2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
シンデレラテクノロジー(全1記事)
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久保友香氏(以下、久保):さっそくですが1番目のプログラム、私、久保友香の講演から始めさせていただきます。
今回シンポジウムのテーマにも掲げさせていただいた「シンデレラテクノロジーとは?」というお話をさせていただこうと思います。
私が学生時代やっていたことは、日本の伝統的な絵画に見られるデフォルメ表現をコンピューターで再現することです。
例えば浮世絵の透視図法に従わない構図や、日本の美人画の顔のデフォルメ表現から、デフォルメの法則を定量的に導いて、それを再現するプログラムを作ることなどをやっていました。
その美人画の顔を定量的に分析している時にわかったことなんですが、同じ時代の美人画の顔は、異なる絵師が異なる女性描いているのに、とても近い特徴を持っていることがわかりました。
人間の顔は本来、多様性があるはずなので、これだけそっくりに描かれているということは、人間の自然なままの顔を描いていないのではないかと考えられます。
それは絵画におけるデフォルメもありますが、調べてみると美人画に描かれている平安時代の貴族の女性や、浮世絵の美人画に描かれているような遊女は、実際に強いお化粧が強いられていたということもあります。
このように、絵巻や浮世絵などのメディアを通して、多くの人から見られる女性たちは、自然のままの顔ではなくて、人工的に加工した顔であることがわかります。それはどうも、現在にも継承されているようです。ちょっと(並べた写真が)似ていると思うのですがいかがですか?
そこで私は博士論文を書いた後は、現代の女性が行うデフォルメに注目しました。現代の女の子たちが行なう、「顔を加工する」というコミュニケーションに焦点を当てることにしました。
そこで女の子たちの行動を観察するようになりました。そこで出てきた仮説なんですが、「日本の若い女性たちの“外見を加工して見せ合う”というコミュニケーションは、未来の技術のヒントになるのではないか?」ということを、今日はお話させていただきます。
このような仮説を持つきっかけになった出来事があります。それは今日、私の次に発表していただく稲垣(涼子)さんが所属していらっしゃる、フリュー株式会社というプリクラの会社で開催した「ヒロインフェイスコンテスト」というコンテストです。
これは後で稲垣さんからご紹介があると思いますが、プリクラというのは光学処理とかデジタル画像処理で実際よりもよい顔に加工するわけですが、そうして作られたプリクラの顔で応募するコンテストです。それに26万人もの応募がありました。
そのコンテストの選考プロセスなんですけれども、まずプリクラ機のなかで投票が行われます。そして次に、そこから選ばれた各プリ機の1番の人がインターネット上に公開されて、そこで一般投票が行われます。
そこで選ばれた20名の人が、これは画期的だと思うのですが、リアルな舞台に集まり、最終選考が行なわれました。つまり、26万人から20人になるまではプリクラの顔で、インターネット上で選ばれていったわけですけれども、最後の20人になったところでリアルな顔がリアルな舞台に集まるわけです。
これはとても興味深いと思いまして、私もちょっと見に行かせていただきました。すると、やはり実際の顔はインターネット上で見ていた顔とは違いました。
その様子に、私はちょっとヒヤヒヤしてしまったんですが、でもそこに集まっている女の子たちには、ぜんぜんそういう様子がありませんでした。最終選考では芸能事務所のスカウトさんが来ていて、その前で歌や踊りを披露するんですけれど、そこでとっても生き生きしていたことが、ものすごく印象的でした。
このことを整理してみようと思うのですが、まず重要なのは、この女の子たちは、実際の自分とプリクラの上の自分という2種類の自分を持っています。これを「リアルアイデンティティ」と「バーチャルアイデンティティ」と定義します。
こういったことはプリクラを使わない方々でも、今はネット上の自分とリアルな自分という、2種類の自分を持っている感覚をお持ちだと思うので、わかっていただける方も多いと思います。
