芸人、経営者、大学教授が考える「教育のあるべき姿」

高橋信次氏(以下、高橋):最後のテーマなんですけど、「教育」というキーワードでお話を聞いていきたいと思います。今日は法政大学でやってますけど、今後の教育のあるべき姿っていうのを聞いてみたいと思います。それでは松本から。

松本直樹氏(以下、松本):真面目でいいんですかね? 

西野亮廣氏(以下、西野):真面目でいいんですよ。

松本:僕が企業の研修のお手伝いをさせていただいて、めちゃくちゃ思うことが2つあって。1つは、大学と企業がこれからもっと近づいていくんだろうなと思ってます。

今、法政大学さんも企業とコラボしてやっていこうとしてますが、企業の教育研修で新入社員とか若手社員の方々とご一緒するんですけど、何か「すごい戸惑ってるな」って感じがするんです。大学の中で日々感じている情報が、社会に出た瞬間にすごいギャップがあるって思って。

今、みなさん就活中かもしれないんですけど、そういう企業と大学が悪さをしないように遠ざけてると思うんですよね。それをもうちょっと近づけていかないと、これから日本の学生がもっと世の中に出て行って活躍してっていうことにはなっていかないのかなと。

あともう1個。企業の研修をやらせていただいて思うのは、大学は「何を学ぶか」より「どうやって学ぶか」のほうにもうちょっと力を入れないと、楽しくないと思うんです。

今日も学びの場だと思うんですけど、ドッカンドッカンやって「今日、学んだな」って帰ってもらえるような場を大学はもっとつくっていかなきゃいけないのかなと思います。

高橋:ありがとうございます。それでは次は田中さんお願いします。

田中研之輔氏(以下、田中):僕はアメリカから帰ってきて法政に着任したんですけど、アメリカの大学って前の授業が終わると、入り口に列があって、出た瞬間にダーッと入っていって最前列から入る。そういうのを味わってきたのに、日本は逆ですよね。後ろから埋まっていくんだよね。

ガバッと真ん中が空いて「はぁ……」みたいな。自分だけかと思うんだけど、結局教育ってそんなもんだと思われてると思ったの。だから、僕の授業では必ず「前に来い」って言ってます。まずはそこから変えてるんですよね。

もう1つは、授業をライブのようにやれたらおもしろいですよね。今日のイベントなんかは理想的。だって、1人の教員がマイク持って自分の専門分野を90分話して、学生はほとんど何もしゃべらない。その90分を5コマとか取るんですよ。一方的に受ける授業ほどつまらないものはない。

高橋:双方向が結構大事だということですか?

田中:僕の授業を取ってる学生はわかると思うんだけど、僕は基本的にマイクを持ちません。学生が持ったほうがいいと思ってるので。

高橋:教えるというよりも、やってもらうと。

田中:教員って自分がしゃべると、自分に酔っちゃうと思うんですよ。

教授にはパターンが2つあって、自分に酔ってコンサートのようにただ単にしゃべってるか、もう1つは諦めちゃって学生を見ていない。寝ようがしゃべろうが、お菓子食べようがゲームやってようが、「今日の経済学は……」ってやっているだけ。こういう授業多いよね。

西野さんとかにまたこういう機会をつくってもらって、ドカーンとやったほうが盛り上がるよね。

高橋:それでは最後に西野さんに聞いてみたいと思います。

学校の授業がおもしろくなかった理由

西野:俺、サーカスっていう学校をつくっているんですよ。さっきも言ってたんですけど、俺、むっちゃ頭悪いんですよ。 

不良とか不登校とかひきこもりならまだ言い訳つくんですけど、毎日学校ちゃんと通って、毎日先生の話聞いてて、本当にまっすぐ頭悪かったんです。

(会場笑)

ちゃんとノートも開いてたし、ペンも持ってたんですよ。しかし、先生が何言ってるかがよくわからなかった。「勉強、おもしろくないな」と思って吉本興業に入ったんですけど、吉本入って楽屋でいろんな人としゃべるじゃないですか? 

