科学的な農業が悪だと考えるのは間違い 食料問題に関する正しい見方とは

We need to feed the whole world #1/2

アムステルダム大学の教授であり、食と農業のエキスパートであるルイズ・フレスコ氏が、食料危機を乗り越えるための方法について、TEDで講演を行いました。私たちは、伝統的な製法で作られたパンにこそ価値があると思いがちです。しかしそれは、過去の農業を理想化したことによって作られた、間違った認識だとフレスコ氏は語ります。食糧危機を乗り越え、世界中に食料を行き渡らせるためには、理想化されていない事実を知る必要があります。この講演でフレスコ氏は、過去の農業に対する作られたイメージを取り払い、農業科学がいかに生産量の増加に貢献してきたか、そして、その農業科学こそが世界の食糧危機を救う解決策であるということを教えてくれます(TED2009より)。

スーパーの精白パンとパン屋の全粒粉パンはどちらが良いか

プロフェッサー ルイズ・フレスコ氏:私は料理人ではありません。ですので、心配しないでください。これから料理の実演をするわけではありませんので。しかしこれから、皆さんにとって大切な、ある物についての話をしたいと思います。それは私たちの基本生活食品である、パンです。

1日中どんな形のパンも全く食べないという人は少ないのではないでしょうか。あのカリフォルニア式低炭水化物ダイエットでもしていない限り、パンは皆さんにとって基本食なはずです。パンは欧米だけで基本食になっているわけではありません。ご覧のとおり、現代生活の主力になっているのです。

そこで、皆さんのために私がパンを焼きましょう。そしてその間、同時に話もしますから、これはかなり複雑なのですよ。辛抱して聞いてくださいね。まず最初に、皆さんに少し参加してもらいたいと思います。

ここに2斤のパンがあります。1つはスーパーマーケットで普通に売られている包装済みの精白パンです。ワンダーブレッドと呼ぶのだと教わったのですが、

(会場笑)

この言葉はここに来るまで知りませんでした。そしてもう1つは、パン屋さんで手作りされた全粒パンです。さあどうでしょう。手を上げてみてください。全粒パンの方がいいという人はどのくらいいますか? では、質問を変えましょう。ワンダーブレッドの方がいい人はいませんか?

(会場笑)

自信がなさそうな男性の手が2つ見えます。

(会場笑)

作り出されたイメージが全粒粉パンを本物だと思わせる

さて、ここで問いたいのは、なぜそうなのか? ということです。私が思うに、こういったタイプのパンが本物だと私たちは感じるからではないでしょうか。昔から受け継がれてきた生き方かどうかということなのです。多分より本物で、より正直な生き方です。

これには、農業が美しいと感じられるようなトスカーナ地方のイメージがあるでしょう。生活もとても美しいのです。味も美味しくて、伝統的に感じるでしょう。私たちは、なぜこのようなイメージを思い浮かべるのでしょうか? なぜワンダーブレッドより、もっと本物だと感じるのでしょうか? そこには歴史が大きく関わっていると思います。

農業が発達してから1万年、私たちの祖先のほとんどは農業や食品生産に携わってきました。そして私たちには、昔からの農村地帯の生活に対する想像上のイメージがあります。そういったイメージを維持するために、芸術は大きな助けとなりました。それはあくまで想像上の過去です。

もちろん、実際はかなり違ったものでした。貧しい農民の人たちは手作業、もしくは動物の手を借りて仕事をし、現在の西アフリカの最も貧しい農民に匹敵する程度の収穫量でした。しかし私たちはどういうわけか、この最近の何世紀か、もしくは数十年の間に、想像上の田舎の農村地帯の過去を作り上げてしまったのです。

産業革命が食生活に与えた影響

産業革命が起こったのは、たった200年前です。ここで私が皆さんにパンを作っている間に、革命が私たちに何をしたのかを理解するのは、とても重要なことなのです。それは私たちに力を与えました。それは私たちに、機械化や化学肥料をもたらしました。そして収穫量も大きく跳ね上がったのです。豆を手で採っていたのが、今では機械的に出来てしまうように、恐ろしくなるようなこともできるようになりました。全て本物で、素晴らしい改善です。

もちろん同時に、特にここ最近10年間で、世界貿易を通して世界中にスーパーマーケットのチェーン店が密集するようになりました。それは皆さんが、世界中で生産された物を食べているということを意味するのです。これが現代の生活です。皆さんはこちらのパンを好むかもしれません。手で失礼します。

