2024.10.10
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心身の不調によってパフォーマンスが落ちた状態で働くことによる損失を「プレゼンティーズム」と言います。本イベントでは、睡眠とプレゼンティーズムとの関係性をテーマに、500人のデータからわかったプレゼンティーイズムの改善事例を紹介。本記事では、睡眠不足が続くと労働生産性にどのような影響をもたらすのか、データを用いて解説します。
吉田健一氏(以下、吉田):睡眠障害による悪影響です。例えばこれは当然ですが、日中への悪影響としては、昼間の眠気が大きくなってくることです。それから、日中の集中力の低下、イライラ。あとは頭痛も起こってくるでしょうし、倦怠感、抑うつみたいなことが起こってくるかと思います。
特に集中力の低下やイライラに関しては、私も不眠症とまではいかないんですが、短時間睡眠が何日か続くとやっぱり集中力は低下するし、怠くて体もしんどい。それから、ちょっとイライラしやすくなっちゃいますよね。
例えば患者さんの話を聞くことがちょっと難しくなってきたり、子どもに対していつもよりちょっと厳しくものを言ってしまったりすることがあって。いかんなぁとは思いつつも、「これは寝てないせいだ」という自覚はありますので、そういったことがあれば、なるべく長く寝ることを自分では心がけています。
それから、睡眠が不足することで、身体疾患や精神疾患のリスクも上がると言われています。例えば、太りやすくなっていく。肥満ですね。糖尿病の悪化にもつながるし、心筋梗塞、心不全、高脂血症、高血圧、狭心症、うつ病。
いろんな病気の原因になってくると言われていますので、睡眠をサポートしてあげることで体の病気も減ります。日中の悪影響を改善してあげると、当然プレゼンティーズムも改善するので、会社にとってもいいことづくめですよということですね。
睡眠不足と認知機能です。これも有名な研究ですが、6時間以下の睡眠が2週間続くと、2日徹夜と同程度に認知機能が低下。日本ではなぜか「6時間寝てるから大丈夫」って言われがちなんですね。
日本時間の平均睡眠時間は7時間ちょい(7時間22分)だったと思います。なんとなく「1日24時間のうち、4分の1以上寝てるから大丈夫だよ」みたいなことを言われがちなんですが、6時間以下はやっぱり明らかによろしくないってことですね。
それから、起床後15時間経過。つまり、朝7時に起きたとして15時間(経過して)夜の22時になると、その時点ですでに酒気帯び運転と同程度に認知機能が低下していることが、実験的にわかっているということです。
このあたりからすると、睡眠不足によってパフォーマンス、特に業務パフォーマンスが低下して、例えば残業が増える。深夜残業に入るとだいたい22時ぐらいかもしれませんが、(残業が)増えることでさらに睡眠障害に陥る悪循環になるということです。
当然ながら生産性は低下しますし、労働災害のリスクも高まるということを、ぜひご認識いただければと思います。
まとめです。プレゼンティーズムによる労働生産性の損失は、日本で年額19兆円もあります。それと、プレゼンティーズムは健康経営における重要な指標となっている。この傾向は、恐らくこの10月に公表される調査票でも強まっていくだろうと思います。
従業員の健康を支援することは、採用においても強力なブランディングとなります。健康支援、睡眠のサポートは行動面を変えることになりますが、「一生の宝になる睡眠習慣」というふうにお話ししています。
やはり習慣から変えることに意味があるのかなと思いますので、この支援にぜひ取り組んでいただければと思います。では、私の部分は以上です。ありがとうございました。
猪原祥博氏(以下、猪原):吉田先生、ありがとうございました。
猪原:ここからは睡眠によるプレゼンティーズムの改善事例ということで、NTT PARAVITAの猪原からお話しさせていただきたいなと思います。吉田先生、何回か振りますので、ぜひコメントをいただければと思います。よろしくお願いします。
まず、この表を簡単に説明しますと、縦軸は「アテネ不眠尺度」といって、睡眠のスコアなんです。8問の質問からなる主観的な睡眠状態で、WHOが規定しているので、グローバルで通用する尺度です。これはゼロ点が一番良くて、一番悪いのが24点と、ものすごく上があるんです。
(調査対象者の)507名のうち、ピンクの人は睡眠が改善してると見てください。上から下に落ちてきていると見るんですが、グレーの人は悪化している、緑の人は変わってないと見てください。僕ら睡眠が改善した500人のデータをやっとお話しできるようになったということで、これを出させていただいております。
この後、睡眠が改善するとはどういうことなのかというのを、他のデータとひも付けて説明を差し上げたいんですが、赤の点線がありますよね。これは6点のラインなんですが、ここを超えてくると不眠症の疑いが高いと言われています。
