2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
三島賞受賞作家と注目のIoT起業家が語る〜インターネットに繋がるモノは純文学の夢をみるか?テクノロジーで広がる家族観・人間観〜淡路島からやってきた従兄弟同士によるこれからの話(全6記事)
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梶原健司氏(以下、梶原):話したいことばっかり話してしまって、時間があんまりないんですけど。なにか聞いてみたいことはありますか?
観客6:さっき2つの世界の話をしたじゃないですか。公的な世界と、自分の世界。私もたまたま自分の世界の先を考えているんですけど。
公的な世界って、昔はそもそも知覚されていなかったと思うんですね。人類が公的な世界を考え始めたのって、本とかインターネットによって初めて見えてきた。
梶原:そうですね。メディアができて初めて。
観客6:その前は、2つ目の世界しかなかった時代じゃないですか。その1つ目の世界は人類の歴史の中ではすごい短い。最近初めて見え始めたものなんですけど。それに今みんな振り回され過ぎていると思っていて。そういう意味で、昔に意識を戻さなきゃいけないということがあるかなとちょっと思っています。
梶原:僕は最近テレビを見なくなったんですけど、例えばテレビで、「殺人事件が起きました」というニュースがあって。本来自分にとっては、ある意味まったく関係がないことを見せられて、何かちょっと暗い気持ちになるとか。そういう話。
本来は関係ない話であって、関係ないというのもちょっと極論ではありますが、そういうことだったりするわけですよね。だから、おっしゃることはすごくわかります。おっしゃる通りだと思いますね。どうなんだろうね?
上田岳弘(以下、上田):公的な世界というのは、ざっくり言うとシステム。
梶原:抗いがたい流れ。
上田:私的な世界というのは、従兄弟であったり、そういうもっとパーソナルな。それをみんなが比較し始めたのが最近なのかもしれないけど、支配者層というか、宗教家とか王様とか、そういう層は昔から両方をイメージしていたと思うんですよね。
梶原:僕もそれは思いますね。昔は一部の特権階層しか持っていなかったような認識とか知識を、普通の人も持つようになったのは、たぶん流れとしてはあるし、それはいい流れなんじゃないかなと。
上田:そうですね。その辺の苦しみというか、面倒臭さみたいなのはあると思いますね。それをみんなが知った上で、どうするのかみたいな。
梶原:そこに対しての答えはないかもしれないですけど、解決策とか、新しい認識、新しい人間としての対応の仕方みたいなものは、これから作られていくのかもしれないですけどね。
次の世代。メディアがあるのが当たり前、インターネットがあるのが当たり前、ソーシャルメディアがあるのが当たり前という人たちが、またそういう次の何かを作っていくんじゃないのかなと思います。
上田:確かに短い。最近多いですよね。すごくね。
梶原:結局、何を当たり前とするかというので、その上に何が作れるのか。
上田:認識が広がっていくと、それをベースに次のことが言える。そういうのはありますよね。
梶原:そうそう。何を言っているのかという。他にありますか? ないですかね?
上田:アジェンダ1個も消化していない(笑)。
梶原:「シンギュラリティは」とか、けっこういろいろね。
上田:ほぼ自己紹介で終わった。
梶原:「家族とはそもそも何なのか」とかね。家族の話、ぜんぜんできてない。こういうの聞きたいとかなければ、ちょっと勝手に話しますけど。何かあれば。あ、どうぞどうぞ。
観客7:先ほどの「家族の話」で、お二人それぞれ、自分の家族をどのようにとらえられているのか。またちょっと違う立場なのかなと。
上田:我々は従兄弟なので、変な感じしますよね。ここで話をしているのが。元々はケンちゃんが(Appleを)辞めたというのを母親から手紙で聞いて、何をやっているのか検索して、Facebookで友達申請してそっからですね。友達とも知り合いとも違う……何ですかね。
梶原:不思議だね。せっかく小説家と話をしているので、あえてこういう話を振ってみたいと思うんだけど。小説家って、基本的に本質を突いてくると思うし、身も蓋もないことが本質だと思うのですよ。社会通念とかを無視して、「こうじゃないですか」みたいなことを言ってしまうと思うんで。
あえて俺が先に言ってしまうんだけど、家族というか、ありとあらゆるものはファンタジーだと思ってて。幻想だと思うんですよ。ここでこうやっていること自体も、人間の五感を通して、脳が作り出している幻想というかファンタジーというか。
上田:そうですね。
梶原:当然、家族もファンタジーだと思うんですよ。僕は仏教も好きで、仏教の価値観からきているのもあるんだけど。僕は因果というのがすごくおもしろいと思っていて。
