ローカルからグローバルへの進出

岩佐大輝氏(以下、岩佐):みなさん、おはようございます。田村さん、おはようございます。

田村耕太郎氏(以下、田村):おはようございます。

岩佐:田村さん、ちょっとご本尊みたいに大きく写ってますけど、今日はローカルからグローバルへの進出ということで、自分たちもこれからアジアで勝負しなければいけないと、危機感を持っている人はこの中にすごくいると思うんですね。

今日はそれを実行しようとしているお二人、株式会社ブイキューブの間下さんはローカル、日本でトップシェアを持ちながら、これからグローバル進出しようとしていて、自分の拠点をシンガポールにもう移している。

そして、大幸薬品株式会社の柴田さん。みなさん、ご存知ですか? 柴田さん。正露丸、飲んだことある人!

(会場挙手)

岩佐:ありがとうございます。圧倒的なシェアですね。50%以上の下痢止め薬のシェアを日本で持ちながら、さらにグローバルに進出しようとしているこのお二方。そして、耕太郎さん聞こえますか?

田村:聞こえますよ、どうも。

岩佐:ローカルからグローバルといったらこの人しかいないという耕太郎さんが、今日はシンガポールからご参加いただいているということで、今日はいい時間にしていきたいと思います。よろしくお願いします。

(会場拍手)

グローバルな世界を感じた瞬間

岩佐:さて、あすか会議ですから自己紹介は無しなんですけども、アイスブレイクということでみなさんに一言ずつ、世界と初めて出会った瞬間というのをお聞きしたいなと思っていまして。世界と出会った瞬間っていうのは、本でもいいでしょうし、自分でどこかに行ったでもいいでしょうし、自分が日本で生まれて、「世界があるんだな」と、これに触れた瞬間をお聞きしてみたいなと思います。では、柴田さんから。

柴田高氏(以下、柴田):私は以前医者をやってたんで、バリ島で生化学学会というのがありましてね。いきなり発表する、英語はわからない、質問は30問。すべて想定して暗記して、単語で答える。そういう外国人とのコミュニケーション、Q&Aをやったというのがインパクトとしてあります。

岩佐:ありがとうございます。間下さん、お願いします。

間下直晃氏(以下、間下):全く覚えてないんですけど、3歳の頃にアメリカに住んでたらしいんですよね。それだと思います。やっぱり海外でやってみたいという気持ちが非常に強くて、そこからなんじゃないですかね。

岩佐:耕太郎さん、お願いします。

田村:僕もいろいろあるんですけど、一番影響を受けたのは、大学生のときにホームステイでスイスに2ヵ月いたんですね。僕も英語がいまいちだったんですけど、あそこの人たちは3ヵ国語、4ヵ国語しゃべるんですよね。

そういうのに触れて、母国語以外で第一外国語をこれくらいしか操れないようじゃ、この時代生きていけないなっていうのを、スイス人を見て思い知らされたというのが初めてですかね。

欧米ではなくアジアで戦う理由

岩佐:ありがとうございます。みなさんグローバルに出会うポイントが必ずあったということなんですけど、ご本業において世界とどう戦っているか。

みなさん、日本では大変な勝利を収めておられる方ばかりなんですけども、世界とどう戦うかというのが今回のテーマなので、これをお聞きしていきたいんですけども、まずは間下さん。世界と戦っている、今まさにシンガポールにお住まいであると。シンガポールに居を移してまで、間下さんはアジアで何とかしようとしている。

田村:あんまりシンガポールで会ったことないですけどね(笑)。

(会場笑)

岩佐:なになに、耕太郎さんもう一回。

田村:この人(間下さん)シンガポールにいるって言ってるんですけど、あんまりいないですよ。

間下:半分いますよ。田村さんもいないじゃない。

岩佐:さっそく田村さんからツッコミがありましたけど、そこまでの覚悟を持ってシンガポールに行く。いい話はたくさん聞くと思うんですけども、ここはあすか会議ですから、どこが難所でどこに苦労しているかという話を、どんどん突っ込んでみたい。全員を丸裸にしようと思いますんで、そのような時間にしましょう。では間下さん、お願いします。

間下:私はそもそもシンガポールにいますから、あの役割(オンライン中継)は僕の仕事なんですけど(笑)。今日なぜか田村さんがこっちに来ないっていうね。

アジア展開してるわけですけども、まだ日本を中心にやってるし、上場もしてますから、そっちも見ながら行ったり来たりしながらやってます。

我々の海外展開のポリシーは、たまに笑われるんですけど、基本的に英語がしゃべれなくて、アメリカが嫌いな国に行くんですよ。

何でかっていうと、難しいのは、IT企業はほとんど同じだと思いますけど、グローバルのマーケットを見るときに、必ずアメリカの大手が出てくるんです。

大手じゃなくても、アメリカのベンチャーで、仮に売り上げがうちの10分の1だとしても、資金調達力は平気で5倍とか10倍あるんですよ。たかだか数億円しか売り上げないのに、調達100億円とかしてますからね。こんなところとパワーゲームじゃ勝てないんですね。まったく同じ土俵で、同じ条件で戦ったら、金で負けますから。日本の株式マーケットを背景にしている限り、アメリカの株式マーケットを背景にしているやつに勝てないんです。