なので、不眠症の疑いが高いところから改善した人もいれば、そこまで届かない人もいる。こんなふうに見ていただくといいかなと思います。平均すると7.2点だったものが、この集団でいくと4.1点と、3.1ポイント低下している。じゃあ、この500名のプレゼンティーズムはどうなったのか。ここがまさに今日のテーマかなと思っています。
やればやるほど、プレゼンティーズムに対していい効果が出るということはわかっていたんですが、10人、20人で発表してもあんまりインパクトがないですね。「たまたまだろ」というお話になるので、500人ぐらいにいくまで待っていたんですね。
猪原:プレゼンティーズムについていろんな指標があるんですが、今日我々が測定したのは「QQ method」という指標です。先ほどの500人に対して、こういう質問をします。
まず、質問1。「現在、業務実施に影響を及ぼしている健康上の問題はありますか?」と、聞くわけなんですが、おおよそ半分の人は「ない」と答えるんですね。
じゃあ、「ある」と答えた人はどんな不調があるのかということで、メンタルの不調、不眠、睡眠不足、偏頭痛、PMS等、目の不調、首や肩の凝り、腰痛、その他(自由記述)という(項目で)質問をします。「問題がある」と答えた方は、このどれか1つを選ぶんです。
どの不調でも一緒なんですが、「この1ヶ月間で何日間、その症状がありましたか」「ない時を10として、ある時はどの程度の仕事の量(アウトプット)になりますか」「症状がない時を10として、症状がある時はどのくらいになるのか」(という質問をします)。
例えば肩が凝っていて、「どのくらい仕事のパフォーマンスが質・量ともに低下しているのか」という質問と併せて、「1ヶ月の中で何日ぐらいあるんですか?」と聞いているんですね。そうすると、ここで労働生産性の損失額が係数で出てくるようになっています。
ちょっとややこしいんですが、主観的に「自分はちゃんと働けていないんだ」という人の声を、質・量ともにしっかり集めているということで、ご理解いただければなと思います。これを先ほどの500人に対して(アンケートを)やった結果どうなったかというのが、この改善割合のところです。
なんと500人のうち、QQ methodでプレゼンティーズムが改善されている方が56パーセントいらっしゃるということです。変化なしも17パーセント、悪化されている方も27パーセントなんですね。
猪原:これを図で見ていただくと、こんな感じになっています。この資料は今日最もご説明したい資料でございまして、恐らく睡眠の改善と労働生産性について、これほど大量で精緻な分析をしたものはないんじゃないかなと思います。
縦軸が労働生産性の損失額なので、上のほうが損失が大きくて、ゼロが一番いいということですね。これも同じくピンクの方が改善されていて、グレーが悪化で、緑が変化なしです。先ほど56パーセントとお話しした方(QQ methodでプレゼンティーズムが改善された人)は、ピンク色のところに入っているということです。
ポイントは、当然、睡眠を取ればすべてオッケーなんだという話ではないとは思っています。でも、睡眠を改善することによって、こんなにたくさんの方のプレゼンティーズムが(改善される)。
睡眠の改善は当然そうなんですが、例えば、肩の痛みが緩和される、目の不調が緩和されるとか、他のものもしっかりと改善しているがゆえ、from/toで見るとこんな感じで改善をしています。
悪い人も含めて、損失抑制効果が1人あたり月額2万4,000円。睡眠が改善する前は、もともと1人9万2,000円ぐらいの損失があったんですね。これが介入後には6万7,000円まで下がったということで、(損失額抑制効果は1人あたり)2万4,000円です。睡眠を改善するというのは、プレゼンティーズムを改善する上で極めて効果的なんだなと思います。
これは僕らのお客さんからもよくお話をいただくんですが、「こういうデータが出てくると、『投資をしてちゃんと回収できるんだ』ということを経営者に示していけるので、有用なんだ」と言っていただいています。このあたり、ぜひ吉田先生からもコメントをいただければなと思います。
吉田:ありがとうございます。まず、これが月額なんだということで、第一印象で「金額が大きいな」と思ったデータでした。もちろん緻密であることは大前提なんですが、介入前が月額9万2,000円なので、年額で言えば110万円ぐらいの損失があったということですね。
吉田:先ほど私の部分でお話ししたデータで、(プレゼンティーズムによる損失は)日本全国で19.2兆円、労働者1人当たりでだいたい30万円ぐらいと言いました。
プレゼンティーズムの評価方法はいろんなものがあって、日本の研究だとあれぐらいの(精度の)ものが出ているけれども、アメリカの研究だと1万ドルという話があって。だとすると、このデータの年額で110万円ぐらいというのは、だいたいマッチするかなという感覚です。
QQ methodも非常に精密に取れます。先ほど猪原さんから丁寧にご説明いただきましたが、症状のある日は何パーセントぐらい労働生産性が落ちていて、その人の総額人件費(がいくらなのか)と、すごく緻密。
とても日本的な研究手法だと思っていますが、あれで取ったところ、介入後は6万7,000円減った。だから(介入前の)9万2,000円から比べると、だいたい25パーセントぐらいは改善しているということだと思います。
