シリアだけではない 5千万人の難民にどう対応するか

How to help refugees rebuild their world

世界では5千万人の人々が戦争や紛争、内戦、武装組織の襲撃によって住む場所を追われ、難民としての生活を余儀なくされています。シリアだけでも、650万人の人々が命を守るために逃亡し、そのうち300万人以上の難民が、国境を越えて近隣諸国に避難しています。難民の半数が子供であり、資金不足によって十分な教育を受けられない子供が大多数存在しているという状況です。破壊された町は建築家、エンジニア、電気技師が再建しなくてはいけません。コミュニティには教師、弁護士、復讐ではなく調停に意欲的な政治家が必要です。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のMelissa Fleming(メリッサ・フレミング)氏は、難民の子供達が十分な教育を受け、自分達の故郷を再建するためのスキルを身に着けることが最重要課題だと呼びかけました。(TEDGlobal2014 より)

シリア人が家から持ち出した一番大切なものとは

メリッサ・フレミング氏:変化をもたらしたい。それが難民のために働くことになったきっかけです。変化は、難民の身に起こったことを語ることから始まります。ですから、難民に出会ったら、こんな質問することにしています。

「あなたの家に爆破したのは誰ですか?」「あなたの息子さんを殺したのは誰ですか?」「あなたの家族は生き延びることができましたか?」「放浪生活をどのようにして乗り切っていますか?」。

中でも最も意義のある質問は、「何を持ち出しましたか? あなたの町が爆破されている最中に、また、武装集団が家に接近したときに持ち出した、一番大切なものは何でしたか?」。

あるシリア人の少年が言いました。自分の命に差し迫った危険な状況でも、彼は躊躇しなかったそうです。彼が持ち出したのは、高校の卒業証書でした。後に彼はその理由を語ってくれました。「僕の人生は高校の卒業証書にかかっているからね」。

彼は自分の命を危険に晒して卒業証書を手に入れました。狙撃兵をかわしながら通学し、教室が、爆弾や砲弾の音で揺れることもあったそうです。彼の母親が話してくれました。「毎朝、息子に言っていたのですよ。お願いだから学校へ行かないで、と」。

それでも、彼が聞き入れないので、「これが最後のつもりで息子を抱きしめました」。彼は母親に言ったそうです。「僕たちはみんな怖い。でも、卒業する決意は恐れよりも強いんだ」。

しかし、ある日ひどい知らせを受けました。ハーニィ(少年)の叔母と叔父、そしていとこが、家を明け渡すことを拒否したため、自宅で殺されました。彼らは喉を切り裂かれました。逃げるときがきました。

彼らはすぐその日のうちに家を去りました。敵兵が検問をしているので、ハーニィは後部座席に隠れました。国境を越えてレバノンに入ると、そこは平穏でした。しかし、彼らは厳しい生活条件の下、単調な生活を始めました。ぬかるんだ原野の脇に掘っ立て小屋を建てるしかありませんでした。

こちらが、外で遊んでいる、ハーニィの弟のアシュラフです。

そしてその日、彼らは世界最多の難民人口を抱える国、レバノンの一員になりました。

レバノンの人口は僅か400万人で、そこに100万人のシリア難民が暮らしています。レバノンには、町も市も村もシリア難民の居ない所はありません。この国の寛容さと人間愛は特筆すべきことでしょう。

比率で考えてみると解り易いでしょう。これは人口8千万のドイツの全国民が、3年間でアメリカ合衆国に逃げ込んだことになります。

シリア難民の半数が子供

現在シリアでは、全人口の半数が国内で家を失っています。650万の人々が、命を守るために逃亡しています。300万をはるかに超える人々が国境を越えて近隣の国々に避難しています。これでお解りになると思いますが、ヨーロッパへ移住したのは僅かな人々です。

私が最も懸念しているのは、シリア難民の半数が子供だということです。

これは、私が撮った幼い子供の写真です。この子供は、2時間前にシリアから長旅を終えて、レバノンに到着したところです。

最も心配なのは、シリア難民の子供たちの僅か20パーセントがレバノンで学校に通っていることです。一方、シリアの子供たちは皆、人生で最も大切なのは教育だと言っています。

