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第2部「現役ディレクター2名が語るテレビ業界の話」(全5記事)

TV番組ディレクターが語る「ネタ選びの基準」

2015年8月20日、サイボウズ株式会社の新オフィスで「BtoB/IT広報勉強会」が開かれました。勉強会の第2部では、フリーランスとして『TOKYO MX NEWS』の製作に携わる久保田直彦氏、NHKのニュース番組を担当する原田大輔氏の2名が、テレビ局の番組づくりについて語ります。本パートでは、TVディレクターの2人が注目しているネタや、TV番組として成立するイベントと成立しないイベントの違いについて、実際の企業からの広報事例とあわせて説明しました。

TVディレクターが注目しているネタ

椋田亜砂美氏(以下、椋田):じゃあ質問にいきますね。まずいただいた質問から答えていって、その後は都度いただこうかなと思っているんですけれども。

「1年間で定期的に注目しているネタや、評価している広報事例とかありますか?」ってことなんですけれども。答えられるほうからで大丈夫です。

原田大輔氏(以下、原田):じゃあ、僕から言っていきます。定期的って事なので、だいたい4つに分けられるかなということなんですが。

1つ目は季節ネタ。2つ目は時事ネタ。似ているんですけど、ちょっと違うんですね。

3つ目、これは通年なんですけども、さっきちょっと出た自分の番組の視聴者をイメージして、その人の半径50センチメートル以内の話題であるかどうかっていう。

椋田:なるほど。具体的ですね。

原田:それからもう1つは、これ説明するの難しいんですけれど、数字を持っているネタっていうのもあるので、それは通年でチェックしてる。だいたいその4パターンですね。

視聴者が「自分に関係がある」と思うかどうかが大事

原田:例えば季節ネタ。「夏で言えばなんだろう?」って考えたら、今だったら当然「ゲリラ豪雨」っていうワードがあがってきたり、「夏休み」だったり、「台風」だったり。

時事ネタっていうことで言えば、椋田さんにちょっと話しましたけど、「東京オリンピック」だって時事ネタだし。

要するに「自分に関係ある」って思ったら、視聴者は見てくれるので、そういう現象が周りで起きていないかどうかっていう。

数字を持っているネタっていうのは、各ディレクターの秘密があるのであんまり言えないんですけど、一番わかりやすい例で言えば、天気。天気は数字持ってるからね。

椋田:食べ物とか、そういうのはあったりするんですかね。

原田:そうですね……食べ物はあるんですけど、食べ物って若い人にしかウケないとか、高齢者にしかウケないとかなっちゃうんで。

椋田:なるほど。そういう意味では難しいですね。

原田:難しいですね。

特定の個人や物にフォーカスしたMXのニュース

久保田直彦氏(以下、久保田):ものすごいローカルなやつだと、MXさんの場合は「いつどこに、どんな花が咲いてるか」っていう。それはストックとして持ってますね。「杉並区の誰々さんちのバラはいつ頃になると咲くよ」とか(笑)。

椋田:すごい情報ですね。(笑)。

久保田:そういうのが日々のニュースのストックとして入っているというのはありますね。あとは、祭事期だと祭り。この祭りになると、誰々の血が騒ぐっていう個人名が。

椋田:誰々まで載せるんですね(笑)。すごいですね。

久保田:そんなところが得意ですね。食べ物は、代々のプロデューサーとかに「ラーメンは好きだけど、これは嫌い」とかっていう好き嫌いがあるので、あんまり食べ物は使わない。

あとは「誰が食べる?っていうのもあるんですね。タレントをそんなに使っていないんで、取材に行って報道記者が食べるのかっていうと、嫌いな人もいるとか。それはちょっと困った。

原田:食べ物ネタって、ある程度数字を持っている。ラーメンは結構数字持っているのでよくやるんですけど、

どちらかというと、チェックするというより、これは「暇ネタ」って言われるもので、何も取り上げるネタないからとりあえずやるかっていう。そういう案件のほうが多いですね。

あとは何か本当に話題になるような現象が起きた時は飛びつくんですけど。

評価している広報事例

椋田:次の質問にいきます。「評価している広報事例とかあるんですか? そもそも広報の人からの接点みたいなものはありますか?」

原田:広報と仕事することって実はあんまりないんですよね。何でかっていうと、多分みなさん広報の方が多いので、一気に敵になっちゃうかもしれないですけど。

これは広報じゃなくて営業の方なんですけど、あるレコード会社の営業担当者が駆け込みでポーンと来て、「うちのアーティストを取材しませんか?」って。

「取材してくれればもう何でもありです」って言うので、「じゃあ生放送でも、歌ってもいいんですね?」と聞くと、「歌わせたかったらどうぞ」だし、「どういう取材してもいいです」って言われて。

こうなると僕らは「ストーリー立ててどうつくれるかな?」って発想がぽーんと膨らむので、非常に仕事がやりやすい。

椋田:制約がないってことですか?

