ピンチをかわした経験がチャンスの際の辞書になる

大島永理乃氏(以下、大島):そこで、もう1つなんですけれども、奥田さんってピンチはチャンスっていうふうに思われてるんですよね。

奥田浩美氏(以下、奥田):そうですね。

大島:だけど、ふだん仕事をしていると、「ピンチがあったら、もうだめだよ」とかって思ってしまいがちなんですけれど、それはどうして、チャンスって。

奥田:チャンスって、後々、材料集められたって意味のチャンスもあるけれども、ピンチって、ある意味人と協力する瞬間としても、すごいチャンスなんですよね。さっき言ってた人が不幸なとき、結構好きじゃないですか。

なので、だからピンチっていうときに、すごくこれは、そもそも何をやろうとして、誰のためにやろうとしていて。

何が言いたかったのかが明確であれば、今までピンチじゃなければ誰も協力してくれなかったのに、ピンチだ、でもこれは誰かのためにやっている。これを成し遂げれば私は、こういうことがみんなとできるっていうのがあったら、ほかの仕事をしてる人まで協力してくれる。

でもそこはやっぱりさっき言った、ちゃんと自分がやることがまっとうでっていうことが大事なんですけど。ピンチはチャンスだっていうのは、そういう一面もあるし。

あとは別の章にも書いてるように、そもそも人生って、できるだけたくさんの辞書のページを持ってるほうが楽しいし、役に立つしっていうのが根底にあって、成功事例が3ページしかないような辞書を持つよりは、こうやったら失敗しました、こうやったら失敗しましたっていうのが、たくさんあれば次のときに役に立つから。

だから、どんだけのピンチをどうかわしてきたかっていうのは、いわゆる、その瞬間の、まさにチャンスの辞書になるから。

課題をシェアできる仲間をつくるべき

大島:そういう意味では、あれですね、奥田さん、わりとSNSとかでも書かれるんですよね。

奥田:書きます、書きます。だから何がピンチだっていうのは結構書くし、あと落ち込んでるときも書くし。

大島:そうなんですね。

奥田:落ち込んでるときは、愚痴を書くんじゃなくって課題を書く。

大島:課題。

奥田:そう、例えば私の一番今つらいことで言うと、昨日、例えば母親が熱を出して、でも父親の面倒見なきゃいけないみたいな、そういう介護のことがあったりすると、「何で、うちだけこんな離れたところで親の介護まで、私のところに来て」って、そういう愚痴を書くんじゃなくて、ほかの人はどうしてるんだろうと。

こういうときに見守りの体制とか、飛んでいけないときに、どういうことをやってるんだろうかみたいなことを発信すると、みんなが「実は私も介護に関わってて」とか、なかなか「書けないんだけど」みたいな人がガッと集まってくるので。

みんなも愚痴が言いたいんじゃなくて、もっと何か新しい解決方法があるんじゃないかっていうのは、何か愚痴と同じようで全然違う。だからそういう意味では落ち込んでるときに、落ち込んでいる材料を、これはほかの人も同じ思いをした人はいないのかなっていうふうに、いつも。

大島:なるほど。そうしたら情報が集まってきて。

奥田:情報が集まってくる。保育園に入れられませんて、うちは認可に結局入れられなかったんですけど。私自分の会社をやっていたから、そういう人ってお金もあるし、時間も自由に使えるしみたいな判断をされちゃうわけですよ。

私の時代はそうだったし、今も実際私の友達は自宅を会社にしていると、結局保育園に入れられずに、倉敷に転居っていう話なんですけど(笑)。

大島:そうなんですか。だいぶ飛びましたね。

奥田:でもそういうのが、例えば子どもを育てながら会社を経営するとかっていうことを、みんなどうやってるんだろうって、みんなで情報をシェアし合うと、ちょっと突拍子もないって聞こえるかもしれないんですが、私の友達は自分で会社内に保育所をつくって、一緒に、だから1人を雇う金額を4人ぐらいで割れば、やれるよねっていう発想で1人雇って。

でもそこの保育園がいらなくなったら解除みたいなこととか、「学童が大変だよね」って言ったら、みんなで情報をシェアし合って。

だから何も幸せなことだけをみんながシェアするんじゃなくて、課題をシェアし合う仲間みたいなのをつくるべきだって思ってて。友達ってそういう、みんなが思う友達っていう概念じゃなく、課題解決できる仲間みたいなのを友達って呼ぶ。

