IoT/AI時代のキャリア構築を考える

加賀谷友典氏(以下、加賀谷):というところで、neurowearで今取り組んでいるIoTの事例、mononomeを紹介させていただきました。ここまでが僕の一方的なお話なんですけど、ここからは飲み会にチェンジさせていただければなと思っております。

(会場拍手)

加賀谷:ありがとうございます!

金城功明氏(以下、金城):あと日本酒も、コップ付きで持ってきます?

加賀谷:危険ですね(笑)。

梅田望夫氏(以下、梅田):今日のテーマをIoT/AIそのものじゃなくて、そういう時代におけるキャリア構築についてっていうテーマにしたのは、加賀谷さんが今話してくれたような、「これからの時代ってどういうことなんだろう?」とか、「その中で新しいプロダクトってどういう風に考えていったらいいんだろうか?」っていうような話だけでなく、我々一人ひとりっていうのはそういう中で、「一体自分はどういう風に生きていったらいいんだろう?」っていうのが、多くの人にとっての最大の関心事項なのではなかろうかと思ったからです。

例えば、加賀谷さんの話を聞いて、さっきの2人の方の質問も1つの関心の領域だと思いますけど、もう1つ、話を聞きながら、「じゃあ俺は明日から何をしよう?」とか、「今の仕事をどうしよう?」みたいなことを考えるっていう、ものの考え方は当然あるわけですよね。

で、そっち側の問題提起というか、そっち側のことを考える人に対して、何か参考になる話ができたらなぁと。

加賀谷:了解です!

加賀谷氏の例に見る、2つの生き方

梅田:加賀谷さんのことをダシに使って話をしちゃうと、ちょっと申し訳ないところもあるんだけど。例えば加賀谷さん、結構おもしろいことを沢山やっていらっしゃいますよね。例えばnecomimiは2012年くらいですか?

加賀谷:あれは2011年です。

梅田:11年でしょ? necomimiをやる時に、2つのアプローチがあるという話をまずしたいんです。加賀谷さんはnecomimiというコンセプトを出し、10万ユニットが世界に売れていったわけですが、加賀谷さんの、さっき出てたタイトルはプランナーっていうことなんですか?

加賀谷:僕ですか? 僕は、フリーのプランナーです。

梅田:加賀谷さんとしては、あのnecomimiっていうのはプロジェクトなんですよね。1つの。

加賀谷:そうです。プロジェクトです。

梅田:その時に、起業家だとどういうアプローチになるかっていうと、necomimiっていう会社をつくるんですよ。2011年。そうすると2011年から現在に至るまで「necomimiの改良をし続けていく」「基本的にnecomimi以外のことはやらない」っていう生き方があるんですね。

一方、加賀谷さんは2011年にnecomimiを出します。最初のプロダクトが出ます。これで世の中に対してあるインパクトを与えたら、今度はどんどん移り変わっていく世の中のなかで、新しいことを考えていって、次にプロジェクトをデザインして、また別の新しいものを世に問うていくっていう生き方。

この2つの生き方っていうのは、ものすごく大きな違いがあって。

「フロー」と「ストック」の2つの生き方がある

梅田:これ、加賀谷さんの例だけじゃなくて、例えば僕なんかもそうなんですけど、僕は20代後半のときに経営コンサルタントの世界に入ったんですね。本業は相変わらず今も経営コンサルタントなんですけど。

経営コンサルタントっていうのは、やっぱりプロジェクトなんですよ。1つ1つは。例えばクライアント企業の仕事をするってことになると、「こういうことを頼みたい」って言われる。

その「頼みたい」ってことがすごく難しかったりしても、期限が決められるんですね。「半年でこの仕事してくれないか?」とか「3カ月でやってくれないか?」とか。長いと1年とか。

ところがその期間が終わると、その次にはまた違うプロジェクトをやる。1つのプロジェクトが終わると、そこでプロジェクトのフィーは全部回収できる。

で、そこで終わり。その結果を引き受けるのはクライアント側の問題で、引き受けるコンサルタントの側はその1つの問題を6カ月なり9カ月なりで解いていくと。

で、また次のプロジェクトに移っていくっていうことで、僕自身は20代の後半の時に「うん、これはひょっとすると自分に合った生き方かも知れないな」という風に思ったんです。正直なところ。

つまり、例えばある鉄鋼メーカーに就職して、30年そこに勤めようみたいなキャリア構築ってあるわけですけど、そうするともう、世の中で何かいろんなことが起きていても、自分が選んだ会社や領域で、専門性をずっと30年磨いていく。その会社の中のプロになっていくとか。

その2つは明らかに生き方が違うんですね。これを今日は便宜上、「フロー」と「ストック」っていう言い方をします。

例えば加賀谷さんの例で言うと、加賀谷さんが今やられてきたnecomimiとか、いろんなプロジェクトをやって、今mononomeをやってるっていうのはフロー型の生き方。

加賀谷さんが仮に2011年にnecomimiをつくった。そこで「これからは俺の人生を埋めてnecomimiのことだけをやる」って決めたら、それはストック型の生き方ってことになるっていうのが、言葉の定義ね。

自分はストック型? それともフロー型?

