駆けつけ警護の危険性と安全確保

小林史明氏(以下、小林):事例も交えて皆さんにもご理解いただけたんではないかと思いますが。それでも、こういう質問をされる方がよくいらっしゃって。駆けつけ警護というのは、危険な場所に積極的に行くことに繋がると。

先ほど(の話)はかなり理由をつけて、無理やり行っているというところがありましたが、今回からはスムーズに行けるようになると。

そうすると「より危険度が増すんではないか」「隊員の安全確保はどうなんだ」という意見があるわけですけど、このあたりはどういうふうにお話をしていくといいのでしょうか。

佐藤正久氏(以下、佐藤):自衛隊も、消防も警察も海上保安庁もそうなんですけど、我々は宣誓をしてそういう任務あるいは部隊に入ります。事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえる。

国民の意思としてそういう派遣をしたときに、自分の部下隊員とか日本人のNGOとか、あるいは民間の方々を一緒に活動して守らないといけない。

自分が助かるために、日本人を自衛隊とかあるいは警察が見殺しにしてもいいのかってそれはないと思います。それは国内でも同じですよね。そのための自衛隊であり警察ですから。当然そのために日ごろ一生懸命訓練をやります。

だからそういうときに当然リスクはある。でもやはり日本人の同胞とか自分の部下隊員を守るというのは当たり前の世界で、これは責務であって、その辺の安全確保というものはとりながらもそこは対応できるようにしないといけない。

当然リスクはあります。だけど自分が助かるために仲間を見殺しにしていいのかという部分は多分違うと思います。

そこはいろんなやり方あると思いますよ。リスクはあるに決まってるんです。でもそこは何かあったときは自分を犠牲にしてでも守るべきものは守り抜くというのが、自衛隊とか消防とか警察ですから。

想定される駆けつけ警護のパターン

佐藤:一部のマスコミは一番極端な例をとって、他の国の軍隊が襲われている、それを自衛隊が助けに行って巻き込まれては危ないと。これはひとつの例ですけども、それは現実の世界としてはあまり想定しづらい。

なぜかというと、例えばイラクの場合、オランダの宿営地ありますよね。あの歩兵部隊宿営地に、誰がまともにイラクの状況で攻撃仕掛けますか。ないですよ。あんまり起きない。

しかも軍隊が軍隊を守るっていうことは普通想定しませんから。軍隊は自分で自分の身を守るんです。軍隊が軍隊に駆けつけするっていうのはよほどのパターンであって、本当に小さな部隊が襲われてるというときにはあり得ます。

軍隊が固まっているときにそこに仕掛けるなんてことは普通はあり得ません。だから非常に極端な例をとって、駆けつけにもいろんなパターンがあって、まさに政策判断として、あるいは当時の状況として現地の指揮官が判断しますから。

そこは慎重にやりますので、あまり極端な「他の国の軍隊を助けに行く。だから危ないんだ」というのと日本人や自分の部下隊員を助けに行くのを一緒にするのはおかしい。そこはしっかり分けて議論すべきだと思います。

小林:ちなみに具体的にそれを分けるとどれぐらいの段階に分かれるんでしょうか。

佐藤:それはいろんなパターンがあります。自分の部下隊員もあれば、あるいは日本人の文民。

小林:民間人の方。

佐藤:今回で言えば、JAICAとか記者がいますよね。あとは日本人以外の民間の方、あるいは文官の方、戦闘員じゃない方というぐらいには分かれるでしょう。

小林:一番身近なのは自分たちの部隊の隊員ですね。あとは日本人の民間の方、外国人の民間の方、そしてその上、例としてはほとんどないであろうというところに他国の軍隊というものが一部ありますということですね。

佐藤:これ、みんな駆けつけ警護なんです。そこをやるときもしっかりと、どういう駆けつけ警護を認めるかというのは事前に国会で承認事項にしていますから。

今回、政府が勝手にそれをできるわけではなくて、どういう駆けつけ警護がいいか、どこまでの任務をあたるかも、基本計画の中でしっかり書いて、それを国会承認事項にしていますので、しっかりと国会の関与を担保すると。

派遣された隊員もしっかりと国会の承認を得て、お墨つきを得て出るという対応をとっていますので、そこはご安心していただければと思います。

小林:恐らく批判的な意見を言われる方、全部わかっててあえて丸ごと1つにしてレッテルを張ってらっしゃるんでしょうから、なるべく我々からそういう的確な事例を出しながらご説明をするというのが大事なんだろうと思います。

国際平和協力法と国際平和支援法

小林:今回、国際平和協力法の改正をしていきますけど、これで一応十分というふうになるんでしょうか? それともまだまだ足りない部分っていうのがあるんでしょうか?

