人が眠る仕組みは未だ不明! 謎に満ちた睡眠の科学

The mystery of sleep | Masashi Yanagisawa | TEDxTsukuba

ナルコレプシーをはじめとした睡眠障害の完治に向けて、睡眠神経科学者の柳沢正史氏が眠気という謎に包まれたブラックボックスの解明に挑みます。「なぜ人は眠るのか?」その理由とメカニズムは実は未だに科学的に解明されていません。そのため、睡眠障害の治療も困難を極めています。日中に強い眠気を引き起こし、ノンレム睡眠に入ってしまうナルコレプシーという病気はオレキシンという神経ペプチドの一種が欠乏していることが原因であることがわかっています。オレキシンそのものは薬にはなりえないのですが、オレキシンの作用を真似するような薬を作れば、ナルコレプシーの根本治療薬となります。柳沢氏はアカデミア初の創薬を目指し、研究室で7000匹以上のマウスの脳波を測定。膨大なデータから睡眠障害の突破口を探ります。(TEDxTsukuba2015 より)

哺乳類で眠らない種は今まで知られていない

柳沢正史氏:ここにおられる皆さんは、睡眠、眠りと聞くとどういうイメージを持たれるでしょうか? 中には毎日すごく忙しくて、仕事も充実していて、リア充で(笑)。

1日24時間働ければ本当に幸せで、睡眠している7時間、8時間がすごくもったいないという人もいるでしょうし、逆に、「眠りこそ私の生涯の喜び!」「眠っている時が一番幸せ!」と感じる人もいるんじゃないかと思います。人それぞれですね。

私にとっては、眠りって聞くと「ミステリー」なんですよ。最大の謎。どうしてそれが謎なのかということを、これから20分くらいの間に伝えることができれば、僕の講演は成功だと、そして誰も眠らなければ成功だと思います(笑)。そういうわけで、今日は睡眠の話をさせてもらいます。

この図は、ある人が、いろんな哺乳動物種の1日の睡眠時間を集計したものです。これを見ればわかるように、例えば、ウマ、ヒツジ、ウシ、大きな草食動物は、1日3、4時間しか寝ない。一方では、アリクイとかナマケモノとか、1日20時間くらい寝る種族もいます。

この図でわかること、第1! これは非常にある意味不思議なことなんですけど、少なくとも哺乳動物に関する限り、眠らない種というのは今まで知られていないんですね。

調べられた全ての動物について、必ず、1日数時間(眠っています)。これはなぜ不思議かというと、当然、睡眠というのは我々が健康な状態で可逆的に意識を失う唯一の脳の行動なんです。

意識を失うわけですから、その間、完全にもう何もできない、ものを食べることもできない。食物を取ってくることもできない。もっと大事なのは、外敵から身を守ることもままならない。

つまり進化論的に言ったら、極めてリスキーな状態です。ところが、眠らなくてもいい脳を持った動物がどこかに現れていたなら、多分、栄えるはずですが、そうならないんですね。

だから、そういうリスクを補って余りあるだけのベネフィットが睡眠にはある。それが第1。 

眠気の本質はまだわかっていない

それと第2は、種族の間で睡眠量は違いますが、1つの種をとってみれば、例えば人間の場合だと、1日大体7時間、8時間、9時間。平均8時間くらい寝るように作られている。だいたい1日の、日ごとの睡眠量は一定に保たれている。それを睡眠の恒常性と言うんですけれども。その2つが大事なメッセージですね。

先ほど言ったように、なぜ睡眠はベネフィットなのか。我々はなぜ眠らなければならないのか。実はわかってないんです。1つわかっていることは、人でも、実験動物のネズミでも、大体10日から14日くらい、全く眠らせないようにしておくと、必ず死に至ります。最期は本当に悲惨な状態になって死ぬ。

だから、生命維持にも睡眠は必須である。これは実験でも証明されているし、さっき言った進化論的な議論もあると。非常に重要なことをやっているのは間違いないんですけれども、それが、実は全然わかってないというのが現状です。

もう1つ、先ほど、1日の睡眠量はだいたい種族ごとに保たれていると言いましたけれども、それがどうやって調整されているのか。それと「眠気」。

我々が毎日体験する、極めて身近な感覚ですよね。眠いときは眠いと自分ではっきりわかるし、客観的にも、実はきちんと測定することができます。実験動物でも人間でも測定することができる。

だけど、現在の神経科学の言葉で、眠気とは脳内でどう表現されているか? それは全くわかっていない。ブラックボックスです。

医学的にも、例えばメタボ(リック)症候群とか、いわゆる生活習慣病のリスクなっているんですね。逆に、ある種の脳の病気の非常に治しづらい症候として睡眠が出てくることもあるので、医学的にも極めて大事な問題です。

