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第25回夏期特別講習!『俺たちはピクサーに勝てるのか!?~ハードコア性善説の偉大なる衝撃スペシャル!!』(全5記事)

「どうでもいいやつから恐竜に食われていく」 映画『ジュラシック・ワールド』を解説

漫画家・山田玲司氏が、映画『ジュラシック・パーク』と同シリーズの4作目『ジュラシック・ワールド』について解説していきます。『ジュラシック・パーク』の原作はもともと重いテーマがこめられた小説だったにもかかわらず、スピルバーグ監督はエンターテイメントとして振り切ります。コリン・トレボロウ氏が監督を務めた『ジュラシック・ワールド』もエンターテイメント性が強い物語となっており、登場人物一人ひとりのドラマを描かず、どうでもいい人物から次々を恐竜に食べられる描写が続きます。山田氏はこのような映画の作り方をテーマパークのライドマシンに乗るような「遊園地映画」だと例えました。このような映画が登場するようになった時代背景とは? 映画ファン必見の内容となっています。

80年代の映画はとりあえずNYに行く

山田玲司氏(以下、山田):『ジュラシック・パーク』大好きじゃん俺。『ジュラシック・パーク』1・2・3。俺、意外と3まで楽しんでる。

おっくん:え、俺1サイコー派。2はビミョーだったな。

山田:T・レックス、NYへ行く。続編っていうと80年代はとりあえずNY行くんだよ。

おっくん:『星の王子』もそうだし。

山田:そうそう、とりあえずNY行くんだよ。

おっくん:『クロコダイルダンディ』も。

山田:みんな1回はNY行かなきゃいけないんだよ。その後、もっと強いやつが現れるっていうのが3なんだよな。そんな感じなんだけど、『ジュラシック・ワールド』。

おっくん:行ったの!? もう行ったの!? 俺に内緒で!?

山田:……彼女か! 電話してLINEで確認か!? 「先に行っても良い? 俺、ネタバレしないようにするからさ」って(笑)。

おっくん:まあまあ、僕も絶対見に行くんすけど。

山田:でこれもね、カッキー(天才編集者・柿内芳文氏)とざっくり話してたんだけどね、言ってみれば、遊園地映画なんだよね。はっきり言うと。

おっくん:遊園地映画?

山田:要するに、テーマパークのライドもの。最近すごくその手のものが多くなってるね。『トゥモローワールド』もそうだったけど。結局ライドマシンに乗ってみるやつ。スターウォーズのスターツアーズみたいなやつを2時間見る感じ。

おっくん:はー。うんうん。

山田:みたいな映画が多いんだけど、『ジュラシック・ワールド』は監督スピルバーグじゃないじゃん。職人監督がやってるわけだよ。今までコメディとかしか撮ったことないやつが大抜擢。「おい、お前がやんのかよ!」みたいな感じで。

そういうやつに限って「ヘイヘイ、皆さんの大好きなアレを作れば良いんですよね?」みたいな感じになってるんだよ。「ハイハーイ、余計なことしませんから、俺を主張とかしませんからねー」みたいなやつ、ちゃんとやってんの。しかも全っ開で。全力で。

それで、おもしろいのが、いわゆるヒーロー役ってマッチョなカッコイイおじさんが出てくんじゃん。あれがだよ、あいつですから。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のスター・ロードだからね。

おっくん:?

山田:見てねーのかよ!

おっくん:……!?

山田:だから、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のおかげで今大人気俳優なの。ワールドに出てんの、あいつが。スター・ロードってすんげー空っぽなヒーローの役なわけ。ぼーっとしてるわけ。そのまんま、『ジュラシック・パーク』出てんの。

どうでもいいやつから恐竜に食われていく

おもしろいのが、マイケル・クライトン不在なわけよ。マイケル・クライトンが書いた『ジュラシック・パーク』っていろんな重いテーマがいっぱい入ってるんだけど、まさかのエンターテイメントに振り切ってたんだよ。

スピルバーグが撮ってるのがすごい良くて。スピルバーグって何監督ですかって話なわけよ。もうね、ドキドキ屋さん。あの人。あの人ね、ドキドキ屋さんなんだよ。初めてジュラパ見ると……。

おっくん:ジュラパ!?

