人間は幼児との付き合いから「幸せ」を理解する

松居和氏(以下、松居):一番簡単に言いますよ。例えば2歳児。私が1人で公園に座っていたら、変なおじさん。2歳児と座っていたら、良いおじさん。宇宙の相対性の中で、横に座っているってだけで私を良いおじさんにしちゃう連中はそうそういない。

三原:そうですね。

松居:人類は2歳児と座っていると良い人類になる、それだけのこと。

しかも、この2歳児は私を良いおじさんにしようと思って座ってるんではないです。ただ座っているんです。ただ座っているだけで、私を良いおじさんにしちゃうということは、宇宙の大原則がそこに座っているということなんですよ。こういうことを忘れたらだめですよ。

最近私、全国で1日保育者体験というのを進めてて、県全体で取り組んでいるところも、福井県とか高知県とか埼玉県とか出てきてるんですよ。とにかく親を1人ずつ幼児に漬け込めと。「幼児に漬け込むと人間は良くなって出てくる。漬物みたいなものなんだ」って私は言っているんですよ。

つまり、幸せそうな連中に1日1人ずつ、8時間漬かると、遺伝子がONになってくるっていう感じなのかな、何か気づくでしょ。これは小学校5年生ぐらいからやったほうがいいって、結構やっているところも増えてきた。

夏休みを利用して3日間。ある園長が「3日が良いのよ」って言うから「なんで3日が良いんですか?」って聞いたら、「なんかわかんないけど3日なのよ」って言うんですよ。

私の師匠の保育園の園長たちはかなり非論理的なんですよ。でもその人が言うと「そうだろうな」って感じがするんですよ。3日間の保育者体験をやった小学生、中学生、高校生の作文を何百と読んだ。読めば読むほど、幼児たちが人間を育てているんだってことがよくわかった。

小学5年生の男の子が「1日目、僕は保育園に行った。どうしていいかわからなかった。黙ってそこに立っていた」。5年前まで保育園にいた子供が「どうしていいかわからなかった」。学校教育ちょっと考えたほうがいいですよ。

「どうしていいかわからなかった。黙ってそこに立っていた」。そしたら小さい男の子が近づいてきて、「遊ぶか?」って言ってくれたって。それがとってもうれしかったって。

三原:うれしかった(笑)。

松居:だから作文に書いたんですよ。保育園に来ている男の子が言う「遊ぶか?」は、サラリーマンが同僚に言う「遊ぶか?」とはちょいと訳が違う。保育園に来ている男の子にしては、保育園は遊ぶところ。そこに来たらお兄ちゃんが黙って立ってる、これは変だな。「遊ぶか?」

三原:お兄ちゃんにね。

松居:そこに私利私欲がない、駆け引きがない、裏表がない。人間は幼児と付き合うことによって私利私欲のない、駆け引きのない、裏表のない人間関係を周りに数人持てば、自分は一生幸せに暮らせるってことを理解する。そして家族とか親友とか同士とか、そういう形で作って行くんですよ。

三原:「遊ぶか?」の一言で本当幸せになれますね。

松居:そうですよ。私なんか、こういう格好で幼稚園とか保育園に講演に行くでしょ。だいたい男の子が近づいてきてね「おじさん会社行かないの?」って聞かれるんです。

(会場笑)

松居:「おじさん行かないの」って言うと、「僕のお父さん行ってるもんね」って自慢されちゃうんです(笑)。でもね、自慢でもいい感じがするの。駆け引きが無いから。人間はその言葉の意味よりも、それを言ってくれた人の心持ちに幸せを感じる。

この3日間の保育者体験、普段はセブンイレブンの前でしゃがんでタバコ吸っている茶髪の高校生が来るわけですよ。こういう悪い高校生に限って、園児に人気が出る。「おつむの程度が似ているのかな?」って。違う、ハートが似ているんですよ。

