児童福祉法28条による家庭への介入

三原じゅん子氏(以下、三原):では、次にいきますかね。次の先生が問題だと思っていらっしゃることの一つ。

山田不二子氏(以下、山田):ここは私もあまり知らなくて、今回ちゃんと勉強を一生懸命して、「あ、そうなんだ」と。10年前から不思議だなと思いつつもよくわからなかった点ですけど。

児童福祉法28条という法律がありまして、お子さんが親御さんのところにいると危ないので、施設に入ってもらいましょうとか、里親さんのところで生活してもらいましょうとか、それは通常は保護者の同意に基づいて親子の分離というのをしなければならないんです。

しかし、どうしても同意をしてくださらない場合がありますよね。そのときは、今申し上げた児童福祉法の28条というのを使って、家庭裁判所に親子分離、施設に入れたり里親さんに託したりするのを申し立てるんですね、それに対して家庭裁判所が審判を下すと。

三原:警察が入るときもこの形ですね。例えば、面会に行ってなかなかお子さんに合わせてもらえないというときに、児童相談所の方が警察の方と一緒になんとか中にいる子供を助けようというときも家庭裁判所の許可を得て立ち入るという形になってると。

山田:臨検捜索ですね。臨検捜索のときも家庭裁判所の許可状を取るんですね。

ですので、児童相談所が何がしらの措置をとる、その行為が保護者の人権を侵害していない、つまり、児童相談所が職権乱用をしていないかどうかというのを家庭裁判所が判断すると、そういう形になってるわけですね。

そうすると、例えば先ほど言った28条の場合ですね、児童相談所が保護者を指導したいと、児童指導というのがあるんですけども、それをやろうとしたときになかなか言うことを聞いてくれない。

となったらば、家庭裁判所が児童相談所を所管している都道府県に対して指導しなさいよという指導措置勧告を出すんです。そして、その指導を受けなさいというのを直接保護者に言うのではなく、児童相談所に対して勧告を出すという形なんですね。

そして、それを都道府県を通じて児童相談所にあなたを指導するように命令を出しました、勧告を出しましたという通知を保護者に送るんです。

しかし、その通知を見たからといって保護者が家庭裁判所がそう言ってるから児童相談所の指導に従ってあげましょうと思ってくれるかというと、これはかなり効果が薄いんじゃないかと。

今、なかなか親御さんに変わってもらわないとお子さんを返せないので、親御さんになんとか変わってもらおうと児童相談所は一生懸命指導しているんです。

それが上手くいかないことに対して、やはり直接的に家庭裁判所が保護者に対して指導命令とかケアの受講命令とか指導に従いなさいという命令を出せるようにしたほうがいいと思うんですね。こういう間接的な勧告ではなくて。

そうすると、保護者が子供の人権侵害をしているのかどうかということを家庭裁判所が直接審判する、審議するという枠組み、法的建て付けに変えないと直接ケア受講命令を出すということができないのです。

ですので、こういった建て付けを変えていかなければならないと今回いろいろ勉強してわかったので、ぜひお願いしたいなと、検討していただきたいなというところです。

三原:確かに、この形だから出てるトラブルというのもあると思うんですね。この親御さん、保護者の方が児童相談所が勝手に子供を連れて行ってしまっているという、いろんなトラブルもありますよね。そう思い込んじゃっているという。

しかしながら、ここできっちりと家庭裁判所と保護者が直接つながる形になれば、児童相談所が勝手にやってるんじゃなくて、家庭裁判所の判断なんだということで、「子供さんを一時預かりますよ」と。「あなたを親の元から離しますよ」ということがハッキリとわかる。だから、児童相談所が悪いんじゃないと。そういうトラブルが減るということもある。

山田:もう1つ付け加えると、国連が定めている、日本も批准しています子供の権利条約がありますね。

あそこの9条の第1項には、父母の意思に反して子供を父母から引き離してはならないとあります。もしそれの場合には、例えば児童虐待なんかの場合には、司法の審理の手続きを経なければならないとあるんですね。

しかし、日本の一時保護は児童相談所の所長が必要と認めればできるということなので、司法がそこに関与していないんですね。

それも、本当にそのままで、子供の権利条約の批准国であるのに、子供の権利条約に准じていると、胸をはって言える状況なのかということも検討課題かと思うんですね。

三原:なるほどですね。馳先生がいろいろと頑張っていろいろな法律をつくって改正していただいたときに、やはりいろいろな壁を打ち破る中でなんとかそこまで頑張ったというようなことだったのかもしれませんけれども。