しかし歴史的に見て、実は本当に価値のあるパンは、この精白ワンダーブレッドなのです。精白パンをそんなに嫌わないでください。なぜならこれは、パンや食料が豊富にあり、誰でも安価で買えるということを象徴していると思うのです。そしてそれは、私たちが日頃あまり意識していない功績なのです。これが世界を変えました。この味気なく問題を多く抱える小さなパンが、世界を変えたのです。

何が起こっているのでしょう? それを一番良い方法で見るには、単純化した統計学を少し考えなくてはいけません。この数十年、産業革命と共に農業の現代化が起こり、1960年代以降食料の入手可能性が一人当たり25%も上がったのです。その間、世界人口も2倍になりました。

ということは、人間の歴史の中で今までにないほど、多くの食料が入手可能になっているということです。そしてそれは、生産規模や生産量の増加を成功させたことが直接的な理由なのです。これは発展途上国を含む全ての国々で言えることです。

産業革命が私たちの生活を自由にした

パンには何が起こったでしょう? 食料は豊富になりましたが、それは同時に農業で働く人を減らすことができたということです。高収入の国では、平均して人口の5パーセントかそれ以下になりました。アメリカでは、実際に農業をしている人は1パーセントです。

そしてこれは、私たち全ての人が、例えば食べ物のことを心配しないでTED会議に出るといったような、他の様々なことを自由にできるようにしてくれたのです。これは歴史的に見ても、極めて特有な状況です。世界中に食料を行き渡らせるという責任が、こんなにも少数の人の手にかかったことはそれまでありませんでした。そしてその事実に、こんなにもたくさんの人が無頓着であるというのも、今までなかったことです。

食べ物が豊富になればなるほど、パンは安くなりました。そして安くなるにつれ、パン製造業者は様々な物を加えるようになったのです。もっと砂糖を加えました。レーズン、油、牛乳など、パンを作るために様々な物を加えるようになり、とても単純だった食べ物をカロリーの高い食べ物へと変えてしまったのです。今日では、パンは肥満と関連の深い物になりました。

これはとても奇妙なことです。過去1万年間、重要な基本食として食べられてきた物ですよ。麦は最も重要な穀物です。私たちが栽培を始めた初めての穀物であり、今育てられている穀物の中でも最も重要なのです。

しかし、これが今では高カロリーと奇妙に混ざり合ってしまっているのです。それはこの国だけで起こっていることではありません。世界中で起こっています。パンは熱帯の国へも移り渡り、今では中流階級の人たちがフラスパンやハンバーガーを食べ、通勤者はお米やキャッサバよりもパンのほうが手軽に利用できるようになったのです。

パンは基本生活食品から、肥満と関連付くカロリー源となり、そして同時に現代性や現代生活の根源になっているのです。そして多くの国で、パンは白い方が良いとされています。

これが私たちの知るパンの話です。しかしもちろん、私たちが大規模に行うようになったことで、払わなくてはいけなくなった大量生産の代償もあります。

大規模生産は多くの景色や生物の多様性を破壊することを意味し、ブラジルのセラードにある大豆畑には独りぼっちのエミューが今でもいるのです。代償は凄まじく、水質汚染や皆さんが知っているような全ての生息地の破壊が起こりました。

食料とは本当はどういうものであるのかを知る

私たちがしなければいけない事は、私たちにとって食料とは何なのかということを考え直すことです。ここで皆さんに質問をしたいと思います。

麦と他の穀物の見分けがつく人は何人くらいいますか? パン焼き機や包装された調味料を使わずに、このようにパンを焼ける人は何人くらいいますか? 皆さんは実際にパンを焼けますか? パンを一斤焼くのに実際いくらかかるか知っていますか?

