安倍首相の戦後70年談話について

記者:イギリスのタイムズ紙です。今回安倍首相が70年談話を出すということになっていると思いますが、何を言うべきだと思いますか?

小林よしのり氏(以下、小林):まず、戦争というのはね、相手があってやることなんですよ。 アメリカの勝者の戦争観に合わせる必要はない。アメリカは常に、自分の国が正義、戦う相手を悪と規定して戦います。それで戦争が終わった後には、相手の国をすべて悪にするというやりかたをしますね。これは間違っています。もし戦争を裁く裁判をつくるとすると、被告席にアメリカも座らなければいけません。アメリカの戦争犯罪もきちんと裁かなければいけない。原爆とかね。当然日本の悪も裁いていいんですよ。 そういう視点から、戦後70年談話を語ることができるのかどうか。完全にアメリカの戦争史観に染まったような談話だったら、ワシは批判します。

ただしワシの考えでは、中国に日本軍が入っていったこと、これは侵略的な要素が強いと言わざるをえません。韓国・満州までは、ある意味、帝国主義の時代の国際法には適っています。ただし、韓国を日本に併合したこと、これは国際法に適っていて、どこの国も賛成したんですけれども、それでもやはり、隣の文化的にも非常に交流のある国を植民地的な位置に置いたってことは、彼らの中にコンプレックスを育ててしまった。これは政策としてはやっぱり失敗だったと、ワシは思っています。

欧米は植民地をつくるときに、間接統治でした。自分の国からずいぶん遠く離れたところを植民地にして、間接統治するわけです。ところが、日本はすぐ隣の国を直接統治してしまった。これは本当に大きな失敗だったなと思っています。そういう意味では、韓国の人たちに申し訳なかったな、という気持ちが日本人の中にあっていい。こういう分析をきちんとした上で、どのようにそれを表現するかが問題なんですけれども、とても今の安倍政権ではそういう思考回路は難しい。

アメリカの侵略戦争に巻き込まれてはいけない

記者:憲法改正を実現したいとお考えのようですが、 新しく改正された憲法によって日本の自衛隊や軍人が海外に戦いにいけるってことに関しては、反対ではないということでしょうか?

小林:アメリカについていって、侵略戦争に巻き込まれることはダメだと言っているんです。自衛のための戦争はやりますよ。北朝鮮が暴発した場合は、これはやらなければいけません。

麻生太郎さんが憲法改正そのものをどうも諦めたような雰囲気があって、それで「ワイマール憲法を形骸化させる手もある」というようなことを言いましたよね? ワシはあのときすごく警戒してたんですよ。「あ、やる気だな」と。つまり、ナチス・ドイツはワイマール憲法を形骸化してしまって、全権委任法をつくって独裁に持っていってしまいました。このやり方をやるつもりだなと。

カール・シュミットという法学者が、著述の中で「主権者とは、例外状況において決断を下すものである」と書いているんですよ。実際ナチス・ドイツはうまくこの学説を利用して、独裁に持っていくんですけれどもね。国民主権というふうに言うけれど、本当の主権者というのは、法の外にある状況、例外状況のときに誰が決断を下すかというところにあると。「これが本当の主権だ」とカール・シュミットは言うんですね。

今がはたして、その例外状況か? ということなんですね。例えば中国がいますぐに、明日にでも攻めてくるということになったら、今の憲法では役に立ちませんから、そのときは本物の主権者たる統治者が自由な解釈でやっても仕方がないわけです。けれども、今はそういう例外状況ではないということなんです。ナチス・ドイツをまねて法を形骸化させようという権力は、最大限に警戒しなければいけません。

日本人を覚醒させて本当の独立国をきずく

記者:日米関係について伺いたいと思います。米国に対してかなり批判的なコメントをされているようですが、日本はもう少し米国から独立したほうが良いということでしょうか? もしそうであれば、日本の安全保障体制はどうあるべきだと思いますか? そしていま日本にいる米軍をどうすればいいと思いますか?

