日本の自衛隊は憲法改正で軍隊にするべき

小林よしのり氏(以下、小林):みなさん、こんにちは。小林よしのりです。あのー、ワシは日本語を世界の公用語にしたいと思っておりますので、英語はしゃべりません。一流の通訳の方にお任せします。

日本の保守派のなかで、「小林よしのりが今回の安保法制で方向転換した」っていうのは、実は間違っておりまして。ワシは「保守」っていうのは、日本のアイデンティティーを保守しなければならないというふうに思っております。

だから基本的には、憲法を改正して、日本の自衛隊は軍隊にするべきだと思っております。ところが、日本の保守派って言われている人たちは、ほとんどアメリカについていくことを保守しているわけです。

だから、かつてイラク戦争がはじまったときに、「このイラク戦争は間違っている」「侵略戦争だ」「大量破壊兵器はない」ということを主張したのは、保守派のなかではワシと西部邁という男の2人くらいしかいませんでした。あとは全部「アメリカについていけ」「イラク戦争を支持する」という話でした。

国際世論的にもイラク戦争は間違いだった

小林:イラク戦争に反対したために、ワシは保守派から徹底的にバッシングを受けました。そしていま、イラク戦争は侵略戦争だった、間違いだったということが明確になりました。これはアメリカでもイギリスでもそういう総括がされているはずです。

ところが日本の保守派は、このイラク戦争に関して間違っていたということを認めません。安倍首相も認めません。

安倍首相、自民党、これらはアメリカがまた侵略戦争をはじめたときに、ついていかなければいけないからです。

日本人が独自の判断ができるのならば、「この戦争は防衛戦争としてやらなければいけない。だが、この戦争は侵略戦争だからダメだ」とハッキリ言えなければいけません。

だから憲法改正の理念そのものが、ワシとアメリカについていくだけの保守の人々とは違っています。日本は今後、侵略戦争をやりません、過去侵略戦争をやったことがある、だが専守防衛に徹するべきです。

日本はアメリカに利用されるだけ

小林:アメリカは今後必ず侵略戦争をやります。ベトナム戦争しかり、アフガン、イラク……しかも世界を破壊しておいて、ビルドしません。「スクラップ・アンド・ビルド」のビルドのほうをせずに、撤退します。

だから日本というのは、かつての反省をするのならば、侵略戦争をぜったいにしない、これは憲法改正しても条文のなかにぜったいに入れなければいけません。それで日本は専守防衛に徹する。アメリカとは、個々に特別な法律をむすんでいくっていうやりかたで、安全保障の体系を組み立てなければいけないと思っています。

日本の保守派がいま言っているのは、尖閣諸島の問題、日中中間線のガス田開発の問題、それとスプラトリー諸島、これが中国の派遣兵が押し寄せてきているからこれが怖いと。これが怖いから集団的自衛権が必要だという論理の組み立てかたになっています。

尖閣諸島が危ないというのならば、だったら尖閣諸島に日本の軍港をつくればいい。それで、ガス田開発をしているものと対決すればいい。だが例えば、尖閣諸島に軍港をつくるとなったときに、おそらく反対するのはアメリカでしょう。

アメリカはぜったいに中国と戦争はしません。そうすると、日本は利用されるだけ。それこそ将来、中東の戦争に出ていかなければいけなくなるでしょう。

日本は立憲主義を守らなければならない

小林:アラブの人たちは、日本が日露戦争を戦ったことに敬意を表してくれています。アラブの人たちを敵にしてはなりません。

そこでもうひとつ問題があります。憲法の問題です。ワシはこの憲法9条を守れということは言いません。ただ、立憲主義は守らなければならない。立憲主義というのは、国民が権力を縛るためのものです。

戦前日本は、軍部が暴走しました。軍部をおさえる規律が明治憲法のなかになかった。戦後の日本国憲法は、アメリカから押し付けられたものにせよ、シビリアンコントロールがあります。だが、シビリアンコントロールの、シビリアンのほうが暴走すると、これはどうにもなりません。

さて、ここで立憲主義と中国の脅威の2つを天秤にかけたときに、いま現在、憲法を解釈改憲で立憲主義を崩壊させなければいけないほど、中国の脅威は迫っているんでしょうか?

憲法を改正するには1年か2年あれば足りる。この1年か2年で中国が侵略してくるでしょうか?

真正面から憲法改正を国民に問えばいい。だがやらない。やらないのはなぜか? アメリカについていくことだけが、安倍政権の最大の目的だからです。

日本の自衛隊を犠牲にしないために安保法制には反対する

小林:今回の安倍政権の解釈改憲のやりかたで、国民はつくづく警戒してしまいました。このままでいくと、憲法改正を発議しても国民投票で勝てません。

この犠牲になるのは自衛隊です。自衛隊というのは、ポジティブリストでしか戦えません。軍隊というのは、国際法だけを守ればいい。ネガティブリストなんです。

これならやってもいい、これならやってもいい……とポジティブリストばっかりで縛られた自衛隊が、国際法に縛られている以外のことだったらなんでもやれる米軍と一体になっていくのは非常に危険です。

自衛隊には軍法会議もありません。軍隊だったら軍法会議がなければいけない。軍法会議がなかったらどういうことになるかというと、戦場で対処して人を殺めてしまったら、国内法で裁かれる。殺人罪として刑務所に入らなければいけない。

自衛隊を守るため、そして日本という国が二度と侵略戦争に巻き込まれないために、安保法制には反対しなければいけないという理論です。

アメリカはいまはイラク戦争で懲りているから、今後10年の間に軍縮していって、その軍縮した部分を日本の戦力で補填しようとしているわけです。

アメリカという国は、必ずまた戦争をしますよ。これ軍産複合体の問題もあって、古くなった兵器は在庫一掃しなければいけない。だから必ず戦争をします。こんなに危険な国はないんですよ。

したがって、ワシが言っている安保法制反対というのは、陳腐な平和主義者とは違うんですよ。

ワシはフランスとかドイツがうらやましいですよ。イラク戦争のときに堂々と反対ができる。フランスなんかずいぶんアメリカからバッシングされてましたよね。けれども、間違ってなかった、正しかったわけですよ。

日本がそのように行動できるかどうかは、安倍首相が「イラク戦争は間違っていた」と認めるということから始めるしかないんです。

本来日本で保守というのならば、みんなワシのような考え方をしなきゃおかしいんですよ。ただひたすらアメリカについていけっていう奴のどこが保守なんですか。

こういうことをワシのような漫画家が言っていること自体が、世の中すべてギャグですよ。