現役のディレクター2名が語るテレビの話

椋田亜砂美氏(以下、椋田):今日はテレビの話について、NHKで番組制作を担当している原田さんと、TOKYO MXの久保田さんにお話を聞きたいと思います。よろしくお願いします。

原田大輔氏(以下、原田):よろしくお願いします。

椋田:まずはお二方、それぞれ現在の仕事とか(経歴の)ご紹介をお願いします。久保田さんのほうから、教えてください。

久保田直彦氏(以下、久保田):局員ではないんですけれども、MXテレビの報道局でニュースの担当ディレクターを10年近くやっています。

それ以外は時々、BSのスポーツ番組とかイベントの収録などのビデオづくりをやっています。

原田:今やっているのは、NHKのニュース番組です。僕はフリーランスでディレクターをしています。この4月にフリーになりました。

僕はそれまで報道局ではなく、制作局っていうところで、いわゆる番組をつくるほうをやっていました。

今はニュースに行っちゃったんですが。ニュース番組の中でも企画があるので、そちらをやっております。

マツコ・デラックスを生み出した『5時に夢中!』

椋田:では久保田さんのほうから、MXって結構特殊なイメージで私は大好きなんですけども『5時に夢中!』とかですね。

原田:あれ、いい番組ですよね。

椋田:いい番組ですよね。確か全局と比べてもあの時間帯で一番視聴率がいいんですよね、『5時に夢中!』。

一番視聴率が良くて、マツコ(マツコ・デラックス)さんを生み出した伝説の番組で。夜は『バラいろダンディ』もやってたりして。

特殊だけど、すごくおもしろいイメージがあるんですけど。そのあたり何か、教えていただけますか?

久保田:そうですね……よくテレビ局で、「どういう番組の、視聴ターゲットをどこにするんだ、世代的に誰を(ターゲットに)するんだ?」とかっていう話がある中で、『5時に夢中!』のプロデューサーは、「あの1時間の番組を観て、世の中を知ってそれから出勤する、お水のお姉さんたちを対象にしよう」と。

椋田:なるほど。

久保田:あの1時間を、お客さんとの話のネタにする。

椋田:ああ、なるほど!

久保田:そういう、もうピンポイント(がターゲット)の(番組です)。

椋田:すごいですね。だからあんなにおもしろいんですね。

久保田:ええ。その直後の6時の僕らのニュース(『TOKYO MX NEWS』)は全く視聴者層が違うので、数字が落ちるんで、ちょっと大変な感じなんですね。

夕方と夜と朝の情報番組などは、 番組のコンセプトを明らかにし、 視聴者層も明確にしているのではないかと思います。

椋田:すばらしいですね。朝の『モーニングCROSS』さんは、うちの「大丈夫」(注:サイボウズワークスタイルムービー)を出したときに、一番最初に取材に来ていただいたところで、朝一番にフルで流してくれて。