小林:沖縄に米軍基地が異様なほど集中しています。 この辺野古移設をどう解決すればいいのかって言ったっときに、まず基本的に、自分の国土に他国の軍事基地が置いてあって、しかもそこに“思いやり予算”と言ってお金をどんどんつけていく。

ちょっとそういう国は日本と、クウェートと韓国くらいかな。他のところは米軍基地はあるけれども、その土地の主権はその国の人間が持っているでしょう。日本は治外法権があって、米兵が日本の女性をレイプしたときには、米軍基地にとにかく逃げ込めばいい。そうすれば逃げられるわけですよ。これは完全な不平等条約ですから、この状況をなんとかしなければいけない。

基本的には米軍基地には出て行ってもらって、日本の自衛隊を軍隊にして、自国は自国の軍隊で守る。こう言うと大概「経済的に不可能だ」とかって言い始めるんですよね。けれど、一国の独立というのはお金の問題ですかね? お金がないから独立したくない、お金がかかるから独立したくない、こんな馬鹿な国じゃ、どうしようもないですよ。

日本のいまの憲法9条っていうのは、日米安全保障条約と貼りあわせの1枚のコインなんです。だから「憲法9条護持」「平和を守れ」って言っている日本のリベラル勢力・左翼勢力は、9条を守るんだったら、結局日米同盟を認めなければいけない。

だから同じなんですよ、実は。保守も左翼も同じことを言っているんですよ。「米軍に依存せよ」と、これだけ言っているんですよ。これをくだらないと思っているんですよ、ワシは。今の日本人は独立心を失っていますけれども、ワシは少数派です。けれどもこれからはわかりませんよ。ワシが多くの日本人を覚醒させて、本当の独立国というものを築く、そう考えています。いまワシまだ元気でしょ? ワシは今年62になりますよ。安倍首相とは1歳違い。でもワシはエネルギーが充実している。だから日本人を覚醒させようと思います。

団塊世代がSEALDsを批判するのはみっともない

記者:弁護士ドットコムのワタナベと申します。小林先生は昨日、SEALDsの若者と2時間対談をされたという話ですが、一体どういうお話をされたのでしょうか? また(日本人を)覚醒させたいとおっしゃいましたが、彼ら(SEALDs)に期待するかしないかということを教えていただきたいと思います。

小林:例えばね、自民党の議員とか保守系の人たちが、わざわざあの若者たちをバッシングするんですよね。あの人たちは、ワシとは同じ考えじゃありません。若者はやっぱり未熟なんですよ。自分自身が20歳前後だった時の事を考えても、やっぱり未熟でしたよ。その若者たちがいま、社会の問題に対して、国家の問題に対して、ようやく目覚めたところです。ワシは特に彼らを持ち上げることもありませんし、バッシングなんか大人としてはみっともないことだと思っています。

昔ね、ワシよりちょっと上の世代、団塊の世代と言って一番人口が多い世代なんですけど、その人たちが若者だった頃『戦争を知らない子供たち』という歌が大ヒットしたんですね。「自分たちは戦後生まれで戦争を知らない。これが未来を作るんだ」と、誇らしげに歌っていたんですよ。戦争を知っているワシの両親とかはそれを苦々しく見ていたんですね(笑)。ところがですよ、その団塊の世代、「戦争を知らない子供たち」と誇らしく歌っていた若者たちはいま、保守系の雜誌ばっかり読んで、中国と韓国のバッシングばっかりやっています。全くみっともない。

どんなに戦争をしても結局外交交渉で決着をつけるしかない

記者:日本国とともに米国そのものも変わりつつあるなかで、いろんな世論調査があるんですが、85%の人々が海外、米国以外での戦争に関わりたくないという調査結果が出ております。米国がそのような考え方になってきた場合、日本はどのように対応すれば良いのでしょうか。?

小林:まず、アメリカはベトナム戦争の後も、しばらくは国内にしか関心が向かないようになったんですね。それがしばらく経つと、やっぱりアフガン戦争、イラク戦争という形で外にナショナリズムをぶつけていくってことになってしまうんですね。 アメリカが世界の警察官であるのならば、やはり侵略戦争をやって、今の中東情勢のように混乱させっぱなしじゃダメです。しかも、人命に対する差別があるんですね。アラブの人たちの命は軽いんですよ。何十万人殺してもいいと思っているんですよ。こういう状態は良くない。果たしてアメリカが世界の警察でありえるかどうか。十分これを警戒しなければいけない。日本は中東に対しては、やはり戦争という形で関わってはダメです。

ワシが考えるのは、例えば自衛隊を2分割してしまうんです。ひとつは平和貢献の部隊にして、そして本当に戦争には関係なく、どのように協力できるのか、現地の人たちが何を望んでいるのか、という形で関わらないといけません。 