原田:逆にそれに応えてやろうっていうふうに思うので、制約がないほうが(いい)。結局僕らはつくり出す上で、そこにふたがあるとやりづらいので。みんなこうだったらいいのに(笑)。

椋田:久保田さんも、こんな例があったみたいのありますか?

久保田:報道だとあんまりないんですけど、MXさんの場合でいうと、製作アニメやってるころですけども、今みたいに地上デジタルじゃないころは、「何チャンネルですか?」と。

見たことがないっていう。それを電話口で説明するのが長かったかな。せめて広報の人はわかってて欲しかったってのはありましたけどね。

椋田:でも今は認知度あるんじゃないんですか?

久保田:まあ、9チャンネルで通るんで、見てなくても9チャンネル。フジの横にスライドしてもらえれば(笑)。

椋田:8の横にありますみたいな感じですね。じゃあ、次行きますか。

敏腕編集者からのアプローチ

椋田:「こうアプローチされたら使わざるをえない」といった事例があれば教えていただきたいです」。制約がないっていうのが、さっき出てきましたよね。

原田:これは特殊事例なんですけど、僕Twitterやってるんですね。Twitterにある出版社の編集者の人がダイレクトメッセージ投げてきて、「会いませんか」っていう売込みが来るんですよ。その時に、「会社に遊びに来ませんか?」ってきたんです。

だから商品の話とか全くなく、とりあえず「原田さん、もし本好きだったら遊びに来ませんか」っていうレベルで来て。

うちの会社には足湯があるだとか、卓球があったりだとか、一緒に遊びましょうみたいな、そういうメールが来るわけですよ。そうすると、もう断れなくなってくるんですよね。

女性の方なんですけど、僕もやり取りで「この人おもしろいな」って興味を持ったので、俺も会ってみたいって思えて。

そこでその人に興味をどんどん持ち始めるんですよ。実際に会いに行って、いろんな本も紹介してくれて、これを番組に取り上げて欲しいんだなっていうのを当然感じるんですけども、やっぱり話がおもしろいんですよ。

彼女の話がおもしろいんです。そういう中で1冊の本を紹介された時に、これ企画にできるっていう。その場でその発想が浮かんで、企画にしましたっていう事がありましたね。

椋田:すごい、やり手の方なんですね。

原田:後でわかったんですけど、その方はやっぱりやり手の編集者だと聞きました。

椋田:久保田さん何かありますか?

ディレクターの仕事はストーリーをつくること

久保田:話を聞いていて、やっぱり「(キー局は)取材をしている時間があるな、うらやましいな」って感じがしましたね(笑)。

次の質問にもつながるんですけど、「どんな画が撮れるの?」っていう。「ウチこんなことやってます、あんなことやってます」って(取材依頼が)いっぱいくるんですけど、極論として今日みたいな(イベント)のはちょっと放送できない。

カメラが(この会場に)来ても、みなさんがパソコンに向かってるだけの画(になっちゃいます)。「これで何してるの?」っていうのは視聴者にはなかなか伝えづらいなって。

例えばBtoBでも閲覧がおもしろい、立体的で画を見ればわかるっていうものであれば、それこそ5年間ぐらい中小企業の親父さんたちの番組をやってたりするんですけど、エンドユーザー向けの製品じゃないんです。大手企業さん向けの部品、「これ何の部分ですか?」みたいな。

そういうの物をつくってる企業さんのほうが、今日の会議より取材はしやすい。画にしやすいってことですかね。それで「つくってる製品が業界ナンバーワンです」とか、「売り上げは全然小さいけど、業界ナンバーワンです」とか。

椋田:たしかにネジとかは、わかりやすいですからね。

原田:さっきの椋田さんのプレゼンに通じる答えなんです。何かっていうと、「ストーリー化できるかどうか」っていうことなんです。

僕らの仕事って結局ストーリーをつくるものなので。テレビの中で例えば5分、10分、30分のストーリーを見せるっていう事なんですね。画になるっていうのは、要するに「映像になる」(ということ)。

椋田:映像の「え」なんですか。そうなんだ。訳された「え」なんですね。

原田:多分そう。僕らが例えば「絵になる」っていうのは、文字で書く場合は多分画像の「画」ですよね。

じゃあ映像化って何かっていうと、きれいな画を見せるとかじゃなくて、そこにどういう動きがあるかとか。

あともうひとつは、音。音って会話とかっていう部分で、起承転結まではいらないんですけど、何があってここでこんな事があって、どうなったっていう、三段論法でいいので、ストーリー化できるかどうかっていう。

そのストーリーにならないものは、どんなに話題があってもなかなか取り上げられないっていう部分があるんですよね。

ストーリーづくりに必要なもの

椋田:なるほど。そこのストーリーの部分って、やっぱり社会背景みたいな物とかが必要であったりとか?