例えば去年、夜行バスの運転手が、マイクロスリープって言うんですけど、一瞬の居眠りをしたことで、数十名の方が命を落とされたことがありましたけれども。大問題であることは間違いありません。

しかし、大問題にもかかわらず、根本がわかってないので、学問としては極めて、まだ、私に言わせると幼稚な段階といえます。

今、眠気って言いましたけど、本質がわかっていないと言いましたけど、表面的な現象、これは比較的よく研究されています。いくつかの制御のモードがあるということがわかっています。

さっきも恒常性という言葉を使いましたけれども、難しい言葉ですけれども、言っていることは実は簡単で、例えば徹夜明け。長く起きていると、それだけどんどん眠くなる。

その直前の覚醒時間が長ければ長いほど眠くなる。睡眠不足になるほど眠くなる。そして、「その眠気を取るには寝るしかない」という、睡眠そのものにネガティブフィードバックのメカニズムがある。何度も同じことを言いますけど、そのネガティブフィードバックがどうやって脳の中で実現されているかは全くわかっていない。

それから、それと同時に、これも多くの方が体験されたことがあるはずけれども、いわゆる時差ボケですね。我々の脳の中に24時間刻む時計があって、それによって、ある一定の時間帯は、より眠い、一定の時間帯は、より眠くないようにできています。

人間の場合だと朝の2時から4時くらいまでが、体内時計の面から言うと、一番眠い。今ぐらいの時間から宵の口くらいの時間が、実は一番眠くない。

そういう制御もあるし、それから、非常事態になったり、例えば、火事だとか、何かすごく興奮するようなことをしている時というのは、本来、こういう理由で眠いはずの時でも、少なくとも一過性で眠気が吹き飛ぶ状態を経験することができます。

そういう表面的な現象はよく研究されているけれども、その裏にある脳内のメカニズムというのは全くわかっていないわけですね。私にとっては非常にエキサイティングな睡眠の研究なんですけれども、そこに入ってからアクシデントがありまして。

我々は15年ほど前、この「オレキシン」という、我々が名づけた脳内の情報伝達物質と言ったらいいでしょうか。そういったものを見つけて、それの機能を探ろうとしたんですね。最初はいろんな理由から、このものは、私たちの脳内で、空腹感と食欲を調整する物質だと思っていたんです。

それで、私たちの業界の常套手段として、このものを作れなくするマウスを遺伝子交換で作ることができた。それをノックアウトマウスっていうんですけど。

この物質を作れなくなるマウスを作ってみたら、最初、食欲を増進する物質だと思っていたので、食べないでやせるんじゃないかと期待したんですけど、そういうことは実は起こらなかったんです。

そこで諦めても良かったんですけど、僕はこれを発見したものだから、個人的なこだわりがあるんです。もうちょっとがんばってみようと。

日中に強い眠気を引き起こすナルコレプシーという病気

よく考えてみると、我々は日常、実験動物としてマウスを使うんですけれども、マウスは夜行性の動物です。だから、昼間マウスを観察して、ああだこうだというのは、言ってみれば、地球外の知的生物が地球にやってきて、地球人を夜中の2時に観察して、「人間というのはいつもベッドの上にいる、寝てばかりいる、非常にレイジーな動物」だと言うのと同じです。

意味が無い。というので、赤外線カメラを使って、非常に単純なんですけれども、夜の間にビデオを撮ったんですよ。白黒なのは赤外線のせいなんですけど、(マウスの)夜の行動を見たんですね。そうしたら、黄色い矢印のネズミは今毛づくろいをしています。毛づくろいをして、すぐそこで、パタッと倒れて全く動かなくなりました。

横に倒れて、一見、死んだように全く動かない。皆さん、ご存知の方もいると思いますが、マウスって意外とソーシャルな動物でありまして、仲間が集まってきて、倒れていることを気にするんです。

「おいおい、どうしたんだ!」とちょっかい出すんです。そうすると、一見倒れて死んだように見えたこの赤いマウスが、いきなり戻る。実はこっちのマウスも全く同じ症状。

それと同時に、ドーベルマンなんですけど、遺伝性のナルコレプシーという睡眠障害を患っているとされている犬で、2匹一緒に遊ばせて興奮させると、こうやって、さっきのマウスと同じ(状態)になってしまうんですね。番犬としては使えない。

