アメリカの通信速度は16か国中第15位

チャーリー・ローズ(以下、ローズ):ソフトバンク株式会社代表取締役社長、孫正義氏をお招きしました。ソフトバンクは日本の大手携帯通信キャリアの1社であり、世界を代表するTECH企業です。2013年にはSprintを約220億ドルで買収しており、Yahoo! JAPAN、Alibabaを含む3000社に及ぶ関連企業の株主で、総資産は184億ドル、日本一の富豪です。当番組には初めてお越しいただきました。ようこそ。

孫正義(以下、孫):ありがとうございます。

ローズ:あなたは今週末、ワシントンの米商工会議所で講演しますね。ワイヤレス革命について彼らに何を話すつもりですか?

:モバイルインターネットは21世紀の最も重要なインフラです。私にはそれがはっきりわかります。しかし米国は LTE 速度の調査では16か国中第15位です。米国が唯一勝っている国はフィリピンだけです。

ローズ:フィリピンだけ? 韓国にも日本にも負けている?

:ええ、ほとんどの国に負けています。21世紀最も大事なインフラにおいて、米国がそんなに遅れていていいのでしょうか? 米国は21世紀にはほとんどすべてのインフラ、自動車、電力、テレビなどで世界一でした。

ローズ:それは Verizon とAT&T の2つのキャリアが60%の市場を支配しているからだと考えているのですか?

:そうです。彼らはマーケットシェアの75%以上、法人マーケットの80%以上を握っています。

ローズ:あなたの見解では、彼ら(Verizon とAT&T) がイノベーションをためらっていると?

:彼らは相当な利益を上げ、すべてのキャッシュフローを株主に還元していて、現状に満足しています。それを私は非難するつもりはありません。もし私が彼らの立場なら私だってハッピーでしょう。彼らは恵まれていて、真の意味での競争を仕掛ける強力な挑戦者もいないので、安住していられるのです。

ローズ:オーケー。あなたはSprintをすでに買収し、 加えて T-Mobileも買収しようとしている。

:ええ、しかしまだ正式合意には至っていません。

ローズ:まだ合意には至っていないが、可能性としては?

:わかりません。やってみなくては。

ローズ:金銭的なこと? それとも別の理由?

:その件に関して詳しく話すつもりでここへ来たのではありません。

ローズ:聞かせてくださいよ。

:いいですか。基本的には……。

ローズ:買収を成功させる?

:買収を成功させたいと思っています。しかしこれからまだ踏むべき段階と具体的な話がありますから。

孫氏がアメリカに進出する理由

ローズ:FCCの会長トム・ウィーラは、市場には競合他社が多数存在すべきだと言っています。いわゆる彼はSprintとT-Mobileの合併をよく思っていない。しかしあなたは買収をしようとしている。つまり米市場において、あなたは重要なポジションにいることになります。

:いいですか。市場を大手2社が独占していて、ほぼ100%の業界利益を上げています。そこに十分なスケールを持たず、彼らと戦えない2つの小さな会社があるだけです。これではよくありません。この状況は変えられるべきです。

ローズ:SprintとT-Mobileを手に入れたとして、通信キャリアとしてあなたはアメリカで何ができますか?

:私たちにはある程度のスケールメリットが必要なのです。いったんその規模に達したら、ヘビー級の3者の闘いになります。

ローズ:それが望みでしょう?

:ええ、見せかけではない、真の意味での戦いがしたいのです。もし3番手になれたら、徹底的な価格競争、技術競争を仕掛けることになるでしょう。

ローズ:それがあなたのやり方ですね。いったん規模を手に入れたら、誰にでも安く売る。

:そうです。

ローズ:市場でシェアを獲得するためなら、あなたは利益を先送りできる、と。

:そのとおりです。私はナンバーワンになりたいのです。もし我々がナンバー3になって、狙えるチャンスを手にしたら、ナンバーワンを目指します。世界で最も優れたネットワークを作るために、徹底した価格競争とネットワーク競争をするでしょう。お話したように、米国は16国中、15位です。これは恥ずかしいことです。私は米国の状況を批判しているのではありません。今や自分もその責任の一端を担っているのですから、私は世界一のネットワークを米国市民に提供したいのです。

ソフトバンク起業までの経緯

ローズ:日本の話をさせてください。在日韓国人、(中国人として)生きるというのは、どういうことでしたか?

