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若い世代へノーベル賞科学者からの提言 ~科学技術で次の時代を切り開け~(全5記事)

「経験は最高の師」 青色LEDの赤﨑教授の好きな言葉に込められた想い

ノーベル賞科学者の赤﨑勇氏と山中伸弥氏が、「若い世代へノーベル賞科学者からの提言〜科学技術で次の時代を切り開け〜」と題した対談に出演。国立研究開発法人 科学技術振興機構主催で2016年1月9日に開催された対談では、最先端の研究を切り開いてきた研究者の視点から、日本の科学技術のあり方や、世界を先導するオリジナリティの高い研究に、挑戦することの面白さを若い世代に向けて発信。このパートでは、山中教授を支えた研究室のメンバーについて語られた後、会場の学生の質問に回答。両教授が好きな言葉と、そこに込められた想いを語りました。

山中教授を支えた研究室のメンバー

辻篤子氏(以下、辻):山中先生の場合は高橋先生ですね。

山中伸弥氏(以下、山中):わりと今の天野先生と近いような感じだったなと。高橋君は僕の最初の大学院生で、2000年に自分の研究室を初めて持って、最初に3人大学院生が来てくれたんですが、そのうちの1人が高橋君なんですね。

僕の研究室は定員が3名だったんです。先ほどの体の細胞からそれを逆戻ししてES細胞を一緒につくろうというような壮大な研究室の目標を掲げましたところ、20人ぐらい希望してくれたんですが、3名しか枠がない。

そういうとき、その大学のルールで、入試の成績の上位の人から希望のとこへ入れると。そこに入れないと第2希望とか第3希望になってしまうということで、最初20人希望があったんですが、真ん中の海保さんは入試の成績が2番だったんですね。

徳澤さんは4番だったので、この2人は希望してくれた20人中の成績が1番と2番ですから、もう絶対入れる。

で、あと1枠しかない。そうすると学生さんもいろいろ駆け引きをするわけです。入試の成績は大体教えてもらえますから、自分が入りそうかどうかというのを、彼らも一生懸命探って、「どうもこれは駄目だ」と思ったらさっさと第2希望に変えるんですよ。そうしないと第2希望さえ入れなくなってしまうかもしれないので。

だから海保さん、徳澤さん以外はどんどん抜けて、5、6名になったんですが。高橋君は、成績はまあまあ。

(会場笑)

というのも彼、同志社大学工学部出身なんですね。全然違う分野から来てるから、入試の成績はそんな上位になるわけがないんです。

だから普通だったら、彼ぐらいの成績だったら、もう僕のとこは駄目だとあきらめて他の第2希望に行くはずなんですが、彼だけは、「いや、山中先生。僕は少しでもチャンスがあるんだったら、先生のとこを最後まで第1希望にします」と言いきって。

それだけじゃないんですが、彼と面接したときに、こっちが何かほれ込んでしまいまして。「ぜひ彼と一緒に研究したい」と思って、何とか第1希望にしてよというのでふたを開けたら、3番目の枠に残って入ってくれたんです。

若くて元気なメンバーが最初にいたのはラッキーだった

山中:これは本当に偶然かもしれないけど、僕にとってはdeterminedといいますか、何か決まってたものじゃないかなというような出会いだったんです。

だから入ったときは海保さん、徳澤さんのほうが圧倒的に知識もあるから、最初は高橋君なんかとんでもない失敗をよくやってて、この女性2人に助けられながら何とかやっていた。

ところが1年ぐらい過ぎると、もうどんどん頭角を現して、卒業するときには最優秀学生賞をもらって、本当に乾いた砂が水を吸い取るかのようにどんどん、どんどんやっていきましたね。

この徳澤さん、海保さんがいろんな実験形をつくってくれて、最後の仕上げを高橋君が見事にやってくれたんですけれども、彼じゃないとずいぶん遅れたんじゃないかなと思います。

