2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
駐日フィンランド大使マヌ・ヴィルタモ氏 インタビュー(全1記事)
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――フィンランドの人々が一番大切にしている価値観は何でしょうか?
マヌ・ヴィルタモ氏(以下、ヴィルタモ):フィンランドは人口550万人の小さな国ですが、人々は皆この国に誇りを持ち、受け継いできた文化を大切にしています。本当に基本的なことですが、人としての平等、とくに男女平等については社会に根付いた価値観で非常に大事な価値観だと思っています。
フィンランド人の気質を表す言葉に「Sisu(シス)」があります。日本語では「フィンランド魂」と訳されることもありますね。何事も粘り強く責任を持ってやり遂げようとするスタンスを指します。歴史をたどれば、フィンランドはスウェーデンやロシアに支配されていた時代もありますが、「Sisu」の精神で周辺国からの独立を果たしました。
常に他者に対してオープンで、正直。一度交わした約束を必ず守るという誠実さもあります。フィンランドの文化の根底には、互いを信頼し合う心があるのです。私は、日本人にも同じような精神性を感じ、親近感を持っています。
――いろいろな方にお話をうかがってる印象だとフィンランドの方は、まず正直で。本音や建前ではなく、正直に物を言う。約束したことは守る。こういった印象を持ったのですが、それは間違いではないでしょうか。
ヴィルタモ:フィンランド人に「本音と建前」はないです(笑)。どちらかというと「Straightforward(単刀直入)」というよりも、「Openness(隠し事がない)」というふうに言ったほうがいいと思います。
ただ、フィンランド人はどちらかというと人を信じ過ぎるという側面があり、自分たちがするように他の人もするのだと理解をして。それがトラブルになったりすることも時々あります。
――ストレートにコミュニケーションを重ねるからこそということですね。
ヴィルタモ:そうですね。
――ありがとうございます。
――では、次の質問に移らせていただきます。
国連の発表した幸福度ランキングでフィンランドが第6位。これは2015年に発表されたデータなのですが、世界でも幸福度に関してはかなり高い国であるという評価をされていますが、その源にはどういったものがあるとお考えでしょうか?
ヴィルタモ: 今の状況というものに満足をしており、将来のことを望み過ぎないというのも幸福度を高めている1つの理由だと思います。社会で大きくドロップアウトということも非常に少ないですし、生活水準もある一定のところで国民全員に保障されています。
その中で誰もが趣味を持つこともできるし、社会の格差もそんなに大きくありません。そういう意味でいうと羨望というか、格差を羨んだりっていうような、他の人を羨んだりすることがないような社会になっていると思います。
――ありがとうございます。では、働き方という部分でも1点ご質問をさせていただきたいのですが。ワークライフバランスということが日本ではずっと言われていまして。
しっかりと仕事で成果を上げながら、自分のプライベートな時間を確保するという、この産業の先進性と十分な余暇を両立してフィンランドの経済全体が発展している理由というのをおうかがいしたいなと思っています。また、日本人がそうしたワークスタイルを取り入れるために、どんなことが必要と大使はお考えでしょうか?
ヴィルタモ:フィンランドでは昔から、男性も女性も社会の第一線で活躍しています。振り返ってみれば、私の母も祖母も曽祖母も職業を持っており、女性が働く基盤ができていたのだと思います。少ない人口で国を発展させていくためには、男女関係なく働かなければならないという側面もあったのでしょう。「男女同権」の文化は、こうした歴史的な経緯の中で培われてきたのです。
社会全体で男女が仕事をシェアしているので、過剰な長時間労働は必要ありません。夫婦やカップルは「チーム」という意識で、家事を分担して家庭を支えています。共通の趣味を楽しむ夫婦も多いですね。私と妻のリーサは音楽が大好きで、よく2人でコンサートに出かけます。
余暇の時間を大切にしているのもフィンランド人の特徴でしょう。太陽の光が長く大地を照らす夏、私たちは1カ月の長期休暇を取得し、自然を満喫しながら家族とともに過ごすのです。そのため、フィンランドには約50万戸ものサマーコテージがあります。
日本人の方がフィンランドから何か学ぶことがあるとすれば、やはり男女が均等に仕事をして、男女が均等に家の仕事をする。男性もそんなに長く働かないで、家に帰ってちゃんと子どもの相手をするし、家事もするというようなバランスの取れた働き方が必要なのではないかなと思います。
