なぜアメリカではニュースアプリが流行らないのか

佐々木俊尚氏(以下、佐々木):いろいろ質問が飛んで申し訳ないんですが、アメリカには、なぜニュースアプリがないんでしょうかね? それについてどう思いますか? 

大熊将八氏(以下、大熊):そうですね。そこ、おもしろいなと思うんですけど。最初の習慣なのかなと思いまして。日本はヤフーがトップですけど、最初にヤフーが浸透して、いろんなメディアがある中で、まとめてくれるヤフーっていうものの存在感が高いよねっていうのがありまして。それで最初から成立してたのかなと思っています。

やっぱり、他のキュレーションメディアっていうのは、それを代替するとか、スマホ時代で、そのゲームをひっくり返すっていうふうに動いてると思うんですけど。アメリカだとヤフーも高いですけど、それよりかはそういう流れが起きなかったからっていうのがあるのかなと思いますけれども。

佐々木:これから起きる可能性があるかもしれない、ひょっとしたら。

大熊:そうですよね。ただ、SmartNewsさんとかも、ニューヨークとか、東でも西でも、頑張られていると。

日本のメディアに優秀なエンジニアが集まらない理由

佐々木:一方で、唯一のキュレーションアプリだったCircaとかが、つぶれちゃったりとか。すごい日本とアメリカで、流れている方向が違うなという。

1つの分析としては、確かにあくまでタイミングっていうか、運、不運みたいなのも結構大きいので、偶然普及しませんでしたって、ただそれだけの話かもしれないし。一方で、日本人ってやっぱり何かトータル的なものの入り口に、そういう何かまとめて見られる場所があるのが好きな人が多いのかなみたいな説も、あるにはあるのね。

大熊:そうですね。あとは、単体のメディアさんは、結構頑張ってるのかなというのがありまして。さっき言ったNowThisの人がエンジニアなんですけど、結構仲良くなって何回もご飯行ったりして聞いたのは、エンジニア界隈からして、ニューヨーク・タイムズさんとかで働くのが結構おいしいと。

要はお金をたくさんもらえるし、好きなことをやらせてくれると。よくわかってない上司が、適当にディレクションして、それを無理やり頑張るみたいなのじゃなくて、もう好きなようにやっていいっていうのをこういった大きなメディアさんが任してくれるっていうところで、いい開発環境があるから結構いい人がそこに入っていると。

佐々木:それで、いいアプリも出てくるっていう。

大熊:ていうところも、あるのかなと思いますね。

佐々木:日本だとわけのわからん文系の上司が上にいて、わけのわからないことを毎回言うんだけど、それで必死になってつくってみたいなことやってるから、給料も環境も仕事も楽しくないみたいな話がありますが、それはないであろうと。

大熊:それは大きいのかなと思いますね。

佐々木:スマニューは、今アメリカ進出を一生懸命やっていて、ウォール・ストリート・ジャーナルにいた人が参画するなど激しい動きをしてるので、ひょっとしたらガンとアメリカでいく可能性もあるかなという。

大熊:そうですね。

大熊氏が一番注目する米メディアとは

佐々木:で、新興メディアの話に行きたいんですけど。今、例えばバズフィードとか、QUARTZとか、さっきのNowThisとか、いろいろあるんですけど、大熊君がここが一番いけそうだって感じたのは、どこだったんですか? 

大熊:メディアとして、いけそうだなって思ったところですか? いけそうだな、おもしろいなと思ったのは、やっぱりさっきのNowThisっていうところですかね。その新しい概念ですけど、分散型であると。

ソーシャルに合わせていくっていうのが一番できるだろうなと思ったのは、NowThisですね。あと、もう1個いいですかね。Mashableっていうところがありまして。

佐々木:1日100本ぐらい、記事を流すっていう。

大熊:そうですね。大量に流すんで。もう100人ぐらい社員も雇っていると、もっとかな。ここの姿勢がすごくいいなと思いまして。

というのは、人数も結構多いんですけど、ソーシャルの担当者とかも、Twitter専門ですとか、Facebook専門ですっていうぐらい、細分化されているんですけど。新しいものが出てきたら、とりあえず何でもやるっていうような姿勢で。

向こうで僕が行ったときに流行ってたのは、ペリスコープっていって、ツイキャスみたいな感じなんですけど、時間無制限でスマホで実況がずっとできますよと。それをジャーナリズムで活用できるのかどうか、いやいや動画撮れるけど著作権に触れるんじゃないか、どうかみたいな話で。