女の人生は女友達で変わる

奥田:今日の午前中に日経WOMANさんの取材を受けてて、本当は多くはしゃべれないんですけど、1点だけ自分でしゃべりながら膝を打った話があって(笑)。

それは「奥田さんって、友達って、どういう感じなんですか?」って言われたときに、「私30いくつまで友達いらないって思ってました」みたいな、これ話すと長いのでそこは置いといて。

そのときに言ったのが、皆さん自分の彼氏を探すっていうときには、いろんな条件とか、自分にここがあって、あるいはこの価値感は譲れないとか、ここは共通したほうがいいよねっていうふうに、絶対的な軸を持って彼とか選びますよね、彼女も。

でもなぜか女性だったら女友達とかって、何か同じ枠にいた人からしか選ばないじゃないですか。同じクラス、同じマンション、同じ学校の子どもの親とか。そこでしかつながらないものとかって思ってるけど、女性にとって女性の友達って、かなり実を言うと、特に働いてたりすると、自分の人生に影響を及ぼすものだと私は思うんですよ。

だったら女友達だって能動的に選ぶっていう頭を持って動いてみたら、ずいぶんと人生が変わるよねって。

なので私はいつも自分がやってるサロンとかは、何となく出会うっていうよりは、このテーマで集まってきた人っていうので毎回テーマごとに集まる人が変わるから。

だからみんな「何で奥田さんのサロンに来ると、今までと違う友達ができるんだろう」って不思議がりますけど、私の場合はそこにテーマを与えてるから、テーマに沿って自分が解決したい課題がある場所に集まってきてるので、当然感覚も合うっていう。

女同士の友達ってみんな友達を同じ会社とか、同じサークルとかの与えられた枠の中で選ぶ。でも男の人の彼氏を選ぶときって、絶対みんなそこを越えて狩りにいくじゃないですか(笑)。

大島:狩り……(笑)。

奥田:狩りじゃないか(笑)。だからそれぐらい同性の友達だって、ちゃんと自分の価値観を持って選び、選ばれるっていうことを1回試してみるといいんじゃないかなっていうのが、自分の実例でも思いますね。

書籍名にまつわるエピソード

奥田:多分、今私が友達だって思ってる人がいるんですけど、本も出してる岡島悦子っていう人ですけど、彼女とかと、どう考えても小学校時代に友達だったとは思えないんですよ(笑)。絶対、違ったと思うの。

でも今は友達なのは、やっぱり2人ともそれぞれスタートアップの世界で働いてきて、そこの中で培われた価値感が今、合致して。あとさらに次世代に私たちが、どんな貢献ができるかみたいなことを話せるのって、それはやっぱり自分の背景の価値観と相手の価値感が合ってる人を今探したからいるんだろうなっていうふうに思います。

大島:そうですね。ていうことをSNSでも発信をしているから不思議とつながっていくっていうところですよね。

奥田:はい。

大島:このタイトルなんですけど、ちょっとタイトルについての話をしましょうかね。

奥田:もう本当に大島自慢だからね、そこね(笑)。

大島:違います。そうじゃなくて、そういうわけじゃなくて。見切り発車っていう言葉を、なぜ選ばれたのかっていう。

奥田:そうそうそう。見切り発車に関しては、私もともとは、ここにいる方、3分の1ぐらいご存じかもしれないんですが、リーンスタートアップっていうスタートアップの中で、まずは小さなプロダクトをつくって、それを世の中に説いてっていうか出して、みんなから意見をもらいながら、つくり上げていくっていうような仕事のしかたの言い方なんですけど。

「リーンスタートアップっていうのを日本語に置き換えたら何て言うんだろう」って思ったときに、ないんですよね。でもないってことは、どういう意味かっていうと、そもそもそんな誰とも合意が取れてないようなことで動き始めるっていうこと自体が日本ではNGとされていて。

