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マンガHONZ夜話(全4記事)

ヒットした恋愛マンガに登場する男性の共通点は? 「オラオラだけじゃダメ」

マンガHONZのレビュワー陣をゲストに迎えてお送りする「マンガHONZ夜話」2回目。今回のテーマは「甘酸っぱい青春恋愛のマンガ」。まずは、個人的に心に残った青春恋愛マンガの紹介です。そこで、角野氏が『栄光なき天才たち』を取り上げ、実は隠された裏スト―リーに恋愛模様があると解説。ほかにも『3月のライオン』『めぞん一刻』『花より男子』など、幅広い作品を挙げ青春恋愛マンガの裏話やおもしろさについて語り尽くします。また「2015年に年間で最も売り上げたベスト20作品」のランキングを見ながら、売れるマンガの傾向についても分析しました。

『栄光なき天才たち』の隠された裏ストーリー

角野信彦氏(以下、角野):ひとつは『栄光なき天才たち』の、円谷幸吉編。

東海林真之氏(以下、東海林):今日のテーマ、恋愛マンガですけど大丈夫ですか(笑)。

角野:これを読んだ人はいますか?

(会場挙手)

東海林:あっ、いた!

角野:そうなんですよ。あれは、明確に恋愛っていうものが描かれてはいないんですけど。隠された裏ストーリーがあるんです。

兎来栄寿氏(以下、兎来):くみ取っていくわけですね?

角野:円谷幸吉って知ってます? 東京オリンピックでマラソンで銅メダルをとった人。その人が自殺したんですよ。自殺したときの遺書が、名文としていろんな文庫本とかに載ってるんですけど、自殺した理由がわかんなかった。

なぜかっていうのは死んでから20~30年経ってからわかったんですけど。その理由が「この人と結婚したい」っていう女性がいたんですよ。女性の実家の親御さんたちも「円谷幸吉と結婚するんだ」と。

でも、東京オリンピックのあとにメキシコオリンピックがあったわけですよ。そこで円谷幸吉は「もっと活躍しなきゃダメだ」っていうことで、自衛隊体育学校の校長が「結婚したらダメになる」って。昔はそういうふうに言われてたんですよ。「お前は結婚するな、国のために」と。そしたらその女性がそんなに待てないからっていうことで、縁談がバラされちゃって。そしてその直後に円谷幸吉が自殺しちゃったんですね。

兎来:ほ~。

角野:これ、青春懐古厨……?

一同:(笑)。

筧将栄氏(以下、筧):甘酸っぱい、かなぁ……?

角野:どうですか? これ。

兎来:だいぶほろ苦かったですけど。

角野:ほろ苦もちょっとはいいでしょ?

兎来:OKです、OKです。甘いチョコレートケーキばっかりじゃねぇ。ビターなのもちょっと入れていく感じですね。

『3月のライオン』は親族が身内をハッピーにしないマンガ

角野:あとは王道で言うと、僕は羽海野先生の『3月のライオン』はすごく好きですよ。

兎来:いきなり、ド直球で来ましたね(笑)。

角野:あのマンガがいいのは、みなさん気づいてるかどうかわかんないけど。親族が身内をハッピーにしないっていうマンガですよね。

東海林:そうですね。

:完全にそうですよ。

東海林:出てくる家族ほとんどそうですね。

角野:悪いやつしかいないでしょ? 親族。

兎来:クズのようなやつ。

角野:そうそう、クズ。

:1人とりあえずエッジ立ってる人がいますよね。

角野:クズだから、本当に。羽海野先生の作品ってそういうのが多くて。ご自身もそういう経験をされたんじゃないかって予想してるんですけど。そういうところにリアリティをすごく感じていて。身内じゃない人が自分をハッピーにしてくれるっていう世界って幸福ですよ。救いですね。そういう点がいいです。

兎来:ひなちゃんへのプロポーズは最高でしたね。

:ああいうノリでプロポーズしたいですよね。

東海林:最高すぎて、レビューに入れたらネタバレしすぎて消されましたけど(笑)。

一同:(笑)。

東海林:「さすがにあれはネタバレだ」って。でも最高でしたね。

角野:そんなところですか? みなさん。

『めぞん一刻』のようなエッセイ調のマンガはなかった

兎来:後ろの本棚にもいろいろありますけど、語りたいっていうものはありますか?

角野:僕が語りたいのは、『高台家の人々』。

兎来:また、来ましたねぇ。

角野:最近、ノリにノッてるから。『高台家の人々』読まれてないですか?