山田:みなさんお馴染みのジュラパですよ! もーねー、あの「恐竜来ますよー」って言ったときの、顔グアー寄って、「ズーン……」恐竜の音が遠くでするみたいな。足跡で水たまり、それが(恐竜の)振動で揺れる〜、ガサガサって(木立が)揺れる〜で何かが来てる! どうなっちゃうの? どうなっちゃうの!? で、車がガラスの向こうにバッと現れて懐中電灯当てると目がギョロッ。……あれ、全部ドキドキパッケージ。だからあれライドなんだよ。

おっくん:確かにそうですね。

山田:ドキドキ、ドキドキ……えぇっ? どうなっちゃうの! ……危なかったー。こいつ嫌なやつだよねー食われたほうが良いよねー、食われたー! みたいなのね。

おっくん:トイレのやつとかね。

山田:で、『ワールド』ですわ。とにかく、物語が一応あるんだけど、どうでも良い。もうねー、出てくるキャラクターで全員「まー、そういうこともあるよねー」って。こいつどうでも良くない? みたいな。でね、どうでもいいやつ感が高い順に「パクッ」「パクッ」って可哀想じゃないのもう。もうフラグ立つの。

だから「あ、この女ムカつく」ってなったら、ポーンっていなくなって「パクッ」(笑)。これがまた生意気なキャリアウーマンが出てるんだけど。子供とか頼まれてるけど相手しないでスマホ見てる系の、タイトスカートでハイヒールのやつが出てくるんだけど、これがまた気持ち良い〜食われ方するんだよ。

もー、たまんない。シャチに食われるオタリアみたいな感じ。もう、すごい感じでいい感じでしたよ。

おっくん:いい感じだったの?

山田:ここで怒っちゃだめだって話なんだよ。もうこれ多様化なんだよ。誰でも見れるような映画を作ろうと思ったら、一人ひとりの人間ドラマに圧を加えると簡単に食えなくなっちゃうじゃん。

おっくん:あ、まあまあ。悲しいから。

山田:そう。そんで、みんな楽しい遊園地で遊んで「わー危ない! わー、食べられちゃった! 怖かったー! あー助かったー! 良かったねー」みたいな感じで帰れるやつ作りますよっていう感じで受けた監督が職人の仕事をしたって話なの。ここで怒って、「そもそも遺伝子は……みたいな話はないっすよね(笑)」みたいな話なんだよ。

おっくん:1というかオリジナルに込められた。

山田:逆にいうと「オリジナルすごかったなー。全部入れてたんだなー」ていう感動。

おっくん:消費税のアレ(作品の中には作者の主張は3パーセントしか入れない)みたいな。

山田:そうそう。俺、スピルバーグで思い出したの。スピルバーグって、出てきた時にどんな状態だったかっていうと、その前にヌーベルバーグなんだよね。ゴダール時代だしニューシネマ時代なの。『俺たちに明日はない』みたいな感じなの。

「未来に向かって行くぜー!」ってバーンバーン! って(撃たれて)殺されました、みたいな。そこでエンドロールみたいな。「ちょっと待てよ」っていう。これを若いやつらがみて「これが人生」みたいに(煙草ふかして)カッコつけてたんだよ、団塊世代は! ハードボイルドぶって。

それが一度あって。それの1個前はウェルメイド時代じゃん。だからヒッチコックとかベン・ハーみたいなやつ。あれを見てたんだよ、スピルバーグは。で、ディズニーの初期も見てたし、クロサワも見てたわけ。そうすっと見世物って良いよね、エンターテイメント良いよねーってところから『激突』でバーンと出てくるの。だから、「怖いよ怖いよ怖いよードーン!」みたいなやつ。みんなが楽しむ、ガー引っ張るみたいな。こっからの流れなんだけど、一応ピクサーまでいきますけども。

