ベンチャーとしての社会的な責任を意識するために

岩瀬大輔(以下、岩瀬):皆さんこんばんは。私事ですが、来月からライフネット生命の社長になることになりました。爆速で経営して参りたいと思いますので(笑)、皆さんも、保険加入、どうぞよろしくお願いします。それでですね、今日のテーマ、社会起業家ということで。IVS、意外とこういうセッションなかったなって思うんですね。(インフィニティ・ベンチャーズの)小林さんと話をしていて、最後にこういうのを持ってきた趣旨、どういう思いですか? っていうのを確認したんですけど。

岩瀬:やはり、多様性をこの参加者の中に求めるということが一つ。やはり、多様性をこの参加者の中に求めるということが一つ。特に我々、女性の参加者が著しく少なくて、特にベンチャーの世界ですと、なかなか女性のトップの方って少ないんですが、このSocial Entrepreneurs(社会起業家)では、わりと女性の影響力のある方が多いと。

あとはベンチャー経営者としてどんどん利益を上げて雇用を増やすというのが、もちろん一義的な責務なんですけど、やっぱりベンチャー・コミュニティ全体として、社会的な責任とか、社会へ返していく、そういったことについてもっとコミュニティ全体としての意識を高めることもいいんじゃないか。そういう趣旨がありますので、皆さん聞きながら関心を高めていただければと思います。

今日は、この世界では論客と言われるお三方が来ていますので、最初に10分ずつぐらいそれぞれの活動についてお話しいただいて、そのあと僕から色々質問させていただいて、あとは会場の皆さんからQA(質疑応答)させていただければと思います。では最初に、手前からですね、公益財団法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢設立準備財団、いつもISAKと呼んでいる、代表理事の小林りんさんです。

りんちゃんは僕、大学の同級生でして。東大だったんですが、その中にはすごい派手な美男美女グループがあって、だいたい男子は麻布高、女子は学芸大付属とか、素敵な女子高出身で。それで僕は開成でですね、遠くから羨ましそうに眺めていたんです。それで卒業して、りんちゃんは最初モルガン・スタンレーにいて、それから2000年にネットベンチャーに転職したんですね。ちょうど僕もベンチャーに転職した頃だったんで、その頃からわりと交流するようになって。

実はライフネット生命の生みの親っていうのは投資家のあすかアセットマネジメントの谷家さんなんですけど、りんちゃんのISAKも同じく、谷家さんが生みの親なんですね。間接的に同じようなバックグラウンドでやっているので、こういう場でご一緒できることを嬉しく思っています。ちょっと長くなりましたが、りんさんからISAKの活動についてお話いただければと思います。

新しいバリューを築くリーダーを育てる学校

小林りん(以下、小林):皆さま、こんにちは。インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢、が正しい名前ですので(岩瀬氏のほうを見ながら)覚えてください。あまりにも長いので頭文字を取って、ISAK、アイザックと呼ばせていただいています。学校がそもそもどんなものなのかということを、まったくご存じない方がほとんどだと思いますので、まず学校がどんなものかということをお話しさせて頂きます。

それからなぜ私がこんなこと、外資系からネットベンチャー、そして学校を作っているのかということを2つ目に。それから、これ実は6年がかりのプロジェクトに期せずしてなってしまったんですけど、そこに至るまでの軌跡と、これからこの学校がどこへ行くのかということをお話させていただきたいと思います。

まず学校そのものですけれども、ミッションとしては、時代に変革を起こすリーダーを育てる、というものを掲げています。リーダーシップ教育というと、なんか政治家養成学校とかに誤解されがちなんですけど、決してそうではなくて、むしろ、本当ここにいらっしゃる皆さんのような新しいバリュー、新しいフロンティアを築ける人を育成していきたいという思いが非常に強くあります。

小林:学校で大事にしている3つのポイントっていうのがあるんですけど、1つに多様性を掲げています。本当に色んな価値観とか、文化観とか、歴史観、それらが渦巻く中で、意思決定ができたり、新しいものを創造できるような人を育成していきたいということ。