ハートが園児に似ていると、もうしゃがんでいるしかない世の中になってきているんですよ。その高校生が園児に人気が出て人生が変わるんですよ。担任が「こんな良い子だったの!?」ってびっくりするんですよ。園児に人気が出るということは、宇宙の人気。

三原:宇宙の人気(笑)。

いつでも幸せになれることを教える大切さ

松居:神様、仏様が「お前それでいい」って言われたってことなんですよ。これで男たちに生きる力がついていくわけですよ。今の少子化の原因ってのは、男が結婚しないっていうのはこれですよ。

現在2割、10年後3割の男が一生に一度も結婚しない。つまり男たちに生きる力が無くなってきた。男に生きる力が無くなってくると、だいたい引きこもるか、暴力振るうかってみたいなことになってくるんですよ。生きる力が無くなってくると、人間は暴力的になってくるんですよ。

だから、この幼児虐待、児童虐待が起こってから通報しているよりも、やっぱり起こらないようにしていくんだとしたら、小学校5年生くらいから幼児と出会わせて、幸せな連中はあの連中なんだってしっかり。「お前もそうだったんだ」って。

それは言ってみれば、「お前も自分の中に3歳、4歳だった頃の自分がいる」ってことを思い出してさえすれば、いつでも幸せになれるだってことを教えてあげればいいの。

悪い高校生なんかね、ズボン半分ぐらい下げてこんな感じでくるわけですよ。園児は「なんかおもしろい奴が来たぞ!」っと思うわけですよ。3歳ぐらいの子がね、その高校生に「ズボンはこうやってはくもんだよね!」って言うんですよ(笑)。

三原:(笑)。

松居:そうすると、高校生が慌ててズボンを上げるの。いいですか。校長、教頭が3年注意して上がらなかったズボンが、3歳児に注意させると3秒で上がるの。

三原:(笑)。

松居:これはいったい、なんなんだということですよ。そこに再び宇宙の大原則が動いた。悪い高校生でさえ「こういう人たちがいるから自分は良い人になれるんだ」「こういう人たちがいるから自分はすでに良い人なんだ」って知ってる。遺伝子のレベルで知ってる。

2日目、別の小学校の男の子が「僕は子供たちにシャボン玉をやってあげた。僕はちっともおもしろくなかった。でも小さい子たちが楽しそうにしていたのがうれしかった」。これも作文に書くほどだから、よっぽどうれしかった。自分自身を体験した。こういうときにうれしくなる自分に気づいた。

ちょいと難しく言うと「他人の幸せを自分の幸せと感じる」。世の中で一番上等な種類の幸せを感じるモノサシ。お坊さんや牧師さんや神父さんが週に1回説教したって、なかなか教えられないこの上等なモノサシを、園児たちが園児たちっていうだけで小学校5年生に2日目に作文に書かせる。これが連中の力。

幼児たちがどういう役割をもってこの地球上に存在するか、もう1回思い出さないと。あの人たちが人間たちを育てる。または人間性を育てる。そして我々の心を1つにする。1日いっぺんは遊んでいる幼児を眺めて、このことに気がつかないと。

私のインドの田舎の村に1年半ぐらい住んだことあるんですよ。1日1度も幼児を見ないことは無い。遊んでいる幼児が絶対毎日見る。これは言ってみれば、何万年もの間、人間は毎日毎日幼児が、一番幸せになりやすい連中が、一番我々を育てる連中が遊んでいる姿を眺めていた。

しかもこの一番完成してる人間たちが、1人では生きてはいけない。ここが人類のすばらしいところだと思いますよ。

でも、それを社会で子育てなんていって「誰が育てても良いんだ」みたいなこと言い始めたら欧米並みに家庭が崩壊するかもしれない。アメリカで3割、イギリスで4割、フランスで5割、スウェーデンで6割の子供が未婚の母から生まれているんですよ。

三原:シングルマザー。

松居:最初から未婚の状態で生まれてくるわけですよ。

三原:結婚しないで。

日本はまだ家族という奇跡的な形にしがみついている

松居:結婚家族という形が絶対良いとは私も言わない。でもこれほど男たちが自分の幼児に関わらないということは人類の歴史に一度もなかった。しかもここ数十年で崩れた。これは男たちが人間にならないことかもしれない。