佐藤:今回、考えられる2つの法律がありますよね。国際平和協力法と国際平和支援法と。

この国際平和協力法こちらは緑が薄いですよね。白がある。これはどちらかというと緊張度合いが少ないという意味合いで、こう白くしているんですけど、国際平和協力法は、紛争が起きる前か紛争が起きたあとの後方支援とか人道支援なんです。

こちらの国際平和支援法、これは紛争中の外国籍軍等への後方支援。これはやるのは国際平和支援。

例えば、アフガン戦争のときの海上自衛隊におけるインド洋の給油支援がありますよね。ああいうものが、こういうイメージです。

そう分けてますけど、国際平和協力のレベルでいうと、これは相当なことがカバーできたと思います。

例えば、この国連の平和維持活動。はっきり言って武器使用も変えますし、今度は国連平和維持活動の司令官に自衛隊を派遣することが可能になります。これが南スーダンとかハイチとかゴラン高原のような例。カンボジアもこれ。

2番目の国際的な人道救援。これはザイールのゴマという所に自衛隊が、国連高等弁務官事務所の要求で人道支援に行ったというのが2番目のパターン。

3番目の国際連携平和安全活動。これはまさに国連ではない、そういう傘のもとでの活動。私が派遣されたイラクの人道復興支援がこのタイプに当ります。

小林:有志国家によって連携してこうやろう。

佐藤:これは国連ではなくて、有志連合。ただ、国連の決議とか必要ですけど。そういう中での活動をやりましょうというのがここなんです。

しかも場合によっては、国連の常任理事国5ヵ国のどこか1つ反対したら国連決議って出ないんです。

ですので、それでもいろんな条件が出ないときでも国連事務総長の声明とか何らかの形でやっぱり必要だともここで読めるように。

非常にレアケースかもしれませんけども、そこまでスコープを広げてますので、だいたいのものはここでカバーできると思います。

国際平和共同対処事態の制限

佐藤:ただし、この国際平和共同対処事態。こちらはかなり抑制的にしていきますので、他の国と同じような活動は多分できません。

小林:なるほど。そこは他国と比べると、どういうギャップがあるんでしょう?

佐藤:他国はいろんな武力行使を目的として掃討作戦もできます。

小林:一緒にできるということですね。

佐藤:我々はそういう武力行使を目的とした派遣は、両方とも認めておりませんから。あくまでも紛争前、紛争後か、紛争中にあっても後方支援にしてますので。

武力行使を目的として歩兵部隊が掃討するとか、そういうことは認めておりませんので。そこは他の国とはまた違う。

しかも活動の後方支援の場所も、現に戦闘が起きていない場所から、じゃあどこでやるんですかって選ぶような形にしますから。

そこは他と違って、どこでも後方支援をしていいというわけではなくて、安全性を確保するということをしっかり担保した後方支援ですので、他の国と全く同じというわけにはいかない。非常にここは抑制的な検討にはなると思います。

他国と比較した自衛隊の練度と課題

小林:そういう意味では、まだまだ第一歩というふうに考えるのか。日本としてはそのあたりがちょうどいいと考えるのか。これはどう考えたらいいんですか。

佐藤:それはまだこれから将来の課題だと思いますけど。やはり憲法9条の枠内での活動というのが前提となりますし、その憲法9条のもとでやっぱり限定があるのは当然です。

実際現場の自衛隊の訓練とか、あるいは装備の練度というものをやっぱり考えながら、しっかり考えないといけませんので、一足飛びに現場がこのぐらいしか能力ないのに、政治がこれやれと言っても無理でしょう。

そこはしっかりとその現場と政治要求というものをうまくマッチングさせながらやらないといけないので、まだまだ課題はありますし、私は今の現段階としてはここでもう十二分過ぎると、大体いいところかなと思っています。