今はみんな、当たり前に時間という存在がある中で暮らしているんだけど。「時間ってなんで生まれているの?」という話になったときに、因果はあると思うんですよ。
三次元の空間があって、四次元が生まれるのって……。この三次元から「何か」を基にして次に「何か」が出てくるから、この「差分」が時間な訳じゃないですか。差分というか、これがあって、その次があるという。その三次元空間があって動いている。
上田:変わっているんですね。
梶原:というのが四次元なわけ。専門家がどう言うか知らないですけど、僕はそう思っていて。要は、原因があって、結果があるということ自体が、時間を生み出すんだと思うんですよ。
上田:なるほど。
梶原:それは、僕らが生きている世界なわけですよね。それって、時間がワーっとあって。そのときに、「原因があって結果があるというのが、たぶん世の中のほぼすべてを支配していて。基本的にすべてはファンタジーだと。すべて幻想です。すべてはあやふやなものなんだけど、その中で一番確度の高いものの1つが家族だと思うんですよ。
だって、この人から生まれてきた、物理的に生まれてきたみたいな。因があって果があるという、ものすごい強烈な因果関係の1つが家族だと思っていて。
上田:根拠のあるファンタジー。
梶原:そうそうそう。ファンタジーなんだけど、たぶんその中でも、めちゃめちゃ根拠がある。
上田:根拠が強いほう。
梶原:ものすごく強い。
上田:同級生なんかもそうですよね。
梶原:そうそうそう。
上田:単なる知り合いなんだけど、同じクラスみたいな。
梶原:ということの、めっちゃ強い版なのかなと思っていて。家族って普通に考えたら、血が繋がっているから家族だと言うんだけど。
でも例えば、子供を病院で取り違えてしまいましたって話があるじゃないですか。それでも自分の子供として育てたりということもあったわけで。顔が似てないということに気づくケースもあるけど、基本的にそこってわからないじゃんみたいな。血が繋がっているかどうかすらも。
こういう話って、けっこうあると思うんですよ。だから、当たり前だとみんな思っているんだけど、血が繋がっているとか、家族であることみたいなことをものすごく疑い始めると、いろいろ疑われるんだけど。
だけど、この人から生まれてきた、もしくはこの人に育ててもらったみたいなことは、記憶が個々人で、父親だというのを何をもって父親とするのかというのが曖昧なのとすごい近いと思う。その因果の集積というか、記憶の集積というか。
僕はそういう意味で、結局すべてファンタジーで、その中で因果がすごい強いものって、人間の繋がりが求めるようなフェーズに入ってくる中で、やっぱり家族って絶対に基本だと思うし、大切な人同士が繋がるっていうのは、基本だと思うし。そこで何かしたいなっていうのがけっこうあるんですよね。
こんなこと、たぶん普通の人に言っても、「何を言っているの、この人!」みたいな感じになるんで(笑)。滅多に言わないんですけど。なんか今日、ここに来てくれたような人たちなら、何となく言わんとしていることって伝わるかなって思ってますけど。
上田:過度のファンタジーというか、根拠のあるファンタジーというか。
梶原:すべてがファンタジーなんだよね。
上田:たまたま取り違えた子供が自分の子として育ってきましたと。それはそれでファンタジー。脳の中での記憶ですよね。それも化学反応で。妊娠して生まれてくるっていう化学反応で。どの化学反応をよいとして、どの化学反応をよくないとするのかは少し考えますけどね。
梶原:よくないパターンって何?
上田:わからないっす。とりあえず化学反応とか因果を重視する生物なんです、人間は。極論するとそうなるのかなみたいな。
梶原:なるほど。そういうふうにプログラミングされている存在だと。
上田:化学反応で、「こういう種類の化学反応はよしとします」みたいな。「習性を持っています」というふうに明け透けに言っちゃうと、どういう物語が生まれてくるかというのは。そんな発想で小説を書いてますけどね。
梶原:それはおもしろいね。
量子力学とかでも、基本的には存在ってものすごいあやふやですよね。僕も専門家じゃないし文系なんで、かなり適当なこと言うので、間違っていたら申し訳ないんですけど。
知人が言ってた話で、最新の物理学とか量子力学って、ここに存在しているって言うけど、これは100パーセントの確率ではない。全宇宙があった時に、0.000000000000001パーセントぐらいの可能性でここにあってみたいな。確率でしかないみたいな。ものすごい高い確率でここにあるっていう話らしいんですよ。
上田:たまに空振りするとか。
梶原:わからないけどね。
上田:ごく稀に。1兆回くらいすると。
梶原:ビックバンが起きるかどうかくらいの、ものすごい確率的にここにあるみたいな話なんだと思うけど。そういう話があるらしく。すべては揺らいでいるし確かなものってないよね。
上田:そうですね。