例えば、花丸大吉さんの大吉先生が教えてくれる歴史の話とか超おもしろいんですよ。ダイノジの大谷さんが話してくれる音楽の話も超おもしろくて、ロザンの宇治原さんが語る話もめっちゃおもしろくて。

おもしろすぎて帰り道に教科書買ってるんですよ。家で続きめっちゃ調べて、「歴史ってこうなってるんだ」とか「数学ってこうなんだ」とか。「理科ってそうなの?」とか、むっちゃ勉強してるんですよ。「勉強おもしれえな」と思って。

当時、勉強がおもしろくないから吉本に入ったくせに、今は勉強がおもしろいんですよ。「これ何だ?」ってときに思ったのは、勉強は絶対おもしろい。けど、学校の授業はおもしろくなかったんですよね。これ、先生のしゃべりが下手だったんじゃないかと思って。

田中:賛成。

西野:知識が「10」あっても、しゃべりの能力が「1」だったら「1」しか伝わらないじゃないですか? きっかけだけくれたら自分で勉強するから、知識が「1」でもその1ヵ所だけむっちゃ詳しい、しゃべりがおもしろい先生ばっかり呼んで、学校やっちゃおうってなったほうが絶対おもしろい。

教育でよくあるのは、「将来楽したかったら、今しんどいことしろ」みたいな。「でもしんどい思いしてるときってあんまりインプットしてないよな……じゃあ何?」と思って。

その入り口である学校がおもしろくないといけないと思ったときに、じゃあ学校のこの照明、蛍光灯は本当におもしろいかとか、このコップは本当にこれが一番おもしろいのかとか。

イスは本当にこれが一番座りやすくて、一番乗れる状態なのかっていうのを、全部整理して超おもしろい学校をつくってやろうと思って。

都内の劇場を全部回って、東京の品川プリンスホテルに、上に8面体のモニターがついてる円形劇場があって「ああ、これだ!」と思って3ヵ月に1回やっています。

マジで、先生が登場したら、「うわーっ」ってめっちゃ盛り上がりますよ。それで先生の決めゼリフが決まったときも「うわーっ」てなります。すごいエンターテイメント。そこの学校は、みんなとにかく最前列の取り合いです。

学校もそういうふうにしたほうがいいんじゃないかなと思って、僕が学校つくるんだったらこれです。音楽とか照明もすごいですよ。超楽しい。

おもしろい授業には空間づくりが重要

田中:今めちゃくちゃ重要な話だと思いました。僕、実はこの部屋嫌いなんです。この部屋で絶対授業しないんですよ。   (会場笑)

西野:そうなの?

田中:今日、西野さんをお呼びしたかった部屋は別にあって、ここまでのスペースはもちろんないんだけど、円テーブルになっていて60人ぐらい入れる部屋です。

西野:むっちゃいいですね。

田中:ちょっとオシャレな感じなんです。今日のような机と椅子が固定されている教室っていうのが日本の大学ほとんどそうです。実はこれと同じモデルがあるんですよ。刑務所と一緒なんですよね。 

西野:えーっ!

田中:1人の人が前にいて、大人数を押し込めて権力を握れる仕組みがこれ。

西野:なるほど。

田中:品川の会場は先生が中央に立つの? 先生が回りながらしゃべるんですか?

西野:そうです、360度です。

田中:円にしたのは何でですか?

西野:これはもともと円形劇場なんですよ。単純に理屈抜きでドキドキすると思ったんですよ。教室に入って「うわーっ、楽しい!!」っていう。

そういう楽しいほうがいいなと思って。今年の分はもう全部終わったんで、来年また気が向いたらやるかもしれません。

田中:空間づくりは本当に大事だと思います。

西野:空間、大事ですよね。

田中:大学なんてそんなこと一切しないからね。

西野:ああ、もったいないな。

松本:最近のベンチャーってさ、オフィスがカッコいい。

田中:そうそう。

松本:カッコいいオフィスって、金かけたくて見栄張りたいわけじゃなくて、イノベーションとか言ってる人は多分それだと思うんですよ。新しいカッコいい空間のほうが楽しく仕事できてるなって言って、何か新しいのが出てくると。

田中:出てくるものが違ってきますよね。

松本:変わってきますよね。

西野:ちょっと学校教育からずれるかもしれないですけど。みんなTwitterとかFacebookとかInstagramとかやられてるじゃないですか? 

こういうところにお客さん入れようと思ったときに、普通は宣伝費用を設けたりするんですよ。しかし、これはそれをゼロにして全部セット費に回してるんですよね。

セットをすごい楽しい感じにしたら、例えば1回500人来たらこの500人の人たちが「うわっ、これいいな」って言って写真撮って、Twitterでバーって流して勝手に宣伝になりますよね。セットが楽しいほうが広まっていくっていう。

田中:これはデザインまで携わったんですか?

