都立中学校の歴史教科書をめぐる問題
堀潤氏(以下、堀):さぁ、さっそくまいりましょう。古賀さん、テーマの発表をお願いします。
古賀茂明氏(以下、古賀):はい。教科書問題と『積極的平和』っていうのを話してみたいと思います。
(テーマ「教科書問題と『積極的平和』主義 ヨハン・ガルトゥングさんも心配している」について)
脊山麻理子氏(以下、脊山):東京都教育委員会はきのう、都立の中学校や特別支援学校中学部が来年度から使う歴史と公民の教科書に、「新しい歴史教科書をつくる会」の流れをくむ育鵬社版を選びました。
堀:さぁ。こちらの教科書。以前のモーニングCROSSでも取り上げたことがあります。当時、かなりこの教科書の内容についても議論がありました。
多くの教科書が自虐的な歴史記述に満ちていると育鵬社の教科書は批判して、歴史・公民の教科書を発行してきた扶桑社の事業を継承。今月15日には、栃木県大田原市の市立中学校9校の教科書に採用されました。
今回の採択にあたって、23団体から「過去の戦争を肯定する教科書の押しつけだ」「学校の意向を尊重すべきだ」などの請願が寄せられていたということです。
教科書ごとに「平和」の考え方が違う
堀:古賀さん、今日は具体的に教科書を持ってきていただきましたけども。
古賀:これは、東京書籍という、一番シェアが高いところなんですね。
堀:僕も、使ってましたよ。東京書籍で勉強しましたね。
古賀:これが、今問題になっている育鵬社という。このマークを見てもらうと。
堀:育鵬社のマーク、フジ産経グループのマークなんですね。
古賀:なんですよ。
ひとつ今挙げたのが、「積極的平和」って話なんですけど。安倍さん積極的平和主義ってやってるじゃないですか。実は、こっちの育鵬社見ると、あんまり「平和」っていうことについては「積極的平和」っていうのを本当の意味でちゃんと教えていないんですね。
ところが、この東京書籍のほうを見ていただくと、「二つの平和」っていうことが書いてあって。小さいから見えないかもしれないんだけど。
堀:「平和とは何なんでしょうか? 一般に平和は戦争のない状態と言われています」
古賀:それを、「消極的平和」と言うんですね。
「積極的平和」っていうのは、単に戦争がないというだけじゃなくて、戦争の原因となる構造的暴力って言ってますけども、貧困とか抑圧とか差別とかね。それが戦争を引き起こすし、あるいは、それがあること自体、全然人々にとって平和と言えないじゃないかということで、そういうものもない状態を「積極的な意味での平和と呼びましょう」というのが「積極的平和」なんですね。
堀:そのあとに、それぞれの平和の考え方について詳しく書いてありますね。
古賀:それで、「積極的平和を実現するためには、何が大事ですかっていうと、貧困対策とか、教育だとか、そういう人道的支援が大事ですよ」っていうようなことが書いてあるんです。
堀:これが、まず、東京書籍版。
古賀:そういう解説っていうのは、育鵬社にはないんですね。
新しい歴史教科書がもつ問題点
堀:具体的に育鵬社はどんなふうに。
古賀:育鵬社はおもしろいんだけどね。いろんなこと書いてありますが。例えばこれ。
「世界平和の実現に向けて」って書いて。
堀:「世界平和の実現に向けて」という見出しのページに。
古賀:写真が並んでるんですよ。これを見てもらうと、左上に北朝鮮のテポドンのミサイルがあって、下に拉致事件があるんですね。「北朝鮮敵だ!」みたいな話です。
右隣にいくと、「北方領土不法占拠されてますよ」「竹島も同じですよ」だから、「ロシアも韓国も敵だ!」みたいな。
「尖閣も不法に領有権主張してますよ」「中国敵だ!」みたいな。
「世界平和の実現に向けて」という中で、日本の周辺国はみんなひどいことをやってるって言うのが、出てるわけですよ。
堀:拉致問題に関しては、絶対早く解決してほしいという思いはありますがね。この領土問題をどんどん打ち出していくという……。
古賀:これだけ見ると、北朝鮮はひどい国だっていうのは世界共通の理解ですけども。「ロシア、韓国、中国とは戦わなきゃいけない、それが世界平和の実現だ」みたいに読み取れかねないような。そんな表現になっていたりとか。
堀:教える側の、まさに技量が問われる教科書ではありますね。
徴兵制について詳しく書かれた新教科書
古賀:今、話題になっている集団的自衛権の解釈改憲も、実は先取りしてそういう主張がありますよって。そういう主張って、確かにないことはないんですけど。ほとんど、そういう主張は認められてないような学説をわざわざ書いてるとか。あるいは、同じページに、徴兵制。
堀:先ほどね、皆さんからのご意見で、「一足飛びに『徴兵制、徴兵制』っていかがなものか?」っていうTwitterもありました。「デマでしょう!」とね。
先ほど、経済的な徴兵制、実質的にという、貧困からそういったところで働きますよという話についても言及がありました。
そうした中、育鵬社にも、実を言うと徴兵制に関しての記述が、すごくかなりの特集が組まれていて。
各国でしたね……。えぇ……。韓国やその他の国々の徴兵制度についてまとめて記述しているという部分があるんですと。
古賀:同じページに「集団的自衛権の解釈改憲ってのがありますよ」っていう話と、「国防の義務を定めてる憲法もあります」と。「もあります」と言いながら、出てる例が全部そういうことを書いてある憲法をずらっと並べてですね、いかにも「徴兵制が当たり前だ」みたいなことを書いてあるんです。「徴兵制が憲法違反なんですよ」ってことは、もちろん一行もないんですね。
ですから、これを読んでいくと、僕は非常に心配なのは、もしかしたら安倍さんは、この教科書、当時はなかったと思いますけど、「こういう考え方で教育を受けると、こういうふになるだろうな」っていうのが、ものすごくはっきりしていて。
教科書次第で子どもの考えが偏る恐れも
古賀:実は、これ東京都だけじゃないんですね。育鵬社を選んだっていうのは。まだ、使っているところは少ないんですけれども、どんどん増えていっているということで。
「教科書を誰が選ぶのか?」ということは、考えていかないと。何となく国の意向を忖度したとか、あるいは、首長さんが非常にタカ派的な考えをたまたま持っている人で、教育委員会にそういう人たちをどんどん任命するということでやっていくと、子どもたちがどんどん偏った考えになる恐れがあるなと。
もちろん、この教科書でも、先生の教え方によって全然違ってくるので、そこはやっぱり現場の自主性を尊重してもらいたいと思います。
堀:三輪さん、一言。
三輪記子氏:本当に教科書も大事なんですけど、これから子ども産みますけど、子どもに例えば、「先生だから偉い」とかっていうふうなことは絶対言わないでおこうと思ってて。
というのは、自分がそもそも学校とかいろんなものを信用しない子どもだったんで、「いろいろ自分で確かめる」っていうことを教えてあげたいなって思ってます。
堀:ありがとうございました。