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The Psychology of The Button(全1記事)

我慢できる人と衝動的な人はどこが違う? とあるボタンの心理学

あるウェブサイト上に用意された、1つのボタンと、時を刻むカウンター。redditというサービス上で展開されたこのゲームは、世界中の人々を巻き込んだ社会的実験へと発展しました。その中で観測されたある現象と過去の心理学実験から、「忍耐」に関する人間の心理状態に迫ります。(SciShowより)

あるウェブサイトで行われた「ボタン」実験

マイケル・アランダ氏:相手のことをよく知りたければ、その人たちに"ボタン"を見せて、それを押すかどうかを見てみてください。

reddit(レディット/英語圏のソーシャルブックマークサイト)はまさにそれを実施しました。そして実に多くの人が、その巨大な社会実験に参加したのです。

それは私たちに「将来の満足のために目先の欲求を我慢する力」について教えてくれます。

そのボタンはredditのとあるページにあります。そこにあるのは、60秒のカウントダウンタイマーとボタンです。

redditのユーザーが世界のどこかでこのボタンを押すと、タイマーはリセットされます。

クリックできるのは1回だけで、クリックすると「フレア」という色のついた小さい輪があなたの名前の横に表示され、ボタンをクリックした時点でのカウンターの数字が表示されます。

つまり、その数字が小さければ小さいほど、あなたはボタンをクリックするまでに長い時間待ったことになるのです。誰かほかの人に先にクリックされることなく、ね。

これらのフレアの色が、ユーザー間の序列を作るのに、長い時間はかかりませんでした。redditユーザー間の奇妙な"内輪"の論理では、より小さい数字は他人に自慢できるもの、ということになります。

なぜなら、この「小さい数字」は次のことを意味するからです。つまり、少数の人しかボタンをクリックしない貴重な瞬間を見つけるために、あなたがとても長い時間我慢強く待っていたということや、ほかの犠牲を払って真夜中にログインしたことなど。要するに、ほかの人よりも強く「小さい数字」を望んでいたんですね。

あなたは忍耐強かったのかもしれないし、ただ運が良かっただけかもしれません。いずれにせよ、あなたはピカピカの「フレア」を手に入れたのです。

しかし最近、ボタンをクリックする人たちの間の地位が変わってきています。以前より多くの人が参加するようになったため、できるだけ小さい数字を手に入れようと、おそらくより過激な手段が取られるようになったためです。

第1週目が終わった後、ユーザー間での最も良いタイムは35秒でした。そして、そのランクのフレアを持つユーザーたちが幅を利かせていました。しかし2週間が経った頃、ベストタイムは27秒になっていました。35秒で押した人たちは、もう特別ではなくなってしまったのです。

2個目のマシュマロ

忍耐、報酬、満足感。これが私になにを思い起こさせたと思いますか? マシュマロですよ。1972年、スタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェルは、子供の自制心を検査したいと思っていました。彼が研究した心理学は、redditのボタンとよく似ています。

ミシェルと彼のチームは、3歳から5歳までの子供の被験者92人を集め、彼らそれぞれを1個のマシュマロが置いてある部屋に入れました。ミシェルは子供に、「私は少し部屋を出るけれど、私がいない間にマシュマロを食べなかったら、私が帰ってきた時にマシュマロを2個食べられるよ」と言いました。そして15分間部屋を出て、なにが起きたかを見たのです。

全体として、子供は待つのがあまり得意ではないことがわかりました。報酬のマシュマロの数が2倍になったとしてもです。でもなかには、ほかの子供よりも待つのがうまい子供たちもいました。

同じことがredditのボタンでも起きているのです。ただし、redditユーザーの平均年齢は25~34歳で、マシュマロの代わりにユーザー間での高い地位というほうびを与えられるのですが。

ホット・アンド・クール・システム

それでは、なぜ50秒台でタイマーをクリックするのに満足するユーザーがいる一方で、より高い地位に達するために多くの努力を払うユーザーがいるのでしょうか? まあ、これはもともとゲームですので、クリックする全員が真剣に取り組んでいるわけではありません。でもこの違いは、ミシェルと彼のチームが「ホット・アンド・クール・システム」と呼んだものとも関係があります。

クール・システムは、あなたのより論理的な側面のことで、追加のマシュマロなど「待ったほうがよい理由」を思い起こさせます。しかし、ホット・システムは感情、要するに衝動の声なのです。

ミシェルは、一部の人はこの衝動的なホット・システムが誘発されやすく、合理的なクール・システムよりも優先されるのだと提唱しました。これらの人々は自制することに苦労するのです。

数年後にミシェルが被験者を追跡調査した結果、子どもの頃に2個目のマシュマロを待てた人たちは、10代になると計画を立てるのが上手く、より優秀な生徒になっていたということを発見しました。

そして2011年には、ミシェルと新しいチームは、最初の被験者のうち59人をさらなる検査のために呼び戻しました。今度は、ある種の画像によってどれぐらい速く被験者のホット・システムの引き金が引かれるのかを見るためです。

人は楽しそうな顔に対して衝動的かつ感情的に反応する、ということはすでに明らかにされています。

そのため、チームは被験者に対し、画面上に中立顔が現れた時だけボタンを押すように伝えました。

より強い自制心を持つ人々は、楽しそうな顔に対して反応しにくいだろうと考えたためです。この結果、子供の頃に2個目のマシュマロを待てなかった人は、依然として衝動抑制に問題がある可能性が高いということがわかったのです。

脳の活動と自制心の関係性

チームは次に、26名の被験者の脳をスキャンしている状態で、検査を繰り返しました。

そして、いわゆる「目先の欲求を辛抱できる人」、つまり2個目のマシュマロを待てる人は、衝動や自制や行動を脳が処理する場所である前頭前皮質が、より活動的であるということを発見しました。

一方、辛抱することが苦手な人は、下前頭回という嗜癖(しへき)や快感に関連する、脳のより深い部分が高い活動性を示しました。

redditのボタンには、ミシェルやほかの心理学者によって統制された実験のような価値はないかもしれません。でもそれは、人がたくさん集まれば、学ぶべき心理状態がたくさんあるのだということを思い出させてくれます。

さて、問題は、あなたがボタンを押したかどうかです。あなたは何秒だったでしょうか?

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