【3行要約】
・キャリアの成功は終着点だけでなく、日々の「中間」にこそ価値があるという考え方が注目されていますが、多くのビジネスパーソンは目標達成にばかり目を向けがちです。
・世界的ヒット玩具を手がけたジェレミー・パダワー氏は、ポケモンやスクイッシュマロなど数々のブランドを成功に導いた35年の経験から、キャリアの本質を語ります。
・働く人々は、お金や野心だけでなく情熱を原動力とし、日々の「中間」を大切に生きることで、真に充実したキャリアを築くべきだと提言しています。
世界的ヒット玩具を手がけたブランド責任者
司会者:さて、ここからは本日の卒業式の特別スピーカーをご紹介できることを、大変うれしく思います。ジェレミー・パダワー氏です。
彼は、トイ業界において先見性あるリーダーであり、起業家であり、アニメーション番組のプロデューサーでもあります。 現在は世界最大級の玩具会社ジャズウェアーズ(Jazwares)のチーフ・ブランド・オフィサーを務めており、同社は現在バークシャー・ハサウェイの傘下企業でもあります。
ジェレミー氏は、ポケモンやロブロックス、スクイッシュマロなど、世界中で愛されるブランドを世に送り出してきました。これまでマテルやジャックス・パシフィックといった企業でもリーダーシップを発揮し、自らWik Toysを共同設立。「遊び」「野心」「革新」が交差する場所で数々の事業を立ち上げてきました。
2023年には、ヴァンダービルト大学の学生のために「ジェレミー・パダワー起業家奨学金」を創設し、次世代への支援も深めています。
そんな彼を、本日はゲストスピーカーとしてお迎えできて、本当に光栄です。どうぞ、ステージへお越しください。ジェレミー・パダワー氏です!
ジェレミー・パダワー氏:やあ、みんな調子はどう? いい感じ? よし、じゃあ卒業生のみなさん、こんにちは! (老眼鏡をかけながら)これ、かけたほうがいいよね。年取ったなぁ(笑)。
さて、ヴァンダービルト大学 オーウェン経営大学院の新たな卒業生のみなさん、「私の仲間たち」へ。
私は24年前、みなさんと同じ場所に座っていました。正直、当時のスピーカーが誰だったかは覚えていません。でも、当時隣に婚約者(今の妻)がいたことは今でも覚えています。
きっと、みなさんも私のことは覚えていないでしょう。でも、「今日この場を共にした“愛する人”たちのこと」は、24年後もきっと覚えています。
みなさんは、最高の努力を重ねて今日この場所にたどり着きました。全米トップ25のビジネススクールからは、年間で約13,000人が卒業します。この瞬間を経験できる人は、生涯でアメリカ人の0.3パーセントにも満たないんです。
学びのプロセスは、これで一区切り。そして今、「人生という大海原へのゴールデンチケット」が、あなたの手に渡されました。心から「よくやった」と言いたい。
もちろん、みなさんが「お金を稼ぎたい」という思いを持っているのもわかっています。そして、「野心」についても、みなさんはきっと何か知っているはずです。
でも、今日、この卒業式の場では、「充実感と豊かさのあるキャリア」を歩むための視点をお届けしたいと思っています。そこで、「6つの指針」をお伝えしたいと思います。
テーマは「野心と充足のバランス」です。
「中間(ミドル)」こそが人生の本番
1つ目の指針、中間を祝おう。
今日、あなたは学業の終わりを祝っています。そして同時に、学業を終えた後のプロフェッショナルとしての旅の始まりでもあります。終わりであり、始まりでもある。こうした特別な瞬間は大いに祝うべきです。
でも、終わりと始まりは有限です。実際、人生の99パーセントは「中間」にあります。成功や達成をゴールとして、節目だけを大切にするのではなく、その“途中”を生きてください。
