イサキは別名「鍛冶屋殺し」

小林史明氏(以下、小林):季節と場所によって全然捕れるものが違うっていうのは、日本の水産物のいいところですね。

さかなクン:そうですね。これがまた、本当に日本ならではの魅力ではないでギョざいましょうか。やっぱりその土地ならではのお魚ちゃんがいて、海もあれば川もあり、池もあれば湖もあり、本当にすばらしいですね。お魚好きにはたまらない。そうじゃない皆さまにとっても、やっぱりうまいお魚が食べれる。

小林:見てる方、魚、食べたくなってきたんじゃないかなと思うんですけど。

さかなクン:お魚はいいですよね。

小林:ギョ(5)月、6月のおいしい魚。

さかなクン:やっぱりイサキですね。

小林:イサキ。

さかなクン:イサキは梅雨時にかけてが一番おいしいと言われてまして、梅雨時から初夏にかけて、産卵に備えてイサキちゃんは大量のプランクトンや小魚を食べて、ものすギョく太って脂が乗ります。

特に梅雨の時期に捕れたイサキは「梅雨イサキ」と呼ばれて、もうタイにも負けないぐらい、マダイをしのぐぐらいにおいしくなっちゃいます。甘みが強くて脂が乗って、お刺身を口の中に入れた瞬間、ジュワー! ワー!

小林:なっちゃいます。

さかなクン:「ほっぺ落ちそうだ、これは!」と思って……塩焼きでいただいた瞬間なんかジュワーって、もううまみの生命力が体中に巡って「おおー! 元気がみなぎってきた!」って。

小林:調理法は、刺身か塩焼きでいいんですか?

さかなクン:そうです。ただ気をつけなければいけないのは、イサキは骨が強い魚ですので、勢いよく食べた鍛冶屋さんが、食べてるうちに骨が喉につっかかって大変なことになったということで「鍛冶屋殺し」っていう別名もあるんですね。

その説のもう1つは、骨が強くてトゲもあるので刃こぼれしやすく、職人さんが(包丁を)いくらつくっても、たくさんオーダーがきて大変な目にあっちゃうということで「鍛冶屋殺し」になったという2つの説があるんですけど。

それだけ骨が強いですので、召し上がられるときには、くれぐれも骨に引っかからないように気をつけていただきたいと思います。

小林:ということでございます。

NHKの番組で料理コーナーを担当

さかなクン:この季節はアジもおいしいですし、マコガレイがまたおいしいんですね。特に江戸前で捕れたマコガレイは、初夏から夏にかけてべらぼうにうまいです。

あとコチですね、マゴチ。コチは白身の高級魚なんですけど、薄造りのお刺身にするとフグのお刺身のように、お皿の模様まで透けて見えて、夏にいただくことのできないトラフグに代わって、夏のフグとも称賛されて大変に喜ばれます。

小林:料理番組とかやらないんですか?

さかなクン:そうですね……ちょっと料理の腕を上げなければ。でも今、NHKの「シブギョ(5)時」という番組で、「さかなクンの今日のギョ馳走」というコーナーをいただいてます。

小林:いいですね。

さかなクン:お料理つくるんですよ。

魚食文化の普及に必要なこと

小林:「魚食文化の普及、どうすればいいんですかね」って相談しようと思ったんですけれども、さかなクンが番組やったら、みんな魚食べたくなるんじゃないかなと思いましたけど。

さかなクン:ありがとうギョざいます。でもギョばやし先生、日本には4,200種という魚が知られてるんですね。

小林:4,200。

さかなクン:ところが、私たちがいただいてる魚種というのは、そのうちのどのぐらいだと思いますか?

小林:30ぐらいですか?

さかなクン:ズバリ正解です! だいたい30〜40種! 先生、さすがですね!

小林:やりましたね。

さかなクン:ええ。

小林:ここでギョギョっと言えない勇気の無さが出ちゃいましたけどね(笑)。

さかなクン:じゃあ私が。ギョギョ! だいたい4,000種あまりもいるお魚なのに、そのうちの今、先生がおっしゃってくださった30〜40種ぐらいなんですね。だからそれ以外のお魚というのは、せっかく捕れても流通しなかったり、全く活用されないようなお魚も多いんですね。もったいない。

小林:もったいないですよね。

さかなクン:だけどそういったお魚も、おいしくいただくことができるんですね。

小林:流通したら、ちゃんと漁業者の方の所得になるわけですね。

さかなクン:そうです。食料自給率もワーッ! とうなぎのぼりでギョざいますね。

小林:はい。

さかなクン:それに日本にも、こんなにいろんな種類のお魚がいるんだということにも気づけますし、絶対いい循環が生まれてくると思うんですね。

小林:「なんで普及しないんだろうね」っていうコメントがありましたが。

さかなクン:やっぱり私たちはアジ、サバ、サーモンというと、安心していただけるわけなんです。

でもウツボだ、オオカミウオだ、アブラボウズだ、なんていうと、「何だ、それは?」「水族館では見たことあるけど、食べられるの?」ってなっちゃうわけです。

だけど、そういったウツボもオオカミウオも、エイもサメも工夫していただくと、むちゃくちゃおいしいんです! 