じゃあ彼らが行きにくいところってどこなのかって考えると、今さっき言ったような、英語がしゃべれなくて、アメリカが嫌いな国。

アメリカの投資家にこの話をしたら、「それは非常にMake senseだ」「世界中の95%以上の国はアメリカ嫌いだから、頑張れ」ってアメリカ人に言われました。

(会場笑)

間下:逆風はいっぱいあるんですけど、場所を探していけば実際そういうところもあるし。ただ、そういう国ってほとんどが途上国だったりとかで、アメリカがやりにくいと同時に、我々にとってもやりにくいところが多いんですよね。

そこのところを、アメリカがやれないやり方。もちろんやれないことはないんですけど、我々は一般的なティピカルな会社がやらないようなやり方をやりながら展開をしているという感じですかね。

大手ではできないベンチャーの強み

岩佐:なるほど。ちなみに間下さんの会社は、まさに今、耕太郎さんがシンガポールからつながってますけども、テレビ会議と呼ばれる分野で、日本でクラウドシェアNo.1なんですね。グローバルトップには、シスコ。

間下:グローバルで見ると、シスコ、マイクロソフト、Google、MSN。

岩佐:この巨人の中でグローバルに攻めていくと。私が間下さんだったら、もう毎日悪夢を見ると思うんですけど、そのあたりどうですか?

間下:アジアだけ、APECで見ると、オセアニアとか入れたとしても、うちすでに2位なんですね。1位がシスコで、数%しか数字の差がないんですよ。

それくらいまだアジアって手つかずなんですね。シスコだろうかマイクロソフトだろうがGoogleだろうが、あんまり関係ないので。

彼らが資金力を投下してもできないし、むしろ優先順位低いんです。彼らからするとアメリカのマーケットが大き過ぎて、そこに注力しちゃってますから、その隙に頑張るしかないのかなと。

あと大手なら大手なりにできることと、我々ベンチャーならベンチャーなりにできることは違ってきますから、そこをやりながら……正直悩ましいですけどね。

岩佐:ちなみに大手はできなくて、ベンチャーだからできることって何ですか?

間下:基本的にはフレキシビリティとか、スピードを持った動き方。もちろん、大手でもできますけどね。例えば、アジア各国って、国によって宗教も文化も物価も商習慣も全部違うんですよね。

ここに細かく合わせるような面倒くさいことは、大手企業はやりきれなかったりとか、特にアメリカ大手企業は、同じものをいかに横展開していくかの戦いが多いので、そこは我々がやりやすいところなんですよね。

現に今、マレーシアでお付き合いしている大きなキャリアは「前はシスコさんとやってました。でも、何も動かない」と。要はローカルのマーケットに合わせてくれない。

何かよくわからないけど、ブイキューブっていう小さい会社はちょこまか動いてやってくれる。だから乗り替わったんですよね。結構そういう例があって。

アメリカの会社全部が全部ではないですけど、国によって違うことを、アメリカのスタンダードをグローバルスタンダードとして押し込んできますから。あれはあれで、ビジネス的には正しいやり方だと思うんですよ。コストが低いので。

でも、アジアの1国1国は、アメリカに必ずしも迎合しようとしているわけではないので。オリジナルのカルチャーがあり、特に宗教の違いは大きいので、そこをどうやって我々が取り込めるかだと思うんですよね。

岩佐:なるほど。みなさん、上場企業の社長がストリーミング配信でこういった発言をするのは大変勇気がいるんですよ。

間下:これ、うちが流してるんですよ。

岩佐:そう。まさにシンガポールとつながっている。これがブイキューブね。

間下:配信もブイキューブがやってる(笑)。

岩佐:配信もブイキューブということで。これを上場企業の社長が発信するのは、大変難しい、厳しい。そこをあすか会議ですから、どんどん丸裸にしていきたいんですけども。

日露戦争と正露丸のシェア

岩佐:さて、柴田さん。柴田さんの大幸薬品なんですけども、柴田さんの会社のインターネットを開くときのドメインが「seirogan.co.jp」なんですね。それぐらい正露丸のイメージが強いラッパのマーク。

