地方出身の学生を使ってヤンキー文化を調査している

稲田豊史氏(以下稲田氏):原田さんという方がどういう方かということからご説明した方がいいかなと思うんですけれども。博報堂の社員さんなんですよね。

原田曜平氏(以下原田氏):はい、普通のサラリーマンをしてます。

稲田:ブランドデザイン若者研究所という所属なんですが、何をやっているところなんですか?

原田:簡単に説明をすると、若者研究をしながら、その若者研究の知見を活かしていろんな企業と一緒に物を作ったりとかしています。実際に今日、サクラじゃないんですけど、(前にいる学生を指さす)ここら辺にいる子とかその子なんですけど。

稲田:後でちょっとマイクふりましょうか。

原田:実際、やっぱり東京が中心になってしまうんですけど、100名ぐらいの高校生から若手社会人くらいまでがうちの研究所に所属していまして。

これはもうみんな出自はバラバラというか、北海道の別海町出身の子もいれば沖縄出身の子もいれば、ちょっとマニアックですけど。いろんなとこの子がいます。比較的、高学歴な子が多いんですけどね。

ここの子たちをハブにしながら、例えば今回のヤンキー層とか、企業はインタビューしたくて調査会社に依頼してもなかなかインタビューに答えてくれないんですね。

なのでこういう子たちの中学時代の友達とか小学校時代の友達を集めてもらってインタビューしたりしながら物を作っていく。

例えば煙草の商品開発をしたり、車の商品開発をしたり炭酸飲料の商品開発をしたり若者のナレッジとか若者のネットワークを活かしながらビジネスをしてるというそういう組織なんです。

稲田:若者論の本とかって世の中にいっぱいあって、若者のマーケティングの本もいっぱいあるんですけど、実際ちゃんと若者に聞けてるのかとか、私もそうですが、「著者さんがおじさんだったら、気持ちがわかんないんじゃないか」みたいなことがあるじゃないですか。それに関しては、そういうことはないですか。

原田:そうですね、僕もこんなビジュアルなので、一見すると若者にとても詳しそうじゃないとよく言われるんですけど。でも実際僕がインタビューするんですけど、やっぱりお友達関係でいろいろ集めてきてくれたりするので非常に生の言葉を大切にしています。

ヤンキーは消費意欲があり、車にも乗る

稲田:後でね、また他の県の方にも苦労したことなんか聞こうかと思ってるんですけど。まずこの『ヤンキー経済』ってタイトルがついてて、ここは若者論みたいなタイトルじゃなくて経済なんですね。ここはポイントとしてはどういうことなんですか。

原田:ちょうど2007年に日経新聞が消費しない若者たち、ミニマムライフみたいな記事を出してから2007年から今に至るまで、とにかく若い子は消費しなくなったよっていうのが若者論の中心だったと思うんですね。

バブル世代とかギリギリ団塊ジュニアまでは、若い人が生意気かもしれないけど消費はしてた。ところが消費をしなくなった、さあ、企業としてはわからない。大人としてはわからない。という流れがずっと続いてきたと思うんです。

稲田:○○離れみたいなやつですね。

原田:そうですね、有名なのが車離れ、海外旅行離れ、お酒離れ。まあ企業の方も若い人の人口も減っちゃってるのでどうしても人口ボリュームのある高齢者ばっかりみていて余計、調査費もかけないので若者がわからないというのがずっと続いてきちゃったと思うんですね

私もこの本の前に出したのが『さとり世代』という本で、あれもまさに消費しない若者の象徴みたいなもんですから。

そういう解決策っていうのをずっと出せずにいたと思うんですよ。ただ今回は1つの示唆は出せたんじゃないかと。要するに若い人たちが階層化されていて、その階層ごとに見るといまだに消費意欲が旺盛な層もいるんだよと。

一億総中流の時代は終わっているので、ちゃんと消費意欲のある人をちゃんと目指しましょうね、というシンプルな話なんですよね。そういったところがこの本の起点になってると思うんです。

稲田:意外と金使うぞ、みたいな話ですよね。

原田:はい、はい。

稲田:これが結構大人のマーケターの、マーケターじゃなくてもちょっと知ってる感じの人に聞くと、さっきおっしゃったみたいに車離れだから車買わないとか、CDとか本も買わないとか言うんですけど、そうじゃないところで車は実は買うっていうところがあるんですよね。それが実は本の中に具体的に何にお金を使っているか書いてある、という話ですね。

