「東芝の不適切会計問題」について

堀潤氏(以下、堀):このコーナーは専門分野に長けた論客の皆様に独自の視点で今、知るべきニュースを角度持って思う存分お話いただきます。

脊山麻理子(以下、脊山):改めてゲストをご紹介します。元財務官僚の弁護士、山口真由さんです。お願いします。

山口真由氏(以下、山口):よろしくお願いします。

:さっき、Twitterで「ちょっと、東芝のことやらないんですか!」って。「ほら、やらないよぅ!」って、皆さん言ってましたけど。やります!

:それでは、真由さんお願いします。

山口:はい。

(テーマ「東芝、過大計上1700億円」について)

脊山:東芝の不適切な会計問題で、過去5年で営業利益を過大計上していた金額が、最終的に計1700億円以上に膨らむことが分かりました。

:さて。それこそ「堀江さんの事件は強制捜査を受けたけど、なぜこれは強制捜査を受けないんだ?」とか。そういうコメントもいろいろ送られてきてますね。

過大計上が見つかったのは、自動車のETCの受注をはじめとしたインフラ事業を中心に548億円。半導体やパソコン事業などでも合わせて1000億円以上の利益がかさ上げされていたと。「よろしく頼むよ」と言われたと。

今回の問題を受けて、田中久雄社長が引責辞任する見通しになった他、前社長の佐々木則夫副会長の辞任も含め、9月の臨時株主総会で経営体制を刷新するということなりました。

新聞各紙の見出し「不適切会計」に感じる違和感

:これは、会社側が辞任する対応を取ったということは、「こういうことがあったということを認めました」ということですよね。

山口:そもそも、これはずっと報道で「不適切会計」って言われて、「損失計上先送り」って。「これを、粉飾と言うんです」っていう話なんですよね。

:そうですよねぇ……。

山口:これはどう見ても粉飾なんです。

:これ、なんで、新聞各社の見出しも「不適切会計」なんですか? 「東芝、粉飾」って出てもいい話でしょ?

山口:そうなんです。「不適切に会計処理したのを粉飾と言います」っていうのが、私たちの常識なので、すごく違和感があるというのと。

:朝日新聞でしたかね。最初に一面で大きく取り上げて。「粉飾」って書いたのはね。

佐々木副会長、目標達成できない部署に「工夫しろ」と指示

山口:あともう1つは、これは、「2月に外部から証券取引等監視委員会の捜査が入った」っていう、外部調査が発端となって、そこから特別調査委員会ができて、第三者委員会ができて、どんどんどんどん損失が500億、900億、1700億っていうふうに拡大しているということと。

東芝はカンパニー制を採用しているんけれども、独立採算性のカンパニーで全て同じような不正な会計処理があるということは、かなりトップから組織ぐるみでの会計処理が示唆されていたということは、比較的明らかな事例だと思うんですよね。会社ぐるみでそういう体制にあったと。

報道等を見ると、もともとの目標設定がかなり無理なもので、それに対してトップの佐々木副会長なんかが「目標を達成するために工夫しろ」と。「工夫しろ」っていうふうに言うと。

:工夫ねぇ……。

山口:そうですよね。これって、過去の判例において「工夫しろ」と言った言葉が指示だと認めた判例もあるくらいですから。これは、かなりトップからの指示があったというのは間違いないですよね。

不正な会計処理は一度では終わらない

山口:あとは、不正な会計処理っていうのは、絶対に1期では終わらないんですよ。これは、多く行われたのが、損失を次の期に繰り延べ、次の期に繰り延べ。そしたら、その期に損失がボンと出ちゃうので、また繰り延べざるを得ないっていうことで。辻褄を合わせるために、常に常に会計処理が続いていくんですね。

これは、組織として問題があったので、どういう仕組みを作らないきゃいけないかっていうガバナンス体制の問題になってくると思うんですね。

:ちなみに、今、Twitterで、「もちづき」さん。「山口さん。粉飾決済と不適切会計の違いを教えてください。」これは、基本的には、同じ。

山口:法律上の区別はありませんね。会計を処理して、不正な会計で、そして、決算で不当な表示をするというのは、粉飾、虚偽申告というふうになりますので。

:ガバナンスね。

山口:ガバナンスが問題になってくると思うんですけれども。

ガバナンスにおける社外取締役の役割

山口:まず、重要なのはやっぱり、今後は、株主によるガバナンスだと思うんですよね。株主の代表っていうのは社外役員なんですよ。社外役員っていうのが、役割分担をしなきゃいけなくて。

組織の経営者っていうのは、経営目標をやって、ビジネスをやって、営業をやっていく。これが、アクセルですよね。

それに対して、社外役員っていうのは、「ビジネス判断に対して、とやかくは言いません」と。「お任せします」と。ただ、1つだけ。「違法なことがあった時だけは、意見を言わせてほしい」っていう役割分担をきちんとして。

こちら側は違法性だけを監査すると。経営者は経営者でやっていくと。ブレーキとアクセルをちゃんと使わないと、組織としてこういう形になってしまうから。だからこそ、社外取締役っていうのは、今後どんどんどんどん重要になってくると思うんですよね。

東芝問題に対するメディアの姿勢について

山口:それに対して、今の日本の社会だと、やっぱり「大所高所からご意見を」とかっていう形で。東芝では、美しい形とは思うんですけど、学者の先生方、元官僚の方々、決して経営の専門ではない方々が入っていて、かつ、1カ月に1回だけ行って、なかなかそこまで踏み込んだことはできないっていう現状だったと思うんですね。

そういう意味では、株主を誰が代表するのかっていうことをきちんと。「社外取締役は決して会社から任命されるものではなくて、株主の代表なんです」ということと、あと、経営を専門的に見れる「プロ社外取締役」みたいなものを育成していくことが、今後重要になってくるのかなと。

:これ。東芝の会社なんですけどね。ベンチャーは「粉飾だ」って言われて、上場廃止になっていくようなことになって「大手の会社は多分影響が大き過ぎるから」っていうことで、非常に慎重な対応を、当局もおそらくメディアもしている。これは、どうなんでしょうね? 公平性の観点から考えても。

東芝の企業統治体制は先進的だと言われていた

山口:私は、この「不適切会計」っていう言い方には、そもそも違和感がありますし、「損失計上先送り」っていうのにも。見出しとかで「損失計上先送りしました」って。「それをもって粉飾と言います」という判断をするしかないですし。

そして、「責任は誰にあるか」「誰が最終的に損害を受けるか」っていうと、株主じゃないですか。会社が大きくなればなるほど、株主の受ける損害って広く大きく拡大していくわけじゃないですか。

これを、今日本のガバナンスっていうのは、黎明期にあると思うんですよね。株主によるガバナンスが起こってくる時期だから、これをきちんと正当に報道して。これによって、他山の石にして、「みんなガバナンスを大事にしましょう」っていう。

東芝の問題って指名委員会っていうのを作っていて、指名委員会が指名するっていうのが、すごく先進的な仕組みだって言われていたんですけど。

実際には人事権を持った人がいて、みんながそっちのほうを見ると。「誰が株主を代表するのか?」っていうことが本当に大事だと思います。

:そうですね。ありがとうございました。