:ラクではありませんでした。日本はひとつの文化を共有する単一民族国家です。よそ者と見なされた場合、ラクではありません。今やある程度成功したので、いち個人として認めてもらえるようになりましたが。

ローズ:あなたは16歳でサンフランシスコに行き、その後、カリフォルニアバークレー大学に入り、卒業している。バークレー大卒業後、あなたは何をしようとしていたのですか?

:私は自分の会社を始めたかったのです。バークレー大学に通っていた19歳の頃、私はすでに小さな会社を始めていて、最初の翻訳機を作りました。

ローズ:翻訳機が最初?

:ポケット翻訳機です。

ローズ:売れましたか?

:170万ドルでシャープに売りました。19歳にとっては悪くなかったし、それからさらにコンピューターゲーム事業で150万ドルを手に入れました。19歳で約300万ドルを手にしたことになります。それは私にとって、悪くない軍資金となりました。私はこれまでベンチャーキャピタルを使ったことがないんです。

ローズ:あなたは自身でお金を手にしても、それを単に増やそうとはしなかった。自分で会社をやったほうがいい?

:もし自分で成功できるなら。

ローズ:自分で資金を調達できるならね。それで日本にはいつ戻ったのですか?

:卒業後、すぐに帰国しました。卒業したらすぐ戻ると、母と約束していましたから、それを守るために戻りました。

ローズ:そして今日に至るまでの歩みが始まったのですね。あなたは自分の企業を経営するほかに、他企業への投資も行っていますね。つまり、あなたはどこに投資すべきかを見分ける鋭い目を持っている。たとえばYahoo!JAPAN、直近でいえばAlibabaですね。Alibabaはあなたに多額の資金をもたらしてくれそうですか?

:ええ。

ローズ:世界最大のIPOになりそうですね。

:ええ、私たちはラッキーです。時には運も必要でしょう?

孫氏が尊敬する人は

ローズ:あなたにとってのヒーローは本田宗一郎氏(HONDA)と盛田昭夫氏(SONY)だそうですね。それはなぜ?

:彼らは情熱とビジョンを持っていました。それぞれ、車と電器産業のパイオニアとして、巨大なブランドを築きました。インカンバントに挑み、政府の援助もなく、彼らは自分自身で作り上げたのです。

ローズ:あなたはビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズも尊敬しているそうですね。あなたが思うスティーブ・ジョブズとは?

:レオナルド・ダ・ヴィンチ。アートとテクノロジーの融合です。

ローズ:デザインとエンジニアリングとも言えますね。彼はジョニー・アイブの能力を見抜いていた。

:500年後、人々はスティーブ・ジョブズとレオナルド・ダ・ヴィンチを比べて語る、というのが私の見解です。

ジョブズが孫氏にiPhoneを託した理由

ローズ:ジョブズが日本で iPhone を扱うキャリアを探していたとき、あなたは「自分が(やりたい)!」と手を挙げた。

:それはジョブズが iPhone を発表する2年前のことでした。もし自分がモバイル(キャリア)ビジネスに参入するのであれば、武器が必要でした。世界最強の武器を作れるのは誰か? そんな人間はただひとり、スティーブ・ジョブズだけです。

ローズ:で、あなたは電話をかけたのですか? それとも実際に彼に会いにいった?

:彼に電話をかけ、会いにいきました。モバイル機能を加えた iPod のちょっとしたスケッチも持って行って、ジョブズに渡しました。するとジョブズが「マサ、君のスケッチなんかくれなくてもいいよ。僕には自分のがあるから。そんなひどいのは要らない」と(笑)。私は「ひどいスケッチなんか渡す必要はないんだけど、あなたの製品が完成したら日本用に私にください」と言いました。すると彼は「マサ、君はクレージーだ。まだ誰にも話してないのに、君が最初に会いにきた。だから君にあげよう」と。

ローズ:本当? ということはジョブズの所を去るときは、日本の iPhone 提携キャリアとして帰っていった、と?