自分の地元に、絶対自慢の水産物があると思うんですね。そして地産地消、地元のすばらしさを広げていただけたらうれしいなと思います。

小林:ぜひ地元のおいしい魚を探してみてください。

さかなクン:ありがたいでギョざいます。

南国・沖縄県の魚について

小林:沖縄の方々は結構上手に食べてるっていう。

さかなクン:そうなんです。沖縄県の漁師さんのお船に乗せていただくと、捕れたお魚をその場で船の上でお刺身にしてくださって、いただくんですね。これがまたおいしくて。

小林:南国のカラフルな魚、捕れますよね。

さかなクン:沖縄県は亜熱帯のお魚がたくさん暮らしてますので、チョウチョウウオとかツバメウオとかベラの仲間、あとはイラブチャーと呼ばれるブダイの仲間たち。みんな赤や黄色や青や紫の原色なんですね。

そういったお魚は一見、「ギョギョー!こんなにカラフルで食べられるのかな?」なんて思うんですが、漁師さんが船の上で捕れたてのお魚たちをお刺身にして、それでギョ馳走になるんですが、これがまたおいしんです!

沖縄のお魚ってカラフルだし、味がみんな淡白で、脂があんまり乗ってないっていう方も多くて、確かに淡白なお魚が多いんですけど、その淡白ななかに、噛みしめるほどに醸し出される甘みというんでしょうか、風味が豊かなんですね。

なかにはミヤコテングハギとか、テングハギの仲間のような脂が非常に乗ったお魚、また沖縄県の県魚、グルクンと呼ばれるタカサゴの仲間たち、そういったお魚は季節によっては脂も乗っておいしいんです。

小林:おなかが減ってきましたね、これね。

さかなクン:沖縄県はマグロがいっぱい捕れるんです。キハダとか、本マグロと呼ばれるクロマグロもよく捕れます。ですので、一大マグロ基地でもあるわけなんですね。

小林:なるほど。

さかなクン:やっぱり北は北海道、南は沖縄県、そして日本海に太平洋、いろんなお魚が捕れるこの日本というのは本当に贅沢な国だなと思いますね。

小林:いい国ですね。

さかなクン:はい。

小林:ギョらんの皆さまも、おなかが減ってきたんじゃないかと思いますが。

さかなクン:ギョらん。

小林:はい。

さかなクン:イクラかと思いました。

小林:イクラじゃない(笑)。卵じゃなくて。

さかなクン:カズノコかと思いましたけど。

小林:カズノコじゃなくてですね。

さかなクン:そっちのギョらん(魚卵)じゃないですね。

水温の上昇による漁業問題

小林:ちょっとだけ真面目な話にふれるんですけど。諸説あるので、どう考えるといいんだろうなっていうのをさかなクンに教えてほしいんですけれども。

さかなクン:私のわかる範囲で。

小林:温暖化で潮流が変わってるんじゃないかとか。

さかなクン:そうですよね。

小林:水温が上がって、魚の捕れる位置が変わってるんじゃないかみたいな話があるんですけど。

さかなクン:そうでギョざいますね。

小林:どう考えたら、よろしいんでギョざいますか?

さかなクン:さすがギョばやし先生! 私も、そのあたりは大変懸念しております。近年は、北海道の海でサケを捕る漁師さんの網にサケではなくブリが大量に入ったり、ときにはマンボウだらけだったり、シイラがこんなに入るなんてシイラ(知ら)なかったとか……これ、真面目なお話なんですよ。

本当に北海道で南のお魚がたくさん捕れるとか、私の地元、千葉の館山でも漁師さんの船に乗せていただくと、南の海からやってきた大量のハリセンボンとか、ツバメコノシロとか、ギマとか、今まで見慣れなかった南のお魚が信じられないぐらいの量でやってくるようになってきました。

その年によってですが、暖かい流れ、黒潮に乗ってやってくるっていうことが1つあるんですが、しかし、安定して水温が上昇して、定着するお魚もなかにはいるんですね。

例えば、私の地元、千葉の館山で言いますと、ギマというカワハギに近い仲間で、頭のトゲとおなかのトゲ、3つの巨大なトゲのある魚がいます。

今まではそんなに捕れなかったのが、何百匹、何千匹、もうトンクラスで入ってきたりして、漁師さんの網にギマがいっぱい入ってしまうと、頭のトゲとおなかの2本のトゲ、3つのトゲでイカやブリやタイの体に刺さって穴が開いちゃったりするんですよ。

そういった深刻な漁業被害になることもありますし、そういったお魚がの卵から生まれた赤ちゃんが定着して、東京湾内でどんどんふえてきてるっていう事例もあるんですね。

お魚のみならず、海藻とかサンゴも、もともとその海域にはいなかったものが、北上して定着してるっていうケースも知られてます。ここ近年、特に多いみたいなんです。

その年によっての海流の変化っていうのもあるんですが、今、言えるのは、定着してる生き物がだんだんふえてきてるという。

小林:ということは、やっぱり(水温が)ちょっとずつ上がってきてる。

さかなクン:水温が上がってきてるという。北海道の漁師さんは、昆布がだんだん育たなくなってきてしまって、逆に南のほうの海藻が北海道の海で繁茂してしまってるということも、深刻な問題の1つとされてるんですね。これはどうしていけばいいのかなというとこですよね。

小林:そうですよね。

さかなクン:やっぱり私たちのできることというと、なるべく温排水を流さないとか、なるべく無駄なエネルギーを使わないという、これを一人ひとりが意識して実行して、それがゆくゆくは大きな力になっていくと思うんですが。

小林:魚を守るためにも、漁場を守るためにも、ぜひ皆さんにご協力いただきたいと。

さかなクン:はい、よろしくお願いいたします。

制作協力:VoXT