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500人のデータから浮かび上がる、睡眠とプレゼンティーズムの関係性(全3記事)

夜中に目が覚めた時に「時計を見ない」ほうがいい理由 自分では気づきにくい悪い睡眠習慣を改善するヒント

心身の不調によってパフォーマンスが落ちた状態で働くことによる損失を「プレゼンティーズム」と言います。本イベントでは、睡眠とプレゼンティーズムとの関係性をテーマに、500人のデータからわかったプレゼンティーイズムの改善事例を紹介。本記事では、従業員の睡眠改善に対するアプローチ方法について解説します。

前回の記事はこちら

中途覚醒時に時計を見ると、同じ時間に起きる確率が上がる

猪原祥博氏(以下、猪原):次は、例えばAさん(20代男性)はどんな感じで睡眠改善して、プレゼンティーズムが改善したのか。ちょっと時間も押しているんですが、これも簡単にご説明させていただきます。

また後で資料を詳しく見ていただければなと思うんですが、この方はどういう方だったかというと、パワハラに遭ってパニック障害になって、それ以降は不眠状態になって、病院に行って睡眠薬を服用している。なので、寝る時には睡眠薬を飲んじゃうという人なんですね。

夜中の1時、3時、5時に絶対に覚醒する。中途覚醒も非常に多くて、Apple Watchとかで(睡眠計測をして)改善をやっているんだけど、なんかうまくいかない。なので、僕らの改善プログラムを利用すると言ってくれたということですね。

本人は(不眠の原因が)パワハラだと思って、寝られていないと思っていたんですが、実はそうじゃなくて。中途覚醒した時に時計を見たり(していたんですが)、実は時計を見ると、余計に明日その時間に起きる確率がめっちゃ上がったりするんですね。

ベッドで仕事をしていると、脳がベッドのことを仕事をする場所だと思っちゃうとか。認知がちょっと歪んでいるというか、行動も悪い。こういうことをずっとやっていらっしゃったんですね。たまたまパワハラに遭って心身のストレスを抱えたので、不眠になってしまった。だから、もともと不眠になる要素をお持ちだったということなんですね。

そこを僕らがご指摘させていただいて、昼寝を長時間しない、時計を寝た時・起きた時に見ない、寝る前にリラックスタイムを取るとか。こういう悪い生活習慣を直すことを目標設定して1ヶ月過ごしていただくと、あら不思議。この人は本当に寝られるようになって、「眠れるってうれしいですね」という感じになったんですね。

本人はずっと「パワハラだから寝られない」と思っていたんだけど、実は悪い睡眠習慣だったということで、アテネ不眠尺度も大きく改善した。この人はQQ methodも非常に大きくて、(労働生産性損失額は)30万円も改善しているんです。

本人は「悪い睡眠習慣」だと気づいてないことも

猪原:こういう事例がけっこうたくさん出てきていると、僕らは思っています。「ストレスがあるから眠れないのだ」ではなくて、本人が悪い睡眠習慣だと気づいてないものをしっかりとあぶり出すことが、非常に重要なのかなと思います。先生、ここにもコメントをいただけますか?

吉田健一氏(以下、吉田):はい、手短に。

猪原:すみません。

吉田:認知行動療法のいいところって、まずは行動面を見て、そこの課題も指摘してあげた上で、一生モノの睡眠習慣にしていくんだというところがいいのかなと思います。そこが、あまたある睡眠セミナーとは違う。

見える化した上で、課題として認識して、それから改善するまでサポートしてくださるというのがいいのかなと思います。(労働生産性損失額が)32万円も改善しているという、この事例は非常にいいですね。

猪原:ありがとうございます。ちょっと細かくなるんですが、私どもは悪い睡眠習慣を1対1で見つけ出して、専門家が行動変容を促していくというサービスをやっています。これにより、悪い睡眠習慣をセンサーでしっかりと可視化する。

この人の場合は、寝る前にベッドでうたた寝をしていて、睡眠物質を全部洗い流して、ちゃんと寝るべき時に眠れなくなっていることが問題だったということなんです。

私どもの説明ばっかりしてもあれなんですが、本人と1対1で睡眠行動変容をしていく、認知行動療法を用いる行動変容をしていくサービスでございます。

従業員の睡眠改善にはどうアプローチするか

猪原:あと10分ぐらいなので、質疑応答にいきます。事前にけっこう(質問を)いただいていまして、それに答えさせていただければと思います。

「プレゼンティーズムが疑われる社員へ、睡眠セミナーの参加を強く促したいと考えています。対象者の抽出方法がわかれば教えていただけますか? 事例でもかまいません」ということです。吉田先生、これはいかがでしょうか。