原田:社会背景はいらないですね。これはディレクターごとの技量であったり、経験値であったり、育ち方にもよるんですけど。

ひとつの現象を見て、「これだったらストーリーをつくれる」っていう。今おっしゃったみたいに、この場はテレビにはならないですよね。

だけれどもこの場合、例えばどこかに座ってらっしゃる方がそこで一念発起して、何かすごいことを思いついちゃったみたいな、(時間軸として)前後が付いてくると、途端にストーリーができるんですよね。

そのストーリーの中でひとつ大事になってくるのが、今ヒントなんですよ。人が絡んでくるんですよ。ストーリーをつくるのも結局人なので、その人で描けるかどうなのかなっていうのが結構ポイントになります。

椋田:人のおもしろさみたいなところ。

原田:そうですね。人ってやっぱり話すと絶対おもしろいし、人生のストーリーは何か必ずあるので。それと今のこの現象と絡められればストーリー化できる可能性というのは出てきます。

アスリートのセカンドキャリアから描けるもの

椋田:今期、アスリートのセカンドキャリアを応援するっていうチームができたんですけども、その時に原田さんに来ていただきました。サッカー選手に結構来ていただいたんですよね。

あと、実はパラリンピックでメダルを取ったんだけど、その後はキャリアがちゃんと続かないみたいな、いろいろなマイナー競技の方。

別にサッカー選手・野球選手だけでなくて、いろんなアスリートの方が悩んでるっていう、そういう座談会をやった時に調査みたいな形で来てもらったんですけれども。「今回はわりとわかりやすいストーリーがあるかも」みたいな感じで。

原田:あれもこういう感じのアスリートの会議だったんですよね。そこで1人を見つけて、会議の前後みたいなのを描ければ、多分いけるなと思ったりもしたし。本当はあの会議の前に誰か1人捕まえられていれば、それができたかもしれない。

本音で言えば、あの会議を見たところで思ったのは、あれを長期取材したらドキュメンタリーが撮れるかもなとか。そういうのはやっぱり、現場で考えるんです。

あのイベントだけではストーリーにならないんですよね。1つの現象でしかない。だけど、そこにタイムラインをつくれる人がいればストーリーがつくれる。

最終的に視聴者のターゲットを誰にするか

久保田:あとはどういうストーリーをつくろうかっていうのを、「最終的に視聴者の誰にするんですか?」って。

ここにいる世代の人たちに向けての番組としてつくろうとすると、19時の番組ではなくなりますよね。18〜19時にはこうやって外に出て、テレビを観ていないですから。そうすると夜中になる。そういうつくり方です。

ストーリーをつくる上で、「誰に向けてのストーリーか?」も考えていかないと、「主役はこの人でいいのか?」という話にもなるんですね。

椋田:それって逆に(広報が)ストーリーをつくって「どうですか?」ってお渡ししたほうがいいですか? それとも「こんな人いますよ」みたいな、ネタ的な感じでお渡ししたほうがいいですか?

原田:そんなに難しくなく考えなくても良くて、僕はあれは今後ネタになるなって思って、キープで来たつもりなので。

あれ1個で「テレビにしてくれ」って言われると、ちょっと無理ってなんですけど、例えば椋田さんと僕の付き合いが長ければ、他でもこんなことがあったから、あれと抱き合わせでつくりたいとかっていう。

例えばこの前の(イベントは)サッカー選手なんだけども、僕がバスケットボール選手(のイベント)でこんな事があったから、組み合わせられるよねというふうにもう1回やれる。

そこは焦らずに長期で考えて、結局こういう付き合いの形になってくるっていう感じなのかなあって。

椋田:この辺で聞いてみたいことがある方はいらっしゃいますかね? 大丈夫でしょうか?

原田:こういう方向性でいいんですか。

椋田:もうちょっと質問を進めていきますね。

まさに今話していることですね。「ストーリーづくりを教えてください」。ストーリーづくりは今の感じですよね。企画書をもらうことってあるんですかね?

私はあんまり渡したことないですけど。私がいつもとっている、特にお二人に対する投げ方って、「こんなのありますよ」で終わってるんですよ。「興味あればよろしく」みたいな。

こっち側が興味のあるお話が、今持ってるものと組み合わさりそうだからどうぞ来てください、といったような。

なぜなら、こっちからつくるのは自信もなければ、ピンと引っかかるものに、引っかけてくれればいいやって感覚なので。必ず取り上げてくださいではなく、「何かアンテナにこれ引っかかりますか?」的な投げ方をすることが、私は多いんですけど。

久保田:それでいいと思うんですよね。っていうのは、それをどう料理するかはこちらの采配にさせてもらえるっていうのがありがたい。

なおかつ、じゃあこの日のニュースに出しちゃおうっていうバージョンなのか、それとも、いやこれだけだとちょっと画にならない、話にならないから、他に当日会ったこの人でサイドストーリーを作ろうかなと思いますとかいうふうに伸ばしていくのか。そういった采配を預けられたほうがありがたいですね。

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