
松浦:SNSと、いわゆる既存メディアの中間くらいのエリアに自分たちの存在理由があると思う。ということは何をしたらいいのかっていうと、既存Webメディアの「こういう感じだよね」「こうしたらみんな喜んでくれるよね」というのと同じことをやってたらダメっていうことです。要するに時間がないから。
それが僕にとってはある種のチャレンジなんです。どうしたらほかの大きなところより近いと感じさせるメディアになれるか。
ひとつはさっきも言ったように、まず自分たちが発信するということ。信用してもらえるかっていうことかな。まあ試行錯誤してますけど。
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