まず国内もちょっと触れていただいて、グローバルをどうしているかということをお話しいただきたいと思います。

柴田:もともと正露丸は、行人偏の「ロシアを征服する」という商標を我々の元の会社がもっていたんですけど、日露戦争のときに大きく有名な薬になりまして、第二次世界大戦の前も、日本が掲げていた大東亜共栄圏という、東アジアを1つにして経済をブロックをすると。そのシェアのなかに必ず正露丸があったわけですね。

ちょうど敗戦の後、恐らく死んだだろうと思われていた陸軍少尉の父がひょっこり現れて、ほかの兄弟がびっくりしたと。そういう経緯がありまして、ラッパのマーク。これは昼食ラッパなんですけど。日本軍が敗戦したんで、音の商標を逆に取らせていただいたと。

そういう感じで、もともと市場があったわけですね。敗戦して、どうしても正露丸ファンの方がおられて、その方が香港の財閥、商売で成功された方で、その方を中心に商品が主体的になって、我々が商品を提供するということになって、アジア展開が始まりました。

そういう意味では、これから日本で成功してアジアへ行くというビジネスモデルは、私クレベリンというのを開発したんで、日本で正露丸を超えるくらいの売り上げができましたから、これからいかに海外に持っていくかというのが、私の今の最大のミッションでもあります。

岩佐:柴田さん、クレベリンって説明をしていただきたいんですけど。正露丸はほとんどみんな使ったことがあると。さて、クレベリン。お願いします。

柴田:11年前まで、私、豊中病院の外科部長をやっていたんですよ。それで、私の友達がタバコの消臭剤を開発したって言って。確かに二酸化塩素が出るんですよ。二酸化塩素を教科書で見ますと、次世代の消毒剤って書いてるんですよ。でも、なぜ一般に売られないかというと、濃度コントロールが不可能であると書いてあるんですよ。

それで、そのゲル剤は濃度コントロールができるというんですよ。液剤も濃度コントロールができる。じゃあ、豊中病院の解剖室で実験をしましょうということで。解剖室、3ヵ月前に、私の病院の外科病棟に肺炎の患者が入院されて、3日で亡くなったんですよ。

研修が受け持ちをして、僕に文句を言うんですよ、「これ内科の患者やないか」ってね。「わかったわかった、ちょっと待って」っていう間に亡くなっちゃって。病院で亡くなると解剖しますよね。そうしたら、粟粒結核、結核の肺血症ですよね。そしたら、6ヵ月後に文句を言ってた研修医と、それから技師さんが結核になるんですよ。

これは大変なことだなということで、たまたまその二酸化塩素の消臭剤を置いて、浮遊菌を測ったんです。これはもう、病理の先生の了解を得てですけどね。そしたら、においが消える、そして浮遊菌が消えたんですよ。「えっ!」と思ったんですね。においが消えて浮遊菌が消えるというのは、我々医学界では同一ではないんですよ。

それを初めて体感したことで、におい消しが空間消毒剤、空間ウイルス除去剤になると仮説を立てて、すぐさま私は大幸薬品に入ってですね、親の会社でしたから、論文をどんどん出して、世界中の国際学会に発表して、いろんな広報をかけながら、コストをかけずに認知度を上げて、新型インフルエンザ対策でBCPの起業セミナーをビッグサイトでやりました。

そうすると、豚インフルエンザがやってきて、上場とともに株価が上がって、今はこうなって(上がったり下がったり)、そんな感じです。

岩佐:みなさん、クレベリンはお使いになったことがある方、ない方がいらっしゃると思うんですけども、クレベリンゲルから空間にすごく低い濃度の二酸化塩素を充満させることで、例えばSARSとか、今でいうとMARS、新型インフルエンザをやっつけろ、という薬を出している。

ちなみに正露丸というのは、ロシアを征服するためにつくったということなんですけども、今ロシアでは発売されているんですか?

柴田:この間、大阪ロータリーでロシア領事が隣に座られて。私はもともと、正露丸はアニサキスに効くというのを知っていて、論文にしてるんですよ。プーチンさんは刺身を食べるとアニサキスで急性胃腸炎になるので、刺身禁止令を2年前に出してるんです。

私はプーチンさんに会って、正露丸なら効きますよというのを一生懸命言うために、ロシア領事が隣に座られたんで、そればっかり言ったんです。

一度説明して会わせてくださいって言ったら、最後にクレベリンの話をしたんですよ。そうしたら「クレベリンの話だけ聞くわ」ということで、資料だけお送りしたという逸話があります。

岩佐:ロシアの方って正露丸の由来って知ってるんですか?

柴田:「ロシアは正しいです」という薬ですね。

(会場笑)

岩佐:これからどうやってロシアに向かっていくか、楽しみなんですけど(笑)。