2024.12.24
「経営陣が見たい数字」が見えない状況からの脱却法 経営課題を解決に導く、オファリングサービスの特長
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ベストセラーになった『読書大全』著者の堀内勉氏が、新刊書『人生を変える読書』を題材に、先行きが不透明な時代における読書の重要性や、おすすめの書籍を紹介。本記事では、堀内氏が推奨する“自分の殻を打ち破るための本”について解説します。
堀内勉氏:法政大学の水野和夫さんが『資本主義の終焉と歴史の危機』という本を10年前に書かれて、大ベストセラーになっています。今でも非常に売れている本で、水野さんは「資本主義とは、利子率の低下とともに終焉していく。それで資本主義の死を迎えるのだ」と言われています。
それが一大センセーションを巻き起こしたんですが、資本主義が死んでいる感じはしなくて。金利が上がってきて、また「経済成長だ」と言ってみんなが騒いでる感じになっているかなと思います。
資本主義は、18世紀の後半、19世紀の前半ぐらいから百数十年、共産主義や全体主義と戦いながらしぶとく生き延びてきました。決定的だったのが、2013年にフランス語で発表された『21世紀の資本(LE CAPITAL)』。(著者の)トマ・ピケティさんはフランスの大学の経済の先生です。日本で翻訳が出たのは10年前ですね。
実はマルクスの『資本論』もドイツ語で「Das Kapital」なんです。それを『資本論』と訳してるので、トマ・ピケティのほうも意味的には「21世紀の資本論」なんですね。マルクスがドイツで『資本論』を書いて、それから百数十年経って、フランスでトマ・ピケティがまた『資本論』を書いた。
これは、過去200年ぐらいの経済統計を調べて出てきた非常にシンプルな結論です。歴史的に見ると「r(資産利益率)」のほうが「g(所得伸率)」よりだいたい大きい。
「r」というのは資産の利益率です。お金を投資して、その投資が戻ってくるリターンのほうが所得の伸び率を上回っている。要は「過去200年で見ると、働いているよりお金を投資していたほうがだいたい儲かってる」ということです。
所得がグンと伸びた第2次世界大戦直後ぐらいは少し逆転してる時があるんですが、「働かないでお金を投資してるほうが、ほとんどはお金持ちになるんだよ」という、身も蓋もない統計的な結論を出してしまって(笑)。この不都合な真実が暴かれたのが2013年だったんですね。
だんだんこの頃から、資本主義について「え? そんな仕組みって本当にいいの?」という感じになってきてるということなんです。
マーク・フィッシャーさんという批評家がいて、残念ながら自殺されてしまったんですが、資本主義に関して『資本主義リアリズム』という非常におもしろい本を書いています。その中で印象的なことを言ってるんです。
「資本主義の終わりより、世界の終わりを想像するほうがたやすい」。要は、資本主義がいかにしぶとい仕組みかということを、彼は言っているんですね。
そうなってくると、私が根源的な疑問を感じたように「じゃあ我々は、なんでこんなに働かなきゃいけないの?」「なんで成長しなきゃいけないの?」「資本主義の社会の中で生きていて人間は幸せになるの?」と。
トマ・ピケティの「結局、一生懸命働いてるよりお金を投資していたほうが儲かるんだ」という話になってくると、人間って何なのか? 人間の尊厳って何なのか? という話になってくるわけですね。
同じような疑問を感じた人は私だけではなくて、けっこういます。最終的には、あとでお話しする宇沢弘文先生という経済学者に行き当たります。その萌芽は、日本的な経営者・渋沢栄一ですね。2024年から1万円札の顔になるのかな。『論語と算盤』という本を100年ぐらい前に書いてます。
実は私、渋沢栄一の玄孫(やしゃご)……曾孫のさらに子どもの玄孫の渋澤健さんとたまたま同い年で仲が良くて。それで「資本主義の勉強・研究を一緒に始めませんか?」と言って、渋澤健さんや東大の哲学の先生とかもお誘いして、もう10年以上資本主義の研究を続けてます。
その中で、やはり「日本資本主義の父」と言われている渋沢栄一の思想って何だったのか? ということも勉強しました。『論語と算盤』というタイトルにすべて表れてるんですが、「商売というのは算盤だけじゃなくて論語も必要なんだよ。両立させるべきことなんだよ」ということを100年前に説いているわけですね。
宇沢弘文さんという、経済学の世界では「日本人で最もノーベル経済学賞に近かった男」と言われている先生がいます。残念ながらもうお亡くなりになられました。娘さんでお医者さんの占部まりさんは、元は宇沢まりさんというお名前だったのですが、結婚して名前が変わって占部まりさんになられています。