赤﨑勇氏(以下、赤﨑):ああそうですか。

:まさに若い力が生かされたということですね。

山中:こういう人がいるから先ほどのいつ成功するかわからないことでもやり続けれたといいますか。自分だけだったら本当にもう落ち込んで無理だったと思うんですが、彼らがやっぱり若いし元気だし、本当にこういう人がこの3人が最初に来てくれたっていうのはラッキーですね。

経験は最高の師

:それではここで、本当若い方たちからもう本当に全国から若い方たちが来てくださっていて、その中から直接何人かの方に先生方に質問していただこうと思います。本当にその代表ということで一番最初小学校5年生ですか、◯◯さん。

質問者1:絶対にあきらめないで続けられた先生の好きな言葉を教えてください。

赤﨑:これってよくどなたが最初に言い始めたのかわかりませんが、昔からよく言われてることなんですね。これは私の実感です。

アインシュタインっていう有名な先生を知ってますか? 何か別な本で読んだところでは、アインシュタイン先生も同じような表現をされていたことがあるそうです。言い方はちょっと違ってるんですけど。

要するに、何かをやろうと思ったときに、いろんな経験だとか失敗だとかするんですけど、失敗しても「何で失敗したんだろう?」と振り返ると、それは1つの自分の糧になるんですね。これは私の好きな言葉。経験したことから言っても、この言葉を挙げたいです。

よろしいですか?

:はい。では山中先生お願いします。

山中:僕は自分のモットーというか、自分を励ます好きな言葉いっぱいあるんですが、小学校ですよね、どう見ても。だから小学生用だったら「高くジャンプするためには、思いきり屈まないと駄目だ」というのを何かの本で読んだことがあって。

当たり前なんですけども、やっぱりすごく苦しいときは、低くなってるときですよね。テンションも下がるし。でもそれって、実は次に高くジャンプするための準備として小さくなってるだけだと。

ずっと小さくなるんじゃなくて、「次は飛んでやるぞ」と。小さくなればなるほど高く飛べるということで、それを紹介します。

:いいですか? ありがとうございます。

優秀な女性が活躍できる社会を

:それでは次は2人目の方。結局大変たくさんの、この講演会でたくさんご応募も頂いたし質問も本当にたくさんあるんですけども、先生方ともご相談して結局4人の方からしか直接ご質問は頂けないんですけれども。

では2人目の今度は中学生の◯◯さんです。

質問者2:日本からも女性のノーベル賞受賞者が出るようになるためにはどのようなことが必要だと思われますか?

:はい。最近日本人のノーベル賞受賞者が続いて、僕も私もと思っている方たちが、多分この中にもいらっしゃるかと思います。

そういう方からの「ノーベル賞を取るにはどうしたらいいですか?」というような質問もありまのしたので、その辺りも含めてお答えをいただければと思いますが。

山中:女性に限って言いますと、僕の研究所の大学院生は、もう半分ぐらい女性なんですね。非常に優秀で、男性より優柔じゃないかなと思う子のほうが多いんです。でも教員、教授は私たち20数名いますが、女性は1人だけなんですね。

結婚、出産、子育て等があって、一方で研究者の競争があまりに激しくて、今は家にいてもコンピューターでいろんなことできますから、本当に起きている間ずっと研究しているような感じになっています。そういう意味で、社会のシステムを変えていかないと。

僕、このあと飛行機に乗ってアメリカに行きますけれども、毎月アメリカに行って、向こうでも研究してるんですね。アメリカだと、もう教授も半分ぐらい女性だし、学長とか企業のトップも女性が半分に近いぐらいおられるんですね。

日本も優秀な若い女性が本当にたくさんおられるわけですから、社会の構造として女性が活躍できる社会になってましたら。僕も2人娘がいますが、社会としての努力が必要だと思います。

自然が教えてくれることは多い

山中:あと男女かかわらず、ノーベル賞というのは、やっぱり人と同じことをやっていたのでは絶対もらえないと思うんですね。僕も自分が受賞するなんて夢にも思っていませんでしたけれども。