てことは「NGとされている言葉って何だろう」って思ったら見切り発車だったって。

大島:はい。NGワードなんですね、これはね(笑)。

奥田:そう。NGワードで、2人で、結構大島さん押しましたよね、見切り発車がいいって。

大島:はい。押しましたね。

奥田:押して、私に20万字ぐらい書かせた後に、「ごめんなさい奥田さん、会社で見切り発車って言葉、NGになっちゃって」って言われて(笑)。

大島:まさに見切り発車でしたね。

奥田:そうそうそう(笑)。

タイトル案がNGとなり対案を40個出した

奥田:見切り発車もいいとこだろうみたいな、っていう状況に、入稿1日前ですよね、もう表紙つくって出しますっていう1日前まで「だめ」って言われて、「どうしよう」って言って、40個ぐらい考えたんですよ。半日ぐらいかけて。その夜まで。

大島:そうですね。

奥田:人生を何とかする何とかの法則とか、何とかの勇気とか、いっぱい出すだけ出して。だってもう半日しかないから、付け焼刃だから、とりあえず(笑)。

大島:発狂しますよね、ほかの著者だったらね。

奥田:でも私は、「とにかく見切り発車っていうタイトルしかないんです」って言うこと自体があまり意味を持たないことを自分の社会経験でわかっていて。

つまり代案も示さないのに、「いや」って言うこと自体が、私は人間としてというか社会人として、いやなんだったら代案も考えて考えて、「これしかないんです」っていうことで仕事をしてきたので、もし「上がだめなんです」っていうことを言われたら、「ええ、やだ、やだ」って言うのは、やっぱり幼稚園児だと思うんですよ。

大島:はい。おっしゃるとおり。

奥田:幼稚園児じゃなく、じゃあそこはなぜだめなのか。だったらこのタイトルだったらいいのか、こうだったらいいのか、ああだったらいいのかを半日続けたら、相手が「うーん、やっぱり違うね、違うね」ってなって、「よくわかんないけど、そこまでピンとこないんだったら、これで行きましょうか」っていうのが、まさにタイトルの動きでしたよね。

大島:奥田さんだから見えていらっしゃったということですよね、そういうことが。

奥田:いざとなったら私が次々代案を出していく以上、相手にも代案を出す義務があるんだから。

大島:義務。

奥田:その攻防戦ですよね。

大島:攻防戦。まさに冒険っていう感じですね。

奥田:そうそう、でもお互い何か深夜に出してましたよね。

大島:そうですね。でも、とても楽しかったです(笑)。

奥田:あなたは楽しかったかもしれないけど(笑)。それを出してたら、いつの間にか大島さん自身が「やっぱりここまでピンと来る言葉が、代案が、出しても出しても出しても出しても、ないってことは」って言って、多分上に、もう「いいです! これにするんです!」って最後は言った気がするんだけど(笑)。

大島:若干違うけど、そういうことにしておきます(笑)。という不思議な、不思議じゃないですね、しっかりとした思いがあります。

奥田:書店さんにも「売れない」って言われたんですよね。

大島:そうです、そうです。

「前例をつくるために生きている」

奥田:それでも食いついてたから彼女は、「見切り発車で行こう」って。それで、知り合いのわりと仲がよさそうな書店さんの人に10件ぐらい、この本のタイトル持って、「これ置いたら売れますかね」って言ったら、10件とも「売れない」って言われて(笑)。

大島:そうですね。

奥田:言われたんでしょう。

大島:そうですね、そのうち1店は、あまり親しくないところだったので一蹴されましてね。「いや、無理でしょうね」って。

奥田:そうなんだ(笑)。

大島:でも、その冷たさすら楽しく思えるようになったのは、この本のおかげっていう(笑)。

奥田:そうそう、私でも前例がないってことは、やるべきことじゃないんじゃなくて、私は前例をつくるために生きてるっていうのが、かっこいいことだなと思ってる人で(笑)。

大島:そうですね、人生すべて……。

奥田:そう、人生すべてブルーオーシャンっていうところに行こうと思ってて。でもそれで、うまくいかないことも当然あるんですけど、うまくいかないことだらけですけど、うまくいかなかったことがうまくいったことの成功体験というのが、もうなんか、たまらない(笑)。

大島:だから、いろいろ失敗重ねて売るから、皆さんが応援してくださるという。

奥田:そうですね、

制作協力:VoXT