2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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藤野英人氏(以下、藤野):今、時代が大きく変化している中で、これを見ている方の中にはまだ投資を始めたことがない人もいっぱいいると思います。そういう人に、「こういうところから始めたらいいよ」という声をかけるとしたら、どんなことをお話しされますか?
後藤達也氏(以下、後藤):それこそちょうど新NISAが始まってますし、積立の枠ですと月1000円とかすごく少額でも始められるので、まずはそれを始めてみることなんじゃないですかね。
個別株となってくると、どの株を選べばいいのかわからないとか、例えばトヨタといっても「トヨタの何を見ればいいかわからない」という方が大半だと思うんですよね。まずは投資信託で、手数料の低いものを買うっていうのが基本線なのかなと思いますね。
後藤:(投資を)やってみて、1ヶ月でも半年でも経つといろいろ感じることがあると思うんですよ。「こうやって動くのか」「これだけかけたら、これぐらい損したり得したりするんだな」というのが、肌感覚でけっこう見えてくるところがあるので。そこから先はいろんなやり方があると思うので、その都度考えればいいかなと思うんですよね。
例えば、「こういう銘柄を選ぶべきだ」とか「こういう資産配分にすべきだ」というのは、本当に人それぞれなので、そこまで細かく本(『投資の教科書』)には書いていないんですよ。そこまで強制するものでもないので。まずは新NISAの積立をやってみることが入り口かなと思いますけどね。手続きもそんなに大したことないですし、最初は本当に数千円でも始められるものなので。
藤野:本当にそのとおりです。日本の方って、0か1かみたいな人が意外に多くて。投資の話をすると、すごい切羽詰まった顔をして来られる方がいて。「僕、今は貯金が1000万円あるんですが、1000万円ぜんぶ投資したほうがいいですか? 今まで投資は0だったんですよね」みたいな。いや、1000万円一気にやる必要ないですよねっていう話です。
投資ってグラデーションがあるんですよね。だから、0から100までという割合があった時に、別に100にする必要はまったくないんです。10パーセントでも15パーセントでも、立派な投資家じゃないですか。そういうところからスタートすることが大事なんだけど。
でも、おっしゃるとおり、投資で一番大変なことは日々変動することなんですね。日々変動するという状態に慣れることが、実はすごく大変。月で10パーセント上がる・下がることなんて別に普通にあるから。
藤野:変動に慣れてない時に1000万円ボンと投資をしたら、10パーセント上がれば「おぉ。100万円増えた」ってなるんだけど、10パーセント下がることもあるんです。そうすると、ひと月ぐらいで900万円になっちゃうわけですよね。そうすると、「もう投資は怖いよ。もう一生やらない」みたいな結論になっちゃったりする。
後藤:イメージで言うと、素振りもキャッチボールもしたことないのに、いきなり草野球の実践に出させられるようなものです。それだと体を壊しちゃったり、そもそも打ち方もよくわからないって感じですよね。キャッチボールしたりする中で、「腕ってこれぐらい痛くなるのか」ということを、まずは(経験として)重ねておくのはすごく大事だと思うんですよ。
学生さんや大学生とか、20歳過ぎの社会人になって間もない方って、そんなにたくさんお金はありません。「月1万円でもけっこう大変なんですが、やる意味あるんですか?」と聞かれても、私はやるべきだという感覚です。
例えば月1000円だと年間1万円ちょっとぐらいですが、極端な話、それだと株価が暴落し半分になっても数千円の損失で済みますから、損失の最大額は極めて小さいわけです。
それがいわば“キャッチボール”になるわけであって、いろんな世界を見る目が変わってくる。資産がどう動くのかが見えてくると、いざ将来、何百万円あるいは1000万円以上運用する時代になった時に、その感覚はまったく違うと思うんですよね。
日本だと、退職するまでまったく(投資を)やっていなくて、退職金がボンと出てきて、急にそれで全額を投資信託みたいなことがあったりすると思いますが、それってあまり好ましくないなとは思っていて。時間をかけて練習しておくことも大事かなと思います。
藤野:「実際に投資を始めました」となると、毎月価格変動がありますよね。投資をすると、スマホで登録して毎日見ちゃったりして、一喜一憂しがちですよね。それにはどう向き合ったらいいんですかね?