結構向こうで使うかどうかみたいな議論が分かれてるときに、とりあえず入っていってやりましたと。

そこのCEOの講演会とかでも話を聞いたんですけど、とりあえず新しいのが出たときに、マネタイズとかが見えてなくても、やったほうがいいと。

そのプラットフォームが、結局こけるかもしれないけれどいろいろとプラットフォームがある中で、どこかこけるかもしれないけど最初から入っていって、いい位置占めれば丸もうけだから、マネタイズがたとえ見えてなくても、とりあえず新しいものには結構全力で突っ込むと言ってて。

そのペリスコープっていう実況アプリって、僕が行ったときで、できて2カ月とかだったんですけど、そこのMashableのオフィスに行くと、あの子がペリスコープ担当だよみたいな感じで、もうその担当が雇われてるというスピード感っていうのは、すごいなと思いました。

アメリカのメディアは1カ月ごとに状況が変わる

佐々木:Twitter連動の実況動画アプリって、日本はツイキャスが有名ですが、アメリカは最初に出たのはMeerKatですね。MeerKatが出てきて、あれは去年のSXSWにオースティンでやっている、あれですごい話題になって、みんながMeerKat、MeerKatって言い出して。

そのあとにペリスコープが出てきて、別にどこが違うのかわかんないと思ってたら、なんとペリスコープをTwitterが買収したので、一気にそっちが本命になってしまって、MeerKatが怪しいみたいになって。

何か見てると、アメリカのほうがアメリカの次期大統領戦、基本的にインターネットのニュースで見ているんですけれど大体1カ月たつと、ころっといろんな状況が変わってくるみたいな。

大熊:そうですね。毎月変わるなと思いますね。

佐々木:だから、本当に1週間ニュースを見てないと、知らないものが出てきていたりとか。知らないバズワードがいつのまにか流行っていたりとか、何なんだ、それ! みたいな感じで、しょっちゅうあるので。非常に、追いかけていくのは忙しいですけど。でも一方で、こんなに動きがあるっていうのも、おもしろいね。

大熊:そうですね。いろいろなところからチャンスもあれば、ピンチもあるっていう感じで。

佐々木:Mashableは、新興メディアっていうよりも、結構昔からやってる感じがするんですけど。

大熊:10年ぐらいですかね。

佐々木:10年ぐらいやっているよね。動きが速いのって何なんですかね。

大熊:やっぱり、CEOのキャラかなと思いまして。ピート・カッシュモアさんっていう髭のイケメンみたいな人なんですけど、すごいイケイケで。

講演の最中とかも、当時はペリスコープと似たアプリのMeerKatというのも流行っていて、講演の途中でMeerKat取り出して講演を実況しはじめて、「こういうのがいいんだ」みたいなことを言ってた。そういう前のめりな新しいもの好きさが、社員みんなに行き渡ってるのかなと思って。

僕の取材した別な方とかも、すごく新しいもの好きだというのが、そこは共通のカルチャーとしてあるので。やっぱり、伝えてるテーマ自体が新しいというか、若い人向けのコンテンツが多いからっていうのもあると思いますけれども、というのが大きいかなと。

佐々木:なるほど。

アメリカは人材の流れがうまくできている

佐々木:Mashableっていうのは、ニューヨーク、西海岸? 

大熊:ベースは西なんですけど、ニューヨークのオフィスも、もう50人ぐらいいるような、フロアー1つ分まるまるぐらいの。

佐々木:そうなんだ。それで、東と西で、何を分けてるの。

大熊:そうですね。直接、取材とかする舞台は、東にいるっていう。東で何かを追いたいときは、東にいるっていう感じですかね。

佐々木:なんとなくイメージ的に、西海岸のシリコンバレーテクノロジー企業とか、VCのアンドリューセン・ホロヴィッツとか。東海岸はメディアっていう感じがする、何かざくっとした枠とかがありますよね。だから、向こうで動画に関しては、ハリウッドがあるのでの、西みたいな。