何故だと思われますか? 教育を受けることで過去に起きた悪夢よりも、将来のことを考えることができるからです。そして、憎しみではなく、希望を持つことができるからです。

これで、イラク北部のシリア難民キャンプを訪れたときのことを思い起こしました。私は1人の少女に出会い、美しい娘だと思いました。

彼女の傍に行き、尋ねました。「写真を撮っても良いかしら?」。

彼女は承諾しましたが、微笑むことは拒否しました。彼女は微笑むことができなかったのだと思います。彼女は自分が孤立して悔しい思いをしているシリア難民の失われた時代の子供の象徴であることに気づいていたからではないでしょうか。

一方、彼らが去った場所はどうでしょう。建物が、産業が、学校が、道が、家が、徹底的に破壊されました。ハーニィの家も破壊されました。

建築家が、エンジニアが、電気技師が再建しなくてはいけません。コミュニティには教師や弁護士や、復讐ではなく調停に意欲的な政治家が必要です。それは最も深く係わりのある人々、逃亡生活にある難民によって再建されるべきではないでしょうか。

難民は自国に戻る準備をするまで、時間がたくさんあります。みなさんは、難民とは一時的な状況だとお考えかもしれません。実情はまったく違います。戦争がいつまでも続き、難民は平均17年間の逃亡生活を強いられます。

最近、ハーニィを訪ねたときには、彼の宙ぶらりんな生活が2年目に突入していました。彼のインタビューはすべて英語で行いました。ハーニィはダン・ブラウン(推理小説家/『ダ・ヴィンチ・コード』の著者)の本を全部読み、アメリカのラップを聴くことで英語を学んだと告白してくれました。

彼は、愛する弟アシュラフと楽しい時間を過ごすこともあるそうです。あの日、インタビューの最後に彼が言った言葉を忘れることができません。

「僕は学生でなければ、無意味な人間だ」。

ハーニィは、今日、この世界で住む場所を追われた5千万人の人々の1人です。第二次世界大戦以来、これほど大勢の人々が強制的に自国を追われたことはありませんでした。

私たちが、健康やテクノロジー、教育、デザインなどの分野で飛躍的な進歩を続けていながら、犠牲を強いられている人々をほとんど助けていません。また、彼らが家を追われることになった戦争を止めさせたり、回避するためには、ほとんど何もしていません。戦争の犠牲者はどんどん増えています。

毎日、平均3万2千人が強制的に自国を追い出されています。今日1日の終わりには、3万2千人が国を追われているのです。

86パーセントの難民が発展途上国に住んでいる

彼らはこのように逃亡します。これは、シリアとヨルダンの国境で撮影しましたが、難民が逃亡する典型的な様子です。

あるいは、定員超過の航海に適さない船に乗って、命を危険に晒してヨーロッパの安全な場所に逃れます。

この若いシリア人男性は、転覆した船から生き残ることができた人です。「ほとんどの人は溺れてしまった」と彼は語りました。「シリア人は、誰も傷つかない、誰も自分を侮辱しない、誰も自分を殺そうとしない静かな場所を探しているだけです」。

それは、最低限のことではありませんか。傷を癒やせる場所、学習する場所、さらにはチャンスがある場所はどうでしょう。ヨーロッパやアメリカの人々は、欧米に膨大な難民が押し寄せているという印象を持っています。

ところが、実際は86パーセント、過半数をはるかに超える難民が発展途上の世界に住んでいます。国情が不安定で貧困にあえぐ自国民を援助しなければならない課題を抱えた発展途上の国々です。

豊かな国々は、これほど多くの難民を受け入れている発展途上国の人間愛と寛容さを認識すべきです。そして、戦争や迫害から逃れてきた人々に国境を閉ざすことがないようにしなければいけません。

(会場拍手)

ありがとう。

しかし、難民が生き残る手助けをすることだけでなく、私たちは彼らの繁栄を助けることができるのではないでしょうか。

難民キャンプや難民のコミュティを戦争が沈静化するのを待つ一時的な場所にするのではなく、難民が心の傷に打ち勝ち、好ましい変化と社会変革の原動力として帰国ための訓練をする場所にすべきではないでしょうか。