キャリアは、だいたい35年間続きます。働く日数で言えば7,000日、時間にして56,000時間、分にしておよそ330万分。長い道のりですよね。その中間を、味わって、生きてください。
終わりだけに意味を求めると、大切な“今”を逃してしまいます。理想のゴールに到達できるとは限らない。でも、「中間」は毎日あなたのものです。
すべての瞬間を支配することはできません。でもその「中間」をしっかりと感じて生きることで、感性が鋭くなり、視野が広がり、誠実さが増し、人間らしさが育ちます。そして、自分のためにも、他人のためにも、共感力を持ったリーダーになれるはずです。
痛みも、努力も、葛藤も、栄光も、成功も、失敗も、つらい日も、最高の日も、訴訟のある日も、赤ちゃんが生まれる日も、お金が尽きそうな日も、大金を手にする日も、プリウスに乗る日も、ランボルギーニに乗る日も、大切なものを集める日も、火事ですべてを失う日も、そのすべてを、「中間」の一日として生き抜いてください。
私たちは、始まりと終わりだけでできているわけじゃない。私たちのほとんどは、「中間」でできているんです。
情熱はお金よりも大きな存在
2つ目の指針は、お金より情熱を。
多くの起業家と同じように、私も会社を立ち上げて、それを売却しました。そして思っていました。ゴールとは、莫大な現金と自由、そして妻と一緒にビーチで過ごす日々なんだ、と。
私は中流家庭で育ち、大学も大学院も自分で学費を工面して通いました。常に稼ぐために動いていて、物事を「取引」として見るのが好きだったんです。
そんな私は、「会社を売る」というゴールの先に、こういう光景を思い描いていたんです。
泣きながら歓喜に包まれ、安堵しながら、大きな小切手が口座に振り込まれ、人生の新しい自由なステージへと踊るように進んでいく。私は、自分の中に翼があるかのように、高く舞い上がるワシのように感じていました。守られていて、弱みなどないような気がしていたのです。
そして、いよいよその瞬間がやってきました。でも泣きませんでした。翼も生えてきませんでした。
相変わらず過敏性腸症候群(IBS)も治っていませんでしたし(笑)、正直なところ、リアクションすらほとんどなかったんです。人生が大きく変わるはずの日が、ただの“普通の日”のように感じられたんです。
頭の中のイメージと実際の感情のギャップは、ただただ「変」でした。予想外でした。その違和感を理解するには、少し時間がかかりました。
「お金」がすべてだと、ずっと思っていた。そうじゃなきゃ、なぜそこまでリスクを取ってきたのか。でも、それが違うとしたら、いったい何が自分を突き動かしていたのか?
当時、私のキャリアは330万分の半分、ちょうど折り返し地点にさしかかっていました。
答えは、情熱だったんです。お金よりも大きな存在でした。
遊びを通してカルチャーを創り出すこと、ブランドを形にすること、ファンダム(熱狂的なファン文化)への愛を人生にわたって貫くこと、大人がコレクションを楽しむことを普通のこととして肯定すること、子どもたちの創造力や想像力を刺激するおもちゃを作ること。それらすべてへの情熱は、金銭的な報酬よりもずっと大きな意味を持っていたのです。でも、それが本当に分かったのは、キャリアを始めて20年が経ってからでした。
もし金銭的に失敗していたとしても、私は“時を刻む砂”、人生のかけがえのない日々を、それでも満喫していただろうと思います。
じゃあ、なぜポケモンやWWE(World Wrestling Entertainment)、キャベツパッチキッズ、ハローキティ、ココメロンなどのブランドを手放さなかったのか?