確か、バズフィードはニューヨークの会社なんだけど、動画チームを立ち上げたときには、動画チームだけロサンゼルスに置いたのね。

大熊:そうですね。ありましたね、スタジオが。撮影スタジオとか。

佐々木:何かアメリカでは、東海岸と西海岸、ニューヨークとシリコンバレーが、うまく絡み合いながら成長し続けてる感じってのは、ある。

大熊:そうですね。人も行き来してるのかなっていうのは、思いましたね。 

ボックスメディアは編集者よりエンジニアが前に立つ

佐々木:新興メディアとかで、技術者の扱いとかっていうのは、どんな感じなんですか?  やっぱり、技術者が多い、技術者中心の会社っていうイメージが強いのかしら。

大熊:そうですね。例えば、バズフィードとかボックスメディアとか。特にボックスメディアっていう、7つか8つぐらいメディアを持っていてトータルで、月間で1.6億人ぐらいですかね、3分の2ぐらいユーザーを抱えてる、すごいところがあるんですけども。

そこを取材したら、半分ぐらいがエンジニアで、編集者がディレクションして、エンジニアがどうこうするんじゃなくて、エンジニアから始まると。で、それを徹底しているっていうようなカルチャーで。メディア企業というよりは、テクノロジー企業っていう面が強いかなと。

佐々木:技術の最先端みたいなものを技術者は十分知っているので、それをどこまでできるかみたいなことをまず試してみると。その試してみるっていう枠組みに乗っかって、コンテンツを投げ込もうみたいな。だから、コンテンツが後ろからついてくるみたいな感じのイメージですか? 

大熊:そうですね。ボックスとかハフィントンポストとか、とにかく数を稼げているようなところとは、たまに出すんですけど。数を稼げている、結果として稼げてるところは、エンジニアの力が強いっていう、ある種の共通点があるのかなとは思います。

佐々木:なるほどね。

松浦弥太郎氏が手がける新メディア「くらしのきほん」について

佐々木:最近だと、日本の事例ですけど、今度ここにも来ていただく松浦弥太郎さん、『暮しの手帖』からクックパッドに移って、クックパッドの精鋭技術者何人かが、ボランティアっていうことはないんだけども、一応その精鋭チームで、その「くらしのきほん」っていうメディアのチームをつくったんですね。

松浦さんと一緒にやっていた『暮しの手帖』から来た女性編集者に、デザイナー1人に、多分4人ぐらいの技術者チームと。技術者チームは、やっぱり圧倒的にすごくて、何かもう自分のアイデアよりも、技術者のアイデアのほうが速いみたいな話をしてたね。

最初、そのメディアのタイトルとかも、何かやっぱりWebだからっていうんで、ライフルパッドとかいろいろ名前を考えていたんですね。そのときに技術者が、松浦さん、これ何やりたいんですかと。

これは、暮らしの基本みたいのをきちんとわかる、そういうメディアにしたいんだと熱っぽく語ったら、だったらそれで「くらしのきほん」っていう名前でいいじゃないですかっていうふうに技術者が言ってくれて、それで名前がバツッと決まったわけですね。

だからやっぱり、今は技術者が文化的な部分をリードするっていうのが、結構新しいメディアの世界で起きてきていて、そこが多分今の日本も含めて古いメディアの人に、一番わかりにくいところなんじゃないかなっていう感じはします。

米メディアで活躍するソーシャルメディアエディター

佐々木:ニューヨーク・タイムズはどうなの? さっき、フルスクラッチでやらせるとかって言ってたけど。

大熊:はい。エンジニアの数も何人だったか忘れたんですけど、百何人レベルでエンジニアがいるという感じで。任さないと無理だよねっていうのが前提にあるんだと思うんですけど。完全に任せられてるっていうのはあるかなと思って。

だから、やっぱり、アプリとかも何個も開発できるわけですよね、年に。でも、やっぱり失敗もするわけですけど、どんどんチャレンジできてるっていう環境はあるのかなと思います。

佐々木:予算も潤沢に、そこは強化してくれてるという部分はあるのね。

大熊:そうですね。

佐々木:あと、さっき気になったのは、最初のマーケティングで、ジャンル別に担当者がいるんじゃなくて、政治経済とかTwitterとかFacebookとか、プラットフォーム別に担当者を置いてるみたいな話があったでしょう。

あれって記事を制作する人と、それをSNSとかに対応するマーケティング担当って別になってるの? それとも一緒なの? 

大熊:そうですね。基本的には、お会いした方々が、ソーシャルメディアエディター、ソーシャルメディア編集者。

佐々木:ソーシャルメディアエディターっていう肩書きがあるんだ。

大熊:そうですね。それが結構多いかなと。

佐々木:それは何やってんの。コンテンツつくるのは、別の人なのかな? 