占部まりさんが今、巡り巡って宇沢弘文の経済思想をもう一度世に問い直そうということで、いろいろ活動されていて。今、彼女も資本主義研究会のメンバーとして活動していただいています。
宇沢先生は実はシカゴ大学で教授をされていたのですが、ベトナム戦争に反対して日本に戻ってくるわけです。それで東大の教授になりまして、「社会的共通資本」という考え方を唱えられました。
渋澤健さんはコモンズ投信の会長をされてるのですが、まさに社会的共通資本はコモンズです。例えばイギリスやアメリカとか、英米法の国でコモンズという広場みたいなものがあって、日本語で言うといわゆる「共有地」ですね。入会地や共有地みたいなもので、みんなで管理して、みんなで使ってる共有財産。
そういうものをもうちょっと拡張した概念として、宇沢弘文先生が社会的な共通資本を唱えられていました。「市場取引の対象にしてはいけないような、みんなの共通の資本があるんじゃないか」と。彼が言っていたのは、例えば医療や教育です。
宇沢先生は2003年に『経済学と人間の心』という本を出されていて、それが新装改訂して『経済学は人びとを幸福にできるか』という本になっています。帯に池上彰さんが出ています。
「哲人経済学者はこう考える」。(表紙にある)「経済学は人びとを幸福にできるか」というタイトルは、私が個人的に思った疑問を、まさに正面から議論されている先生がいらっしゃったということです。
宇沢弘文先生は東大の経済学部で教えてらっしゃったんですが、残念ながら私はその時は法学部生だったので、直接教えを請うたことはないんです。後づけでいろんな本を読ませていただいて、非常に感銘を受けています。
みなさんご存じの「SDGs」というものがあると思います。持続可能な開発目標として、国連が2015年に発表した17項目ですが、宇沢弘文先生の社会的共通資本はこれに非常に通じるものがあるなと考えてます。
今、経済学は数理経済学や統計的な経済学が主流なので、「じゃあ経済は人間を幸せにするのか?」みたいな経済思想的・経済哲学的な話は主流ではないんですね。
宇沢弘文先生が亡くなられて、直接後を引き継いだ人はいなかったのですが、東大の経済学部長もされた岩井克人先生がいます。ICU(国際基督教大学)の元特別招聘教授で、『経済学の宇宙』という本を書かれてます。
岩井先生の本は「そもそも会社とは誰のものか」ということを(提起しています)。MIT(マサチューセッツ工科大学)に留学して、宇沢先生と同じように経済学の超主流にいらしたのですが、やはり途中で疑問を持って、人間に焦点を当てた経済を研究されている。こういう方もいらっしゃるということです。
最近では、みなさんご存じかと思いますが斎藤幸平さん。東大の教養学部の准教授の斎藤幸平さんとはよくお話しするのですが、「さすがに本郷の経済学部ではなくて私は駒場のほうです」と言っていましたが。
『人新世の「資本論」』は55万部ぐらいまで来ているようですが、今は世界中で講演されてますね。英語とドイツ語が堪能なので、世界各国で講演をして回られてます。2024年4月からは、ドイツの大学にサバティカルに行かれるそうです。
斎藤幸平さんは「脱成長、脱資本主義」ということを正面から唱えられています。修正資本主義じゃなくて、もう資本主義を脱却しないといけないと。マルクス研究の第一人者なんですが、マルクスの共産主義を復活させようというストレートなものではないのです。
マルクスは『資本論』の第一部を書いたところで著作は終わってるのですが、もっと色々な研究をしていた。地球のエコシステム的な研究をしていて、晩年は共産主義の話よりは、もうちょっとエコロジカルな経済循環の話をすごく研究していたと言っていて。
ですから、斎藤さんが研究されているのはコミュニズムというよりは「コミュニティ・イズム」なのですが、「コミュニズムと言ったほうがわかりやすいからコミュニズムと言ってる」と本人は言ってますが(笑)。コミュニティを中心にしたイズムだから「コミュニティ・イズム」ですよね。
『国富論』というと「神の見えざる手」とよく言われますが、アダム・スミスは『国富論』の中で「神」とは言ってなくて、「見えざる手」と言っているんです。要は、市場に任せておけば経済はうまく回るということを言ってるんですが、その大前提として『国富論』の16年ぐらい前に『道徳感情論』という本を書いています。
(スライド)右側が『アダム・スミス 共感の経済学』という2年ぐらい前に出た本なのですが、これはジェシー・ノーマンさんというイギリスの上院議員が書いたアダム・スミスの伝記なんですね。意外なことに、アダム・スミスってあんまり伝記みたいなものは書かれてなかったんです。