年額で言えば30万円改善したということなので、投資対効果で言うと、先ほど「一生モノの睡眠習慣」と申し上げましたが、もし数万円のサービスでこういった一生モノの睡眠習慣がある程度身に付くのであれば、非常に投資対効果は高いなと思うデータでした。
猪原:吉田先生、ありがとうございます。僕らのサービスを使ってほしいというよりは、今日せっかくお時間をいただいてたくさんの方にお話を聞いていただいているので、睡眠をちゃんと改善さえすれば、相当大きなプレゼンティーズムを減らすことができると(いうことを伝えたい)。
健康経営の中で悪戦苦闘されている担当者の方も多いんじゃないかなと思います。僕らのデータは後でお渡ししますので、「そこに投資する意味はここにあるんだ」ということをお話しいただける、1つの参考資料にしていただけるといいんじゃないかなと思います。
猪原:続けますね。今日はこれをどうしてもお話ししたくて、お時間をたくさんいただきました。これは、先ほどの労働生産性の損失額を縦軸にして、横軸は「アテネ不眠尺度」という睡眠のスコアで見ています。
これは何が言いたいかというと、睡眠のスコアが悪くなればなるほど、労働生産性は低下していっているということです。相関係数でも0.5ぐらいで出てきていて、p値でいくとほとんど小さくてわからないぐらいの単位になっているということですね。
なので、当たり前なんですが、寝られていない人は生産性が低下している。こういうことが言えるんじゃないかなと思います。
ついでにストレスチェックの話もしておきたいと思います。先ほどのストレスチェックにB項目というものがあるんですが、心身のストレスを質問しているところがあります。これは非常に大切なんですが、それを聞いている人が500人中368人。これを(プレゼンティーズム介入の)前後で聞いているということなんですね。
ちょっとごちゃごちゃしていて見にくくて恐縮なんですが、縦軸が心身のストレスで、先ほどのようにピンクの人が改善しているということですね。黄色のラインが63点なので、ここに来ると準高ストレス者と言えるのかなと思います。赤のラインが77点で、ここを超えると一発で高ストレスになるんですね。
見ていただくと、もともと赤を超えている人も36人いたものが、そのままの人は14人で、準高ストレスのところにいった人が12人。そこを脱した人が10人ということで、高ストレス対策としても、睡眠改善は有効だということをお示ししています。
併せて、77点以上の高ストレス予備軍も、もともと92人いたところが……中には悪化した人もいるんですが、そのまま残った人も37人で、約半数は62点以下になった。睡眠が改善すると、シンプルにストレスが低下するということも、これでおわかりいただけるんじゃないかなと思います。7割方の人が心身のストレスが低下している。こういった内容になっています。
猪原:吉田先生。臨床の観点から見ると、ストレスと睡眠の関係はどうですかね? ぜひお話しいただければと思います。
吉田:ありがとうございます。平均で明らかに下がっているというのは、非常に効果が高いなと思います。高ストレス対象は赤の四角のところで、77点以上。
意識されたことのある方は少ないかと思いますが、ストレスチェックは2通りの高ストレス者の算定基準があります。B項目というのは、要は心身のストレスですね。心身に症状が出ちゃっている点数が高い人たちは、「一発高ストレス」と言いますが、77点以上だと一発で高ストレスなんですね。
この、一発高ストレスの36人が一発じゃなくなった。12人(準高ストレス者)と10人(高ストレスから脱した人)のところに行ったということなので、22人の方が一発高ストレスの対象ではなくなった。
(高ストレス)予備軍というのは、その合わせ技ですね。B項目が63点以上だったかな? あとはA+Cの点数との合わせ技です。つまり、「仕事のストレス」と、「周囲のサポートと心身のストレス」という項目。この2つの点数の合わせ技で高ストレスの判定があるんです。
これが63点を下回ってくる、つまり62点以下になると、合わせ技の部分が効いてこなくなるので、92人の方のうち47人がそっち(62点以下)に入っていったということは、高ストレスになる方の割合も相当減るんだろうと思います。
ストレスチェックは弊社も提供していますが、我々のお客さまというかカウンターパート、いわゆる実施事務従事者の方たちは、「今年の高ストレス者の割合は何パーセントかな?」ってすごく気にされているんですね。
会社の状況や気候の条件とかで、高ストレスが増えたり減ったりはしますが、いずれにしても睡眠を良くしてあげると、実は高ストレス者は減るというのはすごくいいデータですし、経営層に対する説明もしやすくなるかなと思います。
高ストレス者の割合は、健康経営優良法人の時に表に出している企業さんもあるぐらいですから、こういったデータが拾えたというのはすごくいい研究だなと思いました。
猪原:ありがとうございます。
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