大熊:そうですね。コンテンツはつくらなくて、ディレクションする人ですね。

例えば、Facebookだったら、ちょっと長めでもいいけど、Instagramだったら30秒までしかできないから30秒でハイライト、何らかの事件があって、何十分もの動画のもとはありますというのをこの辺を切り出して30秒にしてくれとか、これはInstagramっぽくしてくれとかっていうようなのをディレクションするっていうのが、役割かなと。

佐々木:なるほど。要するに、もとの素材はあるわけですね。

新しいプラットフォームは若い人にしか理解できない

佐々木:動画だったら例えば、どっかに行って、カメラで撮影してくるであったり、その30分のそれがあって、それを各プラットォームで、どう見せるかっていう。どう見せるかっていうところの編集をやるのが、そのソーシャルメディアエディターっていうことですか? 

大熊:そうですね。

佐々木:例えばFacebookだったら、あれ150文字ぐらいを超えると、続きを読むみたいな表示が出るでしょう。あと画像は1個しか使えないので、何の画像を入れるかっていう問題もあったりとかね。Instagramって、そもそも、画像の1枚しか貼れないので、どうやってそこで表現するのかとか。

大熊:ソーシャルのプラットフォームによって、相当事情が違うと思っていて、それを単に、記事つったから拡散用に載っければいいやっていうのだと、やっぱり全然広まらないので、そこのプラットフォームに精通した人が、すごい必須なのかなというのはありますね。

佐々木:なるほどね。「新しいプラットフォームは、若い人にしか理解できない。うちの平均年齢は26歳だ」そうなんですよね。実際、今、SNSっていうかソーシャルマーケティングっていうか、ソーシャルメディア最適化みたいな仕事を新興メディアの人は、日本でもやってるんだけど、みんな圧倒的に若い。

なんで若いのかっていうと、そもそも、そんな知見や経験やスキルは、どこにも蓄積されてなかったからなんですよね、ついこの前まで。

日本は多分、Facebookがはやり始めたのは、本当に震災の前後くらいからなんで。Twitterは2009年ぐらいから、Facebookは2011年ぐらいからって言われて、4、5年しかないわけです。

そうすると、2000年ぐらいからインターネットメディアをやってる人っていうのは、メディア歴は長いけど別にTwitter、Facebookでどう拡散するかっていう技術や培ったものを何も持ってないと。

そうすると、スタート地点でもはや20歳の若者であろうが、30歳の編集者であろうが、あるいは40、50の人だろうが、あんまり変わらないので、そこからサッとスタートできる。今の若い人はどちらかといえばSNSを日々使っていて、もう皮膚感覚的に使いこなしてるんで、そっちのほうが優位性が高いよねっていう話ですよね。

大熊:そうですね。

Snapchatのおもしろさは25歳以上にはわからない

大熊:ソーシャルメディアネイティブといいますか。特に顕著なのが、Snapchatっていうのがアメリカではやってて何億人がもう使ってるレベルなんですけど。あれって自撮りとかで送りながらする文化で、僕とかも自撮りは好きなんですけど、そのSnapchatはよくわからんという感じなんですけど。

それが25歳以上には、全くはやってないんですよね。よくわからん、わけわからんのがはやってるってなってて。大学生とか高校生とかは、めっちゃ、その自撮りを送りまくってるみたいな感じでっていうのを新しい文化的隔絶みたいのなんですよね。

佐々木:そうですね。Snapchatは、10秒で切れる? 

大熊:そうですね。1回見たら消えるとか、そういう感じで。

佐々木:ただSnapchatは、実際にニュースメディアにあるっていうか、ニュースを配信するっていう試みを始めていて。Snapchat1枚で記事を送るっていう。

1枚っていうか、10秒ぐらいの1枚の写真の上に、例えば何だろうわかんないけど、イスラム国が何かしたみたいな話だったり、イスラム国の怪しい写真の上に、首を切ったみたいな文字をどんどん送る、それだけで送る。それで、とりあえず何のニュースかわかるよねっていうね。

何か事件、事故だったら、写真1枚で情報が伝わるので、そこに簡単なキャプションだけ乗せて送るみたいなやり方で、ニュースメディアがあったり。これ意外と読まれてるというか、見られてるという話がありますものね。そうすると、Snapchatやったりするって、なんでそんなものが見られてるのか誰もわからないという。

大熊:理解不能らしいんですけど、使ってる若者からするというか、大学生、高校生ぐらいからすると、それがすごい自然な形であるというふうなことですね。

佐々木:なるほどね。おもしろいですね。

制作協力:VoXT