これからもっともっと必要に応じて改正していくことが必要になりますので、諸外国の例ももちろん参考にしながらですね、子供の権利条約のことに関してももちろん大事にしながら変えていくことも大切なのかもしれないというふうに思います。

「子供の権利擁護センターかながわ」の役割

三原:さて山田先生、もう1つあるんですよね。

山田:一番始めにご紹介いただいた子供のためのワン・ストップ・センターですが、私たちは「子供の権利擁護センターかながわ」という名称で立ち上げました。

そこが担当しているのが何かと言いますと、この司法面接と系統的全身診察と私たちは言っていますけども、全身を診てあげるということなんですね。

そして、子供に何が起こったのかということ子供が受けた被害事実というのは、その子をどうやったら安全に守れるかというという意味で児童相談所は知りたいです。

またその子に対してどんなケア、心理的なケアというものをどういうふうにしていったらいいかというのを児童相談所や医療機関が担当するわけですから、やっぱり何があったのかがわからないと、何をこの子たちに提供してあげたらいいのかわからないです。

子供の将来を回復していきましょう、子供の将来をより健全的なものにしていきましょうと思っている児童相談所や医療機関や心理の方たちというのも被害事実を知りたいわけですよね。

そして一方、犯罪を捜査する警察や検察、特に性虐待というのは犯罪ですよね。身体的虐待のときに、ケガをさせたからといって全部親御さんを逮捕して処罰を受けさせないといけないかというと、やはり親子の関係性というのを考えますと、なんでもかんでも処罰の対象というのにはいかないでしょうということだと思うんです。

しかし、性虐待はやはりこれは犯罪だと思うんですね。そういったときに、きちっと見ていくときに警察も検察もやはり同じ情報が必要です。

そうすると、今現在どうやってやっているのかというと、通告があると児童相談所が子供から誘導なしに話を聞きます。わりと7、8割の児童相談所はビデオを撮ったりしてくれているんですけど。

そして、子供がやはり加害者を処罰したいとか、加害者でないほうの親御さんがこの子のために加害者に対して処罰を求めますということだと警察、検察が関わってくるわけです。

そうしたときに、今は児童相談所が聞いたあと、警察、検察が聞き取りをして、子供はつらい体験を何度もなんども話させられている。それはもう子供にとって非常に負担が大きいです。

それをみんなが一緒に、先ほどもちょっと言いましたけれども、私たちの施設にはモニタールームという観察室がありまして、そこに児童相談所の福祉司さんとか警察官とか検察官とかに入ってもらって、私たちが行う面接をモニターを通して見てもらうと。

見ている人は、自分たちはもうちょっとここが知りたいんだよ、とか証拠はどうなってるんだよとか思ったら電話を面接室にかけてもらうと、その場で追加の質問をしてもらうことによって、司法面接で各機関が必要な情報を聞き取ることができる。

これはもう諸外国、特に先進国ではみんなやってることなんです。

三原:実はですね、今、私たちの女性事務局のもとで私事務局長をしているんですけども、女性の権利保護プロジェクトチームというものを立ち上げまして、まさにこのワン・ストップというサービスをやっていかなければいけないということで今動き出しているところなんですね。

特に、性的虐待の場合は、子供さんが自分が何をされたのかさえもわからない、幼くて。それで、そういう子たちが何度もなんどもいろんな人に話を、つらい話をさせられる。

そうすると、だんだん言っていることの記憶がはっきりしてこなくなって、証拠としてだんだん不十分になってきてしまうということもあったり。

あるいは、幼児だった子供が大人になってくるにつれて、自分が何をされたのかがだんだんわかってきて、そして本当につらい、これはもう絶対訴えなきゃと思ったときに、なんと証拠もなければ時効がきてしまっている。

こんなことがあるもんかということで、今そこをなんとかしようということでいろいろ動いているわけです。

山田:ですので、おっしゃる通り、まずは子供の負担を減らすということと、子供がお話してくれた信用性を維持するということで一括して聞く、無駄なく聞く、重複を避けるということが重要です。

そのときに、法改正として、今、釧路の事件とかありましたから、構想時効とかそれから民事訴訟の損害賠償請求での除斥期間とか起算点をどこにするとか、その起算点を成人した日にするとかそれも大事なんです。