こういう病態が、さっきのオレキシンというものが無くなると起こることが、本当にこれは、ある意味偶然なんですけれども、発見することができて……。

実は、この病態というのはナルコレプシーという病気だということがわかって、そのナルコレプシーというのは何かというと、僕たちの脳の中に、睡眠、覚醒をスイッチングするメカニズムがあるんですけれども、それがすごく不安定になってしまった状態。

だから、日中起きていなくてはいけない時、覚醒を維持することが、安定して維持することができない。患者さんはしょっちゅう日中眠いんです。慢性的に眠いので、ちょっとナップ(仮眠)をとると、その後、我々と同じように回復しますけれども。

また30分、1時間すると、また眠くなってしまう。こういう暗い部屋でつまらない講義を聞いていると、1人や2人、必ず寝る人がいるんですけど、それは正常なんです(笑)。

だけど、こういう状況で、僕がもし寝始めたら、これは普通じゃないですね。本当にナルコレプシーの患者さんというのはそういうことが起こりうる……。1対1のインタビューの時でも寝ます。それがノンレム睡眠に関する兆候なんですけれども、レム睡眠患者の症状というのもいろいろ難しい言葉が出てきましたけれども……。

さっきのマウスとか犬が倒れている状態というのは、情動脱力発作というものだということで、要するに、レム睡眠のような状態に、いきなり覚醒から入ってきてしまう。

レム睡眠というのは、皆さん聞いたことがあると思いますけど、夢を見る睡眠の期間です。夢を見る間、我々の身体は完全にダラッとして、実際に夢を演じないようにできているわけですね。

夢を演じるのは極めて危険なんです。おそらくそのせいで完全に筋力が脱力するようにできています。その脱力が出てきたのが症状です。

ナルコレプシーはオレキシン不足によって発症する

結構、まれな病気ではなくて、人間のナルコレプシーの患者さんでも、9割以上でオレキシンが無くなっている。つまり、ナルコレプシー=オレキシンの欠乏症候群ということがわかったということです。残念ながら、現在は症候治療で、いわゆる覚醒薬を飲んでなんとか眠気を抑える、そういう治療法しか無いということです。

この黒く点々と見えるのが、オレキシンを作る神経細胞なんですけど、それが、患者さんの脳では真っ白。(オレキシンが)なくなっているんですね。

これは実際の患者さんの例なんですけれども、人のナルコレプシーの情動発作はとても不思議な症状で。今、スマイルしていますよね? この脇にいる方と何かジョークを言い合って、笑ったとたんにこうなんです。

本当に、笑いという感情のポジティブなスイングが、脱力をもたらすんです。レム睡眠の症状なんですけれども、こういう、すごくミステリアスな……。患者さんにとっては大変な疾患なんですけれども。

あの男性は笑ってますよね。笑わせるとひざの力が抜けてバタッと倒れてしまう。これもさっき言ったレム脱力という覚醒に入り込むっていうふうに。この患者さんもオレキシンが無い。

じゃあ、「オレキシンが無いんだったら、オレキシンを補ってあげれば根本治療ができるじゃないか?」ということですね。

オレキシンそのものは、いろんな理由で薬になりえないんですけれども、オレキシンの働きを真似するような物質を作ってやれば、それは本当にナルコレプシーの根本治療薬になるし。

それから、オレキシンというのは、言ってみれば脳内の覚醒物質の親玉のようなものですので、他のいろんな眠気が伴なう困った状態にも使える。我々は真面目にアカデミア発の創薬を目指しています。

一方、オレキシンの働きをちょっと抑えて、マイルドに抑えてあげます。これは、いい睡眠薬になります。実は、アメリカのメルクという大手の製薬企業が真面目にやってまして。

もう、第Ⅲ相の大規模な治験を終わって、おそらく来年には、全く新しい睡眠薬として認可されます。今までの睡眠薬と全く違って、自然な眠りを引き起こすことができる睡眠薬になることを期待されています。

起きている脳と寝ている脳をスイッチする神経回路というのも少しずつわかりつつあります。だけど、問題は、起きている脳でも、最初に言ったように、眠い脳と眠くない脳は全然違うはずなんですけど、その違いが全く今だにわかっていないということです。

別の見方をすると、電気回路で言うと、フリップフロップという相互の抑制性のコネクションがあるんですね。バイステーブルというのでしょうか、総安定性のフリップフロップの回路ができて、それで睡眠と覚醒が切り替わっているんですけど。

そういうことはじょじょにわかりつつあるんです。オレキシンの働きの1つというのは、そのフリップフロップを安定させること、覚醒に傾かせることなんですが、そのスイッチを、いつ、誰が押しているのかが、もっと根本的な疑問ですよね。