吉田:ありがとうございます。健康診断の事前問診で、「睡眠が満足・不満足」という非常にシンプルな回答で取られているんだと思うんですが、恐らくストレスチェックはされていると思うんですね。

実施事務従事者の方であれば全員の結果を見れますが、今は、ストレスチェックを受けた後で「この結果を会社に提供していいかどうか」という同意をなるべく取るようにしているんです。理由は、誰がどういうことで困っているかを見える化するという意味があります。

その中で、もし睡眠の質問にどう答えたのかが取れれば、これは4択なので、もうちょっと細かく見れるというのがあります。あと、アテネ不眠尺度を実際に会社の中で取ってみてもいいと思っています。名前が仰々しいだけで、実は8問しかないんですよ。

猪原:(3択で)24点ですね。

吉田:(1問あたりの点数が)0~3点だから、そこで24点満点。6点以上が不眠症ということですよね。アテネを取っておくと何がいいかというと……先ほどいいデータがありましたよね。

これは368名の方のデータですが、つまり、アテネ不眠尺度が悪いと労働生産性はけっこう大きいよという話ですね。

さっき「6点以上が不眠症かも」という話がありましたが、6点のところで10万円分ぐらいは労働生産性の損失があります。もし15点とか20点になってくると、(損失が)30万円、40万円の世界になってきます。これを1回やるだけでも、社内の睡眠に関連した労働生産性の損失がどのぐらいなのかが見える化されます。

それを個人個人にフィードバックしてあげれば、睡眠のセミナーなのか、あるいは睡眠の認知行動療法なのかを「ぜひ受けてください」(とより強く言えるようになる)。「受けてもらえると、あなたの労働生産性が上がるし、あなたの社内での将来にとってもすごくいいんだよね」という話を、ぜひ熱くしていただければと思います。

猪原:ありがとうございます。「基本はストレスチェックのデータから抜けるんだよ」ということだったと思います。先生のところのストレスチェックのシステムも、そういう構えになっていると(うかがいました)。

吉田:ありがとうございます。うちも、睡眠が悪かった方にだけ、何かしらのプッシュができるようなシステムを入れていますので、お問い合わせいただければと思います。

猪原:ありがとうございます。

健康経営度調査のデータは良い情報収集源になる

猪原:次は「交代勤務者の睡眠で何か情報があれば」ということなんですが、これは私から。交代勤務者は、ほぼ例外なく睡眠が乱れています。しかも乱れ方も、先ほどのアテネでいくと10点級の人が本当に多くて。

でも、しっかりと認知行動療法に基づいて指導していけば、これは良くなるということがわかっています。プレゼンティーズムも、改善幅は月に6万円とか10万円というレベルです。もともと睡眠がめちゃめちゃ悪くて、改善幅も大きくなると思うので、ぜひアプローチいただければなと思います。

次です。「睡眠対策について、他社の取り組みで好事例があれば知りたい」。吉田先生、これはどうですか?

吉田:ありがとうございます。これも私が9ページ目で簡単にご紹介した健康経営度調査のところに(データが)あったりします。仮眠制度がいいかどうかは、私自身はやや懐疑的ではあるんですが、例えば睡眠セミナーをよくやられていると思います。

ただ、これが一生モノの習慣になるかは、ちょっと微妙かなというところもあります。なので、本人も行動面をしっかり認識して変えていくような取り組みをするのがいいのかなと思っています。

あと、私が今まで産業医として働いたところでも、睡眠時無呼吸の検査の補助をしているところもありますし、アプリを使うことを推奨しているところもあります。こういった健康経営度調査の項目を見るだけでも、他社でどんなことをされているのかという情報収集になるかと思いますので、ぜひ努めていただければと思っております。

猪原:ありがとうございます。

実は睡眠は朝に始まっている

猪原:続きまして、「睡眠に関する栄養素や食事についてご教示いただきたい」。これはいろいろあると思うんですが、ちょっと私から。

まず、「実は睡眠は朝に始まっている」と言われています。視交叉上核というところがあるんですが、朝、目が光をしっかりと管理すると、そこで体内時計がリセットされるんですね。

体内時計がリセットされて14時間から16時間後に、メラトニンというホルモンが出て眠くなる。これが、人間を眠くするために一番重要なスタートラインなんですね。なので、朝起きて光を感じた時から眠りは始まっています。

体内時計をリセットするのには光が一番いいんですが、2番目にいいのは「食事」だと言われています。(体内時計に)親時計と子時計があるとしたら、朝食をしっかりとると、その時点で体内時計の子時計がまたしっかりリセットされる。