2つ目に、問題設定能力って言ってます。問題解決能力ってよく聞く言葉だと思うんですけど、解決することも大事なんですが、やっぱり混沌とした世の中、あるいは混迷とした世の中、しかもものすごく早いスピードで変革していく世の中で、そもそも解かれるべき問題が何なのかということを、嗅ぎつけられる嗅覚を養うことが非常に大事なことになっていくという風に考えています。

3つ目、ここはもうこの場では釈迦に説法なんですけど、リスクテイキングと言っています。やっぱり新しいことを成し遂げるためには、失敗も問題も障壁もたくさんあると思うんです。でもそれを乗り越えて、失敗を越えていける強靭な精神力、あるいはむしろ楽観力っていうんですかね、それを養ってもらえるような学校になりたいと思っています。

小林:学校の詳細はここにつらつら書いていますけども、来年の9月に、9月全面入学ということでやっていきますが、ここで生徒さんの3割が日本の国内、7割は実は海外からの留学生を想定しています。文科省さんの認可は頂いているので、ここを卒業すると日本の高等学校卒業資格と同時に、国際バカロレアという、今世界75の国々の2,500の大学で通用する大学入学資格というものを得ていただくことができます。

ただこれを、本当に質を追求して、少人数で全寮制で、とやっていくと、やっぱりコストが掛かってくるんですね。ですので多様性と言った時に、必ずしも国籍が多いだけではダメだと思うので、経済的、あるいは社会的なバックグラウンドの多様性を担保するためにも、奨学金が非常に重要だと考えています。今は最低5人に1人の生徒さんに対しての奨学金を確保していますが、これを来年の開校までに5割に引き上げる、ということを目標に今、活動をしています。

メキシコで初めて知った貧困の現実

小林:なぜ私が、こんな無謀だと思えるプロジェクトに挑むことになったかということを、少しお話させていただきたいと思いますが、2つ原体験があります。1つ目は高校時代で、小中高1まで、ずっと日本の公立の学校に行ってたんですね。でも高校まで来て、受験戦争というものに対して非常に疑問を持ち始めて、なんか違うなと思い、高1で中退しました。

学校を辞めて、たまたま全額奨学金をいただけたので、1人で初めてカナダの全寮制の高校に留学するということをします。まったく英語ができなかったので、英語ができない者同士、メキシコ人の友達とすごく仲良くなって、メキシコに、高2、高3の夏休みの間に行くんですね。これが非常に大きな原体験になりました。

メキシコで友達の家に行ったら、この演台の半分ぐらいのスペースに家族が住んでいて、友達はトラックが通ると揺れるようなバラックに住んでいたんですね。私、びっくりして、しかも彼女のお兄さんもお姉さんも学校に行かず、自動車の整備工とかをやってました。

私はそれを見た時に、自分ってなんて恵まれてたんだろうって。学校に行けて当たり前、家があって当たり前って思ってきたことが、世界の多くの所では当たり前じゃないんだってことを痛烈に感じて、当たり前だって思ってるこのことを享受できたこの運は、きっと自分だけに使うために授かったのではないんじゃないか、という使命感を強く持ったのが17歳の夏でした。

そういった原体験があったので、外資系の金融とか、ネットベンチャーのあとにですね、30代になって大学院に行き直して、ユニセフの現場で教育に従事するという大きな舵取りをするわけですけれども。フィリピンに単身赴任で、本当に最貧困層のお子さんたちの教育のお手伝いをさせていただきました。これ自体は本当にやりがいがあって、17歳の私から見たらドリームジョブだったと思うんですね。

ゼロから始まった学校づくり

でも一方でフィリピンという国に初めて住んで、あまりの格差と渦巻く汚職にすごく無力さを感じ始めました。9千万人の人口の国において、国政のたびに90人、100人という人が暗殺されて、それ以上のもっと数えきれないような票が買収されていくんです。