梅田:っていうような感じで、今皆さんがここまで話を聞いて、大体ストックとフローってわかってもらったと思うんですけど、どっちが自分に向いてると思うか、いい加減でいいんですけど、直感で言ってもらえるとありがたいんだけど。

自分はストック型の仕事が向いてるなぁと思った人、ちょっと手挙げてもらえますか? 少ないですね。じゃあ、自分はフロー型が向いてると思う人。ちょっと説明の仕方が悪かったかもしれない(笑)。

加賀谷:説明は合ってると思いますよ(笑)。

梅田:そうですか(笑)。

加賀谷:ストック型の人ってオールインですよね。オールインでひとつに賭ける。

質問者:今の話で言うと、そのストック型の例が多分悪くて、僕が今イメージしたのが、例えば伝統工芸。

梅田:それはストックですよ。

質問者:例えばiPhoneとかでもありましたけど、後ろが鏡みたいな磨きをする人がいるじゃないですか。

加賀谷:研磨ですね。

質問者:あの研磨とかは、ストックじゃないとできない。そういうことじゃないかなと思って。

梅田:それ正しい。つまり職人芸みたいな。20年ずっと1つの技芸を磨いてきて、これが自分の生きる道であるっていうのは完全にストック型の人生っていうか、ストック型のモデルですよね。

「どうしてずっと本を書き続けないのか?」はストックの発想

質問者:加賀谷さんも基本的にいろんなプロダクトをやりつつも、根っこの部分では一緒だと思うんですけど、こういう意味でのストックって考え方ってのはまた別ですか?

加賀谷:僕がストック型かフロー型かというと完全にフローなんですよ。オールインで何かひとつにだけに集中してやるのは気質が合わなくて。

情報ジャンキーなので、興味あるものに常に接していたい。だからプロジェクトベースが僕は性に合ってて、創業者とか僕は一番向かない。本当、向かないですよ(笑)。

質問者:根っこにある興味の部分とかは一緒だったら、いろんなプロジェクトがあるとしても、ストックとも言えるのかなと思って。

加賀谷:いや。完全にフロー型ですね僕は。

梅田:どんな人も興味ってのはあるので。そこはね、そういう解釈じゃないんです。例えば僕、『ウェブ進化論』を書きましたよね?

最近あんまり書いてないんですけど、多くの人が「どうしてずっと本を書き続けないか?」っていうことを僕に聞くんですよね。それはストック型の発想なんですよ。

つまり一つのことをずっとし続ける。日本では多くの人がそういう発想する。1つの会社にずっと勤め続ける人が多いし。特に年配の人たちっていうのは。

だけど僕にとっては皆プロジェクトなんですよ。その時点で一番自分がやりたいこと、関心を持ったことをやり、みたいなことをずっと続けていくので、2006年に本を書いたので、今も本を書いてなきゃいけないっていうのは、全く自分の中では繋がりがない。それがフローの生き方なんです。

ストック型ビジネスの強み

梅田:で、10年ぐらい前に、こういう話を同じような会でした時に、「あ〜、ひょっとすると自分はフローかな?」っていう人のほうが多かったんですね。

で、その時に「俺はフローの人の気持ちは全くわからん。ストック以外、自分は駄目だ」と言った人が1人いて、それは今、某社の創業者の社長です。非常に成功してる、有名な社長です。

金城:多分もっとペロンペロンに酔っぱらったら、名前を言っちゃうかも知れないですね(笑)。

梅田:いや……(笑)。自分はわけわからないけど、とにかく10年くらい、わからないけど頑張り続けて、自分のつくった1つの会社にすべてを投入し続けないと自分が成功するのかどうかは全然わからない、3カ月とか6カ月ごとに成果が出て、また次にいくみたいな人生はまったく考えられない、というふうに彼は言ってて。ここには人間の気質と仕事の選び方っていうのがあるんだと思いました。

さっき『ウェブ進化論』の話をしたときに、あれからあとにiPhoneが出てきて、何が出てきて、何が出てきてってずっと言いましたよね?

