2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):今日は『鼻下長紳士回顧録』の出版記念トークショーということで、8年ぶりのストーリー漫画がどういうふうにして生まれかということとかを、スライドも使いながら安野さんに質問していこうと思います。「#鼻下長」と書いてTwitterで質問をしてもらえば、ぼくのほうで聞いたりもします。
先に質問してみたいのですが、今日は皆さん『鼻下長』のファンだと思うのですが、『オチビサン』も読んでいる方はどれくらいいますか?
(会場挙手)
安野モヨコ氏(以下、安野):ああ、ありがたい。
佐渡島:ありがとうございます。これは今日のイベントと関係していることなのですが。ぼくの嫁が今日はいなくて、シッターさんに子どもを預けて司会をすることになったら、安野さんが「じゃあ、ぼくの息子に」と言って『オチビサンとお留守番の国』という32ページの絵本を描き下ろしてくれました。
(会場拍手)
佐渡島:その内容がむちゃくちゃすばらしくて、ぼくはそれを子どもに読み聞かせてから来たのですけど。すごく本気で作っていましたよね。
安野:なんか夢中で、2日くらいで全部描いちゃいました。(写真を見ながら)こっちのほうが彼の長男ですけど、何歳だっけ?
佐渡島:5歳です。
安野:よくお手紙をくれるんですよ。このあいだ、私が締め切りに追われていたときに、『オチビサン』の絵本を彼が描いて、ちゃんと自分でホチキスで綴じて、本にして送ってくれたんです。10ページくらいですが、5歳の子がここまで描けるなんてすごいと思い、励まされました。
それは「オチビサンとナゼニがサッカーをして遊んだ」という話で。手紙をもらったら自分も手紙を書いて返しているのですが、「絵本をもらったから絵本で返そう」と思ったら32ページになってしまった(笑)。
佐渡島:それがあまりにも素敵なので、ぼくは仕事柄「これは世に出さなければならん」と思っているので。皆さんにもぜひ読んでもらいたいと思います。
佐渡島:今日、皆さんの手元に配られたペーパーも、ここだけのために安野さんが用意したものです。昔からペーパーが好きなんですよね。
安野:いや、昔からってことはないよ。「ペーパー」というものを今回初めて知ったんだもの。漫画家さんたちが「単行本が出るときに、書店などでお知らせのペーパーを配っている」ということを聞いて。私はぜんぜん知らなくて、「皆さんそんないいことをしているんだ、自分もやりたいな」と思っていたのですけど。『鼻下長』のときは間に合わなかったので、今日配らせていただきました。
佐渡島:ここまで立派なペーパーではないですけど、安野さんは小さいときから、こういうのをいっぱい作っていたのでしょ?
安野:そうですね。チラシ、というかコピーの新聞みたいなやつね。
佐渡島:ペーパーについていくつか説明がほしいのですが。「世界の変態紳士」とはなんですか?(笑)
安野:映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で、つねに乳首をいじりながらしゃべるという変態紳士(人食い男爵)が出ていたのですが、あまりにもこの人が好きすぎて。
見終わった帰りにこの人の話しかしてなくて、「なんか他はないのか」と言われたぐらい、変態紳士が気になるのです。この人は梅毒で鼻が欠けているので、夜のメゾンドクローズには来ないでほしいとは思います。
佐渡島:それで「ご来店は正直ご遠慮いただきたい」ということですね。ほかにこだわったのは、周りのデザインとかですか?
安野:そうですね。やはりそのころの、1910年代の装飾のイメージで描いています。
佐渡島:作品の舞台は第一次世界大戦前、1913年のパリに設定されています。その時代のパリがお好きだそうですが、どういうところが好きですか?
安野:それまでは洋服も手縫いだったり、全部手作りだったのが、ちょっとずつ機械化していって。ちょうどうまく融合しているところが、なんともいえずいい感じなのです。日本でもそうですけど、その時代はすべてがちょうどいい具合なので、「そのころに戻らないかな」といつも思っていて。そういう時代が好きなんです。
これを始めたのが2013年くらいだったので、ちょうど100年前です。でも資料などを見ると、100年前でも案外今の私たちと変わらないのです。考えていることとか、言っていることとかもほとんど変わらない。とくに若い女の子は。
佐渡島:「身に着けているものが好き」とか?
安野:入口はそうですね。装飾的な部分や生活様式も好きです。
佐渡島:『鼻下長』の時代に近い?
安野:まさにこの時代です。
佐渡島:安野さんはどうやってそういうのを調べるというか、ふだんどうアンテナを張っているのですか?
安野:もともと日本の大正時代のイラストが大好きで。大正時代のイラストレーターは海外のイラストをかなりパクっていて、構図が同じだったり、タッチがまるでビアズリーと一緒だったりします。
それは当時、情報がすごく少ない中で、たまに海外に行った人からおみやげでもらった絵葉書とか本を頼りに、一生懸命描いたのだろうと思います。もちろん、中には恵まれて、留学する方もいたでしょうけど。日本のイラストをひもといていくと、結局はそっちのほうにいくのです。
佐渡島:日本の1910年くらいということですね。建物も。
安野:建物は昭和初期くらいまでものが好きです。
佐渡島:小説家も、この時代の短編とかエッセーとかをよく読んでいますね。誰が好きですか?