梶原:何が言いたかったかというと、化学反応の何をよしとするかみたいな話とかも、何かこう揺らぎが……うまく言えない。
上田:言わんとしていることはわかる。
梶原:俺らがわかってもアレなんだけど。何ていうかね。
上田:そういうふうに考えていると不安になる。
梶原:まあね。
上田:その不安を物語とか小説の文章にして、慣れてもらいたいみたいな欲望もありますよね。実は、ケンちゃんが思っているようなことって、「不安」じゃないですか。そこまで思い詰めている人って少ない。
梶原:数的には少ない。
上田:そういったものをぐっと飲み込めるような、もしかしたらそういう2兆回取ろうとしたら空振りするよね、みたいなことが、腹に落ちるみたいな。
梶原:なるほど。
上田:書ければいいなと。
梶原:それはおもしろいね。世の中にあるものって、生まれた時からあるものがほとんどだと思うんですよ。
例えば、下北沢だって前からあったし。生まれたときにはテレビがあったし。「本当にあなたが見ているこの世界って、本当にそうなの?」みたいな。「親とか社会から植えつけられている価値観とか、ものの見方って本当にそうなの?」みたいな。なかなか疑わない人がほとんどだから。
上田:最近、また変わってきてますよね。
梶原:たぶん、世の中で一般的に言われている物事の見方とか成り立ちで、本当は違うんじゃないのということはいっぱいあるよね。
上田:まあそうですよね。
梶原:実は揺らいでいるとか。小説家がそれを……。
上田:僕は、ですけど。
梶原:揺らがせる。
上田:揺らぎみたいなものを含めた真実みたいなものを表現して、広げていって、広まったらその認識をベースに、また別のものを書きたい。
梶原:次の次元。
上田:次のステップというか。というのをやりたいなと思っています。どこまでやれるかアレですけども。
梶原:なるほど。そういう意味では、小説で書いているわけだから、小説を読んでくれって話なんだと思うんだけど。
上田:1月には新刊が発売されます。
(会場笑)
梶原:素晴らしい(笑)。何を描きたいの? さっき言ったように、さらに認識を変えたい、揺らがしたいとか、いろいろあると思うんだけど。どんなふうに揺らがしたいのか。「本当はこうだよね?」みたいな。「みんなこう思っているけど、本当はこうじゃないの?」とかいうのはあると思う。
上田:実は他人は関係なくて、僕が思っていることは、かなり揺らぎとか、あやふやという話でしたけど、あやふやなことを思っているので、それを文章にして理解ができる形になるのかという単純な興味はあります。
それが物語になった場合に、世の中に受け入れられるのかどうかみたいなことを、とりあえずやっていきたいという感じですね。
これ大丈夫なのかなというのを作って、世に送り出して、それが「大丈夫だよ」と言われるのか、「そんなのぜんぜんわかんない」と言われるのかを試したい。
梶原:そういう意味では、小説読めよって話になるのかもしれないけど、「大丈夫か」って言われるものって何なの? 表現したいもの?
上田:意味がわかるとか、おもしろいとか、読んで良かったとか、そういうポジティブな感情が出てきたら、何か意味があるなと。
梶原:なるほど。
上田:意味がわからないけどおもしろいとか。それはもう最高ですよね。それが一番。
梶原:意味がわからないけどおもしろい。
上田:よくわからないけどおもしろい。おもしろいんであれば、大丈夫だなと。逆にめちゃくちゃ不快とか。
梶原:そういうもんか。
上田:僕はですけどね。1月に新刊出ますんで。
(会場笑)
梶原:買いますんで(笑)。時間的にもアレだと思うんで。今日はどうもありがとうございました。こんな話で何をおもしろいと思ってもらえたか、思ってもらえなかったか、いろいろあると思うんですけど。こんなわけのわからないこと。従兄弟同士だから話せることでもあったかなとかね。
上田:そうですね。
梶原:もしかしたら、伝わってない部分もあるかもしれないけど、何となく省略して話しても、「わかる」みたいのがあって。ものすごいわけのわからない話もしてしまったかもしれませんけど。そんなところで。
上田:皆さんどう思うかわからないですけど、僕はおもしろかったです。
(会場笑)
上田:ありがとうございました。
梶原:この後ちょっと打ち上げ。懇親会もやりたいなと思うので、ご興味ある方、お時間ある方は、ぜひこの後残っていただいて、たぶんこの近くでサクッと。この続きの話とかもできればなと思っております。そんな感じですかね。
上田:そうですね。
梶原:最後、言いたいこととかあります?
上田:1月に新刊出ます(笑)。もし、サインとか必要だったら、よろしくお願いします。
梶原:僕のサインもよければ(笑)。そんな感じで。師走のこの忙しい時期に本当にこんな従兄弟同士の対談にわざわざ来ていただきまして、本当にありがとうございました。
上田:ありがとうございました。
(会場拍手)
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