人と違うことをどうやって見つけるか。人と違うことを見つけるためには、まず人が何をやっているかをきちっと勉強する必要があって。他の人がどこかでやっていること、たくさんの人がやっておることをやっても、これはなかなか難しいかもしれません。

まず、さっきの「型なし」「型破り」じゃないですが、型をしっかり身につけるっていうことが大事で、その上でどうやって型破りなことをやっていくかですね。

先ほどの「経験が一番の師だ」という赤﨑先生のお言葉がありましたが、いろいろ実際をやってみると、自然が本当に意外な答えを返してくれることがあって、それはすごいチャンスだと思うんです。

人間が考えることってたかがしれてるから、なかなかユニークなことを考えつかないんですが、自然というのは、もう本当にわからないことだらけですので、実験をやってみて、自然に問いかけると思いもかけないことを返してくれることがありますので、それがすごくチャンス。

そういうことを追究していったら、もしかしたらノーベル賞につながるかもしれません。

自分で考えて本当にユニークなことを思いつくような天才的な人は大丈夫かもしれませんが、あんまりそういう人はいなくて。僕も全然そんなではないですし。でも、自然が教えてくれることは多いんじゃないかなという気がします。

学生との対談でたじたじになった経験

:赤﨑先生はいかがでしょうか?

赤﨑:私も同じような考えを持ってるんですが、私のまわりにも女性の方で優秀な方がたくさんいらっしゃいますので、これから男女問わず日本からノーベル賞受賞者が出るんじゃないかと期待しています。

ただノーベル賞というのは結果としてついてくるもので。ノーベル賞を取るための研究というのもあってもいいかもしれませんけれども、少なくとも私どもの場合は、そうじゃなかった、ということなんだと思います。

身のまわりを見てますと、最近では少ないとはいえ女子学生も増えてきておられて、中には非常に優秀な学生さんがいて。去年の正月ぐらいでしたか、何人かの学生さんと対談したんですけど、こちらがたじたじになるような感じの質問がだいぶありました。

自分の若い頃を考えると、「とてもあんなことはできなかったな」というような感じがするので、先ほど山中先生がおっしゃったことは非常に重要な要素ではあるんてすが、結果としては、少しずつ続いていくんじゃないでしょうか。

そういう具合に、また期待したいと思ってます。

:はい、ありがとうございます。

石清水八幡宮の記念碑に刻まれたエジソンの言葉

:それでは3人目の方。今度は高校1年生の◯◯さん、お願いします。

質問者3:先生方が研究を進めていく上で、医学や物理学などの専門分野以外で大きな発見や考え方のヒントを得た他分野、例えば文学とか歴史とか古くからの言い伝えとかがあればお話しいただきたいです。

赤﨑:これは強いて訳せば「天才とは1パーセントの霊感と99パーセントの粘り力」ということで、あの有名なエジソンが言ったということは私ずいぶん前に聞いてましたけど、実は数年前に京都の南の石清水八幡宮というところに行く機会がありました。

前からあそこにあるというのは聞いてはいたんですが、20年ほど前に日本照明学会というところが、エジソンの偉業を顕彰するために、あそこに記念碑を立ててます。立派な大きな黒の大理石ですが、そこにこれが刻んであります。

もとの文章は1パーセントだったり、10パーセントと90パーセントだったりするんですが、要するに言いたいことは何かというと、下に書いているようなことです。

要するに、非常に特殊な人は別なんでしょうけど一般の人は、やっぱりどんなに頭が良くても、ペインがなければゲインもないということらしいですね。よく言われるように。

京都の石清水八幡宮の竹は日本の扇子の節に使われているそうなんですが、エジソンの前に、実は白熱電球を目指した研究っていうのは実はあったんですね。それは綿の繊維をよったりして、それで電気を流すというやり方だったらしいんですけど、エジソンは竹に目を付けた。