例えばイラク戦争の後に自衛隊がサマワに行きましたけれど、あれはアメリカに対する「一応参加したから」っていう言い訳のためだけに行ってるんですよ。現在どうなっているかというと、結局インフラ整備には維持が必要ですからね、維持ができなくて元に戻っちゃっているわけです。ボロボロになっている。あそこに重機を置いてきているんだけど、使いこなせる人間もいないから、埃をかぶってしまっているわけです。そういう貢献の仕方じゃやっぱりダメなんだな。

本当にイラク復興という理念が日本のなかにあったかどうか、無いんですよ。やはりワシは自衛隊が軍隊として出て行くことは誤解を受けるから、平和貢献の部隊は別に作ったほうがいいんじゃないかなと考えています。

外交に対するタフネスさも要りますよね。タリバンとさんざん戦争して、結局は外交交渉で決着をつけようかという話になるわけです、アメリカだって。だったら最初っからやれよという話になりますし。 あるいは、日中中間線のガス田開発の問題だってそうですよね。あれは、日本と中国で共同経営するという合意が取られていたはずなのに、そこから先の外交交渉が進まないからどんどん増えていってしまう。それで、最後は武力に頼らなければいけないということになる。やっぱり外交の力、そのタフネスさというのは、執拗にやらなければならない。それしか結局世界を平和に、安定的に持って行く方法はやっぱり無いんですよね。

ロシアだってそうですよね。ウクライナに侵攻してますけれども、あれも先に実効支配してしまったら、どうにもならないという形になりますけど。やっぱり報道関係者の人たちには、今の国際法自体を侵す、武力で変更することは良くないということを自国の人たちに伝えてほしいんですね。結局外交交渉に徹底的に持ち込む、執拗にやるというそのタフネスさ、それしかないんですから。

国際連合の戦勝国体制をやめたほうがいい

ここに世界中の報道機関が集まっておられるので、具体的な方法論としてひとつ言いたいんですけど、国際連合を戦勝国体制にしておくっていうのを、そろそろやめませんかね? 常任理事国を戦勝国だけで独占しているという状態では、国際社会は良くなりませんよ。今の国連のあり方を変えようという声を、それぞれの国から呼び起こしてくれませんかね?

そうしなければ、これどうにもならないですよ。アメリカ側が賛成って言っても、中国やロシアが必ず拒否権を発動するというやり方では良くならないでしょう。本当に国際社会を平和にしたいと思っているのならば、具体的な方法として国連改革が一番必要ですよね。それとも戦勝国だけでこの世界の枠組みを独占したい思っているなら、結局駄目なんですけれどね。

記者:首相談話のこともあるので、確認の意味でお伺いしたい。大東亜戦争は侵略戦争だったとお思いですか? いまさっきの話だと、侵略戦争だったと言われているような印象を受けました。

小林:安倍首相がアメリカの議会で「日本のアメリカとの出会いは民主主義との遭遇だった」と演説しました。アメリカの議会は拍手していましたね。あれは嘘です。 日本とアメリカの出会いは砲艦外交、ペリー提督がやってきて、大砲をぶっ放しながら不平等条約を結んだんです。そこから日本は近代国家になり、帝国主義のなかに入っていかなければいけない状態になりました。戦争をして植民地を持つ、これをやらないと一流国として認められないんですよ。だから不平等条約を解消できないんです。当時はそういう時代だったんですよ。

日本が開国したのは、清がすでに侵略されて、虫食い状態になっていたからなんですね。それを恐怖したんです。欧米列強を恐怖したんです。それで帝国主義に入っていき、日清戦争、日露戦争、勝ってしまいました。ここから日本の驕りが出てくるんです。日本もだから日清・日露に勝った軍部に国民全員が期待していしまいました。それで政治の歯止めが効かなくなってしまった。そして最後に、誰もアメリカと戦いたくなかったのに、戦わなければならなくなってしまった。これは日本の開国以来の運命なんですよ。

大東亜戦争っていうのは、アメリカに砲艦外交で強引に開国されて、帝国主義の中に放り出され、そこで生き抜いた結果、またアメリカと戦って敗戦する。ここまでが1つの大東亜戦争で、これは運命だとワシは思っています。自らの運命を否定するというような考えにはワシは立ちません。そういう意味では大東亜戦争肯定論です。

記者:侵略戦争だったのですか?

小林:どこの時点? それがわからないんですよ。支那に入っていったこと、これは侵略戦争です。