iPhoneが出てきたらアプリをつくりたくなる。IoTが出てきたらIoTやりたくなるという気持ちは、新しいことに関心が強い多くの人が持つはずです。

そういう次から次へと新しい物が生まれてくる中で、キャリアと折り合いをつけていくというのがすごい難しい問題なんですよね。

で、一旦ストック型で何かをやるっていうと、時代がどんどん違うところに行っても、とにかくあるときに決めた1つのことをやり続けて勝たなきゃいけない。

もちろんビジネスモデルの転換っていうこともできるけど、そんなにコロコロとビジネスモデルを転換するわけにはいかない。

例えば、今日会場を借りてるSansanの仕事は名刺管理ですが、いくら世の中でおもしろいNext Big Thingが出てきても、ただひたすら名刺管理を極めていき、それで大成功されるわけです。新しいトレンドは名刺管理という観点から取り込んでいく。

これがまさにストックのビジネスです。データベースが蓄積され、組織ができて、多くの社員の人たちが毎日毎日使ってる時間の蓄積みたいなものが、全部ストックになっていて、その結果が大きな企業価値になっていく。

さっき話したようなフローの話とは全く違う世界なのね。そうすると、自分がどちらに向いてるかっていうことと、そういうキャリアを考えるって、すごい大事なことなんじゃないかってことを、僕は飲むと話をするんですよね。

2つのタイプは、どちらが上ということはない

梅田:そのテーマが結構、ウケるっていうと変なんですけど、身につまされるっていうか、「自分は一体どっちなんだろう?」みたいなことを考えるきっかけになっていいので、飲んだくれセミナーには良いテーマだと思った(笑)。

加賀谷:これは重要なことなのですが、フロー型とストック型はタイプであって、どちらが上ということではないんですよね。

梅田:ない。

加賀谷:これはもう気質なので。

質問者:ストックとフローという観点でいくと、例えば今のIoTだとかAIって話もインターネットだとかコンピューター、情報産業分野で考えれば、ある意味では見方としてはストックと言えるんじゃないかなぁっていうものがあって。今、梅田さんもおっしゃっているストックとフローの区別の観点、レベルというか。

梅田:ストックとフローは個人の問題です。個人のレベルでどっちにコミットするかという話です。

質問者:個人として、どう関わっていくかという話?

金城:IoTにどっぷり浸かるか、今はIoTが旬だからIoTに行って、次違うのが来たならそっちに行こうとなるか。

最先端のことを次々とやれるような会社をつくった

梅田:そうそう。忘れないうちに言うと。今、金城さんが着ているシャツのBイノベーションは、僕と金城さんと、あそこにいる大村さんとで一緒につくった会社なんですけど、これは完全に、フローの世界にフィットしたエンジニアの人たちと一緒に仕事をするためにつくった会社なんですよ。

だから、Bイノベーションっていうのは何か1つテーマをつくって、5年間同じことをやり続けるみたいなことはやらない。

その代り、リーディングエッジのことをやっていこうと。つまり、AIとかIoTだけじゃないんですけど、とにかく旬なものに関わっていく。

僕、よく若い世代の人たちに「年寄りが全くよくわかんないことをやるべきだ」ってことを昔から書いたりしてて、要するに上の人間が全くジャッジできないことでエキスパティーズをつくるのが若い人の戦略なんじゃないか。

そういう意味で、最先端のことを次々にやれるようなプロジェクトを創設して、なんやかんやとやっていこうみたいなことでつくった会社ですね。

金城:Bイノベーションが何をやってる会社かって説明するのが難しいのはそこにあって、その時々の旬を感知して、そこに実際に、いわゆるキャッシュを持ってきて、お客さんを捕まえて、かつ、できるエンジニアを揃えてっていうのをやるのがウチの会社。

梅田:そういう時に、ちょっと「それおもしろいな」と思う人はフロー的な感じがある。「いや、そんなフラフラしたことじゃ、自分は全く仕事した気がしないし、そこで積んだことが自分のキャリアだと思えない」っていう人は、もっとストック型という感じ。

フロー型の仕事とストック型の仕事を選ぶ必要がある

梅田:こういう話をしてると、だんだん「俺はどうだろう?」みたいなインタラクションになっていったりするんですよね。

質問者:今のお話を伺ってると、イメージ的に本来日本人ってストック型だと思うんですけど、今、会場の人は結構フロー型だって手を挙げて。自分も含めてフロー型で手を挙げたんですけど、でもそもそも、それって生業というか仕事として成り立つかどうかという個人の観点でしかないのかなと思って。

ストックとフローっていうのを、そもそもわけなくてもいいのかなぁと。何故わける必要があるのかなと思って、梅田さんの想いみたいなのはあるんでしょうか。

梅田:やっぱり、フロー型の仕事とストック型の仕事っていうのが世の中には厳然とあるんですね。

で、フロー型の仕事をするのかストック型の仕事をするのか、人生の選択としてあるんじゃないかなっていう問題認識ですね。あとさっきも言ったように、次から次へと新しいものが出てくるという環境とキャリアの折り合いをつけるというのは難問だという認識も背景にあります。

質問者:キャリアパスとしてっていうイメージでいいですか。わかりました。