親も子もリセットされて、よりメリハリがつくということなんですね。なので、朝食を抜くというのは、睡眠にとってはあまり良くないということです。

何を食べたらいいのか? というお話でいくと、必須栄養素にトリプトファンというものがあります。それは、最終的に睡眠(ホルモンの)のメラトニンというものに変わっていく物質なんですね。乳製品とかバナナに多いという話がありますので、ぜひこのあたりもセミナーをさせていただいて、(詳しく)お話をさせていただきたいなと思います。

なので睡眠にとっては、食事は「朝ご飯を食べること」がとにかく重要で、その次に「何を食べるか」が重要になってくる。こんなふうに考えていただければなと思います。

睡眠環境の改善には「見える化」が有効的

猪原:じゃあ次です。「組織的には睡眠の重要性を認識してはいるが、従業員自身に睡眠の重要性を理解させ、改善が必要だと認識し、行動変容を促せる方法を知りたい」。そうですね。吉田先生、お願いできますか?

吉田:ありがとうございます。睡眠の質に関する理解が、ここ数年急速に進んできているなと私も思います。例えば私も土曜日は外来をやっているんですが、患者さん自身が「今、僕の睡眠はこうなんですよね」と、スマホのアプリで見せてくれる方もいらっしゃる。ここ数年、(こういう方が)すごく増えてきたように思います。

ここは個人差がものすごくあって、ぜんぜん気にしない人もいらっしゃるんです。例えばですが、話をよくよく聞くと、そもそも睡眠環境がぜんぜんなってない方もいらっしゃるし、本当にさまざまです。なので、改善が必要だと認識してもらうことはとても大事です。

やはり僕は数値化、見える化がすごく好きなので。アテネの不眠尺度をやって、「だいたいアテネがこのぐらいの点数だと、このぐらい睡眠による経済損失がありそうなんだよね。もしあなたがよく寝たら、もっと働けるし、ひょっとしたらもうちょっと上からも評価されるかもしれない。会社としても、あなたもすごくいいよね」(と説明できる)。

「一生モノの習慣」と何回も言っていますが、「(一生モノの習慣を)つけるために、変えてみる気はないですか?」という言い方がいいんじゃないかなと思います。

猪原:ありがとうございます。

起きる時間がバラバラだと寝溜めしがち

猪原:せっかくなのでこの図で(説明します)。私どものサービスは睡眠の行動変容ができるんですが、例えばこの人の場合、朝起きている時間がガタガタですよね。これでは寝溜めしちゃうので、睡眠のリズムが崩れるんですね。

でも、「睡眠のリズムが崩れるから朝起きましょう」と言っても、眠いので起きられないんです。起きられないのは何が問題なのかというと、この人の場合はベッドでうたた寝をしていることが問題だったんです。

なので、自分の悪い睡眠習慣のどこが問題なのかを理解して、そこを変えていくことをして、「すっきり寝られたね」となると、行動変容につながっていくんですね。「なるほど。こういうことをやったら良くなかったのが、うまくやったら良くなったんだ」ということを、一連の流れで理解していくのも重要なんじゃないかと思います。

特に自分では気づけないので、そのためには吉田先生がおっしゃるように、センサーで睡眠を見える化するのは重要かなと思います。

睡眠に関するセミナーは今後も実施予定

猪原:最後の質問は、「睡眠については、ストレスなどの因果関係をなくした睡眠とプレゼンティーズムの比較になっていますか?」。なるほど。

これは「ストレス要件を排除していますか?」ということだと思うんですが、先ほどの500人のデータは、睡眠改善をしたい人を対象に聞いた上で、前後でストレスチェック、もしくは前後でQQ methodの数字を取っています。

別にストレスを排除しなくても、睡眠が変わるとストレスが下がるとか、そういうシンプルな動きを知りたかったので。ストレスがある人だけを排除するとか、ストレスがある人だけを入れるとか、そういう恣意的なことは特にやっていません。

この質問だけで全部理解したとは思っていないので、ぜんぜん見当外れなことがあれば、メールとかをいただけると非常に助かります。

今日はご参加いただいて本当にありがとうございました。QRからアンケートに答えていただくと、本日の投稿資料をプレゼントさせていただきます。アーカイブ配信は、もちろんさせていただきたいなとは思っているんですが、資料等もぜひご活用いただければなと思っています。

ちょっと駆け足になって、1分もオーバーしてしまい申し訳ございません。吉田先生、今日はどうもありがとうございました。

吉田:ありがとうございました。

猪原:吉田先生ともこのセミナーを5回ぐらいやっていて、ぜひ6回目、7回目もやりたいなと思っているので、引き続きよろしくお願いいたします。みなさん、今日はどうもありがとうございました。

吉田:ありがとうございました。

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