後藤:どういうお金の稼ぎ方をしたいかにもよると思うんですが、「短期で何倍にする」「今年は何百万円儲けるぞ」というのは、基本はリスクを取りすぎちゃってることが多いと思うんですよ。基本的に個人がやるのって、老後の生活の資金をしっかり確保するために、長い時間をかけて資産形成することだと思うんですね。
なので、先ほど藤野さんおっしゃっていましたが、目先の半年とか1年で株価が上がる・下がる、まして明日上がるか・下がるかなんていうものは、まったく気にしないほうがいいと思いますね。
もちろん、すごく動いてたら「なんで動いてたんだろう?」ってニュースをチェックしたり、「こういうもんなんだ」ぐらいのことは考えてもいいと思いますが。自分の資産がどれぐらい増えたか・減ったかは、逐一見すぎて一喜一憂してしまうと、時間と心のムダ遣いというか。
藤野:「時間と心のムダ遣い」。良い言葉だね。
後藤:心もけっこう乱れちゃったり、パッて起きてまず最初に「株価どうなってるんだろう?」とか気になりすぎてたりすると、他のことに時間が割けなくなってきたりするので、そこまで過度に気にしなくていいと思いますけどね。
藤野:となると、週1ぐらいで十分なのかね。週1でも多いぐらいかな?
後藤:私自身も運用してますが、自分自身の資産がどうなってるかは週1も見るか見ないかぐらいですね。もちろん仕事でマーケットを扱ってるので、今日の株がどうかとか、為替がどうかとかは仕事上チェックしますけど。
藤野:見てるけど、感覚でわかりますよね。
後藤:私が仕事でこれをやってなくて、単に運用してるだけだったらそこまでも見ないかもしれないですね。
藤野:そうだよね。
藤野:僕もひふみで積み立てているんだけど、ひふみの積み立ての具体的な数字がどうなっているのかは、確かに月1も見てないかもしれないですね。もちろん、どのぐらいの金額感になってるのかはプロだからわかるっていうのもあるけど、そんなに数字を確認してもしょうがないところもありますよね。
後藤:藤野さんもどこかでお話しされていたと思いますが、それこそ手に汗をかいちゃうとか、気になっちゃうぐらいになっている時点で、たぶんその人はすでにリスクを取りすぎてるんですよね。
藤野:そうそう。だから、私は「小さく、ゆっくり、長く」というふうに言っていて。その中の「小さく」というのは、手に汗をかかない程度の金額。大事なのは、人によって「手に汗をかく」っていうのは違うんですよね
1億円持っている人の100万円だったら手に汗をかかないかもしれないけれども、100万円の資産の人が100万円投資したら手に汗をかくわけですよ。だから「手に汗をかく」というのは、その人の持っているお金に対する感覚と、持っている資産によって変わってくる。だから、自分の気持ちと対話することがすごく大事です。
自分と対話すると言ってもなかなか対話できないから、その金額を聞いて手に汗をかく感じがするのか? という対話の仕方が、実は一番いいよと私は言ってるんですね。
後藤:本でも書かせてもらったんですが、個人投資家って短期で勝つのはかなり難しいんですね。大成功している人とか、SNSで輝かしく出ている人も中にはもちろんいるんですが、大半の人が短期ではなかなか勝てないと言われていて。
短期の投資家って、世界中にすごいプロがいっぱいいるわけですよね。それこそ何兆円と運用している人もいれば、ものすごい秀才が何百人も集まっているファンドもあるわけです。
しかも、そこに投じられているシステムとかも、ものすごく高度なコンピュータがたくさんあったりするわけなので、本当に何千分の1秒単位とかで分析もされているし、企業の調査も、ものすごくしている。そういった人たちに対して短期の動きで勝とうとするのは、やはり相当難しいんです。分が悪いわけなんですね。
これに対して、じゃあ長期はどうか。30年後の株価がどうなるかと言うと、これは10兆円を運用するファンドであっても天賦の才能があるわけじゃないのでわからない。
藤野:30年後なんて、お金を払ってもわからないから。
後藤:そうですよね。すごい構造変化もあるし、それこそAIでこんなことが起こっているなんて、5年前に予見できる人はなかなかいなかったわけですし。
藤野:そうだよね。
後藤:そうなるとどっちもわからないので、プロと個人の間であまり優劣がそんなになくて。むしろ場合によっては、プロは何かがあってファンドから「お金を換金します」って言われちゃうと、嫌でも売らなきゃいけないとか。短期でパフォーマンスを出すために、必死にがんばらなきゃいけないという制約もあったりするので。
30年、50年という長期で、どんとかまえた投資という意味では、個人のほうが分がある場合もあるかもしれない。そう考えると、やはり短期でやるのは期待値的に負けやすくて、長期は勝てる可能性が高い。ここを意識すると、「この1ヶ月、変な銘柄を買っちゃって損しちゃった」とかではなくて、でんとかまえておくことがすごく大事なのかなと思いますね。
藤野:そうですね。
藤野:膨大なデータをいろいろと参照されてご紹介されていますが、後藤さん自身が情報との接し方でとても大事にされていることは何ですか?