原田:はい、だから例えば若者が車離れしちゃったといってもこの10年、20年、特に東京とか大都市部を中心に地下鉄網とかもものすごく発達してるし、実際に若い人たちのお金も厳しくなってるんで買わなくなるのが当然であると。ところがちょっと郊外、地方にいったら足として必要なわけで。

稲田:そうですよね。

原田:ただ大企業のマーケティングっていうのは、すごく都心部のある程度学歴の高い若者にだけ話を聞いて、買わなくなった、買わなくなったと言ってるわけですよね。

実際に必要としてる人たちをしっかり調べれば、毎日乗るものなんでそれなりに自分の好みもあるし、消費意欲もあるんですよね、車に対してもね。

マイルドヤンキーは基本的に優しい

稲田:さらにこの中で重要な概念になってるのがマイルドヤンキーと呼ばれる、(本の)裏にもに書いてあるんですけど。マイルドヤンキーって端的に言うとなんですかね。

原田:毎年毎年、日本の報道機関は懲りもせず成人式が終わると「荒れる成人式」ってやりますよね。

稲田:毎年の風物詩ですね(笑)。

原田:毎年ね、だいたい沖縄が取り上げられるんですけど。なんでか知らないですけど。

稲田:はい、はい(笑)。

原田:今年はですね、なんと「荒れる成人式」が非常に少なかった。

稲田:そうなんですか?

原田:なんかこう、模造刀持って歩いてたとかいくつかあったんですけど、基本的に荒れなかった。沖縄にいたってはゴミ拾いしてる子のほうが多かったみたいな話で。

稲田:感心ですね。

原田:ニュース23が初めて「荒れない成人式」で特集を組んで、私も出させていただいたんですけども。そんなふうにですね、ヤンキーっていったら反社会的でものすごく荒々しくてという刷り込みがあるわけですね。テレビ局側もそれを描かないといけないってどんどん減っていく人たちをずっと追いかけてる。

稲田:見た目がおもしろいですからね。エンタメですからね。

原田:そうです、そうです。でも、見た目がヤンキーっていうのもかなり減ってきてるんですね。私もいろいろ全国で調査してる中でそれを気づいていたんで、どうしてこう若者が悪くないといけないんだろうってずっと疑問に思ってたんですよね。

そういう意味でマイルドヤンキー、「今の子たちってそんなに反抗しないですよ」「良い子たち増えてるよ」と言いたかった。

稲田:基本優しいって感じですかね。

原田:そう思いますね。時代的にも昔みたいに無茶苦茶な先輩はいませんからね。お酒を無理やり飲ませるとか、「お前、俺のタバコを吸え」とかそういう人もだいぶ減ってきてますから。

稲田:実際、原田さんがリサーチされて「あ~マイルドだな」と思ったサンプルというか、若者ってどんなんでした?

原田:いやあ、会う子会う子みんなマイルドだなと思って、本当は私も顔がこんなですし、ガン飛ばされたりすごいことになるとずっと思ってたんですけど。

結構、家庭訪問調査とかマーケティングの世界でよくやるんですけど、おうちに入って、マーケターでもいろいろなタイプがあるんですけど、私は結構攻めるタイプなんで。

稲田:ズケズケと。

原田:いきなり引き出し開けちゃうとか、攻めてどれくらいのことが起こるかなというところから定めるっていうタイプなんですよね。

だからキレられてボコボコにされるんじゃないかと思っていたら、意外と「ここはエッチビデオがあるんで見ないでください」とかですね。

稲田:可愛いんですね。

原田:可愛い感じの子が非常に多くてですね。

稲田:見た目は結構いかついの?

原田:見た目はいかついのも、いかつくない子もいますけれども。

稲田:それは地方ですか?

