2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組『本音茶会じっくりブランディング学』。今回のゲストは、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズを手がけた映像ディレクターの上出遼平氏。第二部の後半となる本記事では、番組制作において企画の質と視聴率をどのように両立するか、その難しさと“ぶらしてはいけない軸”について語りました。
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工藤拓真氏(以下、工藤):今もテレビ業界でがんばっている後輩とか、一方で「数字(を取るために)がんばれや」みたいな状況もあったりあるじゃないですか。とはいえ、数字をまったく取れてないような仕事は、別の意味でちょっと違うと思う部分もあると思うんですよ。
上出遼平(以下、上出):もちろん。
工藤:数字との向き合い方について、例えば「上出先輩、どうすればいいですか?」みたいなのが(相談として)来たら、どういうふうに対話するんですか?
上出:ちょうど昨日、その話がありましたね。
工藤:そうなんだ。後輩くんが?
上出:僕、中京テレビの仕事をちょっとしているので、目の前で視聴率の問題が生じますよね。長らく視聴率のことを考えてなかったんですが、久しぶりにその話をされて「懐かしいな」と思って。
工藤:(笑)。
上出:「その番組にとって、本当に重要なところは何かをまずは見つける。その番組にとって重要なところが見つかったら、数字を一切合切忘れてコアの精度を高めましょう。どうしても数字が必要なのであれば、周辺のもので数字を担保する努力をしましょう」と言っています。
つまり『ハイパーハードボイルドグルメリポート』みたいなものだとしたら、「VTRはどんなものを扱ったら数字が取れるだろうか?」というのは本末転倒です。
工藤:なるほどね。
上出:『ハイパーハードボイルドグルメリポート』みたいな番組で、取材内容で数字を担保しようとしたら「今まさに話題になっている事件現場や事故現場に行きましょう」ってなるんですが、古いリベリアの少年兵とかは当然、誰も興味ないので。
だけど僕らのやろうとしていることは、報道が持っている「今」という強度に抗おうとしている部分でもあったので、そこを覆すことは絶対しませんと。だけど、どうしても数字が必要なのであれば(スタジオの)出演者を増やすとか。
もともと小藪(千豊)さん1人だったけれども、ゴールデンでやる時に数字をもっと取らないといけないとなったら、有吉(有吉)さんに来ていただいて「1+1=2」にしましょう、とか。予算との兼ね合いもありますが、そういうことをすべきだと僕は言っています。
工藤:おもしろい。
工藤:真ん中の真ん中は、ちゃんとずらさない。
上出:そうそう。多くの場合、真ん中がずれていくので。そうすると番組としての魅力はなくなるし、「何のためにこれをやっているんだっけ?」「他のと一緒じゃん」というものになっていきますよね。テレビで数字を取るっていったら、ある程度はできることが決められてしまっているので。
工藤:技術的なものは、それこそプロの職業人としてちゃんと知っておく。
上出:そうですね。「数字のことなんてどうでもよくて、好きにモノづくりしようぜ」というのは、僕にとっては原理的に実は存在していないというか。VTRの作り方にしても、ちゃんと人に伝わるように、ちゃんと人の心に響くようにモノを作ることは大前提なわけですよ。それがなかったらマスターベーションなので。
お客さん目線でモノを作ってるわけですから、少なくとも数字に結びつくはずですよね。それでも足りない部分はどうしても出てくるので、周辺のパッケージングやスタジオの出演者との部分でやっていこう、という話をしている。
工藤:そうか。「コア」と「周辺」を明確にちゃんと区分して考えて、置いておくということなんですね。逆に言うと、「テレビを作るぞ」と没頭していると、やはり見えにくくなっちゃうんですかね。
上出:なるんじゃないですかね。
上出:それこそ昨日も若手のディレクターと話していて、番組制作の中ではすべてが大事になるわけですよね。
「この番組にはこの出演者なんだ」とか、もちろんあると思うんですが、本当に何が大事かを一回見つめ直そうよと。(本当に大事なのは)企画のこの部分でしょう、それ以外の部分はあなたの好みの問題であって、好みを1回外して合理的に商売としてより効果的になる方向にしよう、と。
もちろん数字がいいに越したことはないんです。たくさんの人に届いたということなので。「数字なんてどうでもいいんです」という人は、本当に信用ならないですから。
工藤:(笑)。本当に信用ならんですよね。
上出:自分に言っているんですが。
工藤:(笑)。
上出:さっきの『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の例のとおり「どういうスパンでモノを見るか」ということもあると思うんですよ。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』は、そもそも番組として最初からマスに届き得ない中身なんですよね。
工藤:ザ・大衆とかではない。
上出:ではないんです。ザ・大衆だったら、絶対に違う企画のほうがいいんです。じゃあそれを大衆向けに、視聴率を0.1パーセント上げるためにちょっと中身を変えましょうということは、本末転倒だという話なので。
工藤:なるほど。
上出:適材なものによって、当然スタンスは変えるべきです。僕の『ハイパーハードボイルドグルメリポート』に対するスタンスは、長い目で見た時にそのあとの展開を招くことになったので、商売的にもビジネス的にも合理性があったと思いますけどね。
工藤:それこそ局の方針としても「これは大衆を背負う。新しい刺激というよりは、ド定番で見ていると安心」みたいに届けられるものも、当然あると。
上出:もちろん。それはそれでテレビの使命の1個でもあると思いますし、テレビのビジネスを支えている柱でもありますから、それを否定するつもりはないし。1個のパターンです。