パンが本当はどういう物なのかということを私たちは忘れてしまっているのです。もう一度言いますが、進化的に言えば、これはとても奇妙なことです。事実、パンはヨーロッパで考案された物ではないということを知っている人は少ないと思います。イラクとシリアの特定の農民たちによって考案されたのです。

左から2番目の小さな穂は、実は麦の祖先です。全てはここから始まり、1万年前に農民たちがパンを作り始めたのです。

私たちの間違った考えが農民を貧困に追いやる

大量生産と大規模生産に対して、ここカリフォルニアでも対抗運動が起こっていることは、驚くことではありません。対抗運動は「伝統的な農業に戻ろう。ファーマーズマーケットや小さなパン屋のような小規模に戻ろう」と訴えています。素晴らしい。そう思いませんか? 私は賛成です。

このトスカーナのような、伝統的な環境や料理法や良い食べ物にぜひ戻れたらと思います。しかしこれは間違った考えです。そしてこの間違った考えは、私たちが忘れてしまった過去を理想化する所から来ているのです。もしこれをして、伝統的な小規模農業を行い続けたとしたら、実際は貧しい農民の人たちを追いやることになってしまうのです。

私も長年こういった農民の人たちと共に仕事をしましたが、彼等は電気も水もない所で働き、食料の生産性を上げようとするのです。私たちは彼等を貧困へと追いやることになるのです。

彼等が欲しているのは、土地を肥沃にできる物や、育てた農産物を守り、店まで運べる物など、生産量を上げる道具です。私たちは小規模にすることだけが、世界の食糧問題の解決策だと思ってはいけないのです。それは金銭的余裕のある人だけができる、贅沢な解決策です。

私たちはこの貧しい女性にこんな土地で働いて欲しくはありませんよね。もしも反対派が言うように、小規模生産を行い、地産地消に戻ったとしたら、可哀想なハンス・ロスリング氏などはオレンジさえ食べられなくなってしまうでしょう。なぜなら、スカンジナビアではオレンジを生産していないからです。

ということで、地産地消は上手く行きません。しかし、農村地帯を貧困へ追いやりたくはありません。そして、貧困している都市の人を餓死させたくもありません。ということは、何か他の解決策を見つけなければいけなくなります。

世界の食糧問題の解決策

私たちが抱える問題の1つとして、世界の食糧生産はこれから著しく増加しなければいけません。2030年までに2倍にならなければいけないのです。主にカギを握るのは肉です。特に東南アジアや中国での肉の消費が、穀物の価格に影響を与えています。動物性タンパク質はこれからも必要とされ続けるでしょう。動物性タンパク質の代わりになる物については、またいつか別の機会にお話したいと思いますが、これが私たちの原動力になっています。

それでは、私たちに何ができるでしょう? 生産量を増やす解決策を見つけることができるでしょうか? できます。

それには、機械化が必要です。たった1ヘクタールのお米を育てるために15万回も身をかがめ、稲を植えたり雑草を抜かなければいけないような仕事を、小規模農家にやらせてはいけないと私は心から思います。

このような状況下で人々を働かせてはいけません。私たちには、大規模な機械化の問題を避けてくれるような、賢く、控えめな機械化が必要なのです。そこで、私たちに何ができるでしょうか? 

私たちは都会に住む30億人の人たちに食料を行き渡らせなければいけません。それは小さなファーマーズ・マーケットを通してではできません。なぜなら、彼等にファーマーズ・マーケットを使用する力がないからです。彼等は低所得者です。彼等は安価で、手の届く、安全で、多様な食べ物を食べます。今後20年から30年、私たちはそこに焦点を当てるべきなのです。

解決策はいくつかあります。1つ概念的な事をさせてください。

嫌われ者の農業科学が食糧危機を救う

もし私が、「科学」を生産過程と規模をコントロールする物の代用として計画したとしてみましょう。左端に皆さんが見ているのが、小規模であまり制御されていない伝統的な農業です。そこから、大規模で非常に高制御された農業へと移り変わりました。

私が望むのは、科学を維持し、もっと多くの科学を取り入れていくことです。しかしそれは局地的規模のようなものであり、ただ畑の規模を意味しているわけではなく、フードネットワーク全体を意味しているのです。私たちが移動していくべきなのはそこなのです。

穀物には当てはまりませんが、究極なのは左上の端にある生態系を完全に閉じた園芸システムです。そこ、農業科学について今までと違った考え方をしなくてはいけません。多くの人にとって……農業をしている人はここにはあまりいないと思いますが、農業科学は汚染、大規模、環境破壊などの悪い印象を持たれています。それは不要なことです。私たちにはもっと科学が必要なのです。減らしてはいけません。私たちには良い科学が必要なのです。

どのような種類の科学を使うことができるでしょうか? まず最初に、今すでに存在する技術をもっと良くすることができると私は思っています。害虫や病気の免疫などの役立つ分野に、バイオテクノロジーを使うべきです。