自分の幼児と関わらない。全く関わらないとか、ちょっとだけとかいろいろありますよ。だけど絶対的に幼児と関わる時間が減ってきた。

これをやると犯罪率、特にその傷害事件の犠牲者になる確率なんか、欧米は日本の20倍から30倍ですよ。女性がレイプされる確率、スウェーデンは日本の60倍ですよ。その末端に、やっぱり児童虐待、幼児虐待がどれほどあるか。

私アメリカで30年住んでいたから知ってる。私のいとこがアメリカで医者やっていますけど、やはり小児科医をやっているのが辛くなると。半分くらいが、虐待を発見する仕事になっちゃう。これつらいですよ。

まだそこまでいっていないの。欧米で3割から6割の子供が未婚の母から生まれているときに、この国は1パーセントだったんですよ。今だって2パーセントぐらい。奇跡的にまだ家族、家庭という形にしがみついている。

この形にしがみつくということは、幼児という絶対的弱者が、我々を育ててくれるんだという空気が、まだこの国には残っているんですよ。

三原:ということは先生、やっぱりお父さん、お母さんが自分たちの子供、幼児を常にそばに置いて、自分たちの手で育てることが、とても大切なことなんだよってことなんですかね。

松居:「それを、今絶対やんなきゃいけない」とは私だって言わないですよ。だけど幼稚園、保育園が全くなかった時代っていうのはつい100年前で、それまでずっと男女が一緒に子育てしてきた。

これは社会の最小単位である男女が、お互いに良い人間だということを確認しあってきたっていうことですよ。

幼児というのは人間から良い人間性を引き出すのが役割ですから、一緒に育ってれば必ずそういう良いところが見える。そこで「あの人はいい人なんだ」と、お互いに確認する機会がいっぱいあるわけですよ。これをやってるか、やっていないかってのは。

三原:親にとっても違いがあるっていうことですよね。

松居:絶対それがいけないとは言いませんけれど、これをやっていないとやっぱり家庭は崩壊していくし、そうすると正比例で虐待が増えますよ。児童虐待じゃない、女性虐待も増えますよ。そのぎりぎりのところに日本も来てる。今ここで保育が崩壊したら戻れないですよ。

今、保育士たちが思ってること。「保育士たちにも心があるということをみんなが忘れているじゃないか」と保育士たちは思っている。自分は子育てをやっているんですよ。ただの仕事をやってるんじゃないんですよ。保育がただの仕事になっちゃったら、もう保育はおしまい。やっぱり子育てなんですよ。

自分たちが心を込めよう、心を込めようと思ってるときに、どんどん親たちが親らしさを失ってくというのが、見えちゃうから。

行政の人なんかも言いますけど、去年から今年にかけて「第1希望の保育園の見学に行ってない」「園長にも会ってない」、そういう人昔からいたんですけど、そういう人が一気に増えてきた。誰かが子育てやってくれるんだという意識がものすごく強くなってきた。

三原:お母さんが、自分が申し込んだ保育園の園長先生に会ったこともないし、そこを見学したこともない。ただ申し込んだ。

松居:お父さんもですけどね。ただ、どこでも入れてくれるんだったらどこでもいい、って感じになってきた。これは怖いですよ。こんなことは昔はありえなかったですよ。

やっぱり自分の子供が平均10時間15分、年に260日行くところですよ。やっぱり、その場所を見学。

三原:そりゃそうですよ、気になります。

保育の問題を国の原点として考える

松居:こういうところで何が崩れていっているのかということを、行政の方たちは、現場の人たちは知ってますけども、政治家の方々にもやっぱもう一回かみしめてほしい。国というのはどういうところで崩れるのか。