兎来:もちろん読んでます。『デカワンコ』とか、けっこうドラマ化もバンバンやってらっしゃる先生の最新作で、吸血鬼一族の少女マンガですよね。

角野:「まったく知りません」って感じ。

東海林:むしろ僕は懐かしマンガっていうことなんで、『めぞん一刻』を全巻買って読みました。そういうテーマなのかなと思って(笑)。

:なるほど。懐かしい方がいいですよね、「懐古厨」なんで。

東海林:被ってない、世代が被ってないので。

兎来:『めぞん一刻』は完全に青春ですよね。

角野:『めぞん一刻』は、スピリッツで読んでましたよ。

兎来:リアルタイムで。

角野:「なにが言いたいのかな?」って思いながら。

一同:(笑)。

兎来:週刊で読むとそうかもしれないですね。

角野:珍しいというか。ああいうエッセイ調のマンガは、あんまりなかったですもんね。最後になって急に盛り上がりましたよね。

東海林:あの作者さん、同時に『うる星やつら』を描いてたんでしたっけ?

角野:同時だったかなぁ?

東海林:ほぼ同時かな。確か。

兎来:たくさん描いてましたよね、あの頃。

東海林:すごいですよね。

角野:『アオイホノオ』で何回も出てきますよね、高橋留美子さん。

兎来:あだち充の次ぐらいに、出てくるんじゃないですか?(笑)

角野:「そうじゃないんだ!」っていうね。あの否定力は素晴らしいですよね。

『東京タラレバ娘』は、アラサーの心を刺すマンガ

:あれはどうですか? 『東京タラレバ娘』。

兎来:タラレバ、4巻出ましたね。

:タラレバは恋愛じゃないですか?

兎来:恋愛ですけど……。

:刺しに行く。

東海林:アラサー女子の心を刺しに行くっていう。

:あんまり甘くないですかね。

兎来:あれもほろ苦。まだ30代の話なんで、甘酸っぱいんじゃないですかね?

1990年代最も売れた恋愛マンガは『花より男子』

東海林:下調べを簡単にしてきたんですけど。1990年代に売れたマンガだと、『花より男子』がトップに来ますね。

:調べてきたんですね。すごいですね。

東海林:これなんのランキングかよくわからないんですけど。売れたランキングですかね?

:僕も妹がいて、花男は家に全巻あったので、読んだんですよ。すごくオラオラ系の人が、ずっと告白し続ける、「好きだ」って言い続けるっていうのは、今では逆に描きにくいマンガかなあと思っていて。

若いときに見て、これをちゃんとかっこいいと思えたっていうのが、すごいなと思っていて。オラオラでちゃんと「好きだ」って言い続ける文化を教えてくれたのが『花より男子』かなと思いました。

角野:今で言うと『高嶺と花』。

兎来:そうですね。『高嶺と花』、ここにありますけれども。オラオラ系男子の。

角野:でもこれ(『花より男子』)、何年ですか? 90年?

東海林:92年から2004年です。長かったです。

角野:これ、もう20年以上前?

東海林:そうです。

最近の少女マンガはオラオラだけでは売れない時代に

角野:『花より男子』と『高嶺と花』の明確な違いは、オラオラだけでは、もう誰もついてこなくなったっていうことだね(笑)。

兎来:オラオラがデレる瞬間を見たいわけですよ。

角野:オラオラだけじゃなくて、「ちょっとかわいいじゃん」って、女性が上から目線で言えるようなキャラ設定じゃないとヒットしないっていうね。

東海林:少女マンガは最近わりとそうですよね。オラオラもありますけど、そんなにメジャーではなくなってきている。

兎来:みんなそうですよね、確かに。

角野:日販さんにデータをもらって「売れた1巻対談」っていうのをやって、その時に分析をしてたんですけど。少女マンガはほとんど、オラオラ系が出てきても、抜けてる部分、マヌケな部分、どじな部分、これが3割か4割ぐらい入ってる。これがヒット作の法則でしたね。というような話を。

東海林:僕はオラオラ系は、青春時代に読んでもあんまり刺さらなくて。どっちかというと童貞をこじらせたようなやつのほうが刺さってましたね。

一同:(笑)。

兎来:それは男性目線ですよね。

東海林:こじらせたようなマンガを読んで、余計こじらせるっていうループに(笑)。

兎来:男子校っぽいですね。

東海林:男子校あるある。はまってましたけどね。

:『I"s』をもう1回読み直したんですけど。1巻の最初のとか本当にひどいやつですよね。まったくうまくいってない。

東海林:『I"s』の話で言うと、ネット上だとわかんないですけど。間違いなく「『電影少女』は出てこないのか」とか、「『D・N・A2』が出てこなかった」ってずっと言われてますけど。時代だと思いますけど、いちばん記憶に残ってるのは『I"s』ですね。