もう1つ重要なのは、彼女たちは実際よりもよいバーチャルアイデンティティに最後までなりすまそうというわけではなくて、最後にリアルなアイデンティティを表したことです。
最後の審査では、芸能事務所のスカウトさんの前で披露するわけですから、バーチャルでの活躍を、リアル世界に生かしたということがあります。
バーチャル世界というのはリアル世界と比べて、もともと持っている自分の顔だとか家柄だとか、そういった先天的な能力の影響が少ないところです。そういった努力が報われるバーチャルな世界での成功を、リアルな夢の実現に生かすというやり方をしたのです。
こういう女の子たちのやり方は、これからのインターネット社会のバーチャルアイデンティティの生かし方として、とてもよいやり方なのではないかと思うわけです。
じゃあ、「バーチャルアイデンティティとリアルアイデンティティがいくら離れていてもいいのか?」と言うと、そういうわけでもないみたいです。
女の子たちは、バーチャルアイデンティティの上で、実際よりもよい姿になることを「盛る」と言います。そして理想的に盛ることができると、「盛れてる」と言います。私は、彼女たちが言う「盛れてる」というのはどういう状態なのかを探ることにしました。
先ほどのコンテストのファイナリストのなかの1人の女の子に、さらに話を聞くことにしました。「そもそも、なぜ盛るのか?」を聞こうと思ったんですが、「なぜ、プリクラを一生懸命頑張るのか?」「なぜ、お化粧を頑張るのか?」と聞いてみると、まず彼女は黙ってしまいました。「そういえば、なんでだろう?」と。
「それはやっぱり、男性によく思われたいからなの?」と聞くと、「違うわけじゃないけど、そうでもない」と答えました。「じゃあ、同性の目を気にしてるの?」と聞くと、それも「違うわけじゃないけど、そうでもない」と答えて。
最終的に気付いた答えが……どう思われるでしょうか? 「自分らしくあるため」という答えでした。
最初1人の人に聞いたんですけども、気になりまして、いろんな女の子にも聞いてみたんですが、どうも最終的に行き着くのは、ほとんどの人がこの「自分らしさ」という答えでした。
これは意外でした。プリクラとか、化粧とか、一方的に加工した顔というのは、どちらかというと、私からは均一的に見えていました。
しかし、彼女たちは逆に、そのなかに個性を感じているという。どういうことだろうかと考えました。私のそれまでの研究では、画像の分析だけすることが多かったのですが、今回は画像だけで見ていてもわからないと思い、実際に1日、女の子の行動に付いて行かせてもらって、その謎を解くことにしました。
それで話を聞いていると、だんだんと彼女の顔から個性が見えてきました。まず、この目が、簡単にできているものでないことがわかってきました。
まず、プリクラを撮りに行くのに一緒について行ったんですけれども、彼女は「プリクラはトレーニングだ」と言いました。
どういうことかなと思ったら、プリクラはそれぞれ少しずつ違いがあるようで、同じ機種を何度も使うことによって、その機種の癖を盗み、その機種のシャッタータイミングに合わせて、その機種の画像処理に合わせた目の見開きをするんだと言っていました。
そして、ドラッグストアにもついて行って、「今日付けているつけまつげはどれなの?」と聞くと、4つぐらいの商品を紹介してくれたので、どういうことかと聞くと、メーカーも違うバラバラのつけまつげを切り刻んで組み合わせて使っていると言います。そうやって、自分仕様にして使っていることがわかってきました。
そういう話を聞いて、そういう行動を見ているうちに、同じように見えていた彼女たちの目から個性が見えてきました。このことを整理します。
私は、共同研究をさせていただいているフリューさんと、「盛れてるとは何か?」ということを、数量的に見ようとしています。
わかってきたのが、先ほど例に挙げた女の子も目を大きく見せることに一生懸命ですが、いくら加工しても、いくら目を大きくしてもいいというわけではないということです。
加工しすぎることは「盛れすぎ」であって、それは「盛れてない」ことと同じだと言います。
では、この「盛れてる」と「盛れすぎ」の境目はなんなのかを調べてみました。すると、どんどんどんどん加工を続けていくと、急激に別人感が高まるところがあることがわかりました。