エジソン自身は日本にこのために来られたことはないようですけれども、いろんな人に頼んで世界中の竹を集めて、最初は1時間ぐらいしかもたなかったのを、ずいぶん長寿命な発熱電球で照らすことができたという竹が。京都の石清水八幡宮の竹なんだそうです。そこにその記念碑が置いてあるんです。

私はこの「天才」という言い方はちょっと普通なじめないんですが、要するに」どんな人でも努力以外にない」ということを端的に言ってるんじゃないかという気がいたします。それをエジソンが書いたというところが、私には非常に印象に残っております。

実は何年か前に大病したあとで何とか歩けるようになったときに、長年「行こう」と思ってたエジソンの碑を訪ねたて、やっぱり感動しました。そこに刻まれてる碑文がこれです。よろしいでしょうか。

:これちょっと小学生はわからないよね? ごめんなさいね、これは要するに天才は1パーセントのひらめきと99パーセントの汗っていう、そういうふうに書いてある。だからたった1パーセントが頭であとは99パーセントは汗なんだってそういう意味のお言葉です。

人生、何が良いことで何が悪いことかわからない

:じゃあ山中先生、お願いします。

山中:これがもう1つの僕の好きな中国の古くからのことわざだと思います。これは知ってる方はどれぐらいおられますか? 特に高校生の人たち。

(会場挙手)

結構知ってますよね。

簡単に言いますと、中国でお城の近くにおじいさんが住んでいて、息子さんと、あまり上等じゃない馬だけが財産だった。非常につつましく暮らしていたんですが、その馬がある日逃げてしまったんですね。不幸にも。

そうするとまわりの人がやってきて、「やあ、おじいさん、えらい災難ですな。たった1つの財産である馬が逃げてしまって、おじいさん、どうやって暮らすんですか? こんな不幸なことないですね」と。本当は大阪弁じゃなかったと思うんですけども。ごめんなさいね。

(会場笑)

と言ったらおじいさんがあわてることもなく、「いやいや、これは何かいいことの始まりかもしれない」と。強がりかと思って聞いてたら、今度はその逃げた馬が他の馬を連れて帰ってきたと。

しかも名馬を何頭も連れて帰ってきたということで、おじいさんのところに、またまわりの人がやってきて、「いや、おじいさん、よかったですね。村で一番の金持ちになりましたね」と言ったら、おじいさんが、「いやいや、これは何か不幸の始まりかもしれない」と。

で、そのいい馬がやってきたので息子さんがその馬に乗っていると、ある日馬から落ちてしまって、足をひどく骨折して、ちゃんと歩けなくなってしまった。

また村人がやってきて「いや、おじいさん、こんな不幸なことはありませんね。たった1人の息子さんが歩けなくなってしまいましたね。これ以上の不幸はありません」と言ったら、「いやいや、これは何かいいことかもしれない」ということで。

また強がりを言ってると思ったら、戦争が起こりまして。王さまが村中の若者をみんな連れていった。でも負け戦なので連れていった人はみんな死んでいくのがわかるんだけれども、そのおじいさんの子供だけは足が悪かったので連れていかれなかった、というような話なんですね。

どんどんそうやって続いていくんですけども、結局、人生で起こること、研究でもいろんなことが起こるんですが、何が良くて何が悪いかなんかわからないので、一見失敗と思えるときは「これは何かチャンスかもしれない」というふうに見方を変えたら、本当にチャンスなことも多いです。

逆に、何かいい成果が出て論文がバーッと通ったりしたようなときは、「これはもしかしたら何か悪い兆しかもしれない」というふうに慎重にならないと、有頂天になってしっぺ返しになりますから。

僕も非常に大好きというか教訓にしていますし、みんなもぜひ、研究者になる人もならない人もいると思いますが、覚えてほしいなと思います。テストに出るかもしれないですよ。

:先生のお部屋にはこの言葉が飾ってありますね。

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