ただ、それとともに子供が被害を受けていて、なんらかのサインを出してくれているのに見逃したりしているのでその状況も改善していかなければいけない。

それともう一つは、子供が例えば親が加害者だったとか、兄弟が加害者だったときに身内を訴えるとか、まあその子が幼いときは加害者じゃない親が訴えるわけですが、加害者でない親にとってもやはり身内を訴えることになります。

それはやはり検察官の職務として起訴をするかを判断してほしい。つまり、非親告罪にしていただきたい。

児童虐待のえん罪を防ぐためには

三原:あと、やはりこのことによってえん罪ということも非常に気をつけなければならないと思うんですね。

山田:そうですね。数日前にえん罪が発覚して、大阪のほうで問題になっているんですけど、それも例えば私たちが使っている司法面接のプロトコルだと子供が経験していなければ話せない内容を聞き取ることによって信用度をかなり聞き込んでいくんですね。

それとやはり、子供はこういうふうに言っているけれども、普通の子供へのケアと性虐待、身体をお風呂で洗ってあげただけかもしれないということとの判別、別の仮説と言いますけども、そういうものを見定めていくということも専門家はこういうことができますので。

えん罪をつくらないためにも、ここで被害があったときに素早く専門家が聞く、専門家がきちっとこのときに話を聞くということが大事ですね。

あともう1点だけありまして、13歳以上の性犯罪は刑法上の強姦罪や強制わいせつ罪といったときに暴行脅迫要件といったものがついて回るんです。

性虐待の場合、家庭の中で立ち位置の優位な人が劣位にある弱い立場にある子供に対して危害を加えているわけですから、そんな脅しとか暴力とかそんなもの使わなくたって、子供は従わざるを得ない。危害を受け続けざるを得ない状況にあるわけです。そこに暴行脅迫要件が入ってくるということ自体、非常に矛盾、不条理だと思うんですね。

ですので、立ち位置とか関係性を悪用している、その地位の差に乗じているものに関しては暴行脅迫要件を解除するとか、もしくは準強姦とか準強制わいせつというものを使ってとか、もうちょっと工夫が必要かと思います。

虐待はどの家庭にも起こりうる

三原:いろいろとまだまだやらなければいけないことがたくさんあるなあと先生とお話していて本当にそう感じます。

やはり被害にあってから子供たちに手を差し伸べるというよりも、私たち女性局としましてはなんとしてでもその前に、親御さんだってやりたくてやっているわけじゃないと思うんです。

そのために虐待をする親御さん、保護者の方になんとか手助けというかお守りすることができないのかなあと考えているんですが、先生はいかがでしょうか。

山田:それが一番重要ですよね。起こってしまったら、虐待、危害が起こってしまったらどうしても支援する側も対立的に入らなければいけなくて無駄なあつれきになるわけですよね。

ですので、虐待はすべてのハイリスク家庭に起こってくるというわけではないですが、例えば性虐待とか乳幼児ゆさぶられ症候群とか起こることはありますけども、多くの虐待はリスクのある家庭です。リスクのある家庭にまず起こってくるのはネグレクトが多いんです。

ネグレクトだったら体力的にちょっと子供に手がかけられなくなりましたとか、十分な愛情を注ぐことができなくなっているせっぱつまっている状況、お仕事が大変だったり、経済的に困窮していたり。

いろいろなころで子供に割く時間も、割く労力も減らすざるを得ない家庭というのはたくさんあるわけで、そういった家庭に対して余裕をもって育児ができるような社会的支援を加えていけばいいと思います。

ネグレクトだったらそんなに批判的に入らなくても援助、相談のモードで入っていくことができるので、ネグレクトをもっと早い段階で見つけていく、リスクのある家庭にできるだけ早くタッチしていくということが、支援する側にとってもより効果的な対応ができると思います。

三原:ですから、例えば児童相談所にもしかしたらこのままいったら私辛くて虐待してしまうかもしれないと思う親御さんが相談に行かれてもいいわけですよね。

山田:そうです、そうです。それを、もう今の児童相談所も市町村も批判的になんて受けないですから。だって、どうしようもなくってそうなっていることは多くのケースを経験してみんなわかっていますので。