西野:そうです。

「芸人」は職業名ではなく、生き様である

高橋:すみません。いろいろ盛り上がってきてはいるんですが、ちょっと時間が押してきているので、最後質問をお受けしたいと思います。さっきのテーマとは全く関係ないですが、西野さんに対しての質問ですね。

「生まれ変わってもお笑い芸人になりたいですか?」

西野:なりたい! なりたいっていうか、芸人がいいです。僕、芸人って言ってるんですけど、テレビのひな壇に出ないんですよ。別にそれは、嫌いだからとかいうわけじゃなくて、単純に「出なかったらどうなるんだろう?」っていう実験なんですけど。

先輩が10年ぐらい前に「若手芸人がひな壇出なかったら、食いっぱぐれるぞ」とか言われたんですけど、意外と食えていて、ぜんぜん嘘だと思って。それで、ひな壇に出ないんですよ。

先輩たちで「ひな壇に出たほうがよい」というのは一方で正しい意見だと思いますが、僕とはそもそも芸人の定義が違うんだと思ってます。

そういう先輩は「芸人はひな壇に出るもんだ」とか、「他の芸人もやってるんだから。お前も芸人だからやらなきゃいけない」と言うんですが、僕はちょっと違っていて……。

例えば、進学校行って、良い大学行けるにもかかわらず、急に「俺、吉本行っちゃう」って言って、周りに「おいおい!!」「何でお前そんなことするの?」って言われるようなやついるじゃないですか?

みんながこっち行ってるのに、明後日の方向に行っちゃう。そういうやつがとってる姿勢や態度のことを「芸人」だと思っています。

これ、職業名とごっちゃになってるのがすごくややこしくて……音楽で言うところの「ロック」っていう言葉に非常に近いと思うんです。

あれは確かにジャンルではあるんですけど、エレキギターを弾いてたら「ロック」か? そうじゃないじゃないですよね? 

生き様のことを指して「ロックだね」と言う。僕、別に職業名は何でもいいんですけど、芸人ではありたいなと思うんです。

何も疑わずにみんながこっち行ってるときに「いやいや、違う方向もあるよ」とか。結構、物議をかもすというか、しょっちゅう炎上するんですけど。

それこそ学校を「とっぱらって楽しくやろうぜ」って言うような人でありたいなと思います。「芸人でありたい」っていうのは生まれ変わってもです。畑仕事してても、何しててもいいんですけど、芸人ではありたいなって。

高橋:吉本興業にはそういう定義はあるんですか?

西野:吉本興業の中ですか? どうでしょうね。でも99%の人が言う「芸人」っていうのは、職業名ですよ。ひな壇に出て、グルメ番組に出て、クイズ番組に出ている人のことを「芸人」って言いますよね。ちょっと僕がずれてるかもしれないです。

田中:いわゆる、「お笑い芸人」たちが集団主義っぽく、同じ構造、同じやり方、同じ笑いの取り方になってしまっているから、それの異議申し立てってことですね。

西野:はい。ひな壇がそうだったんですよ。ひな壇っていうのはチームプレーでいかなきゃいけないから。僕みたいな人間がいたら具合が悪いんですよね。

学生たちに向けたメッセージ

高橋:ありがとうございます。せっかくなので最後に西野さんから学生に向けてメッセージをお願いしたいと思います。

西野:今回来てくれている法政大学のみなさんって普段どういうことを勉強されてるんですか?

田中:ウチは「生き方と働き方を総合的に学ぶ」っていうのをかがげてます。

西野:なるほど。

田中:通常、専門知識を学んで終わりってのが大学なんですけど。松本さんもおっしゃっていたように、「学問って社会との架け橋が大事じゃないの?」っていうのを売りにしていて、日本で1校しかないキャリアデザイン学部ということでやっています。

西野:なるほど。でもそれ、つながるかもしれない。先生もおっしゃってましたけど、まず、先生自身が楽しくないとそんなもん伝わらないってことですね。

みなさんこれから社会に出られて、いろんな意見があると思うんですよ。「もっとこうしたほうがいいよ」とか、いろんな先輩が良かれと思って言うんですけど。

そうなったときに何か理屈をすごい押し付けられると思うんですけど、「何やねん」と思いながらやったところで、お客さんは喜ばないから。

社会って、結局客商売ですよ。先生にしたって企業にしたって全部客商売でしょう。まず、自分がドキドキしてなかったら、そこを1回改善したほうがいいですよね。

俺は超ドキドキしてるんですよ。「学校をサーカスにしよう」「やった、思いついた!!」みたいな。スタッフ集めて「次、これでいくぞ」って言うんですけど、そのときにやっぱり人は動いてくれるし「むっちゃ楽しい」とか言ってくれるから。

自分がドキドキしているのか。社会に出られるときに、まずこの自問自答を1回したほうがいいですね。社会に出られるときに。

高橋:ありがとうございます。こちらでパネルディスカッションを終了させていただきたいと思います。西野さん、田中さん、松本さん、ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

(会場拍手)