そして相続税の最高税率が10%という国において、果たして貧困層教育だけやっていても何か変わるんだろうかと思った時に、社会の色々な立場でアクションを起こせる人、何かおかしいなと思ったら何かを出来る人、生み出せる人、そういう人の教育に携われないかなと思うようになりました。

そうして色々思い悩んでいた時に、たまたま帰国中に岩瀬君に会って、うだうだ言ってたんですね。そしたら谷家さんをご紹介いただいて、じゃあ、学校を作ればいいんじゃないかという風に思ってですね。

小林:また、これ運がいいんだか悪いんだか、帰ってきたのが2008年の8月、翌月にリーマンショックが起こって、もう本当に苦難の船出でしたね。2008、2009、2010年とほとんどお金もなく、ひたすら色んな人のところに行って、「学校作りたいんです」、「ふーん」って言われる日々みたいなのが続いたんです。でも、2010年の1回目のサマースクールをきっかけにたくさんの人にご支援をいただけるようになって、今こちらにも何名か本当にお世話になっている方がいらっしゃるんですけれども。

小林:ようやく今年の6月にですね、校舎等が全部竣工して、10月には学校法人になって、来年の9月に向けて、開校の準備が最終章を迎えています。

小林:先生方も世界中から、これ本当に私と校長で、世界中の学校を歩き、あるいはサマースクールで実際に教鞭を執っていただいて、選び抜いた先生方が集まりました。

小林:生徒さんについても、1回目のサマースクールは、実は30人の枠に対して、34人しか応募がなかったんですね。そこからお金も人もなかったので、毎年クチコミとメディアの方の応援だけで、今年4回目、35の国々から、これはちょっと古いデータですが、400名を超える方々のお申し込みをいただくようなプログラムまで成長しました。日本以外、アジア外からもたくさんの生徒さんに集まっていただいています。

日本の教育界にソーシャルインパクトを

小林:最後のスライドですけれども、やっぱり学校も企業と一緒で、学校ができて終わりじゃないんですよね。特に学校の場合、私が死んでも続いていくような、そして更にお約束した教育の質が持続できるような、あるいはずっと常に進化し続けていくような学校にするためには、どうすればいいのかという、次の第2フェーズに入ってきています。

1つ目は持続性ということで、ユナイテッド・ワールド・カレッジという、これは世界中に12校の高校を持つ連盟ですけれども、ここへの加盟が進んでおります。これは12校の学校を持っているだけではなくて、そのメンバーの学校に対して、生徒を募集して選抜をして送り込むということだけをやっている組織が、世界140ヵ国にあるんですね。なので、ここに加盟した瞬間に毎年世界140ヵ国から選ばれた生徒たちが送り込まれてくる、という非常に大きなメリットがあります。

ここの卒業生は、世界各国の名門校に送られていることで知られているんですけれども、ここに早ければ、今年の10月には加盟が決まるのではないかという風に思っております。2つ目、多様性という何度も繰り返しているキーワードですけれども、やはり決して安い学校ではないので、これがひと握りの富裕層の方のご子女のものになってはいけないということで、できるだけやる気があって能力があれば、門戸が開かれるような学校にしたいということで、奨学金の充実というのを続けております。

最後ですが、これは多分、ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)とか、そうでない企業も同じだと思うんですけど、ソーシャルインパクトをものすごく追求していきたいなと思って。たった150人前後のちっちゃな学校なんですけれども、この学校がこれからどうやって、日本の教育界に対してインパクトを持っていけるのかというところに、今少しずつ主軸を移し始めています。

スタートとしては、やはり日本の同じような問題意識を持った、でもどうやってやったらいいかわからない教育者の方がたくさんいらっしゃるのを感じます。毎年毎年、色んな名門の私学や国公立からたくさんの先生方がサマースクールにいらしてくださるんですけれども、こういう方々と一緒に、日本の教育をどうにか現場から、あるいは制度設計も含めて変えていくようなことができればなと思っています。ちょっと長くなりましたけれども、10分ということで、自己紹介とプロジェクトの紹介を含めてお話させていただきました。今日はよろしくお願いいたします。