おっくん:映画史なの? 今日は(笑)。

90年代の映画史

山田:ピクサー登場までの流れなんだけど、もう1回ね、ただのエンターテイメントじゃつまんないって流れもくるんだよ。ルーカス・スピルバーグ時代があった時に、その後90年代に入るとタランティーノが登場するわけ。フィンチャー、タランティーノって出てくるの。覚醒系の、俺系映画が出てくんだよ。「オレオレ映画」が出てくるわけよ。

ここに、あのクローバーフィルムズとかあのインディペンデント系とか、低予算系とかていうのが出てくるわけ。カメラ1台で撮っちゃいましたみたいな。そういう風に90年代ガッと広がるの。

おっくん:スパイクなんとかとか。

山田:スパイク・リーはちょっと違うんだけど。まあ遠くないかな。そこに、あの本格的作家系エンタみたいなのでノーランみたいなのが出てきちゃうんだよ。

おっくん:クリストファー・ノーランみたいな。

山田:クリストファー・ノーランもそうだね。あいつオレオレ系のクセしてウェルメイドだし、エンタテイメントなんだよ。『ダーク・ナイト』みたいな。「みんな大好き」ってなっちゃった、みたい。そんで最近どんなかっていうと、エンタ系のジェームズ・ガンみたいなのが出てくるわけよ。

おっくん:?

山田:あいつ肩の力が抜けて脱力系なわけよ。だから「大作とかテーマとか良くね?」みたいな。それがあの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『パシフィック・リム』とか。

おっくん:あ~『パシフィック・リム』ね!

山田:そうそう。で、俺は見てて、おもしれーなと思ってるわけ。だって、大バジェットで娯楽っていうものに対して「いや、オレはオレ」っていうやつがガンガン戦ってんの。ゲリラ戦みたいになってんの。これおもしろいじゃん。

安心コンテンツはスーツ野郎が作ってる

山田:ここに来てもう1個、「スーツ野郎お仕事系映画」っていうのがあって。

おっくん:スーツ野郎お仕事系映画!?

山田:スーツ野郎が! 仕事のためにだよ! アートの世界に入ってきちゃいましたってやつだよ。だからこれがハリウッド版ゴジラとかそうなんだよ。実写版ヤマトとか、ドラえもん3Dとか実写ルパンとか、そーいう日本映画がいきなり増えるんだけどさ、でも日本映画じゃなくても、向こうもいっぱい……。

だからなんて言うのかな、投資家が、新作なんか読んでもわかんない。だから「あれの続編ですよ」「スーパーマンを再解釈しまして」こんなんだよ。「あー、それいけんじゃない?」みたいな。あれですよ、CRですよ。

おっくん:CR?

山田:CRウルトラマン。それだったらみーんな知ってんだから大丈夫つって投資家がお金を出すっつってみんなそうなっちゃうから思い出産業になっちゃうわけだよ。

おっくん:安心コンテンツですよね。

山田:だから安心コンテンツはスーツ野郎が作ってるんだよ。

おっくん:ビジネス。

山田:そう。そんで「どーすんだ、これ?」みたいな感じになっちゃうわけだよ。スーツ野郎が頑張ってるともう映画館行きたくなくなっちゃうんだよ。

おっくん:まあねー。

山田:だからリンクレイターみたいなやつがいると、「おいおいゴメンよ」っていうさ。

おっくん:僕の大好きなイーストウッドはどこにいるんですか。

山田:イーストウッドですか。あー、ごめん、あんま詳しくないな。

おっくん:それは中二ナイトニッポンでやりましょう。

山田:そんでさ、そこにさ、ちょっと待てと。スーツ野郎にやられてないやつもいるよなって。日本だとアニメとかドラマとかは完全にスーツ野郎に食われてんだよ。

おっくん:へー。

山田:だからテレビドラマの映画版みたいな。

おっくん:なんか急に漫画原作がやたら多くなりましたよね。

山田:これ投資家が動くかどうかの話だから。制作委員会がお金集められるかだから。そしたら「『怪物くん』どうですかねー?」「『怪物くん』今の子供もウケるかもー。もうジャニーズ乗っけちゃえば大丈夫ですよー」。

おっくん:あー。

山田:スーツ! スーツ! スーツ! ……もうそれいいや。

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