その後「『モーニングCROSS』を観た」とキー局さんが取材に来られたんですよね。

なので私たちの中では、「MXの番組はキー局の人からすごく観られてるなあ」っていうイメージがあって。

「MXで放送されると、他局からも取材が来るんじゃないか」という何となく私の下心的な方程式があるんですけども(笑)。

番組製作のネタ選びの基準

久保田:番組をつくってるときの、取材対象の人たちへの口説き文句が、「うちをステップにして、キー局に観てもらいましょう」っていう。

一同:(笑)。

椋田:そうなんですか? NHKさんも。

原田:これテレビ論になっちゃう部分があるんですけども。要するに僕らはネタを、番組づくりをするときに、まずどういう現象になっているのかっていうことを見るんですね。

よく間違われがちなのが「新しい物に飛びつく」って思われるんですが、そんなことって全くなくて、新しい物には飛びつかない。

新しいかどうかってことは注意するけれども、どちらかというと、そういう現象が話題になってるかどうかに注目するんです。

さっき椋田さんのプレゼンの中で、YouTubeの動画の話があったじゃないですか。

あれが要するに、各局で取り上げられて、SNSとかでも「いいね!」が多くあって。あれは逆なんですね。

椋田:逆です、もちろん。最初はYouTube。

原田:ネットで話題になったところで「これはもう扱わざるを得ないな」っていうことになるので。結局そういうことでテレビづくりって始まるんです。

例えば先ほどのMXさんの、ここで取り上げられてワーッと(話題に)なったら最後、僕らも取り上げざるを得ないというか、そのぐらいの状況になるんです。

東京MXとキー局の違い

久保田:変な話、予算はキー局ほどかけられませんから、早く飛びつく(という)ほうに傾注してるっていうか……そうすれば多少つくりが雑でも、長く尺を使って埋めることで内容を理解してもらって、キー局が「これおもしろいじゃん」ってなれば、その企業は再取材。

僕らが取材に行ったときは取材慣れしていなくても、「僕らで経験してください」っていう感じにしてますね。あまりボツらないっていう。

椋田:「移住フェス」を取り上げていただいて、おかしなことに私もスタジオにいてしゃべる、みたいな。本当にあれ、おかしいですよね。私が出るなんて(笑)。

「明日サイボウズに来てください」みたいなことで。ガチガチに前髪を固められて、今後テレビを観る際に、芸能人とかよく見ておいて欲しいんですけど、テレビって下や横を向いたときに、髪の毛が揺れるのがNGだそうなんですよ。

だから最初、ものすごいびっくりして。七三分けぐらいにまとめられて。「何でこんなに固められるんですか?」って言ったら「揺れるのはダメなんです」って言われて。

それ以来、私はいつも芸能人が歌って踊っているのを見て「あ、嵐(髪)揺れてない。(髪)バリバリだな」みたいな。

(会場笑)

椋田:ちなみにさっき出た、MXさんとキー局との違いって他に何かあったりしますか?

久保田:キー局って、在京キー局、4、5、6、7、8ってあるんですけど。全国にそれぞれの系列があって、ネットワークを組んでるんです。

独立U局はそこの地域にしかテレビ局がなくて、放送エリアもそこだけっていう。なのでMXだと、在京ながら全国のニュースの画がないです。

椋田:東京の画だけになる。

久保田:なる。その辺がちょっと違う。じゃあそういうのはMXだけかっていうと、全国各地に狭いエリアのテレビ局ってたくさんあって。

本当に細々と、たぶんキー局だと1週間分ぐらいの制作予算で1年間つくってる、みたいなテレビ局が全国にはあるんですけどね。

原田:ありますね。

久保田:NHKさんとかに比べたら、スタッフの人数なんか……。

椋田:NHKは、一番多いですもんね。

久保田:こんな感じでやっています。

全国ネットと地方局それぞれの強み

原田:僕は全国ネットの番組ばっかりなんですけど、今地域U局、それと例えばMXさんとかテレ東さんもそうですし、地方局って地域のことをよく取材しているんですよ。

椋田:まあ、そうですよね。

原田:だから僕らはその後に、ネタにしやすい。

椋田:それを見て。

原田:そうそう。「ここでこういう現象起きてるんだ」って。逆に、僕らは全国規模で見なきゃいけないので。

例えば東京ですら、「東京のどこで何が起きてるの?」っていうのを、なかなか探しづらいっていうか。

だからそういうとこで上がったのを、さらにもっと深堀りしてやるぜっていう形で、僕らがやるっていうのが結構ある。ほぼスタンダートに近いかな。だから、さっきみたいなことが起きる。

椋田:だからその地域を取り上げている、神奈川テレビとかTOKYO MXさんとかの地方局を見て、それを取り上げるっていうことがあるってことですよね。

原田:うん、かなりありますよね。

椋田:なるほど。

久保田:とは言っても、先端的なニュースとか、話題とかになると、やっぱり、ネットのほうが全然早いんで。まずそこで拾って、その真偽を確かめてから、取材をしてますよね。

椋田:真偽っていうところが最近よく出るとこですよね。(笑)。