:はい、まだ日本ボーダフォンを買収する前でしたが。もし日本市場での独占的販売権がもらえるのなら、こんな素晴らしいことはない、と彼に言いました。そして言ったのです。「ちゃんと紙に書いて、署名してくれ」と。彼は「マサ、署名なんかできないよ。だって君はまだ携帯キャリアすら持っていないじゃないか」(笑)。だから言ったのです。「いいかい、スティーブ。あなたが約束を守ってくれるなら、私も日本のキャリアを連れて来るから」と。

ローズ:そしてあなたは実行した。

:ええ、そうです。200 億ドルを投じ(て買収し)たのです。

なぜiPhoneに目をつけたか?

ローズ:日本にはすでに“日本携帯”があったにもかかわらず、iPhoneが日本のユーザーに受け入れられると考えたのはどうして?

:これは産業テクノロジーの流れです。iPhone以前の携帯(ハンドセット)はオペレーティングシステムが搭載されていない質の悪いものでした。ですから、プラットフォームとして、様々なアプリケーションソフトを動かすことができませんでした。だから携帯電話とはいえない、インターネットマシーンだ、というのが私の見解でした。そしてスティーブこそがOS搭載のデバイスを作ることができる唯一の人でした。どんなアプリケーションでも、ネットサーフィンできるプラットフォームになり得たのです。

ローズ:あなたはビル・ゲイツのこともよく知っていて、彼のことも尊敬していますね?

:ええ、とても。2人とも私にとってヒーローです。

ローズ:ビル・ゲイツが後退したのはなぜだと考えますか?

:彼はPC向けOSにおいて素晴らしい成功を手に入れました。1つのことで大きな成功をするということは、守るべきものが出てくるということです。一線を走り続けるのは大変です。そして彼は引退しました。次の時代も走り続ける情熱を持てなかったのでしょう。

ローズ:彼には他にやりたいことがあって、博愛主義者となった。ある人がスティーブについてこう言いました。彼は何事も“素人の目”、つまり新鮮な目で見る、類まれなる才能があった。だから彼は現状に甘んじることがなかった、と。

:彼はアイデアに関して、誰の目も気にしなかった。過去ではなく未来に向けたピュアな目で創造しようとしていたのです。それが、私が彼を尊敬する一番の理由です。並外れた集中力を持っていました。

私は「アーティスト」ではない

ローズ:ところであなたはもっとファイナンス(経営)に長けている。クリエイティブでいるより、あなたはどう取引すべきかを理解し、その取引すべき会社をどう見つけていくかをよくわかっていますね。

:スティーブがアート&テクノロジーだとすれば……。

ローズ:あなたは?

:ファイナンス&テクノロジーでしょう。

ローズ:そこにアートはない?

:アートは好きですが、業界において私はアーティストではありません。私にとってもっと重要なのは情報革命です。人々に新しいライフスタイルを提供するのがもっと重要なのです。私が何もかもをする必要はないでしょう? 私が皆さんの才能を集めます。私にはインフラを提供することができますから。

ローズ:すべての人のための“道”を作る、と?

:私がフェラーリやホンダを作る必要はありません。私にはすべての素晴らしい車が走れるような高速道路を作ることができます。車革命のためのトールゲート(料金所)やエコシステムを作ることができます。これこそ、私が挑戦していることです。この情報革命を起こそうとしているのですが、ハイウェイ、つまりインフラが不十分なのです。これは大きな問題です。かつて日本においても大きな問題でした。だから私は99%の市場シェアを持っていたNTTに挑んだのです。

ローズ:あなたが挑戦したとき、ファイバー・ケーブルか何かが与えられた?

:私は政府にカッパー・ケーブルとファイバー・ケーブルが分離されるよう規制緩和を求めました。情報革命を起こそうとした場合、多大な資金が必要になります。私にとってお金は最も重要なことではありません。しかし大きな投資をしようとするとき、資金が問われるのです。