それは、それらのブランドを心から愛していたからです。その愛があったからこそ、困難な時期も乗り越えられたのです。
「Wicked Cool Toys」をアレゲニー・キャピタルとジャズウェアーズに売却した後、私は同社にCBO(チーフブランドオフィサー)およびパートナーとして残ることを選びました。
私は持ち株をすべて売却して引退することはしませんでした。むしろ、大企業の中で一定の株式を持ち続けることこそ、自分にとって最良の選択だと感じていたのです。
私にとって「終わり」はそこにはありませんでした。それはただの「次のステップ」にすぎなかったのです。なぜなら、私は今でもその仕事に心から情熱を抱いていたからです。
情熱は洞察を生み、そして洞察はお金を生む
売却から2ヶ月後、私は新たな小切手を書きました。目的は、「スクイッシュマロ(Squishmallows)」というブランドを買収するためでした。将来性のあるブランドとして目をつけ、我々はそれを手に入れました。
この時の投資は、過去最高の“神チェック”でした。情熱を感じていたからこそ、あの投資は迷いなくできた。「ダブルダウン(倍プッシュ)だ、ベイビー!」って感じでした(笑)。
結果、2022年には、スクイッシュマロは年間で1秒あたり3個が売れるほどの大ヒット商品となりました。同年、私たちはふたたび会社を売却しました。今度は、世界でもトップ5に入るトイカンパニーとして。
CEOのジャッド・ザバースキーという本物の天才のもと、我々は年商数十億ドルを誇る“ユニコーン企業”となり、バークシャー・ハサウェイに買収されたのです。この時も、私は泣きませんでしたが、 私は、より大きな「パートナーシップ」の一部であることに誇りを持っていました。
CBOとしての自分の役割を誇らしく思っていたのです。自分の目的がはっきりしていたし、何より、情熱があった。だから、この先の章も、きっとすばらしいものになると確信していました。
自分を“夢中にさせるもの”に集中せよ
ここで、ちょっと“ウォーレン・バフェット”っぽい話をさせてください。2024年のバークシャー・ハサウェイ年次株主総会。その日、ウォーレン・バフェットは、60年間にわたって率いてきたバークシャー・ハサウェイのCEOを退任しました。
驚いたことに、その発表は会場で突然行われたのです。新CEOとなるグレッグ・エイベル氏も、その瞬間まで知らされていなかったほどでした。
2万人の株主が詰めかけた4時間半に及ぶ質疑応答の最後の5分間、バフェット氏はこう宣言しました。「今こそ、グレッグがCEOになる時が来た」。
確かに、あの発表(バフェット氏のCEO交代宣言)は、多くの人々にとって最も記憶に残る瞬間だったでしょう。でも、私にとってはそれ以上に、Q&A中の彼のある発言が胸に響いたんです。
バフェット氏はこう言いました。
「僕は1万時間かけてタップダンスを練習しても、君たちは見てて吐き気がするだろう。でも、10時間だけベンジャミン・グレアムを読めば、けっこう賢くなれるんだ。大切なのは、自分が夢中になれることに集中することだ」。
本物の自分であれ
「本物であること」は、ビジネスにおいてとても大きな意味を持ちます。私は、ウォーレン・バフェットのような偉大な人物になるには、徹底して“自分に誠実であること”(authenticity)が欠かせないと信じています。
本物であることは、信頼関係を築く原動力になります。本物であることは、洞察力を生みます。本物であることは、今この瞬間に身を置き続ける理由になります。本物であることは、「日常」という名の“中間”を、しっかりと体験させてくれるのです。
そして、あなたが心から夢中になっていない限り、職場でありのままの自分ではいられません。ここでは本来、皆さんに目を閉じて考えてもらう予定でした。「もし私があなたに5,000万ドルを預け、銀行口座に入れてあげたら? その代わり35年間、好きでもない仕事を続けなければならないとしたら?」という問いを投げかけるセクションだったのですが……どうも台本通りに読んでも、本物っぽく感じられませんでした。
だから、いったん原稿から離れて、率直に伝えます。
あなたは本当に、自分の人生の35年を、情熱を持てない仕事のために差し出す覚悟がありますか?
こう考える人もいるでしょう。「自分の仕事は、次世代の夢を支えることだ」「自分は“橋渡し”のような存在で、人のためにがんばりたい」と。その気持ち、私もよく分かります。でも、ひとつだけ、言わせてください。
あなたが自分自身の人生の35年を捨てるということは、あなたが愛するすべての人たちとの35年も、一緒に捨てることになるんです。あなた自身がそこに存在していなければ、大切な人たちのそばにいることもできない。だからこそ、私は「本物であること」を大事にしてほしいと願います。
さて、スピーチの持ち時間がなくなる前に、また原稿に戻りましょう。