安野:それはインタビューでも死ぬほど言っていますが、内田百閒はちょっと手前ですけど、夏目漱石とか。
佐渡島:ハッシュタグで質問されている方がいます。「コレットにモデルはいますか?」
安野:とくにないですね。名前はもちろん、あの有名な小説家のコレットです。彼女はおてんばな娘時代を過ごしながらも、けっこう早い段階で作家としての道をひらいて成功しており、直感が働いているところが(他の人と)ちょっと違うんですね。
ものを書く人がここ何年かで増えていて。誰の中にも「表現したい」という気持ちがあるのだなと思っています。コレットは、そのように「何かを表現したい」と思っている女の子の1人という意味での、象徴的な名前です。
佐渡島:今の時代、「誰もが表現しようとしている」ということと、コレットが日記を書いているというようなことは、重なっているということですか。
安野:そうです。
佐渡島:次の質問。「パリではどのような取材をしましたか?」
安野:4回くらい行ったかな。日本と違って、いろいろな建物が当時のまま保存されて、今でも現役で使われて、調べれば誰でも行けます。
(写真を見ながら)これはナナというキャラクター。豪邸に住んでいる高級娼婦がいるんですけど、そのモデルの1人、タイラー夫人が建てたお屋敷がシャンゼリゼ通りにあって。本当に贅沢なんです。
今は海軍倶楽部として使われています。お手洗いなんかも立派で、住みたいくらいでした。
彼女は、もともとポーランドとかユダヤ系の移民で。ものすごく貧乏で、文字どおり身1つでパリに出てきました。結婚していて子どももいたのだけれど、その時点で全部捨てて、パリでピアニストと結婚するんです。
ピアニストは貴族ではないけれど、芸術家なので社交界で地位があり、その人と結婚したことで彼女は社交界に入っていきます。そして、自分が使うお金を稼がせるために、夫のピアニストをアメリカなどに出稼ぎに行かせたりします。
あまりにお金を使うものだから、「勘弁してください」といって別れられるのですが、そのあと懲りずに貴族と付き合って、最終的にはポルトガルの侯爵と結婚しました。それで侯爵夫人という地位を手に入れ、押しも押されもしない社交界の人になって、オペラ座などにどんどん出入りするようになりました。
その侯爵とは、「私はあなたと結婚したけど、だからといって私があなたのものだと思わないでください」と言ってとっとと別れてしまうのです。「ふざけるな」という感じですよね。
旦那さんは失意のまま自分の国に帰ったけど、離婚したくないから籍をずっと抜かずに彼女を待っていたのですが、20年後、最終的に自殺してしまいます。
会場:ええーっ!
安野:でも彼女は「そんなことどうでもいい」という感じで、さらにまたドイツ人のお金持ちとつき合って、その人にいっぱいお金を出させて、このお屋敷を建てたのです。
佐渡島:どうやったら、そんなことができるのかな。
安野:よほど会話とかが、「この人とずっと話をしていたい」と思わせる人なのだと思う。
佐渡島:ナナがそうですよね。
安野:だから、生まれがよくなくて、育ちも悪くて、学校に行ったわけでもないのに、彼女の持ち味というか、会話術とか、勘がよかったり頭がよかったりすることで、話をする人を退屈させなかったり、違う発見を与えたりできたのでしょうね。
金持ちのドイツ人と結婚したあと、フランス政府からスパイ容疑をかけられて国外追放されて、2人でドイツに行くのだけれど、65歳で亡くなります。
そのあと、旦那さんはタイラー夫人の死体を埋めたくなくてアルコール漬けにしてしまう。身体を手放したくないわけ。65歳なんだから、「いいかげんに土に返してやれ」という感じなのに、それを自分の家の一室に保存していたという。愛しすぎです。
佐渡島:当時、有名な高級娼婦はいっぱいいたけど、圧倒的にすごかったのですね。
安野:いまお屋敷は、海軍倶楽部用に絨毯とかも現代風のものになったけど、メインの部屋などは本当に豪華で半端なかったです。
佐渡島:ほかの写真を見ましょうか。
安野:オペラ座は、皆さん旅行で行かれている方も多いのでご存じだと思うのですが。当時は下にホールみたいなところがあって、そこまではチケットがなくても入れるので、高級娼婦の人たちはお洒落をしてそこに入って行き、知っている銀行家の人とかを見つけると「あらぁ」とか言って、上のサロンまで連れて行ってもらったそうです。
佐渡島:当時のやり方の1つですね。
安野:もちろん本当に高等な人たちは、最初から席が用意されているし。席を年間通しで買っている人がスポンサーだったりするから、問題ないのですが。ここに行って、そういう話ばかり聞いていました。
佐渡島:エヴァンゲリオンの音楽をプロデュースした鷺巣詩郎さんがフランス在住で、いろいろ教えてくれたのですよね。
安野:鷺巣さんは、年の何分の1かはパリにお住まいなので、いろいろ連れて行ってもらいました。
佐渡島:『日本アニメ(ーター)見本市』で一緒に取材しているなかで、鷺巣さんも『鼻下長』にかなり興味をもってくださって。クリスマスと安野さんの誕生日に、曲を書かれていますね。
安野:それがサイトで聴けるようになっています。
佐渡島:『日本アニメ(ーター)見本市』だとショートバージョンが組み合わさっているのですが、安野さんのサイトだとフルバージョンを聴けるので、聴きながら読んでもらうといいですね。
安野:私も仕事中はいつもかけています。さらに何曲かできたとおっしゃっているので、これからアルバムになったらいいな~。
佐渡島:鷺巣さんの曲がすごいのは、コンピューターで作っているわけではなく、スタジオにヨーロッパで一流の人(演奏家)を呼んでやっているんですよね。
安野:そうそう。ヴィオラの超一流の人を呼んで、演奏をしてもらったと聞いています。ぜんぜん考えてもいなかったので、びっくりしました。感動でふるえましたよ。
佐渡島:すごいクリスマス・プレゼントですね。
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