やっぱり幼児をみんなで眺めて心を1つにする、そんなものが国の原点でなきゃいけないはずですよ。この保育の問題というのは、本当は今一番大切な問題かもしれない。これが、今この国にとって一番大切な問題なんだっていうことを認識してくれる政治家の人たちがぜひ増えてほしいと思いますよ。

三原:そうですか。本当もっとお話を聞いていたいんですけど、あとわずかな時間となってしまいました。

申し訳ないんですけど、先生最後に、どうしたらいいか。この日本が、今ここで踏ん張るにはどうしたらいいって、そんな簡単な一言では言えないかもしれませんけど、何かもしヒントがあるなら皆さんにも教えていただけませんかね。

松居:一番簡単に言えば、0、1、2歳、この不思議な人たちがどういう役割を担っているんだということを、マスコミも政治家も行政も一般の人も、もう1回思い出してほしいというのがあります。

だけど、具体的にどうするかというと、私は1日保育士体験というのを全国に広めようとしてやっていますけども、それを例えば小学校5年生ぐらいから、「この子たちは10年先に親になるんだ、そのときに虐待しないような親になってほしいな」って、そんな思いでやってくとか。

ただ保育養成校の問題。今養成校もかなり危ないところまで。もう、現場に出してはいけない人にまで資格出してますからね。

これは教育システムの終焉だと思う。養成校ってのはやっぱり、その先にいる子供たち、幼児のことを考えて学生を育てなければいけない。でもね、もうあり得ないような、こんな人現場に出てきたら大変なことになるという人にまで資格が出てる。これは怖いですよ。

すべての問題を全部私に一任くれたって、やんなきゃいけないことがいっぱいありすぎる。でもやっぱり意識が変わってほしい。この保育というのは子育てであって、サービス産業ではない。それを意識してほしい。

三原:それを預けているお父様もお母様たちにもしっかり感じてほしいと……。

松居:お父様もお母様もだし、それよりも行政、政治家の方たちにそういうことをもう1回、仕組みとして、産業と考えてもらうと親サービスになっちゃって、お客さんサービスに、親がお客ですから。

でも0、1、2歳は喋れないけれど、この人たちが何を願ってるかということを想像すること、これが人間性だと思う。この喋れない人たちが理解しようとすること、理解することではない。理解しようとすることだと思う。それで人間は育っていくんだと思う。

三原:非常に難しいお話ですけど、簡単じゃないからということですよね。

松居:でも状況はまだ欧米に比べると良いわけですから、ここで何とかもう1回日本らしさっていうのかな、子供たちを大切にする国っていう、日本人の得意だったところを思いだしてほしいなと。4歳児くらいを崇拝して暮らしてると良いんじゃないかなと。

きずなと信頼関係をはぐくむ

三原:わかりました。ありがとうございます。まだ先生にお話聞きたいと思ってらっしゃる方が、たくさんいらっしゃって。短時間で無理だなと書いてくださってますけれども。いつもこういうふうにお話聞かせていただいてますけども、もっとたくさんの方に先生のお話聞いていただきたいんです。

なので、またこれからもいろいろと教えていただきながら先生の話を1人でも多くの方に聞いていただける機会を作っていきたいと思っております。

そして何にしても先生がおっしゃるように、児童虐待があったから通報するんじゃなくて、虐待が起こる前にしっかりと歯止めをかけられる、そう言ったことを私たちはやっていかないといけない。

松居:きずなと人間関係ですね。

三原:そうですねえ。

松居:信頼関係とか。

三原:こんなに可愛いまっすぐな目をしている子供たちを、幼児をずっと……。

松居:でも毎年この人たちが生まれてくる。出てくる。みんな頼り切って信じ切って、幸せそう。この人たちが出てくる限りは我々はどこかで救われるんじゃないかなと思っています。でも早くこの人たちと出会おうとする国であってほしいんです。

三原:そうですね、わかりました。ありがとうございます。ほんとに話が尽きませんが今日は松居和先生に大切なお話を聞かせていただきました。今日は松居和先生にお越しいただきました、ありがとうございました。

(会場拍手)

三原:では火曜日またお会いしましょう。