眠気の制御機構は謎に包まれている

さっき言ったように、眠気の正体というのが全くわかっていない。

同じスライドを出しますけれど、本当に、眠気の制御機構というのは謎に包まれています。謎に包まれている、謎の度合いというのがあまりにもひどくて、まともに役に立つ仮説を立てられないくらい、何もわかっていなんです。

仮説というのは、土台が無いとたてられないわけで。ですから、我々がやっていることというのは、よく言われる探索的研究ということなんですけれども。

教科書的にはかなりの進歩というのは、仮説に基づいて仮説を検証するなり、あるときは否定するなりして進歩していくわけなんですけど、その仮説を立てることをあきらめてしまおうという考え方です。

でも、目の前にあるデータから出発しようという考え方ですね。一切、予備知識を捨て去って、虚心坦懐にそれを見ようという考え方です。

うまくこれをやれば、思いもよらない、新しいものに至る可能性があるということです。

7000匹以上のマウスの睡眠を測定した

それをやる手段として、ちょっと理屈っぽい話になるんですけど、今の医学生物学の王道というのは、よく言われる、Reverse Genetics(リバースジェネティクス)というバズワードがあるんですけれども、遺伝子が先に見つかって、その遺伝子を変えた場合に何が起こるか。どういう症状が出てくるか。それによって遺伝子の役割を改善していく、それが王道なんです。

でも、これはまず遺伝子が無くてはならない、遺伝子があるという上での仮説です。候補が無ければならない、あるストーリーが無ければいけないわけなんですけど……。我々はそれをあきらめて、Forward Genetics(フォワードジェネティクス)というんですけど。

仮説を立てない形の研究、どうしてフォワードかというと、もともとメンデルさんが遺伝学をつくったわけですけど、メンデルさんのやり方がそうですよね。

遺伝子変異の形質を先に見つけて。当時、遺伝子という概念は無かったですけど遺伝子に至るという説ですね。

具体的にどうやるかというと、これは「言うはやすし」で大変で……。マウスの遺伝子が、たくさん、2万くらいあるんですけど、1匹に40箇所から50箇所くらい、本当にランダムに。神様の実験です。

ランダムに入れたマウスを、最低でも数千匹以上やらないと意味が無いんですね。数千匹用意して、それを片っ端から睡眠測定します。

睡眠を測定するというのは大変なことで、脳波と筋電図をとらなくてはいけないんですけど、そのためにはマウスを手術して、いろいろやって、マウスをハッピーに飼うことが極めて大事で。

マウスがストレスを感じたら睡眠の質がグチャグチャになってしまうので、いかにハッピーに保つかというのをいろいろやっていて。そういう実験をしています。

それで何千匹も調べると、その中にわずかな数の睡眠がおかしいマウスがいます。そこから原因となる遺伝子変異を見つけてこようという、一見、非常に遠回りな、悪く言えば「下手な鉄砲も数打ちゃあたる」的な。

それをやるためには、こういう、1匹1匹、黒っぽいのがマウスですけれども、脳波を測りつつ、多分ハッピーに暮らしている(笑)。

それで、たくさん何千匹も、今までに6000、7000匹以上測定したんですけれども。これは難しい図なんですが、8行あって、上半分が昼間の12時間、下半分が夜の12時間で。

ピコピコと上にグラフが振れているのが睡眠なんですね。一番上に振れている赤い部分がレム睡眠ですけれども、一番ベースラインのところが覚醒ですね。

一見してわかるように、正常なマウスは、夜の間、ほとんど覚醒しています。夜行性の動物なんですが。ところが右側のマウスは変異マウスなんですが、一見してわかるように寝てばっかり。睡眠量は1.5倍になって、覚醒量は3分の2以下に減っています。これは、すごく強い形質です。

実際、ごく最近「sleepy(スリーピー)」と我々が呼んでいる遺伝子をとらえるができて、実際「sleepy(スリーピー)」に変異のあるのが赤で、(変異の)無い正常なのが緑です。

横に覚醒時間をとっていますけど、(変異があるものは)覚醒時間が3分の2くらいです。人間でいうと、1日12時間、13時間、寝ないと済まないような人です。非常に強い症状ですね。

なので、この原因となる遺伝子変異の、今、具体的にどういうことを脳内でやっているかというところから突破口を開こうと、そういう実験をしているというので今日の話は終わります。

(会場笑)

実はこれ、フォトショップで作ったのではなくて、わたしは20年以上ダラス、テキサスに住んでいるんですけれども、そういうところで、ホンダのミニバン、年間50ドルくらいのカスタムナンバープレートで……(笑)。

筑波大にこのような睡眠研究のセンターをつくってがんばっています。どうも、ご静聴ありがとうございました。

(会場拍手)

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