原田:地方でも東京でも。

今の地方の若者は東京に憧れを抱かない

稲田:今、東京でもっていうのが結構ポイントで従来マスコミが報じるヤンキーって北関東とか地方の沖縄もそうですけど、そういうところで「都心とは違った価値観がおもしろい」みたいな取り上げられ方が多いんですけど、こちら(ヤンキー経済)で言ってる、いわゆるマイルドヤンキーとか、中でいう地元族と呼ばれる若者たちって実は都内でもあるんですよね。

原田:僕は北区出身なんですけど、もちろん都内でも昔からヤンキーって、北区とか結構いましたし、足立区とかも結構いますし。

稲田:足立区ね。

原田:結構多いですよね。だからそういう子たちもすごくマイルドになってるし、地方のヤンキーの北関東の子たちもマイルドになってるし。

ファスト風土化なんてすごく言われますけど、あんまりエリア問わずですね、すごく柔らかくヤンキーの子たちがなってると言えると思いますけどね。

稲田:都内にもヤンキーがね、ここに書かれているような行動をする人たちが東京都内にいるってわりと人に話すとあまり信じない人もいたりして。

23区と都下でまだ違う部分もあるんですけど。その辺ってマーケティングの落とし穴だったりするなって気がしますけどね。後もう1個、地元族ってあらためてなんですけど、どういう概念なんですか。

原田:はい、多分昔からいたと思うんですけども自分が生まれ育った町からあまり出ていかない、かつてであればバブルのころぐらいまでは、みんな東京目指して「地方から中心部に行きたい」「できれば高層マンションに住みたい」「駅近に住みたい」みたいなものがあったと思うんですけど。

わりと今の若い人たちはそういうのにあまり憧れなくなっていて、すごく地に足がついていると良く言えば言えると思うんですけど、自分の生まれ育ったとこから出たくないっていう感じになってるんですね。

極端にいうと中学時代に行ってたファミレスに中学時代の仲間と4、50歳になっても一緒に行っていたいと。極端にいうとですけど。

稲田:ずっとだべってるわけですね。

原田:ずっとだべっていたい。極端に言うとですよ。

稲田:ここにも出てきますけど『THE3名様』、漫画とドラマになりましたけど。あの感じがいい年こいてずっと続いているような。

原田:そうですね。『THE3名様』って漫画は3人の26歳の派遣社員の子かなんかが、中学時代の友達とずっとひたすらファミレスの1つの席で喋ってるという漫画なんですけど。まあ、ああいう世界観の1つかもしれませんね。

稲田:地元族ですね。

EXILEや浜崎あゆみ、大きいミニバンに憧れる

稲田:もう1個が残存ヤンキーという造語ですけど、残っているヤンキーというこれはどういう意味合いですか。

原田:はい、これはですね、無理やりつけた言葉なんですけど。要は人々一般がイメージするヤンキーの子たちですね。だから数はものすごく少なくなっちゃてる、いまだに暴走的なことをやっていたりとか、新宿とかに多いんですけど、キャッチをやってるような人であったりとか。

世間一般が見た目からわかるヤンキーの子たちのことを言ってるんですね。ただ数は減ってきてしまってる、多くは見た目だと殆どわからないと。殆どわからないんだけどよくよく話を聞くとちょっとヤンキー性を持ってたり、悪いものに憧れてたりするっていうのがマジョリティになってきてると。そういう話なんですけど。

稲田:彼らも、地元族も残存ヤンキーもお金は結構使うということなんですか。

原田:と思いますね、少なくとも他の層よりかはすごく使う子たちが多いと思います。なぜならやっぱり憧れてるものが強いんですね。

一般的にいわれる「さとり世代」みたいな若者全般を表した言葉というのは、基本的には昔、若い子が「男はこうありたい」「力強くありたい」とか、憧れるものがすごくあったんです。

今はだんだん憧れるものが無くなってきた。それによって消費も減ってきてる。ところが、マイルドヤンキーの子たちはいまだにEXILEに憧れたり浜崎あゆみに憧れる。憧れるものがあるんですね。大きい車が好きだったりとか。

稲田:今、笑っちゃたんですけど(笑)。笑っちゃいけないのに。(本を見ながら)そうなんですよね、帯とかにも巨大モールが。

あと、ミニバンもね、大きくて非常にラグジュアリー感があるというか、早くて平べったい車じゃないんですよね。ここポイントなんですね。

原田:はい。わりとミニバン志向が非常に強くなってきてるというのがこの人たちの特徴で。昔だと、ちょっと前だと若者って高級外車とかスポーツカーに憧れるっていうのが一般的だったと思うんですけど、わりとデッカイ車にすごく憧れる。

それ2つ意味があって、1つは自分の力を誇示しやすいっていうのもあると思うんですけど、もう1つは結構仲間が大事なんでいろんな人を乗せられるわけですね、ミニバンて。3列シートだったりするので。すごく友達がリミテッドになってると言えると思いますね。

稲田:そうですね。