虐待を悪いこと、人間として悪いこととしてとるんではなく、誰でも陥ることのある、SOSを出すことはなんら恥ではない、危害を加えてしまって子供を傷つけてからSOSを出すより、その前にSOSを出すことこそ親の力なので、どんどん支援を求めていただきたいと思います。

虐待してしまった親を立ち直らせるケア

三原:それと、日本ではまだまだ足りていないのかなと思うんですけども、その出口の話ですね。虐待が起こってしまった、それで児童相談所でお子さんを一時お預かりしました。その後、その後なんです。日本が一番足りないのは私ここだと思うんです。

親御さんを立ち直らせるケアというのでしょうか、そういったことで最終的に子供さんが本当だったら一緒にまた暮らして幸せになることがベストですよね。そうするためには、先生、日本ってちょっと遅れていますよね。

山田:そうですね。でも、それを全部行政がやるというのはまた大変なので、やはりそういった専門的な技量をもっているNPOをどんどん育てていただいて。

もしくはそういったお母さんお父さんに対しては、先ほど言った家庭裁判所の命令に基づいて治療を受けるときは無料化してあげるとか。

金銭的な、その財政的に困難でカウンセリングを受けられませんという、子供に良くないことをしているんだけれども、なかなかカウンセリングを受けるだけの時間的余裕も、お金の余裕もないですという方たちもいらっしゃいます。

そういった方たちを金銭的にも支援するような制度をつくって、またそれを支援できる専門家をどんどん育てていくということの両方が必要ですね。

三原:それでどうしてもそういうふうに親御さんができないということであれば、子供のことを思えば里親ということも1つの判断ということだと思うのですが。

山田:そうですね、里親さんもそうなんですけど、日本では民法上特別養子縁組というものがあるんですね。ただ、6歳までしか特別養子縁組ができないんですよ。

ですが、やはり安定した家庭的な環境で育つという意味では、パーマネンジという考え方があります。

お家に帰って虐待をされたからまた保護をして、またお家に帰ってということを繰り返すよりは、子供さんには一時辛いかもしれないけど、安定した里親さん、実親ではない里親さんを将来の親として社会的資源として提供していく。

そのような制度にしていくためには、特別養子縁組の6歳までという年限を延長してもっと大きい子でも特別養子縁組をして、そして新たな親御さんたちに適切に愛される環境というものを提供できたらなあと思っています。

三原:そうですね。里親さんのことにしても、決まってからだいぶ経つわけですよね。その決まり事がです。ですから、もう少しその要件というか、受け入れ側のですね、そういうことも変えていくことが必要なんだと思いますね。

山田:そうです。特別養子縁組だけでなく、養育里親さん、専門里親さんをもっともっと活用というのは言葉が適切でないかもしれませんが、とても熱心な登録されている里親さんたちがいらっしゃるのに、十分にはそういったところで子供たちがケアを受けられていないということがあるので。

それは、1つに里親さんを支援するのが大変なんですね。児童養護施設だったら、言うなれば入れてしまえば担当する人は専門家なので、児童相談所や市区町村は外から見守っていればいいという感じです。

しかし、里親さんだとやはり、児童養護施設に勤めていらっしゃる方たちのようなバックグラウンドをもっているわけではないので、相当支援をしないと煮詰まってしまったりすることもあり得るわけです。

いろいろとつらい経験をしてきた子供たちなので、里親さんにぶつかっていく子供もたくさんいますから。そういう子供たちに揺さぶられないように、里親さんを支援するという制度が必要です。

そのような制度がないといくら養育里親さんがたくさんいても、十分に子供たちのために活躍していただけないんじゃないかなと思います。

三原:はい。もうとにかく尽きないんですけれども、残念ながら時間がもうオーバーしてしまったようであります。

まだまだ18歳以上の子のことなど考えないといけないことはたくさんあると思うんですけども、またですね山田先生にもご指導いただきながら、またこうした機会もつくらせていただきながら、児童虐待をゼロにするということを取り組んでいきたいと思います。

次回はですね、明後日でございます。私の相棒であります宮川典子女性局長代理が「教育現場から見る児童虐待問題」ということで宮川先生と一緒にお話をさせていただきたいと思います。

ぜひこちらのほうにご意見ご質問をお寄せいただきたいと思います。Twitter、Facebook、あるいは私のブログでもなんでも結構でございますので、ぜひいろいろなご意見ご質問を頂戴したいと思います。

本日は山田不二子先生でした。本当にありがとうございました。