工藤:それはそれで、真ん中の「大衆性」をブラさないように(する)。時代がずれちゃったら、プロの人たちが「もっと若い人を入れたほうがいいんじゃないの?」と、ちゃんとチューニングをかけていけばいいし、真ん中をずらさなければってことなんですね。
上出:そうですね。そのためにも、やはり数字を取るためのスキームは身につけておいた方がいいんですよね。
工藤:そうですね。
上出:僕みたいにトリッキーなことばかりやろうとしている人間なら、なおさら。
工藤:(笑)。
上出:トリッキーなものをやる時に、絶対に必要になってくる技術なので。テレビで言うとゴールデンの番組でちゃんと演出をやるとか、ちゃんと数字の取れるVTRを作るということを実現してからやったほうがいいですよね。
工藤:なるほど。
工藤:それって、境界線をなくす思考の癖づけともすごく相性がいい考え方なのかもしれないですね。三島由紀夫の『不道徳教育講座』も「数字数字して思考を停止するというのがいっちゃんあかん」みたいな。だから、どっちに対してもノーと言っている感じがあって。
「数字をとにかく取れ」と言っているやつには、「お前、数字数字言ってんなよ」と言う。逆に「数字なんか関係ねぇ。俺は1人だ」みたいなことを言っていたら、「お前、それだと飯食えねぇぞ」と。どっちにもちゃんと指をさして、「お前、頭を使え」と言っている本のような感覚はあるんですけどね。
上出:本当にそうだと思いますね。「道徳的である」という思考停止に対して、まずは抗っていますもんね。「不道徳だ」ということに対しても、たぶん抗っていますよね。思考を巡らせたら、簡単に「道徳的である」「不道徳である」とは言えないということを、常に教えてくれている気がします。
工藤:僕、今回お仕事するきっかけになったのも、単純に作られているものが好きだったからなんです。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』でもよく言われると思うんですが、「見ていて考えさせられる」という表現や評価が多いと思います。
見た人の「上出さんの作品ってこうですね」という声って、どういうふうに響くんですか? あまり関係ないものなのか、参考になるものなのか。
上出:やはり参考になることはあります。(一方で)「ああ、そんな叩き方をしちゃうんだ」ということも多いですよね。
工藤:そうなんですね。
上出:もちろんお客さんを選べないですしね。僕の腕のなさだと思いますが、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』で言ったら、一番がっかりするのは「あれを見て、日本に生まれて良かったと思いました」とか。
工藤:(笑)。すごいな。そんなこともあるんだ。
上出:当然あるんですよね。
上出:僕はそんなふうには伝えたくなかったけど、あれを「世界の不幸な人を眺めて憐れむ番組」として摂取していらっしゃる方も、もちろんいて。そこを脱せなかったのは、僕の大きな課題の1個なんですが。
そういう意味ではがっかりするけど、「じゃあどうしたらいいか」を考えるきっかけになりますよね。解決策は難しいんだけど。
工藤:逆に、期待することって持っているんですか? さっきの「境界をなくす」というのは、上出さんがそうしたいという話でもあるし、作品でそう表現するということだと思うんですが。見た人にもちゃんと届けたいということなのか、それはしょうがなくてよくて、単に楽しんでもらえばいいのか。
上出:楽しんでもらえればいいんですが、おっしゃるとおり「考えさせられました」と言ってもらえると、今までテレビができなかったことができている感覚はあるんですよね。
つまり逆に言うと、テレビは答えを渡して「これでいいんだ。OK」って(視聴者に)思わせて安心させる、思考停止させるためのものとしてあったので。それがテレビというビジネスの在り方だったと思うんですが、そうじゃないことが実現できているんだなと思えるので、やる意義があったなと思いますね。
工藤:なるほどね。
工藤:今聞いてもらっているリスナーのみなさんの中でも、人によってはちょっと違ったことをしたいとか、逆にそっちに行きすぎちゃって読後感のコントロール欲が半端なくなっちゃうことがあると思うんですよ。
「こういうふうにさせたい」みたいなことをやっているうちに、だんだん狭い道に入っていっちゃって、迷子になっちゃうとか。
上出:ありますよね。よくできるなという気がします。ドキュメンタリー的なものの中で、被写体がいてその人を描いた時に「ものすごく可哀想な人だ」という読後感で終わらせようとするものもあるんです。
「可哀想だ」と言って、スタジオに戻って「こんなことを絶対に防がないといけませんね」みたいな。でも僕の人生経験として、「可哀想だ」って言われた瞬間が一番惨めだという実感があるんですよ。僕、本当に泣き虫で小学校の時にずっと泣いていたんです。
工藤:(笑)。そうなんですか?
上出:そうそう。「泣いちゃダメだ」と言われたら泣いちゃうし、だけど憐れまれた瞬間にもう全涙が溢れるんですよ。「可哀想に」と言われた瞬間に、「可哀想じゃない!」と言って泣いちゃうんです。
工藤:なるほど。
上出:余談でしたが、「人を憐れむ」ことの暴力性はものすごく強いんですが、ともすればそれがテレビの世界では「優しさの表現」みたいになるわけですよ。
工藤:確かにそうですね。
上出:「なんて可哀想なんだ」と言うことは、「私は優しいんだ」「人の痛みに思いを馳せられる人間なんだ」みたいなパフォーマンスになり得て、二重にグロテスク。なので、そんなことはようできんというのが、僕のそもそもの感覚なんですよね。
だから今、工藤さんがおっしゃったような、エンディングですごく悲しげなピアノの音を流して……みたいなことは、逆になんでそんなことができるんだろうって思います。フィクションならいいんですけどね。ちょっと(話が)ずれました?
工藤:いえいえ、ぜんぜん。ありがとうございます。『歩山録』の話もいろいろ聞きたいところですが、いい時間なのでここでいったん切りまして、最後にまた別のお話をして終えられればと思います。本日のゲストは上出遼平さんでした。
上出:1回帰っていいですか?
工藤:ダメ。いてください。
上出:はーい。
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