それを私は「盛れすぎの坂」と呼んでるんですけども、彼女たちはその手前のところを目指しているとわかってきました。
つまり、まったく別人にならないのもよくないけれど、別人になりすぎるのもよくなくて、ちょうどその手前に小さな自分らしさを残すことを大事にしていることがわかりました。
それから、先ほど私は彼女たちの顔が均一的に見えてしまうという話をしましたが、私のようなコミュニティの外にいる人から見ると、同じように見えるんですけれども、女の子たち同士ではすごく差異が見えていることもわかりました。
彼女たちは自分らしさを大事にしますけれども、いきなり自分らしさを出すことを目指しているわけではなく、そのコミュニティの中で守られている基準、トレンドを守った上で、小さな自分らしさを表すことを目指していることがわかりました。
このようなアイデンティティの形成の仕方は、これからのインターネットのコミュニティ形成に、とても生かされるのではないかなと考えます。
というのも、リアル世界は多くの個人が学校や組織に守られていますが、バーチャル世界では個人が公にさらされます。そういうなかで、コミュニティの外の人から見ると見分けがつかないようにすることによって身を守り、コミュニティの中の人とはリアルなコミュニケーションをするというやり方は、これからのインターネット社会で、あらゆる人に役立つものではないかと思うんです。
このように、女の子のなかには、外見を加工することによって、バーチャル世界で身を守りながら、そこの努力で得た成果をリアルな夢の実現に生かすことをやっている子たちがいるとわかってきました。
これらの話は、特殊な女の子たちの話だと思われたかもしれません。でもそれはGoogleの元社長で現会長のエリック・シュミット氏が言っている、未来の予測とも重なるところがあります。
これからは、すべての人がリアルな世界とバーチャル世界の2つの世界で生きていくなかで、「この多次元的な世界を最もうまく渡っていける者が、未来の世界では優位に立つ」と言っています。
今日、取り上げた女の子たちは、まさに、外見を加工して見せるコミュニケーションによって、リアルとバーチャルをうまく行き来できています。彼女たちが先導し、これから広まる可能性もあります。
日本の女の子たちから広まるコミュニケーションというのは、古くからあって。古くは平安時代の平仮名も、まずは中国からやってきた漢字に対して、女の子たちが使った平仮名というものを、今も私たちが使っているといったこともあります。
それから、現在の絵文字なども、日本の女の子たちが使い始めて世界に広まったものです。
こういうものは、最初は馬鹿にされたりするんですけど、結局わかりやすくて、使いやすくて、広がりやすいという特徴があります。
現在の、女の子たちの外見を加工するコミュニケーションも、そういうものになるのではないかと思うのです。
このように、女の子たちから広がる、リアルとバーチャルをうまく行き来するために、外見を加工して公開するコミュニケーション技術を「シンデレラテクノロジー」と呼んでいます。
これは、大きく3つに分かれると考えています。1つは、今日はプリクラの話をしましたが、バーチャルアイデンティティを作るための画像処理技術があります。それをセルフィーマシン技術と呼んでいます。
そして2つ目に、一般の人が不特定多数から注目されることを可能にするインターネット技術があります。今はSNSが活用されています。それをソーシャルステージと呼んでいます。
それから3つ目ですが、リアル世界でも画像処理のような劇的な変身をできるプラスチック成形技術があります。プラスチック成形技術によって、バーチャルアイデンティティにリアルアイデンティティを近づけることができる。そういう技術を、プラスチックコスメの技術と呼んでいます。日本では、つけまつげ、カラーコンタクトレンズ、二重まぶた糊、涙袋糊など、進化した化粧雑貨の多様化が進んでいます。
これから多くの人がリアルとバーチャルをうまく行き来するために、これらの技術がもっと発達する必要があると思っています。
以上で、私の発表は終わらせていただきます。ありがとうございました。
(会場拍手)
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