ロボットも活用できます。例えば、半インチの解像度で雑草を認識できるものなどです。もっと賢い灌漑方法もあります。したくなければ、水を流す必要はないのです。私たちは小規模と大規模の相対的な利点を、もっと冷静に考える必要があります。

土地が多機能であると考えなければいけません。様々な機能があるのです。居住用、自然用、農業用と、目的別に使い分けなくてはいけません。そして家畜に関しても、私たちは再検討しなければいけないでしょう。局部的で都会化した食料システムを作るのです。駐車場や地下に養魚池があるといいと私は思います。

園芸や温室が家の一番上にあるのもいいですね。それから、温室や農産物の発酵から生まれるエネルギーを住宅の暖房に利用するというのもいいと思います。私たちができることはたくさんあります。世界の食糧問題を生物学的農業で解決することはできません。しかし、それ以上のことが私たちにはできるのです。

食糧問題に対して私たちがすべきこと

私が皆さんに本当にお願いしたい重要なことは、皆さんが自国に帰ったとしても、そのままこの国にいるとしても、政府に食料政策の一本化を要求して欲しいということです。食料はエネルギー資源や治安や環境と同じくらい重要なものです。全ては1つに繋がっているのです。だから私たちにはできるのです。

私が住んでいるオランダの、河川三角州のような人口が密集した地では、これらの役割が合体されています。

ですので、これは空想科学ではないのです。人や家など、例えば慢性的な病気を患っている人にとっても、農村地帯がもっと利用しやすいものにし、社会的機能さえも合体させることができるのです。私たちにできる事はたくさんあります。

しかし私たちが必ずするべき事もあります。何度言っても足りないくらいですが、農業にもっと力強い科学を取り入れていきましょう。私たちは過去を振り返り、私たち自身の食物連鎖について考えてみなければいけないでしょう。農家の人たちと話をしましょう。皆さんが直接農場に行き、農家の人と最後に話をしたのはいつですか?  

レストランの人とも話をしてみてください。自分が食物連鎖のどこに位置するか、理解してみてください。あなたが食べる食料がどこから来ているのか。あなたもこの巨大な一連の出来事の一部であると、理解してください。私にとって食べ物とは敬意を払うということです。食べ物を食べる時、今でもその日食べる物にありつけない人が多くいるということを、理解しておかなければいけません。

食べ物において重要なのは分け合うということ

私たちが時々単純に考える解決策として、全てを手作りにすれば解決すると思いがちですが、それは道徳的に見て正当ではありません。私たちは人々が貧困から身を起こす手伝いをしなければいけません。彼等が農家という職業を誇りに思ってもらえるようにしなければいけないのです。なぜなら、彼等が私たちを生かしてくれているからです。

先ほども言ったように、今まで一度もこんなに少数の人の手に食料供給の責任がかかったことはありません。そして、今まで一度もこんな贅沢にそれを当たり前と考えたこともありませんでした。なぜなら、今食料はとても安いからです。

そして、食べ物が私たちの伝統において非常に聖なるものであるということを、この人以上に上手く表現した人はいないでしょう。「食べ物において重要なのは栄養やカロリーではなく、分け合うということなのです。誠実であるということ、そして一体感なのです」

この素晴らしいことを言ったのは、マハトマ・ガンジー氏です。75年前、彼がパンについて話した事です。彼はお米については語りませんでした。

彼はこう言いました。「1日2食の食事にありつけない人たちには、神がパンとして現れるでしょう」

さて私の作ったパンもそろそろ完成です。ずっと焼いてきましたが……手を火傷しないようにしなければいけませんね。

最前列の方々に、配らせてください。食べ物を一緒に分け合わせてください。パンを取りに来てください。食べて味見してください。立って、こちらに来てくださいね。どうぞ食べてください。

一口一口が、皆さんの過去と未来に繋がっていると考えてもらいたいと思います。小麦の種を初めて作った無名の農家の人達から、今現在これを作っている農家の人へと繋がるのです。そして皆さんはそれが誰かも知らないのです。皆さんが食べる全ての食事には、世界中からの食材が含まれています。

全ての食べ物が、毎日苦労せずに食べ物にありつけるという特権を、私たちに与えてくれているのです。そしてそれは、進化的に言えば、とても格別なことだと思うのです。今までは出来得なかったことです。ですから、どうぞパンを味わってください。食べて、特権を感じてください。

ありがとうございました。

(会場拍手)

(編集協力:鈴木楓子)

<続きは近日公開>

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