『共感の経済学』と書いてありますが、私はこの本の解説を書いています。『道徳感情論』は、何を言っていたのか。それ以前に、ホッブズが『リバイアサン』という本を書いてますが、そこで人間の社会というのは「万人の万人に対する闘争」だと言っています。
自然状態の人間は、血で血を洗うかなり悲惨な状況であると。いつも殺し合いをしてたらもたないので、じゃあ社会契約を結んで休戦しましょうと。それが社会の始まりだ、というようなことを言ってるんです。
アダム・スミスはそれに真っ向から異を唱えて「いやいや違うでしょ」と。人間というのは、放っておいてもなんらかの秩序ができて社会が形成される。じゃあその根底にあるのは何かというと、「共感」という人間特有の感性・感情だと。共感という能力があるから、そこから道徳感情が生まれてくる。
「こういうことをしちゃやっぱり悪いよね、良くないよね」とか、相手の心を思いやる気持ちがあるから、なんとなく相手との距離感がうまく設定されていく。そこから生まれる道徳の感情が人間社会を秩序立てているのだということを、『国富論』のずっと前から書いているのです。
『道徳感情論(1759-1790年)』と書いてありますが、彼はこれを5回も改訂して書き直して、第6版まであるんですね。
実はアダム・スミスはグラスゴー大学の道徳哲学の先生ですから、道徳哲学から始まって、それをベースに経済の『国富論』を書いたんです。20世紀に入って「見えざる手」ばかりが強調されてしまって、誤解されていたという話です。
今、私がお話ししたようなバックグラウンドの中から「自分の『殻』を打ち破るための推奨本」を紹介します。
マックス・ウェーバーは、いろいろなところで「鉄の檻」と書いています。鉄の檻とは、一番代表的には官僚組織のことを言ってるんですが、「組織に囚われて生きている」という意味では、私は会社も鉄の檻の1つだと思っています。
『全体主義の起原』のハンナ・アーレントで一番有名なのは、『エルサレムのアイヒマン』という本です。アイヒマンはユダヤ人を強制収容所に送り込むための責任者をやっていました。
(本の表紙に)『悪の陳腐さについての報告』と書いてありますが、彼が巨悪を為したのは……要は「何にも考えてなかったから」だと。体制に乗っかって、何も考えないで生きてたら巨悪を為してしまったと言ってるんですね。
その裏返しが、強制収容所を生き延びたユダヤ人精神学者の(ヴィクトール・)フランクルの『夜と霧』。これもみなさんご存知かと思いますが、本当に悲惨な状況でした。
『君たちはどう生きるか』という本が(初出版されたのが)1937年。これは日中戦争が起きた年なので、日本が軍国主義に突入していく時に出版されたのですが、非常にリベラルな本です。
ちょうど宮崎駿の映画で『君たちはどう生きるか』が2023年に上映されましたが、それとタイトルは一緒です。内容はぜんぜん違いますが、宮崎駿はたぶんここからタイトルを取ったのだと思います。
軍国主義に入っていく日本の中で、「コペル君」というあだ名の主人公が、自分の人生を自分で考えて前向きに生きていく話です。
ここに「55万部突破!」と書いてありますが、非常に今に通じる話で、確かもう80万部ぐらい売れてる。ですから、80年から90年ぐらい経って、今でもベストセラーであり続けている非常に稀有な本です。
それから最後が、クレイトン・クリステンセンというハーバード・ビジネススクールの先生だった人が書いた『イノベーション・オブ・ライフ』という本。イノベーションの専門の先生で、『イノベーションのジレンマ』という本で有名になった方です。
日本版のタイトルが『イノベーション・オブ・ライフ』になってると思いますが、原題は『How Will You Measure Your Life?』。要は「あなたは自分の人生をどういう物差しで測るのか?」と言っているんですね。
ハーバード・ビジネススクールのエリートたちに「自分なりの物差しを持って生きてください」ということを訴えた本で、これが大ベストセラーになりました。残念ながら3年ぐらい前にがんで亡くなられたんですが、非常に人格者で、ハーバード・ビジネススクールでも大人気の教授でした。
この先生がいた影響も大きいんだと思いますが、ハーバード・ビジネススクールは、みなさんが先入観を持って見ている「バブルを起こした犯人」や「新自由主義の尖兵」から、今はかなり経営倫理のほうにウェイトを置いた学校になっています。
ということで、最後はちょっと駆け足になってしまいました。こんなことをみなさんと議論しながら、本を題材に「じゃあ、あなたはどう生きるのか?」ということをみんなで議論し合う読書ゼミをやらせていただいています。
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