それは理に適ったことだと思いました。しかし、一方でソマリアの悲惨な戦争が22年も続いたことを考えさせられました。

このキャンプで暮らすことを想像してみてください。私は、このキャンプを訪問したことがあります。ソマリアに近いジブチにありますが、遠隔地のため、ヘリコプターで行かなければなりませんでした。ホコリっぽく、ひどく暑い所です。

私たちは、学校を訪問し、子供たちと話しました。

教室の反対側でこの少女を見つけ、自分の娘と同い年のようだったので、近づいていって話しかけました。そして、大人が子供によくする質問をしました。「好きな科目は何?」「大人になったら何になりたい?」。

すると彼女は表情を失い、私に言いました。「私に将来なんてないわ。もう学校に行くこともなくなったの」。

私は何か誤解があったと思い、同僚に確認すると、このキャンプでは中等教育の資金がないということでした。「学校を建ててあげるわ」そう言えたらどんなによかったか。同時に「何という勿体ないことを」とも思いました。彼女は、ソマリアの将来であるべきですし、実際ソマリアの将来を担っているのです。

難民の子供の教育に投資をしないのは、膨大な機会損失

ジェイコブ・アテムという名の少年には別なチャンスがありました。しかし、それはひどい悲劇を経験する前には訪れませんでした。

これはスーダンにある彼の村です。彼は、村が焼き尽くされるのを見ました。そのとき、彼は7才でした。そして、父と母、家族全員がその日に殺害されたことを知りました。

いとこだけが生き残り、彼ら2人は、この少年たちのように、野生動物や武装集団に追われながら7か月間歩き回って安全な難民キャンプに辿り着きました。その後、7年間ケニアにある難民キャンプで過ごすことになりました。

彼の人生は、アメリカに移住するチャンスで変わりました。フォスターファミリーの愛情に恵まれ、学校にも行くことができました。私は、彼が誇りにしている大学卒業の写真をお見せするように言われています。

(会場拍手)

先日彼とスカイプで話しました。彼は、公共衛生の博士号を取得するためにフロリダにある大学に入学したそうです。そして、自分が育った村に病院を設立するための充分な資金をアメリカで調達した様子を誇りを持って話してくれました。

それでは、ハーニィのことに話を戻しましょう。TEDのステージでスピーチをする機会ができたことを話すと、彼がeメールで送ってくれた詩を朗読することを許可してくれました。

「今はもう、なくしてしまって寂しいもの。自分自身、ともだち、小説を読んだり、詩を書いていたあの頃、朝、鳥の声やお茶、僕の部屋、僕の本、自分自身、そして、僕を微笑ませてくれたもの全部。ああ、僕は夢をたくさん持っていた。たくさんの夢があと少しで実現するはずだったのに」。

私の言いたいことは、難民に投資しないのは、膨大な機会損失であるということです。それは、自国が平和を取り戻し繁栄していくまでの長い年月を、搾取や虐待の危機に晒し、スキルもなく教育も受けられないままで放置して見捨てるということです。

難民をどうするかは、私たちの世界の将来の発展を左右すると思っています。戦争の犠牲者たちは、永遠の平和への鍵を持っています。そして、難民こそが繰り返される暴力の連鎖を止めさせることができる人々です。

ハーニィはその典型的な例です。私たちは、彼にエンジニアになるための大学教育を受けさせる援助をしたいと願っています。ところが、資金には優先順位があります。テント、毛布、マットレス、調理用品や食料の配給、医薬品など、生活の基本を支えるために、まず割かれます。

(それに比べると)大学教育は贅沢品でしょう。しかし、彼をあのぬかるんだ原野に逆境のままうち棄てておけば、彼は失われた世代の1人となってしまうでしょう。ハーニィの身に起こったことは悲劇です。しかし、彼の人生は悲劇のまま終わらなくてもよいでしょう。

ありがとう。

(会場拍手・スタンディングオベーション)

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