――ありがとうございます。日本も人口どんどんこれから減っていくので、、必然的にそういうことが必要になっていくということですね。
――大使からみて、日本人にもっと知ってもらいたいとか、魅力的な場所がもしあればご紹介いただけますでしょうか。
ヴィルタモ:日本人のツーリストについては、非常にポジティブな印象を受けており、より多くの日本人に来てほしいと思っておりますが、その多くは、首都のヘルシンキのエリアと北極圏にあるラップランドにかなり集中しています。実は、その中間のエリアにも小さいけれど魅力的な町や美しい湖があり、静かな環境の中で素晴らしい風景や自然を楽しむことができます。
また、夏には多くの町でサマーフェスティバルや世界的にも有名な音楽のフェスが開催されます。ぜひそういったイベントにも参加して欲しいと思います。
――ありがとうございます。
――では、大使が日本にいらっしゃってから感じた部分ということで。フィンランドと日本での習慣の違いというところで印象的だったことを伺わせてください
ヴィルタモ:伝統文化が現代の生活にも根付いてるということが大きな驚きでした。2014年の10月24日に鎌倉の流鏑馬(やぶさめ)に招かれました。実際に弓や馬を触らせて頂いたり、審判席に座らせていただいて、流鏑馬をしているところを見ることができたというのは、私も妻も非常に良い体験としてよく憶えています。
もう1つ驚くことは日本人の際立った礼儀正しさ、非常に素晴らしいホスピタリティを持っているところだと思います。フィンランド人もどちらかというと礼儀正しい人たちなのですが、日本に来日した直後は、地下鉄に乗るとやっぱり迷うことがありまして。
そういう時でも地図を開くと必ず誰かが来て、案内をしてくれたりというようなことも度々ありました。私は、麻布十番に住んでいまして6、7分ここまで歩いて来るのですが、その歩いてくる途中に工事現場があり、警備員の方が「おはようございます」と挨拶をしてくれるのです。
また角に行くと、韓国大使館の前に24時間立っている警察官が挨拶を、しばらく行くと、掃除をしている女性が、また、次の工事現場でも、最後には古いお寺とお墓のあるところでも挨拶をされたりというような。こういうことはちょっとフィンランドでは起こりえないことなので、非常に驚きます。
――日本にも参考になりそうなフィンランドの習慣というのはありますでしょうか?
ヴィルタモ:1つ言えることは、学校教育システムだと思います。例として非常におもしろいのは、教育レベルを測る1つとしてOECDの学習到達度調査(PISA)の結果です。フィンランドは、過去非常に良い成績を納めていたのですが、この頃はちょっとランクを落としています。それに比べて、日本はだんだんランクが上がってきているのですよ。
OECDの国際成人力調査(PIAAC)という大人向けの調査では、日本人は読解力と数的思考力で1位、ITを活用した問題解決能力が10位でした。一方でフィンランドがすべての項目で2位でした。
これらの結果は、日本とフィンランドの学校教育の最大の違いを反映しているのかもしれません。日本の学校は授業時間が長く、宿題もたくさん出ると聞きます。一方、フィンランドの授業時間は比較的短く、生徒自身が遊びなどを通して、問題解決能力を含めたさまざまなスキルを伸ばす余裕があります。
日本とフィンランドの学校制度は異なるようですが、それによってもたらされる結果はどちらも良いようですので、互いに学びあえるところがあるのではないでしょうか。
――ありがとうございます。では、今後フィンランドが国家として重要視していく課題を教えて下さい。
ヴィルタモ:日本も同じ問題を持っていると思いますが、「高齢化」はやはり大きな課題です。
人口が高齢化すれば、雇用人数は相対的に減少します。となると、フィンランドをはじめとした北欧諸国の福祉制度を維持するのにさらなる課題が生じます。また、増える一方の公債というマイナス傾向も逆転させなくてはなりません。これは、フィンランド政府にとって大きな課題の1つです。
フィンランドは貿易依存度が高い国です。私たちは国際市場におけるフィンランドの競争力を見ながら、必要であれば産業基盤の調整を試みるという難題に直面しています。
ですから、もっともっと起業する。新しいアントレプレナーシップというか、スタートアップを育てていくということが国としては非常に大事なことだというふうに思っています。
フィンランドでは8年前から「SLUSH(スラッシュ)」という、スタートアップと投資家のマッチングイベントをやっております。