兎来:ジャンプにこれが載ってるっていう時代でしたからね。

東海林:『いちご100%』はぜんぜん刺さらなくて、時代がずれちゃってて。

兎来:『いちご100%』は甘酸っぱいですよ。

:『いちご100%』、読み直してみたんですよ。読み直してみたら、すごくモテすぎてて……(笑)。甘酸っぱくはないかもしれない。

一同:(笑)。

:異様にモテてて、ずっと悩んでるだけなんですよ。決めずに。これは共感できないって思ったんですよ。

兎来:いちばん好きな人にモテてないっていうのがつらいところなんですよね。

東海林:やっぱり(ニコ生コメントで)「『電影少女』がない、やり直し」って言われてる(笑)。

角野:それで言ったら、甘酸っぱいのは『きまぐれオレンジ☆ロード』ですよ。

一同:あー!

東海林:やっと「あー!」がそろう瞬間が(笑)。

角野:基本、俺に合わせてくれないと「あー!」は出ないよ。オレンジロード、よかったですよね。オレンジロードが載ってた時のジャンプを愛読してました。『キン肉マン』、『キャプテン翼』、『Dr.スランプ』。

桂正和は鳥山明からアドバイスを受けていた?

東海林:いちばん売れてた時期じゃないですか?

角野:いや、違います。いちばん売れてたのは、『I"s』が載ってる時ですよ。

兎来:600万部時代ですね。

角野:僕らの読んでる頃は300万部ぐらいだったんじゃないかなぁ?

東海林:桂正和さんは鳥山明さんと親しかったみたいで、『電影少女』と『D・N・A2』って、変身して、スーパーサイヤ人状態になっていくじゃないですか。あれは鳥山さんのアドバイスを受けてそうしたらしいんですけど。読者からめちゃくちゃ叩かれたという。「パクリだ!」って。

:へぇ~。

東海林:最近2人で共著出してますよね?

兎来:『カツラアキラ』ですね。

東海林:それに書いてました。「俺、アドバイス受けて描いたのに、なんで叩かれなきゃいけないんだ!」っていうボヤキを。

兎来:世の中は理不尽ですからね。しょうがない。

東海林:ほぼ打ち切りですもんね、あれは。

:おかげでこの名作『I"s』が生まれたわけですけど。

角野:『ウイングマン』までしか読んでない。

:そこまでなんですね(笑)。

年間で最も売り上げたマンガでは少年マンガが多い

兎来今回は、こういうランキングがあるんですけど。こちらは、フルイチオンラインさんで、2015年に年間で最も売り上げたベスト20作品のランキングになってます。

兎来:このランキングについて語ってみたいと思うんですけど。1位『ONE PIECE』、2位『NARUTO』、3位『黒子のバスケ』、4位『弱虫ペダル』、5位『進撃の巨人』と続いていくわけですけれども。どうですか? このランキングを見て。

角野:少年マンガがやっぱり多い感じがしますね。

東海林:そうですね。

角野:ダントツで少年マンガですね。

兎来:やっと11位に『君に届け』が来るんですね、恋愛マンガとしては。

東海林:そうですね。

:これだけちょっと浮いてますよね?

東海林:18位も気になるところですよね。

兎来:18位、『NANA』がここにあるのがすごいですよね。

東海林:ほかのは、ほとんど連載中ですもんね。

兎来:未だに、2015年でも『NANA』が売れるんだなと。

角野:終わってから何年になりますか? これ。

兎来:いや、まだ終わってないですよ。連載がつながってるので、いつ復活するのかなとみんな待ってると思いますよ。

角野:なるほど。

東海林:個人的には『Baby Steps(ベイビーステップ)』を推したいですね。

兎来:『Baby Steps(ベイビーステップ)』もいい青春ですよね。

東海林:なっちゃんが、ひたすらかわいい。

兎来:部活動系青春ですよね。で、14位に『鋼の錬金術師』。ハガレンがまだあるっていうのもすさまじいですよね。

東海林:これも『NANA』と同じで「まだ売れてるんだ!」って。

角野:これ19位は『青の祓魔師』ですか?

兎来:青エクですね。やっぱりこうしてみると、『黒子のバスケ』『弱虫ペダル』『ダイヤのA』『ハイキュー!!』『青の祓魔師』。うん、女性に人気ある作品は大事ですね。

一同:(笑)。

東海林:少年マンガと言いつつ。

角野:女性で少年マンガ好きな人って多いですよね?

兎来:多いですね。『マギ』とかも女性好きですもんね。

角野:少年マンガが多くなるっていうのには、なにか理由があるんですか? 巻数が多いからですかね?

兎来:なるほど、セット買いで。『ONE PIECE』とか『NARUTO』は純粋に巻数が多いですからね。そういう意味では、まだ30巻ぐらいの『黒子のバスケ』が入ってるのもすごいかなと思うんですけど。

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