小林:ちょっと気になるもの自衛隊の練度ですね。これは他国に比べてどうなんだというのが、よく記事にもなったりするわけなんですけど。

実際に現場にいらっしゃった隊長だからわかる、自衛隊の能力というのはどれぐらいだというふうに思ったらいいでしょうか? 能力といってもいくつか項目があると思うんですが。

佐藤:自衛隊を今の憲法あるいはその法律上認められている、そういうエリアのレベルからいうと、国際標準的にもかなり高いレベルにあります。

法律に認められていないことは訓練もできませんから、それは無理です。ただ今自分たちに与えられている権限あるいは装備というものの中では、かなり練度があると思います。ただ他の国と違って1つの課題は射撃なんです。射場が無いんです。

小林:撃つ場所がないんですね。

佐藤:そうです。例えば、対空ミサイル、あるいは船に対して撃つ対艦ミサイル。その実弾射撃は今アメリカでしか訓練できてない。シミュレーターとは違いますから、連動動作とか光の関係、風の関係いろいろありますよね。実際に撃って何ぼですから。

ところが射場が国内にはなかなかありませんから、海外に依存せざるを得ないという部分もありますし、実際弾も防衛予算の関係で、訓練用弾薬を無尽蔵に買えるわけではありませんから、実際射撃も場合によっては、ある部隊にとっては2年に1回射撃ができるということがありますから。

そこはやっぱりこれからの1つの課題と言えますし、今後新たな防衛計画大綱で水陸機動団、海兵隊的な離島奪還を任務とする部隊もつくろうと。それはこれからの話なので、この辺の能力はアメリカと一緒に訓練をしながら、装備品を入れながら高めていくという分野もあろうと思います。

佐藤:あとこれから大きな分野は、サイバーと宇宙。今回のガイドラインの改定でも、新たな協力分野とありますけど、やはり米軍と比較をしても、宇宙とサイバーという分野については自衛隊のこれからの分野だということは言えると思います。

日本では砲弾射撃の訓練ができない

小林:射場がないというのは法律上の問題ですか? 

佐藤:法律上、場所がないんです。

小林:場所がそもそもとれないというか。

佐藤:例えば、岡山のほうにも日本原演習場というのがありますよね。津山のあたり。そこは砲弾射撃ができないんです。

だからあの近辺の部隊、例えば山口の部隊が、そういう迫撃砲の訓練をしようと思うと、山口県から滋賀県まで行くか、あるいは海を渡って隣の大分まで行くか、場合によっては富士のほうまで行かないと無いんです。ものすごい過密スケジュールですから。

小林:そこを使うためも、いろんな動きを、スケジュールを組んでというのをやらなきゃいけないですから。それぐらい時間もとれないですし、稼働もかかるとそういうペナルティーが。

佐藤:そういう制約もありますよね。アメリカはものすごく射撃をしますから。やっぱり射撃しないと当らないです。小銃1つとっても右から撃つのと左撃ちというのは違いますから。

例えば、これが建物としますよね。建物でこちらからこう撃つときは右撃ちで、体が隠れますよね。でも、こちらから撃つときに右撃ちで撃ったら体が出ちゃうじゃないですか。

小林:左から撃たなきゃいけない。

佐藤:そう。練習もやっぱり違うし、朝と昼と夕方では太陽の角度が違いますから、光線の見え方違いますので、この照準が変わってくる。

風が吹いていたら、風の強さに応じてやっぱり風上撃たないと弾が流されますから。100メートルとやっぱり200メートル、300メートルでは撃ち方が違うんです。

300メートルで真ん中に当てるためには、若干実際上を撃たないといけませんよね。というふうに全部違うんです。

しかも防護マスクをして撃つと、頬のつけ方が違ってきます。ここに当たる部分がこうなりますから、マスクの分だけみんな変わっちゃう。

小林:そうすると照準がまた変わるわけですね。

佐藤:やっぱり弾撃たないと、そこの自信というのはつかないし、いざというとき自分の身も仲間も守れないことがあろうかと思います。

小林:なるほど。本当に現場の感覚というかですね、実際のところを考えると、さまざまな課題がまだまだあるんだということがよくわかりました。