後藤:難しいですね。なるべくいろんなものには当たらなきゃいけないと思っていますし、当然オープンになっているメディアやレポートも見たりしますが、全部を伝えるわけにはいかないですよね。
藤野:そうですね。混乱しちゃいますものね。
後藤:そうですね。中にはノイジーなものもありますし、例えば「これは伝えなかったほうがよかった」みたいなものだっていっぱいあり得るわけなので、その取捨選択は大事にしていますね。「これは絶対に伝えたほうがいい」というものって、必ずしもあるわけではないんです。
ただ、先ほども言いましたが「5年後、10年後も信頼してもらえる」というフィルターをかけた上で、「これは伝えておいたほうがいい」「これはこれぐらいのトーンで伝えておいたほうがいい」というところは意識してやっているところはありますね。例えばですが、2023年ってシリコンバレーバンクの問題があったり、クレディ・スイスの話があったりしました。
藤野:ありました。ちょうど2023年の今ぐらいでしたね。
後藤:そうですね。あれはあれでもちろん大変な問題ですし、走っている段階では当局者もどうなるかがわからなかったと思うんです。ああいうことが起こると、SNSって「リーマン・ショックの再来だ」ってすごく煽ったりするところがありますよね。
藤野:ありますね。
後藤:もちろん、あの時点では「絶対にリーマン・ショックにならない」って100パーセント断言はできないわけですが、SNSって変に拡散されてしまいますし、あおり過ぎちゃうと自分自身があとでレピュテーションを失うこともありかねないんですね。
藤野:そうですね。
後藤:中立性って難しいんですが、なるべくあおり過ぎないように、「起こっている事実はこういうことだし、リーマン・ショックって騒がれているけど、こういう観点で言うと現時点ではリーマン・ショックっぽくならなそうです」とか、なるべく整理して伝える。ちょっと一歩距離を置いた感じのスタンスが大事かなと思いますね。
今、SNSやYouTubeって過激なことを言えばビューを稼げたり、場合によってはマネタイズできたりするので、そういう人たちが多くなり過ぎないようになればいいなと思っていますけどね。
藤野:そっちのほうにバイアスがかかっているからこそ、逆に後藤さんの相対的な価値は高まるような気がしますよね。
後藤:過激なものに飽き飽きしている人もいるでしょうし、「そういうものは見たくない」という人もいたりするので。でも、そういうニーズにどうたどり着くかは難しいですけどね。地味なこと、無難なこと、客観的なことを言っていると、やはり目立ちにくいので。
藤野:そうだね。
後藤:そもそもリーチできないという難しさもあるので、そこは悩ましいところですけどね。結局、リーチできなかったから意味がないところもあるじゃないですか。どれだけすごいことを言っていても、「5人しか見ていません」だったら、それって社会的意義がないので。悩みながらやっています(笑)。
藤野:後藤さんのメディアって、「狼が来るぞ」「リーマン・ショックが来るぞ」みたいなことを言わないじゃないですか。わりとニュートラルな話をしていくので、そういう面で見れば刺激は少ないメディアですよね。
後藤:そうですね。むしろ刺激は避けようとしているぐらいな感じですね。
藤野:そうですね。
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