最初は規模が小さかったのですが、前回、フィンランドで開かれたSLUSHには1万5000人が集結しました。「SLUSH ASIA」という、アジア版も昨年始めて開催されました。去年は3000名の参加、今年は5月に開かれるのですが、少なく見積もっても6000名参加するのではないかなと思っております。
このような国をあげての努力をすることで、産業基盤を変えていくというのは非常に大きな課題だというふうに思います。
――ありがとうございます。日本と共通した部分が本当に多いのかなと思いますね。
ヴィルタモ:そうだと思います。
――ありがとうございます。
――では、ちょっとガラリと変わりますが(笑)。ちょっとプライベートでパーソナルな部分での質問を少しさせていただければと思います。昨年、ご夫人リーサ様と結婚40周年を迎えられたということで、メディアで一部出ていましたが。夫婦円満の秘訣は何でしょうか。
ヴィルタモ:聞いていただいて、ありがとうございます。これも、1つは男女平等に関することになりますね。というのは、私共は夫婦としてチームとして協力をしていると感じています。
もうフィンランドから離れて20年近くも海外に住む経験を持つなかで、海外の違う環境のなかで暮らしていくので、やっぱり結束が強くないとやっていけなかったという、そういうような環境が結束を強めたということも関係あると思っています。
実は、私どもは非常に若い時からお付き合いをしまして。1971年に初めてのデートをしまして。よく覚えているなと思いますけれども(笑)。75年に結婚をして、それから40年。そういう意味ではかなり若い時からチームとしてやってきたということがあります。
――ありがとうございます。この「夫婦=チーム」という考え方はフィンランドの皆さんは一般的にそういった認識で、いわゆる家族というか家庭を運営されてらっしゃるんでしょうか?
ヴィルタモ:一般的に言ってそうだと思います。ただ、一方でフィンランドは離婚率が高いというのもまた事実です。チームとして動けるのは夫婦が同じ趣味を持っている場合が多いのかもしれません。
フィンランドには550万人の人口がいて。サウナが200万あり、サマーコテージが50万あります。フィンランド人30人に1つの湖があると言われています。
夏になると夫婦でサマーコテージの準備を一緒にする、というような共通の行動があり、カップルが1つのチームという感覚をもてるのではないかと考えています。
一方、日本を見ると、あまり同じ趣味を持っていないというか、週末であっても結構みんなバラバラに過ごしていることが多いようです。私が、妻と一緒に銀座へ行ってコーヒーを飲んでいても、周りにいるのは全部女性みたいな、そういうようなこともあったりしますので。
そういうような「同じことを一緒にやる」というのが1つの秘訣だと思います。
――大使ご自身も奥さんと共通の趣味というのはお持ちなのですか?
ヴィルタモ:実は私は、非常に音楽が好きで、妻も音楽が好きです。妻はクラシック、私はロックが非常に好きということが共通の趣味になります。コンサートには一緒に行きます。また、週に2、3回はトレーニングジムに一緒に行きます。
あと、残念ながら実は妻とシェアできない趣味が1つありまして、それは写真です。これは一緒に歩いていても、私がすぐ止まって写真を撮るので、妻にとっては非常に迷惑なのだろうと(笑)。
――やはり、それだけ多くの時間を一緒に過ごされているっていうことですよね。ありがとうとうございます。
――では、先ほどのご質問と少し重なりますが先ほどヘルシンキやラップランドだけではなくて、数多くの町が魅力的だと、大使はおっしゃいました。
大使の個人的なおすすめの場所など、特定の場所などですね、ご紹介いただけるものがもしあれば、教えていただきたいなと思って最後にご質問させていただきます。
ヴィルタモ:ヘルシンキから40キロのところに、650年の歴史を持つポルヴォーという古い、小さな町があるんです。よく夫婦でドライブをして、静かな環境の中散歩をしたりします。
夏の間、このポルヴォーには汽船が出ているんです。ヘルシンキの中心部にある港から、片道4時間かかります。多島海にあるヘルシンキの湾らしく、非常に島が多いのですが、非常に気持ちよいクルーズを楽しめます。
そのほかに、トゥルクという町があって。これは以前、フィンランドの首都だった古都になります。この町なんかも非常に良い町ですし。北のほうにヘルシンキから160キロほど行きますと、タンペレという町があって。
ここは非常に文化的な町で、博物館なども非常に多くあります。タンペレ周辺のエリアもタンペレの町自体が大きな湖に挟まれた環境にありますので、非常に自然環境に恵まれております。
まだまだいっぱいあります(笑)。
――ありがとうございます。
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